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海底からこんにちは好奇心。

さて……何を書くか……と重い腰を上げて、今回は大好きな雨穴さん風に友人との実際のやりとりを物語調で掲載します。
短編の読み物だと思ってください、文章力には期待しないでください⚆.⚆
ほぼコントです。



 そのホームページは何の変哲もない実在するただの水族館のホームページだ。
 私は友人のとまとと雑談通話で水族館の話をしながら適当に見つけたホームページの展示生物一覧のページを読み上げていた。しかし読み上げているうちに何か変な違和感に気付く。
 展示されているのは本当に普通の水族館の生き物で、マグロ、エビ、カツオ、サンマ、ギンメダイ……特に気になることもない海の生き物である。けれど変なのだ。

「ズワイガニ……あれ、とまとさん、なんか変(∵)」
「おやぁ……さっきからなんか確かに様子が……」

 ここまで名前を並べた展示生物たちはスーパーや寿司屋でよく見かける、日常で食する機会の多い生き物たち。他にもところどころ魚類ではない動物たちや、シーラカンスの標本とされるものもあったがほぼ一貫して「魚屋さんでもよく見る種族」のものばかり。
 もしかして私たちは今、水族館の展示生物ではなく、寿司屋のメニュー表を閲覧しているのではないかという疑念に囚われていく。
 幼い頃、私はこの水族館へ足を運んだことがあった。その時の記憶を辿りながら話を進める。

「確かにここに行ったことあるけど、私の記憶ではイワシの大群とか泳いでた記憶がある」
「食べられるねぇ。そういえばじぇっつちゃん(※HiHi Jets)がそこのレストランで何か食べてたような?」
「そうそう!確か両親も食べてた!お魚!」
「……やっぱりメニュー表?」

 そこで私は施設内の店のページを開く。2つの飲食店が存在し、1つは普通のレストラン。好奇心とは不思議なもので、手は勝手にレストランのメニュー表を開いていた。
 掲載されているのはフードコートにあるようなハンバーガーや定食で、とにかく普通のメニューだ。しかしやはり何かおかしい。果たして本当に普通なのか。
 まず一番最初に掲載されているハンバーガーの説明をよく見る。このハンバーガーはどうやら肉は使用されておらず、代わりに使用されているのはメカジキのメンチカツ。ようやく私は違和感の正体に気付き始めた。
 他にもさばの味噌煮、くじらカツ、コガネガレイ唐揚げ、タコの形をしたタコ焼き、イカキューブ、えびロング、縄文時代をテーマにしたメニュー……縄文時代?

「縄文……時代?なぜ?(∵)」
「確かこの水族館、縄文時代をテーマにしたコーナーがあったような……?」
「おっと……?」

 とまともどうやら正体に近付いているようだ。そして次のメニューでその正体は決定打となる。

「シーラカンスの形をしたごんべやき……?」
「いやもうそれ食おうとしてるやん、シーラカンスは出せないからどうにか形にして食べようとしてるやん」
「ネコザメエッグポテト」
「やっぱ食おうとしてるやん、現物無理だからって何かしらに変化させて食べさせようとしてるやん」
「ちなみにごんべやきの金型の原型は館長が作ったらしい……あれ、なんか変(∵)」
「おかしいやろ、館長自ら金型作ってるのおかしいやろ」

 そう、私ととまとが目の当たりにしている違和感の正体は、展示生物一覧で見かけた魚たちがメニューになっていることである。とまとの怒涛のツッコミも止まらない。
 しかしこれはあくまでレストランの話であり、先に2つの飲食店があることは説明したと思う。
 恐る恐る私は次の飲食店─寿司屋へとページを進める。この寿司屋の特徴は大水槽を目の前にして寿司が提供されるのだ、それも目の前を泳いでいる魚のねたを。

「水族館で水槽の前で、目の前で泳いでいる魚を見ながら寿司を食べる……?」
「人によってはトラウマじゃねーか」
「ちなみに寿司のメニュー名は『地球一号』」
「ど う い う こ と な の」
「それにしてもこの水族館、やたらメニュー名やページのあちらこちらに『ハッピーオーシャンズ』みたいな文言を入れてるけど、何やねんハッピーオーシャンズ。今のところトラウマ不可避になってる」
「なんならレストランのメニュー辺りからひしひしと魚を食することへの執着を感じる」

 さらに私はページの先へと進むとついにそこにあったのだ……ハッピーオーシャンズの正体が!

「とまとさん……ハッピーオーシャンズがありました」
「あった?え?あるって何?」
「海の恵みを将来も安心して食べられるよう、資源量の少ない魚をなるべく避けて、数が多く資源量の安定した魚介類を食べる運動に取り組んでいます……だそうです」
「いや食うんかい、食うための取り組みかい!」

 やはりこの水族館はただの水族館ではなかった。水族館と名打った「魚の食し方へついての問題提起と解決を試みる巨大なメニュー表」だったのだ。
 ではそのハッピーオーシャンズがいったい何をしているか。私はとまとに説明文を読み上げる。

「①資源量が多い魚を中心としたHAPPY OCEANSメニューをレストランや寿司処で提供します」
「ああもう公認なのね、食べさせること前提なのね」
「②魚離れが進む若い世代の親子を中心に、資源量が多い魚を調理し、食べていただく体験プログラム『ハッピーオーシャンズプログラム』を展開しています」
「やっぱり食べさせるのね」
「魚種を資源量の多い順に青・黄・赤と交通標識になぞらえて分類し、一般の方にも水産資源の現状が理解しやすいよう、HAPPY OCEANSの趣旨や分類した魚種を記載したリーフレットを制作しました……これが何か説明するね」

 今度はハッピーオーシャンズのページに描かれた図面をとまとに説明する。
 各魚が描かれており、その隣にその魚の資源量を表す信号のイラストが並ぶ。信号なのでもちろん「赤」「黄色」「青」で分類される。

「カツオ……青信号、進んで食べよう」
「食べるのね」
「サンマ……黄色、食べよう」
「ん?食べるの?注意とかじゃなくて?」
「シンプルに『食べよう』の4文字です」
「青信号じゃなくて?」
「黄色信号、食べよう、です」
「お、う、そっか」
「続いてニホンウナギ……赤信号、大事に食べよう」
「食べるの!?え、普通赤信号って止まれだから食べるなとかじゃなく!?食べるの!?」
「大事に食べよう」
「食への執着がすごい」

 まさか赤信号で『大事に食べよう』などという文言が表記されていると普通なら思わないだろう。交通ルールが魔境だと聞かされている名古屋人や関西人(※ネタです)でさえ赤信号は停まるのに、交通法で言い換えればこの信号は「赤信号、気を付けて進め」と言っているようなもの。「赤信号、みんなで渡れば怖くない☆ハッピー横断✨」ではないんだぞ!!
 こうなるとハッピーオーシャンズプログラムがいったい具体的に何を実施しているのか気になってしまう。私は危険な好奇心と共に水族館の企画のページを開いた。

「とまとさん、ありましたよ!(∵)」
「何してんの?」
「体験コーナー『釣る・調理する・食べる』
「あ〜もう釣るところから食べるところまで全部」
「缶詰造り体験」
「もう缶詰まで作っちゃう」
「飼育員さんの企画もあるよ」
「一応聞こう」
「飼育員すばる君と福島県の魚を美味しく食べよう~親子でお魚さばき教室~」
「飼育員もやべーやつや、館長が金型作ってる辺りでやべーとは思ってたけど飼育員もすごいやつやこれ。すごい、一貫して魚を食べることへの執着がすごい」

 もちろん他にも昆虫標本やナイト宿泊ツアーのようなイベントは実施されているが、私たちはもうこの水族館の「食への恐るべき探究心」をホームページ全体を通して閲覧してしまったため、頭に真っ先に入る情報がすばるくんのその企画なのだ。恐らくもはやこれは恋、間違いなく恋。私たちは海に恋をした(は?)。
 あまりのインパクトの強さに私たちは考えることをやめ、水族館のホームページを閉じて眠りについたのだった。

【完】



 深夜の会話だったためおもしろおかしく描写されていますが、実際は大真面目に水産資源についての問題に真摯に向き合っている素晴らしい水族館です。食べることを目的としない魚ももちろん存在しますし、魚以外にも海獣と呼ばれる生物等、魚に問わられずあらゆる動物も展示されています。エリアごとにしっかりとテーマに沿った展示となっているため「水族館なのに水棲生物以外に会える……!?」とかなり見どころ満載。
 あくまで深夜の頭が回っていない時間に発生したやりとりで「なんでそういう解釈になった!?」というツッコミもあるとは思いますが、ぜひ興味が湧いた方は足を運んでみてください。


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