GEMS COMPANYは世界を救うし宇宙の果てまで行ける
ちょっとこの前火星に行ってきたのでその話をしたいと思う。
事の発端はヴィレヴァンだった。
否、正確に言おう。2021年、GEMS COMPANYとヴィレッジヴァンガードのコラボ企画として『全国おはなし会ツアー2021〜新しい仲間に出会う旅〜』が開催された。
全国7都道府県のヴィレヴァン店舗にて、限定グッズの販売とトーク会が開催された。ジェムカンメンバーも実際に全国津々浦々を巡り、各地のタワレコ店舗やラジオ局に挨拶回りに行ったり、ご当地グルメに舌鼓を打ったり、馬になって出走したり(?)していた。私が参加したのは長谷みことさんと一文字マヤさんの担当回だったのだが、その時につい言ってしまったのだ。
「次のライブ行きますね」と。
それから月日は流れ
GEMS COMPANY 3rd LIVE「CHANGENOWAVE!!!!」開催決定。地球から出発し、天王星まで太陽系を旅する3days、全5公演。
そして2日目昼公演「火星」のMCが長谷みこと、一文字マヤ、そして新メンバーの小瀬戸らむの3人であった。
これは行くしかないでしょう。VVツアーではそっちから来てくれたんだから、次はこっちから行く番だ。
いざ一路、火星へ。
というわけでCHANGENOWAVE!!!!第二公演「火星」に行ってきたのだが、ジェムカンのライブに初めて現地で参加した結果、私は一つの結論に達した。
GEMS COMPANYは「光」だ。
光うけ煌めく
CHANGENOWAVE!!!!はジェムカンにとって2年ぶりの有観客ライブであった。声出しが禁止であったりと今もなお制約は多いものの、ようやく現地会場に観客の姿が戻ってきた。この2年音楽業界でも様々な試行錯誤が重ねられてきたものの、やはりライブの現場に観客の姿があるというだけで「あるべき姿が戻ってきた」という感慨は大きい。特にジェムカンのようなアイドルの現場においてペンライトの有無というのは、ライブの性質を大きく左右するものだろう。ペンライトを振る観客のリアクションもあってこそ完成する現場の一体感というものも、アイドルライブの醍醐味の一つだろうと思う。今回現場にペンライトの光が戻ってきたからこそ、ジェムカンも十二分に本領を発揮できるであろうというのは予想していた。
しかし現場で目の当たりにしたジェムカンの本領は、そのさらに上を行った。少し気取った言い回しをするなら、ジェムカンは箱に魔法をかける。
秘密は今回の会場である山野ホールの構造にある。
山野ホールは山野美容専門学校の講堂であり、十分な奥行きと高さのある可動式ステージに本格的な照明と音響設備、大スクリーンを備えていて、講演やセミナーの他コンサートやショー等にも対応可能な多目的ホールとなっている。今回のライブはこのステージ上に透過スクリーンを設置し、そこにメンバーの姿を投影する方式だ。1stライブ「Magic Box」会場のDMM VR THEATERは特殊な構造のホログラフィックステージ、2ndライブ「プレシャスストーン」はKT Zepp Yokohamaの超巨大スクリーンだったが無観客開催であり、透過スクリーンを用いたジェムカンの有観客ライブは今回が初の試みとなる。
この箱に観客が入り、ペンライトを振ると何が起こるのか。
これは実際に見てもらうのが一番早いだろう。(私はうっかり火星の写真を取り忘れたので、GEMS COMPANY公式youtubeチャンネルにアップロードされている第四公演「土星」の冒頭部分アーカイブよりスクショを引用する)
彼女たちの足元に注目してほしい。透過スクリーンにペンライトの光が反射して映っているのだ。しかもこの高さがまた絶妙だ。足元ならパフォーマンスの邪魔にもなりにくいし、何よりペンライトを下げている時はほとんど反射が目立たず、高く振り上げたタイミングで反射の光がパッと目立つ。舞台上に実際に奥行きがあるのも相まって、まるでステージの向こう側にも観客席があり、360度周囲をペンライトの光に囲まれているように見えるのだ。スクショの静止画で確認すればペンライトの反射がメンバーの姿の上に重なっているので透過スクリーンに反射していると分かるのだが、現地で見ると光はもっと奥にあるように見える。錯視と言えば錯視なのだが、しかし観客の振るペンライトの明かりを最大限に活かして彩られるこの煌めく舞台空間は、ある意味ジェムカンのような透過スクリーンを用いるスタイルのアイドルだからこそ生まれるものだと言えよう。これは間違いなく、ジェムカンならではの強みだ。
そして反射するのはペンライトの光だけではない。少し目線を上げると客席の左右に機材通路があるのが目に入る(画像左)。
この壁面のパネルをよく見ると、メンバーの姿がうっすらと反射で映りこんでいるのだ。画像では分かりにくいが、現地で見ると動きがあるので分かりやすい。客席のペンライトがスクリーンに反射し、メンバーの姿が壁面に反射する。会場全体を相互に駆け巡る光のリフレクションが、ジェムカンと観客が同じ空間にいるとより深く感じさせてくれる。
そしてジェムカンの妙技は「光」だけではない。ジェムカンの秘密を解くもう一つの鍵は、ステージの上にある。CHANGENOWAVE!!!!のステージでは、舞台端に光のラインが引かれていた。このため自然とステージ床面に視線がいくようになっている。そこにあるのはジェムカンの伝家の宝刀「影」だ。
足元からパースのついた影が伸び、きちんと「足」が「地面」に接しているという実感、確かに彼女たちが「このステージの上」に立っているという生々しい実感を生み出す。これぞジェムカンの必殺技である。
「光」と「影」はジェムカンの歴史において、最初から一貫してキーワードだった。
照明の照り返しでステージ床面の存在感を強く示し(そもそもこういう形式においてわざわざ”床面を作っている”という時点で特筆に値するだろう。彼女たちは"足場を要する"のだ)、そこに一人一人の足元からちゃんとパースのついた影が伸びる。立ち位置によってライティングの当たり加減も変わる。ただのスクリーンに投影される映像ではなく、そこには空間的広がりがあり、そこにパフォーマンスをする身体が存在しているという質感がある。
この光と影のコントラストで示し出される「確かにここにいる」という実在こそ、GEMS COMPANY流秘伝の奥義だ。
そしてこの光と影の描き出す絶妙な空間は、スクリーンに映像演出やエフェクトを映せばとたんにかき消えてしまうような、とても儚いものだ。ジェムカンのライブでは原則として、スクリーンにはジェムカンメンバーの姿以外は映さない。これが徹底できているということは、スタッフも含めジェムカン側で自分たちの強みが何であるのかを理解し、その認識を共有できているという事に他ならない。これはチームクリエイティブとして一番重要なことだと思う。このライブ空間を作り出しているのは、あくまでも歌やダンスといった本人のパフォーマンスと、照明や音響などの「アナログ」な演出のみで勝負するというジェムカンチームの心意気。そしてそれを可能にしているのは、ライブを盛り上げる派手な演出はファンのリアクションに任せるという信頼関係の賜物であろう。
特にソロ曲を中心に組まれた「火星」のセトリでは、曲ごとに各メンバーのイメージカラーのペンライトが会場を満たし、壮観の光景を作り出していた。その中でも特に印象深いのはやはり水科葵の「メロウ」だろう。全編を通してペンライトを下から上に押し上げる、いわゆる「捧げ」の振りが繰り返されるこの曲では、シアンの光がゆったりと会場全体を波打つ。その様は、さながら光の海のようだ。
そして2番のサビにさしかかると、ペンライトがシアンからオレンジへと変わってゆくが、これはMVに見られる夕焼けを意識した演出だろう。
ペンライトの色やタイミングの指定は特になかったため、現場ではシアンとオレンジの光が混在していたが、それがかえって夕陽が差し込んでキラキラと乱反射する海のようで、非常に幻想的な光景に見えた。ステージ上のアーティストと観客の力が相まって曲の世界観を完成させる様は、まさにライブという「今ここにしかない音楽体験」の極地だと言えよう。
この他にも同じく水科葵の「鮮紅の花」では、シアンのペンライトがサビ前の銃声で一斉に真紅に染まる鮮烈な演出が見られたり
一文字マヤのソロ曲「LUMINOUS BUTTERFLY」ではあえてステージ床の照り返しが抑えられ、光の粒子漂う宵闇の中を舞うように踊る蝶のような振付の優美さが際だっていたり
長谷みことのソロ曲「少女聖戦パラドクス」では満を持して会場の観客も一緒に「完全証明」のポーズを決められたりと、
現場に観客がいるからこそ映えるパフォーマンスが盛りだくさんだった。
今回のセトリはソロ曲が中心となるため、どうしても小瀬戸らむの出番が少なくなってしまうが、それを補う形で用意されたMCパートの歌唱コーナーでしっかりと実力を見せたのは流石期待の新メンバーの面目躍如といったところ(声の通りがめちゃくちゃ良い)。そしてそんなソロ曲メドレーのラストを飾ったのが「アイドルの誇り」を体現するかのような奈日抽ねねの「夢見がちエクスプローラー」だったことも個人的に嬉しかった。
そしてアンコール後は全体曲の「ゴールデンスパイス」とライブ表題曲の「CHANGENOWAVE!!!!」。ゴールデンスパイスはジェムカン全体曲の中でも特にコール箇所が多く、ペンライトの振りがいがある曲だ。CHANGENOWAVE!!!!はライブで聴くと音源よりもずっとハモリが重厚で、現地会場の音響ならではの贅沢な音楽体験が味わえた。ソロ曲とはうって変わって色とりどりのペンライトが会場を彩り、盛大に盛り上がって火星公演は閉幕となった。
総じて言えることとして、やはりジェムカンのライブは、現地に観客が入ってこそ真価を発揮するものだ。光に照らされて煌めく、まさにGEMSの名にふさわしい輝き、これこそが彼女たちの真骨頂だ。
この一年、ジェムカンはずっと逆風に苛まれてきたが、2021年の最後にこうして全力を発揮できる機会を持てたことは本当に良かったと思う。少なくとも私は、2ndライブの時には叶わなかった「会場一面を埋め尽くすペンライトの光に包まれたジェムカン」の姿が見られて、とても嬉しかった。ずっと見たかった景色をついに見ることが叶った感慨を胸に、私は火星からの帰路についた。
どこまでも行ける足
というわけで地球(自宅)に帰還した私だったが、すぐさま再び宇宙へとんぼ返りすることになる。今度の目的地はCHANGENOWAVE!!!!千秋楽の舞台となる天王星、今回は配信プラットフォーム「 Z-aN」からの観戦だ。
千秋楽ともあってジェムカンメンバーも観客も気合十分、小瀬戸らむの「行くぞ!」の掛け声とともに幕を開けた天王星公演は全体曲の「ゴールデンスパイス」や「ときめきドリームライン」、ユニット曲の「オンリー・マイ・フレンド」や「メッセージ」、ソロ曲の「ファビュラスTOKYO」や「Imperfect light」を織り交ぜた、まさにジェムカンの今持てる力を全て結集した総力戦の様相であったし、ファンの側も現地・配信問わず全力でそれに応えた。
そしてライブも佳境に差し掛かってきたとき、一本のビデオが流れる。
そこに映し出されていたのは、このライブ「CHANGENOWAVE!!!!」が出来上がるまでを描いたドキュメンタリーだった。
この数分間のドキュメンタリーの中に、GEMS COMPANYがなぜこんなにも凄いものを生みだせるのか、その答えがある。
ジェムカンの実写映像はこれが初出しではない。
見えるのは足だけ。普段と違う姿、違う次元。でも、分かる。私たちはこの動きを知っている。このステップの踏み方を、このリズムの取り方を、身体弾むダイナミズムを、私たちは見たことがある。ここにいるのは、まぎれもなく彼女たちだ。
GEMS COMPANYの立ち位置は特殊だ。こういった姿かたち、こういった形態をとりながらも一貫して彼女たちの名乗りは「アイドル」だ。Vtuberでもなく、バーチャルアイドルでもなく、アイドルだ。ゆえに「バーチャル」と言えば語弊があり、かといって現にこういう形式であるがゆえの制約が存在するジェムカンの立場は、時として非常に難儀を要するものであった。
しかし、このスタイルのジェムカンだからこそ、伝えられるものがある。伝えられるものがあると信じて私たちに見せてくれたものがある。
GEMS COMPANYがこんなにも凄いものを作り出せる理由は一つだ。彼女たちが、プロだからだ。何を伝えたいか、どうすれば伝えられるのか、試行錯誤を繰り返し、自らをその域に到達させるため日々努力と研究を重ね、技と心を磨き続ける。責任と矜持を持って仕事に真剣に取り組む。そんなプロフェッショナルな人間だからだ。彼女たちが、人間だからだ。それ以上の言葉は、必要ない。
ジェムカンには最新鋭の技術がついている。ジェムカンを存在させているのは確かにテクノロジーだ。だがテクノロジーだけがあっても、魔法のように無からパフォーマンスが生まれてくるのではない。人の心を動かす表現を生み出すのは、いつだって人間だ。どんなに技術が進歩しても、人間がどんな姿をとるようになってもそれは変わらないと私は信じているし、もしそうでなくなる時が来たら、その時はきっと客席に座っているのも、人間ではなくなっているのだと思う。
最高のパフォーマンスが生まれてくるのは、いつだってレッスンスタジオからだ。ダンスレッスンで踏んだステップの、ミーティングで交わした激論の、ボイストレーニングで流した悔し涙の、その先にしか、最高のパフォーマンスは訪れない。彼女たちはそれを知っている。知っているからこそ、私たちに見せてくれたのだ。パフォーマンスの生まれる場所を。GEMS COMPANYの秘密の宝石箱を。
だからこそ、彼女たちはどこまでいっても、地に足がついている。
GEMS COMPANYの足は、このステージの高みまでを自らの足で歩いてきた足だ。一歩ずつ道のりを踏みしめて歩んできた足だ。テクノロジーの糸に釣られて浮かぶ人形の足ではなく、自らの足でステージに立つ人間の足だ。太陽系の果てまでも自らの足で歩んでいった足だ。星々を巡り、旗を立て、自らの足跡を残してきた足だ。
自らの足で歩むことでしか、先に進めないと知る者たちの足だ。
ジェムカンはどこまで行っても、地に足がついている。地に足がついているから、どこまでも行ける。
それが、ジェムカンの力の正体だ。ジェムカンの足は、どこまでも行ける足だ。一歩ずつ歩みを進めていけば、いつしか遥かな高みまで辿り着ける人間の足だ。
変わるもの、変わらないもの
さてライブの話に戻ると、ドキュメンタリームービーの後はMCを挟み、VVツアーで全国を巡った経験から生まれたうりゃうりゃ楽しいハイテンションナンバー「FUN FUN JAPAN ~ 津々浦々四季折々 ~」
水着姿眩いサマーソング「夏色DROPS」
そしてアンコール後はジェムカン最初の全体曲「JAM GEM JUMP!!!」で締めくくり、天王星公演は無事閉幕となった。
んなわけないでしょう。冒頭で一回やったとはいえ「CHANGENOWAVE!!!!」千秋楽公演ともあろうものがオーラスにCHANGENOWAVE!!!!を持ってこないわけがない。しかしもうメンバーたちは舞台袖へ捌け、エンドロールまで流れ始めた(エンドロールの流れるライブは名作の法則)。アンコールも既にやってしまったし、まさか本当にこのまま終わるのか?と見守っていると、エンドロールの最後に「and more…?」の文字。そしてインベーダーゲームが始まった。
インベーダーゲーム©タイトーが始まった。
ちなみにスタッフロールにもばっちりタイトーの名前が載っていたらしい。タイトーは現在ジェムカンをプロデュースするスクエニの子会社となっており、だからこそこの演出も可能だったのだとは思うが、いやはや。
ライブの作り方、というものはアーティストによって様々だ。何を重視するか、どこに力を入れるかによって、アーティストそれぞれの個性が現れるところだと思う。ジェムカンのライブの方向性はエンタメ重視だ。公演ごとに担当MCが移り代わり、コーナーごとにバラエティに富んだ企画が用意されている。ドッキリを仕掛けたり仕掛け返されたり、バッグを晒したり、寸劇を演じたりヨコオタロウ氏を召喚したり(!?)実母から音声メッセージが届いたり(!?)と基本的には面白ければなんでもありのスタンスだ。そして公演内容も長谷みこと、赤羽ユキノの闇ジェムコンビがMCを務める木星公演では、二人が歌唱を務めた舞台ヨルハVer.1.3aaの楽曲「ガダルカナル」「ノルマンディー」が披露されたり、吉田尚記氏プロデュースの楽曲「ネットのかみさま」がセトリに入る土星公演では、同氏と声と経験を共有しジェムカンとも縁深いバーチャルアナウンサー一翔剣氏がMCを務めるラジオ番組、ミューコミVR発のアイドルユニット:ヴァルこめけんぱっ!をゲストに迎え、ジェムカン内ユニットHttp:と共にオリジナル曲「バーチャれ!ニッポン」を歌う特別コラボステージが組まれたりと、各公演ごとに、各MCごとに公演の色はがらりと変わる。ジェムカンのライブは全通するファンも多いが、それも頷けよう。全通すれば、しただけの甲斐のあるライブ作りがされていると思う。とにかく来た人に楽しんでもらおうというエンタメ精神の強さ、それが「ジェムカンらしい」ライブ作りとして色濃く表れている。
この手拍子インベーダーは、2021年の「ジェムカンらしさ」の集大成であったように思う。私たちはこの一年間、声が出せなかった。声援が送れず、コーレスが出来ず、そしてアンコールの掛け声も発することができなかった。その代わりに、手拍子でアンコールを促す。それがこの一年間で私たちに染み付いた、新たな習慣であった。ジェムカンはこの逆境を逆手に取った。アンコールが手拍子であることを活かした演出にした。声を出せないがゆえの苦肉の策の手拍子、それすらもエンタメに昇華したのだ。
この一年間、ジェムカンはずっと逆境の最中にいた。2020年5月にマイナビ赤坂BLITZで開催予定だった2ndライブは無期限延期、そして赤坂BLITZの閉業。半年以上を経てようやく1月にKT Zepp Yokohamaでの開催を実らせるも開催4日前に無観客へと変更を余儀なくされる。ならばと打って出したVVツアーも延期に延期を重ね、それでも全国7会場を完走しきってみせた。
そして辿り着いた3rdライブ、念願の有観客開催。しかし今のこの環境も、ジェムカンにとって十全ではない。全力で楽しませたいジェムカンにとって、観客が声を出せない現状はまだ足りない。ジェムカンの全力は、120%の楽しさはもう一歩上にある。
そんな中で、声の出せないこの環境を逆手に取った演出は、エンターテイナーとしてのジェムカンの、ジェムカンチームの「意地」の表れであったように思う。どんな逆境の中にいても、楽しませることを諦めない。「楽しいライブ」を手放さない。そんなエンタメ根性全開の「ジェムカンらしさ」が、ここに詰まっているように感じた。
ジェムカン号クルー一同が一体となって力を合わせ、見事ラスボスのキメちゃんを倒し(キメちゃんはMVでも隕石もろとも胴体をぶち抜かれていたけれどどういう扱いなんだ)、見事ミッションクリア。世界は救われ、アンコールのアンコールに応えてジェムカンメンバーがステージに戻ってきた。
そして、最後のCHANGENOWAVEが始まる。
CHANGENOWAVE!!!!のテーマは「変化」であったように思う。
GEMS COMPANYの3年と3か月の歴史の中で「変わった」ことは沢山ある。
まずは彼女たちが、GEMS COMPANYになったこと。12人の少女が出会い、アイドルになったこと。
それからメジャーデビューを果たした。アルバムをリリースした。楽曲が増えた。ファンも増えた。志を同じくする仲間とも出会った。
情勢が変わった。ライブ会場から観客の姿が消え、歓声が消えた。
メンバーが変わった。
あるいはファンの顔ぶれも、きっとこの3年と3か月の内に変わった。
過ぎ去りし日は帰らない。
GEMS COMPANYが変わりゆくのは、彼女たちが今を生きているからだ。
命あるものは、常に変わり続ける。代謝し、流動し、成長していく。
その過程で零れ落ちるものも、きっとあるだろう。
新体制GEMS COMPANY最初の公演となった地球公演、その幕間にて、今年1月に卒業した城乃柚希のソロ曲「柚希式シアワセ論」が歌われた。
卒業したメンバーのソロ曲やユニット曲を歌う。歌は、誰かが歌い継げば、この世界に残り続ける。それは救いでもある。けれど同時に、その人だけの曲ではなくなってしまう。それは表裏一体の光と影だ。そこに気づかない彼女たちではないと思う。彼女たちは光と影の両方を抱いて、未来へ進むことを決めたのだろう。
彼女たちは変わり続ける。変わらずにはいられない。そしていつかそれぞれの道へ、その先にある夢へと旅立つ日がやって来るのかもしれない。明日の彼女たちがどこにいるのか、何をしているのか、未来は誰にも分からない。
それでも「変わらないもの」があるとしたら、何だろう。
私がCHANGENOWAVE!!!!で見たものは、間違いなくジェムカンの神髄であったように思う。ジェムカン号に乗って宇宙を駆ける3日間の旅の中、私の心を最も強く満たした一つの感情があった。
「楽しい」
GEMS COMPANYのライブは、めちゃくちゃ楽しい。
これが私の見つけた答えです。
未来に何があるのか、それは行ってみないと分からない。
ただ、ひとつ信じられることがあるとしたら、ジェムカンはこれからも楽しいライブを作り上げていくだろう、ということだ。だから私から言いたいことは一つだ。
乗ろう。乗れば最高に楽しいライブがそこにある。
GEMS COMPANYはどこまで行けるだろう。
彼女たちは何者になれるだろう。
私はそれを見届けることのできる幸運の中にいる。
未来での答え合わせが、楽しみである。
波のゆくえ
というわけで天王星で現地解散した我々であったが、ライブの興奮冷めやらぬまま二次会としてミューコミVRへとなだれ込んだ。先程触れた通りニッポン放送のラジオ番組ミューコミVR、MCの一翔剣、アシスタントのこめこねこ2世ともちこねみ9世の3人によるユニット:ヴァルこめけんぱっ!はCHANGENOWAVE!!!!土星公演にゲスト出演しており、21日夜放送回は水科葵と奈日抽ねね、よーすぴPこと齊藤陽介プロデューサーを招いての打ち上げであった。
今回のライブは既存のジェムカンファン層だけでなく、各方面から様々な縁重なって見に来てくれた人が多かったようで、バーチャれ!ニッポンを作曲した田淵智也氏からも「前のめりにキャッチしてるユーザーはいい思いしてるだろうな」と嬉しい感想が寄せられた。
そしてもう一人、意外な名前がここで挙がった。IT批評家の尾原和啓氏が山野ホールに来ていたというのだ。McKinseyやGoogle、楽天など名だたる企業を渡り歩き様々な事業を興してきた、文字通り世界中にアンテナを張り巡らせている尾原氏をして「このエンタメをこのクオリティで実現できているのは世界中探してもジェムカンしかいない」と言わしめたのである。そして「この感想はまとまって話したい」と、翌22日のミューコミVR(一翔剣チャンネル配信)にて尾原氏が通話出演しての感想戦が行われた。
この配信で語られた内容はかなり踏み込んだ話ではあるものの、技術面の造詣が深くダンス経験者でもある尾原氏ならではの視座によるもので、非常に興味深く、かつ界隈の内側からはなかなか語られにくい貴重な意見であると感じた。配信内で引用許可も出ているので、ここに重要箇所を文字起こししておこうと思う。結構メタい話なので聴きたくない人は引用箇所飛ばしてください。数字は動画内秒数、カッコ内は引用者による補足。
42:54
尾原「(体感的な感想で言うと)努力がものすごい可視化されちゃうので、この方はこういう努力をされてきたんだなってことがまざまざと突きつけられるので、そこが僕は感動しちゃうんですよね」
43:50
尾原「この人はこういう努力をしてここに辿り着いているんだろうなっていうのが、不自由が多いけど一見外から見えると完成された形に見えるモーションピクチャ(モーションキャプチャ)というものを通してやると、本当にそこがまざまざと見えちゃうんで。しかもそれがそれぞれの個性に基づく努力だから(中略)全然進化の方向が違うんですよ」
44:47
尾原「本体の方の身長の手足のバランスとモデリングされたものの手足のバランスが、モデリングされた手足のバランスのほうが理想形から作るので多少重心がずれるんですよ」
一翔「ジェムカンはかなりリアル人体に近い方に寄せてます」
45:59
尾原「モーションピクチャのダンスだと、上半身のアンジュレーションって言って体の背骨の波打つ柔らかさとか、あと腕が肩甲骨から回らないので肩関節からしか回せないんですよね。っていう状態の中でダンスのグルーヴを出すっていうことをやろうとすると、むちゃくちゃ難しいんですよ」
46:32
尾原「その中で赤色の絶対なんとかみたいなダンスをされてらっしゃる方(赤羽ユキノ)は逆にアイドルっぽく、上半身が固定されてるってことを前提条件に、かわいらしく肩を旋回させることでキュートさを表そうとしてたり、一方で身長の高いポニーテールの方(一文字マヤ)は、どうしてもVRって地面に足がつくところがふわふわしちゃうので、上でテンポをとるってことをやられてて、下げる足のアクセントがあるんですけど上げた時の足でアクセントをとることでビートを作ったりとか、あと肩が動かせないので、ティルトって言うんですけど首を動かすときに一回逆方向に振ってから別方向に振るっていうことでアクセントを作ったりとか、たぶん普通の身体でダンスをやってたらそういうことは学ばないはずなんですよ。だけどあの身体の、造形的には美しい身体の中で、でも体が動く部分と動かない部分があるっていう中でアイドル的な身体操作だったりHIPHOP的な身体操作だったり、それぞれの個性を乗っけてやられるってことは相当フィードバックかけてやらないと、自覚的にやらないとできないので、僕的には世阿弥ってこういう感じで歌舞伎を作っていったんだろうなと」
48:31
尾原「能とかって制約の中だけの踊りなんですね。こういう身体操作をやってはいけないという中でいかに獅子舞だったりとか、自分が仮託するものをどう表現するかという踊りなんですけど、普通に体が動かせるところをあえて動かさないことで何かを表現しようということをやるということは、自分の中でいかに何を表現したいのかということを徹底的に内観して、その中の表現を工夫することでしか行けない世界のはずなんですよ。それがみんなが同じような進化の仕方をしてたら、これは上手い振付師(おそらくコレオグラファーの意ではなく、文字通りモーションデータをプログラムとして制作する人間、という意図での言葉ではなかろうか)が誰かいるんだな裏側に、っていう風に思えるんですけど、おひとりおひとりがそれぞれの性格に合わせた、しかも今までのダンスとかの経歴に合わせた体の動かし方として進化されてらっしゃったので、ものすごい自覚的に進化を考えられてらっしゃるんだろうなと思って」
50:47
尾原「少なくともダンスに関しては、ああいう身体で踊るということがみんなゼロベースで始めるはずなので、そうするとやっぱりそれぞれの個性を発達させてるというのは、それぞれが自分の努力というものを自分で考えて自分で進化されてるしかないから、そこって残酷なくらいに自分で考えて努力される方と努力しない方の差が分かっていくので、そこがスゲーって引き込まれたんですよね」
1:05:10
尾原「あのVRの不安定な重心の中の、上半身が基本的に棒立ちな姿勢になりがちな姿勢の中で、やっぱりちゃんとキメの重心作れる子は作れてたし、むしろポージング大変っすよあれは」
1:05:42
尾原「火星の時に最後から3曲目を踊ってたわりと低身長な方(奈日抽ねね)のポージングがやばかったんですよ。あの方は正統的なアイドルの重心の使い方をすごく丁寧にやられてて、だから最初は一曲一曲に振付師の方が別でいらっしゃってそれでやってるのかなと思って聞いたらそうでもなくて、あの方とかは本当にアイドルっぽい動きということをすごくやられてたので、最後の全員が集合する時とかも一個一個のポーズとしての立ち位置、顔はキメ顔でもやっぱりポーズが、どうしてもVRって中心に重心をおいて、放っとくとのぺってなっちゃうので、常に体を左右にどっちかに斜めにしながら肩の角度を多少上下させて傾斜をつくって、どういう傾斜が一番美しいのかっていうことを考えていかないと綺麗になんないので、凄いですあの方」
1:07:51
尾原「ジェムカンはキメ顔になってるからこそ、一個一個の自分の手足の場所とか重心の使い方みたいなところとかが、かわいらしさの方向に行くのかカッコよさの方向に行くのかみたいなところが、一個一個自分で考えて自分で決めて行かないとその美しさに到達できないので」
1:08:21
一翔「顔は人を幻滅させることはないんですよまず。ジェムカンはその段階で。だからここはもう弱点になりえないんですよね。常に長所として、絵として強いという。決めカットで来れると。でも歌とダンスに関しては全く加工のしようがないわけだから」
1:09:19
尾原「ジェムカンの場合は一人一人の試行錯誤の中の積み上げで、歌も当然ボイストレーニングずっとされてたんだろうなっていうところの変化とかおありになるので歌もそうですけど、やっぱり本人が自分とは何者なのか、何が美しいように見えるのか、何が自分らしく見えるのかっていうのが、造形的に完成されてるがゆえに動作とかダンスとか歌とかMCとか、そこの部分で全部が見えちゃうから、頭のいい方じゃなきゃファンは難しいだろうなあと」
長い引用になったが要するにマヤたそとユキノくんとなにぬが人体力学の観点から絶賛されてた。
手に入れた”最新”どう乗りこなすか、つまりはそういうことだ。
「最初から完成されたモーションをコピーして一括で動かしているのではなく、メンバー一人一人がそれぞれの身体特性をフィードバックしながら試行錯誤して、自分でどういう進化をしていくかを決めて努力していっている」
これはGEMS COMPANYに対する誉め言葉としては最上級のものではないだろうか。それもこの感想が、今回初めてジェムカンのライブを観た人から出てきたのだ。私にはこれが、何か大きな山を越えたような手応えに思えた。
つまり何が言いたいかと言うとだな、届いてる人にはちゃんと届いてるよってこと。ジェムカンが何を大事にしているのか、譲れないものは何か、何を表現したいのか、何者でありたいのか。それはちゃんとこっちにも届いてるし、そしてその波が届く範囲は着実に、広がっていってるよ、ということ。
ジェムカンが起こした波は、確実に世界を変えていっている。
私が言いたかったのはそれです。その動かぬ証拠になればいいなと思ってこの記事を書きました。それさえ伝わっていればこの記事の目的は果たされたのでしょう、といったところで、そろそろ私も筆を置いて地球に帰ろうかと思います。
最後に。
今回私は一つの約束からジェムカンのライブに現地参戦を決心し、その結果確かなものを掴んだわけですが、今回のライブの最後、天王星公演アンコールのJGJにて
彼女は「また絶対会おう」と言ってくれました。
今度はこれを新たな約束にして、未来を楽しみに待とうと思います。
また絶対会いましょう。約束です。
CM
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