ふたつの惑星のかけら
スピッツの「惑星のかけら」を検索していたら、同じ名前の映画があることを知った。どちらも惑星のかけらと書いて読みは「ほしのかけら」。
スピッツの「惑星のかけら」は4thシングルで、92年にリリースされた3rdアルバムのタイトルチューン。アルバムの名前も同じく「惑星のかけら」。イントロのゴリゴリに歪んだギターの向こうから聴こえてくる夢のような柔らかにまっすぐに抜けてゆく歌い方が最高。
映画の「惑星のかけら」は、吉田良子監督、主演は柳英里紗と渋川清彦。2011年公開のR15+指定作品。「ポルノチック」という、女性監督が女性ならではの視点で女性の恋とセックスを描くというコンセプトのシリーズのうちの一作、らしい。ふうん。
そのときは「ふうん」で済ませて、特に見るつもりもなかったのだが、この間、夜が明ける前に目が覚めてしまって、二度寝する気分でもなかったのでアマゾンプライムで何か見ようと思ったとき、この映画がただで観れたし時間も1時間13分でそれほど長くないので見てみることにした。
優れた映画かどうかはわからない。けれど私にはすごく好きな映画だった。そしてそういう類の、「優れているかは知らないけど私はとても好き」というもの(あるいは明確に駄作なのかもしれないが、それでもなんだか嫌いになれないもの)に出会えるのはとても幸運なことだと思う。名作に出会うのとはまた違う奇跡で。
帰る家をなくした女と、ナルコレプシーで突然眠ってしまう男。女は今夜いっしょにいてくれる人を探していて、男は別れた元恋人をただ見ていたくて毎日あとをつけている。
舞台は言うまでもないが渋谷。今の時代にはもう放浪者は渋谷にしか棲息していないらしい。
女はふらふら踊るようなステップで歩く。男は光が眩しいのかそれとも眠くてたまらないのか、目をしょぼしょぼさせている。
それから、男が追いかけている元恋人(演じるのは河井青葉)。一見すると毎日ストーキングしている男が偏執的でやばい奴に見えるが、実はこの元恋人のほうが断然おそろしい。
女の母、画面には出ないがいる。電話をかけてくる。女の父、もういない。
女の名前は和希。男の名前は三津谷。男の元恋人の名前は由以子。
死んだように眠る人にしか聞かせられない話もある。
抱きしめて名前を呼ぶ以外のどんな手段でも叶わない夜もある。
見ても痛いだけなのに見ていたいひともある。
痛いのに痛くないっていいたい瞬間もある。
そんな人たちの物語。渋谷の夜から夜明けまで。
肝心な話、それで結局セックスするんですか?
これは作品のコンセプト的に言っちゃってもネタバレの範疇にはあたらないだろう。セックスします。R15だぞ。おっぱいもあるぞ。肝心な話おわり。
セックスと死をある秘密の割合で混ぜるとスピッツになる。そういう意味ではこのふたつが「惑星のかけら」という同じ名前をつけられたことは必然なのかもしれない。
骨の髄まで愛してよ 惑星のかけら
骨の髄まで愛してよ 僕に傷ついてよ
惑星のかけら、惑える星の欠けた片は傷つくし、傷つける。だからといって、もう欠けてしまったものはどうしようもない。愛だのでその欠けらが満たされるだなんてそんなそんな。
そんなことで済むのなら渋谷のスクランブル交差点はあんなに人で溢れていないのだ。路上でキスする恋人たちもいないし空き地でひとりで鼻歌を歌う人もいないし帰る家がちゃんとあるのに地べたで眠る人もいないのだ。
「僕に傷ついてよ」ってなかなか言えるこっちゃないですよ。怖くてさ。
ちなみに映画の主題歌は惑星のかけらではなく、ビューティフルハミングバードの「まるで世界」。
これはカバー版で原曲歌唱は初代ルパン三世の山田康雄。昔、みんなのうたでも流れていたらしい。
どうしちゃったんだ世界は まるで世界みたいじゃないか オーイ
オーイ、もう夜が明けてしまうのかよ。私はこの惑星のかけら、すごく好きだよ。
それからDVDが売っているか探してみたら、キングレコードの「新・死ぬまでにこれは観ろ!」という廉価版セレクションにこの映画が選ばれていると知った。別に死ぬまでに観ろってほどの映画じゃないだろ、正気に戻れ。アマゾンレビュー星5つ中2.8だし。この映画好きな奴でも「私は好きだけど」みたいな言い方するタイプの映画だし。
でも私はDVDで買って家に置いておきたいと思っている。
引用歌詞
「惑星のかけら」作詞、作曲:草野正宗 編曲:スピッツ
「まるで世界」作詞:別役実 作曲:池辺晋一郎 編曲:野崎美波 歌と演奏:ビューティフルハミングバード