自分の仕事の実力をどう測るか
アメリカ大統領の仕事とは
ある外資系企業の社長の人と話していた時のことである。この人は、外資系のコンサルティング会社に勤めた後、アメリカのビジネススクールに留学し、帰国後は外資系企業に転職され何社ものトップを勤めてこられた。
当時盛り上がっていた、アメリカの大統領選挙の話になった。そこで面白いことを言われた。「アメリカ大統領ほど魅力的な仕事はそうないと思う。自分の意思決定一つで世界が大きく変わるという仕事はゾクゾクしますね」と。特に気負ったわけでもなく、さらっとこんな言葉が出てくることに心底驚いた。アメリカの大統領を、仕事の魅力として、自分ごとのように見ているそのスケールに驚いた。
経営者の仕事とは意思決定することである。外資系企業のトップは報酬も大きいだろう。社会的名誉もあるし、活動の舞台はグローバルに広がる。そんな仕事をし続けていたこの人は、何よりも「大きな意思決定を任されること」が自分の仕事の成功の基準だったのかもしれない。
ビジネスパーソンにおける能力の評価とは
会社勤めをしていると、仕事の評価はされているようで曖昧である。というのも、社内の評価は相対評価であり、自分の実際の能力を評価されているとは言い難い。その上、業績は運にも左右される。また、社内で評価されているからといって、その評価が社会で通用するかどうかは別だ。転職はその意味で、自分の力を測り直してもらえるいい機会である。
スポーツ選手は実力は「結果」としてわかりやすい。アーティストもその人自身に金銭的評価がつくわかりやすい世界かもしれない。では、ビジネスパーソンは、仕事の力がついてきたかを何で測れるのだろうか。
フリーランスになって改めて思うのは、「一緒に仕事をしたい」と言ってくれる人がどれだけいるか。これこそ仕事の実力値ではないかと思うようになった。組織を離れ個人事業主になっても、つくづく仕事は一人ではできないと実感する。一人で作品を作る職人であっても、それを売ってくれたり、買ってくれたりする他者を必要とする。経済が交換である以上、「一人で」仕事が完結することはあり得ない。こう考えると、仕事を続けた先に「一緒に仕事をがしたい」という人が何人いるかは、自分の成長の確かな物差しではないだろうか。
どういう人が仕事で求めらるか
では、どういう人が「一緒に仕事をしたい」と思われるのか。まずは実力である。成果の明確な仕事では、発揮されるパフォーマンスが実力であり、この力がないと始まらない。誰だって仕事を成功させたいので、成果を出せる人と組みたいのだ。しかし実力だけあっても、「一緒に仕事をしたい」と思われるとは限らない。「仕事のしやすさ」は結構大きな要素である。「あの人と仕事をするとスムーズにいく」「ミュニケーションが的確で仕事がしやすい」。こんなふうに評価される人があなたの周りにもいるのではないだろうか。
知り合いのブックデザイナーは、作品も素晴らしいが仕事がしやすい。きちんと連絡をくれるし、こちらの狙いをきちんと理解してくれて、ご自身の意図も説明してくれる。だからだろう、このデザイナーには多くの編集者から仕事が舞い込んでいる。こういう人はおそらく、仕事相手への想像力が豊かで、こちらがどういうことをすれば仕事が回るかを理解できる人なのだろう。
そして、人柄や人間性という言葉を使うと身も蓋もないが、そういう人が確かにいる。僕の知り合いにもいつも明るく笑顔の女性がいる。彼女は「私がいるとチームが明るくなると言われるんです」と茶目っ気たっぷりに語るが、こういう人はそれだけで「一緒に仕事がしたい」と多くの人が集まるに違いない。ただし、キャラクターに依存したこの手の特性は、真似してうまくいくものでもない。
実力を磨くこと。そして、仕事や相手への想像力を持つこと。
これはマストな条件だ。しかし、それだけでもないような気がする。
それは、信頼関係ではないか。
「また仕事をしたい」と思われる信頼関係とは
ここで言う信頼関係は、「この人と仕事をすればうまく行く」という結果への信頼ではない。プロセスへの信頼である。どんな相手であろうと、意見の相違はある。立場が異なることで、優先順位や視界が異なることもある。こんな時、お互いの差異をどう乗り越えるかが試される。そこでは必ずしもも論理的な会話だけで解決策になるとは限らない。お互いが納得してつぎに進める状況を作り出す、その努力をお互いに惜しまないことが信頼関係につながるのではないだろうか。
この信頼関係を築くために、仕事以外の時間を多く共有する必要もない。一緒に食事をする、飲みに行く、カラオケで歌う、ゴルフに行く。こういう行為はもちろん人のつながりを深める。しかし、むしろ仕事での信頼関係は、仕事を通して築かれるものだ。楽しいとわかっている状況を共有するより、未知なる状況を共有する方が、仕事での信頼関係は深まるものである。
信頼する人との仕事は、心から楽しい。同じ目標に向かって、同じ課題を別の頭が考えている他者の存在でありながら、こちらへのリスペクトが感じられる。意見の相違は、道端に落ちている小石に過ぎない。まっすぐ進むのに大した障害ではない。心理的安全性という言葉があるが、それは提供されるものではなく、仕事を通して築いていくものかもしれない。
仕事で信頼される人になるには、目の前の仕事を誠実に向き合うことに尽きるだろう。仕事相手にも誠実に、同時に、仕事内容そのものに誠実に。嘘のない仕事、嘘のない発言、そして嘘のない行動。その積み重ねが、「また仕事をしたい」と言ってもらえる。概ね、誠実な仕事に結果はついてくる。仮についてこなかったとして、「また仕事をしたい」は最高の報酬になるはずである。
仕事をしていて、「実力がついているか?」と考える際、「自分と仕事をしたいと言ってくれる人が増えたか」を思い返してみてもいいのではないか。ビジネスに必要とされるスキルには、専門知識、問題解決力、コミュニケーション力、プレゼン力など数え上げればキリがないが、「仕事を一緒にしてもらえる力」に勝る「代えの効かない」ものはない。A Iがどんな仕事を代替するようになっても残る「人の仕事」の一つであろう。そう、何よりも取り替え不可能なのだ。
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