白山に学ぶ、登山道荒廃メカニズム
白山の登山道浸食に関する研究
白山国立公園では多くの研究が行われていて、登山道の侵食に関する研究も行われています。
例えば1993年、筑波大学の山田さんの「白山における登山道のひろがりとその速さ」では植生や地質や形状から分類して、登山道侵食の量やパターンが調べられました。白山の場合、植生は「草原(雪田植生)」「ササ」「ハイマツ」「高木」の4種類に、表層地質は「泥炭層」「角礫層」「火山灰層」の3種類に分類されています。
浸食形態
登山道の侵食の調査方法として断面を調べて「幅と深さ」や「量」を調べるのが一般的ですが、『白山の自然誌 25 白山登山道の侵食 』では侵食の形態をさらに細く分類しています。それが「踏み分け道」「拡大」「踏み跡」「掘り込み」「崩壊」「ノッチ」「その他」の7種類です。
これらは、大きく人の影響によるものと自然の働きによるものに分けられます。「踏み分け道」「拡大」「踏み跡」は人の影響によるもので、侵食の約7割がこの形態で、特に「踏み分け道」が29.2%と一番多く見られます。「掘り込み」「崩壊」「ノッチ」「その他」は主に自然の働きによるものです。
当然これらは相互に作用して発生するもので、人の影響だけ、自然の働きだけで起こるわけとは限りません。「踏み分け道」から「拡大」至り、更に「掘り込み」から「崩壊」に進むということも考えられます。
踏み分け道:本来の登山道とは別に出来た道のこと。複線化と言ってもいいかもしれません
拡大:登山道が側面方向に広がったもの。踏み分け道が広がった結果、拡大にいたる場合もあります
踏み跡:登山道とは別の方向性につけられたもの、休憩や眺望地につけられたもの
掘り込み:登山道が周囲と比べて凹んでいるもの
崩壊:登山道の側面の崩壊地。斜面が不安定となってできたもの
ノッチ:登山道側壁の凹み。風衝地で見られ、凍結融解や風食によってできたもの
その他:転・落石など特異な現象で発生したもの
踏み分け道を歩く割合
白山における登山道侵食に関する研究の中でも特筆すべきは、人為要因による影響が詳細に調べられている点ではないかと思います。例えば、登山者の歩行パターンを分析して、侵食との因果関係を調べた結果があります。その結果、下りの登山者方が踏み分け道を歩きやすいという傾向が見られました。
上りと下りの登山者ごとに、本来の登山道(本道)と踏み分け道を歩く割合が調べられました。上りの場合、本道 84.3%:踏み分け道 15%だったのに対して、下りの場合は、本道 62.4%:踏み分け道 38.2%という結果になりました。下りは上りに比べて2.5倍も踏み分け道に入り込む可能性が高いということになります。
おそらく上り優先の概念や、段差などが影響しているのではないか?ということです。上り優先の場合、下りの登山者はすれ違う際に本道を譲るために踏み分け道に入る事が多くなります。また上りの際は踏み分け道との段差があると入りずらくなることも影響していると考えられています。
このことから、登山道を一方通行にしたり、一部を上りのみの利用に限定する、というのは有効な対策であるということも示唆されます。一方通行や上り専用ルートの設定は富士山や雨竜湿原、至仏山などでも行われています。
浸食形態ごとの対策
様々な研究結果から侵食の形態に応じて対策を図ることが重要であることがわかりました。それは大きく「登山道整備の必要性」「登山者のマナーの重要度」「オーバーユースの影響」の3つに分けられます。
巻機山の事例では踏圧の三大要因は「避けたい」「見たい」「休みたい」とされていましたが、段差やぬかるみなど「避けたい」という心理から起こる「踏み分け道」は登山道そのものに問題があります。また、すれ違いや追い抜き時に起こる「踏み分け」は登山者のマナーという側面もありますが、その前に人が多いことや特定の登山道に集中してしますオーバーユースの問題とも言えます。「見たい」「休みたい」という心理から発生する「踏み跡」は、登山者のマナーの問題の側面が大きいと言えるでしょう。
このように侵食の形態に応じて、登山道を整備すべきなのか、それともマナーの啓発をするべきなのか、適切な対応をする必要があります。
登山道荒廃要因++
最後に、白山での研究をもとに「登山道荒廃要因」に「浸食形態」を付け足してみました。
参考
白山における登山道のひろがりとその速さ
著者:山田 周二 発行日:1993年
『白山の自然誌 25 白山登山道の侵食 』
著者:石川県白山自然保護センター 発行日2005年