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北海道でのシカ猟について

今まで、実際の鹿の捕獲の話を全くしていませんでした。そもそもお肉にする鹿(北海道なのでエゾシカ)はどうやって獲ってるの?というところを話していきたいと思います。最近はドキュメンタリーや漫画、映画による情報発信があるので意外と狩猟のイメージを持っている人も多くなっていますが、北海道では独特のやり方をしていますので印象がガラッと変わるかもしれません。

自動車で移動しながらシカを探す猟(モバイルカリング)

まず北海道(エリアによるかもしれませんが少なくともオホーツク地域)では自動車に乗ってシカを探す猟が主流です。モバイルカリングと呼ばれてるようですが、あまりハンター同士でこの単語が出ることはないですし何なら厳密な意味はちょっと違うかもしれません。(2025.1.13追記 普段あまり言わないので忘れてましたが、ハンター同士で言う場合は「流し猟」ですね。クルマで流しながらやる狩猟、というニュアンスです)
とにかく車で移動してシカを見つけたら鉄砲で撃ってシカを獲る、というなんかアメリカンな感じの非常にシンプルな狩猟法です。本州だと巻狩りといって大人数で獲物を追い込みながら獲るという手法が多いらしいので、そんな単純なやり方で獲れるの?とか車のエンジン音で逃げちゃうんじゃないの?と疑問に思われる方も多いと思いますが、手法として確立してるだけあってちゃんと獲れます。

猟車として定番のジムニー。悪路の走破性は高いが後部スペースが広くなく位置も高いため、エゾシカを積むことを考えると軽トラという選択肢も全然あり(積雪前の場合)

なぜクルマで走るかは推測になりますが、一つはだだっ広くて見通しがきくため巻狩りのような地形を利用した追い込み猟がやりにくいということ、駆除活動(畑に侵入する鹿の対応)時には少人数で広域をカバーしないといけない、などが考えられるかなぁと思います。

とにかく安全に気をつかう

具体的にどうやるかというとまずシカを見つけたらゆっくり車を止め、撃っていい場所、状況か再度確認します。(そもそもダメな場所には行かないですが間違いないか確認します) そして問題なければ銃を持って車からそっと降りて道路外に移動し銃のカバーを取ります。決まりで道路上では射撃はおろか銃のカバーをはずすことも許されないので、必ず道路外まで移動します。
猟銃を撃っていい場所についてはそれこそ無数のルールがあるので割愛しますが、端的に言うと人がいないところでかつ安全に撃てるところと思ってください。

人が車から降りてきたら目立ってシカが逃げてしまいそうですが案外逃げない場合も多いです。牧草地などシカにとってのごちそうにありついているときはシカもできることなら逃げたくない(逃げるのにもエネルギーを使います)のでどこまでならシカが逃げないか見極めながら近づくわけです。
そしてここなら弾があたると思える場所まで来たら最終の安全確認をして弾を装填し、狙いを定めます。射撃の所作はまたこれだけで一つ記事が書けちゃうので詳細は省きますがとにかくゆっくり急いで確実に動作することが大事です(矛盾してるようですが本当にこんなイメージです)

こんな感じで牧草地の端っこの方でこちらの様子をうかがいながら「まぁ大丈夫やろ…」ってな感じで牧草を食べ続けてたりします。

いよいよ銃を使う

そして絶対に安全で獲物にあたると確信したら引き金を引きます。ちょっとでも心配要素があったりあたる気がしなかったら撃たない決断も大事です。
そして仮に見事命中したらまず銃の中にある空薬きょうを取り出し鉄砲のカバーをかけて倒れたシカに近づきます。まず最初にやることは「止めさし」と言われるとどめと血抜きの処置です。
シカを無駄に苦しませないためにとどめを刺す、という意味と素早く血抜きの処置をするという二つの意味でナイフを刺します。あまり気分のいい作業ではないですが、自分で手を下したわけですから最後まで責任をもって早く楽にさせてやります。もちろん食肉にするためにも重要な作業でここを雑にやると血抜けが悪く後で精肉する際の結果に表れてきます。

最後に車両に乗せて運搬し解体場(当店)まで持っていき納品という形になります。わたしが自分で獲ってきても他のハンターさんの持ち込みであっても基本的には同じで、当店の場合は捕獲から持ち込みまではどんなに長くとも2時間までとさせてもらってます。ですがほとんどのハンターさんは1時間以内、長くとも1時間半程度で納品していただいており皆さんジビエにするという高い意識で活動していただいてます。

狙ってあてる難しさより猟銃を所持して運用することの方が大変

文字で書くと「なんだか簡単そうだなぁ」と思われるかもしれませんが、正直、一朝一夕にはいきません。最後の運搬のところなどはさっと書きましたが、時として100キロを超えるオスのエゾシカを車に乗せることは容易ではありません。巻き狩りではないので基本全部ひとりでこれをこなすわけでハンターさんも一人一人様々な創意工夫を凝らしています。また猟銃を所持するということ自体に大変な責任があり、提出する書類や警察とのやり取り、定期的な確認・報告等の事務、それにまつわる費用などを考えると生半可な気持ちでは始められないことだと思います。
そういうわけでシカの一頭一頭が並々ならぬ情熱を傾けて捕獲されているということ、そもそもシカ一頭の命を屠って得られたお肉だということを考えわたしも細心の注意を払い丁寧に素早く解体をしております。

狩猟期(地域差がありますが秋から冬にかけて)は山の中を歩きで探索することもあります。これはこれで難しいのですがシカの動きを読んだり、当てが外れたり… 獲っても獲れなくても面白いのは断然こちらですね。

今回は自動車での猟ということで流れをざっとお伝えしましたがなかなか猟の臨場感は簡単には説明しにくいです。ディティールについてはまた追って記事にしていきたいなと思っています
また、クルマの猟以外にも忍び猟と呼ばれる単独徒歩で行う猟に挑戦しているハンターさんもいます。

単独忍び猟についてはこちらのやまくじさんのブログが大変読みごたえがあります。武重謙氏としての著書「山のクジラを獲りたくて」も大変お勧めです。入門者にもわかりやすい筆致でそれでいて狩猟の魅力が伝わってくる名著だと思います(わたしは稚内まで行ってサインをもらってきました)。

稚内に行ったときに直接書いていただいたサイン。ご本人も気さくで理路整然とお話しされる楽しい方でした。経営されているお宿もオススメ!

狩猟、捕獲活動については今後も詳しい記事をあげていく予定ですのでしばらくお待ちください!