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登山道学研究会設置準備会

自然を愛するつもりなら神秘めかさずに、しっかり科学的な知識を養うべきだ。
                       カレン・コリガン=テイラー

登山道法研究会『これでいいのか登山道ーよりよい「山の道」を目指してー』出版

2021年8月11日『これでいいのか登山道ーよりよい「山の道」を目指してー』が登山道法研究会より出版されました。登山道法研究会は、日本の登山道が抱える問題を解決するためのアプローチとして一つとして「登山道法」の策定を目指しているそうです。

というのも、日本における「登山道」は法的に明確な定義がなく、”誰が管理するのか?”、”事故があった時に責任問題はどうなるのか?”といったことが曖昧になっています。そのため、自治体や地元関係者もうかつに手を出すことができず、管理や整備が進まないという問題を抱えています。一般的な道路であれば「道路交通法」という法律があるように、登山道においてもを「法」が必要ということになってくるわけです。

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これは非常に重要な指摘です。ただし「法」の策定だけでは日本の登山道が抱える問題を解決できるかというと、そうではないと私たちは考えます。登山道に関わる「法」以外にもいくつかの要素が必要ではないでしょうか。


平野悠一郎監修『マウンテンバイカーズ白書〜持続的な生涯スポーツとしてのMTB〜』出版

では、今の日本の登山道が抱える問題を解決に必要な要素とは何か?その答えのヒントを求めて、もう一つ別の出版物を紹介します。それが2021年8月5日に出版された『マウンテンバイカーズ白書〜持続的な生涯スポーツとしてのMTB〜』です。偶然にも『これでいいのか登山道』と同時期に出版されています。

登山道とマウンテンバイクという日本では親和性が無いように思えるこの二つがどのように関係するのか。例えばアメリカにおいてはマウンテンバイク愛好団体が集まって作られたIMBA(International Mountain Biking Association)が、トレイルの維持管理に大きな貢献を果たしています。日本はアメリカほどマウンテンバイクが普及していませんが、もともと「気兼ねなく野外でMTBに乗れる場所が少ないため」日本各地で愛好家が自ら地域貢献とマウンテンバイクの普及活動が行われています。『マウンテンバイカーズ白書』には、各地で地域貢献活動行っている団体や、マウンテンバイクを楽しむフィールド作りのノウハウが紹介されています。

ここで(株)TRAIL CUTTER代表の名取将さんの記事「日本の山岳・農村地域での持続的なフィールドの作り方」からヒントを得たいと思います。そこには大きく8つのポイントが書かれています。

1 関係者から事前に了解を得ること
2 様々な決まり事や法的問題に対応しておくこと
3 責任の所在を明確化しておくこと
4 自然に関する幅広い知識を身につけること
5 対象地を取り巻く地域の様々なデータを得ること
6 トレイルの開設の技術を身につけること
7 ルート設定の目を養うこと
8 トレイル開設後の維持管理体制を想定しておくこと

(「日本の山岳・農村地域での持続的なフィールドの作り方」名取)

詳しい内容は本書を参照して頂きたいのですが、これらは次の3点に大別できると思います。それは「法」・「科学」・「システム」です。1・2・3は「法」の部分にあたります。そして4・5・6・7は「科学」。8は「システム」です(1も含まれるかもしれません)。

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このように現在の登山道が抱える問題に対処するためにも「法」・「科学」・「システム」の三つの視点から考える必要があるのではないでしょうか。


法・科学・システム

「法」に関しては登山道法研究会に譲るとして、「科学」について具体的に言うと、例えば”崩壊した登山道をどのように直すのが良いのか?”、”失われた植生を復活させるにはどうしたら良いのか?”、また”そもそも登山道を持続可能なものにするにはどうあるべきなのか?”といった問いに答えを出せる必要があります。直してもすぐに壊れてしまったり、植生を回復させようとした行為が余計に状況を悪化させてしまう事もあります。これらに対処するために科学的な知見が必要なるでしょう。

「システム」は幅が広い言い方ですが、「仕組み」「組織」と言い換えることもできます。たとえば、登山道の利用者負担(=入山料や入域料)は昔から議論されていますが、法的な問題もさることながら効率的な徴収方法が見つからず、未だに実現されていません。また、登山者が山岳保全のために寄付をしたいと思っても、そういった仕組み、つまり寄付を受け付ける組織や受け皿がないため、登山者の善意も活かすことができていないという現状があります。その他にも登山道を維持管理するための人手を”どう確保するのか?”といった問題や、ボランティアで行うのであれば安全かつ有効にボランティアを運営する仕組みや受入団体が必要になります。つまり登山道を維持管理するための資源(人やお金)を管理するためのシステムが必要となるでしょう。

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登山道学

登山道学研究会では主に「科学」の部分に焦点を当てて、登山道を科学的に理解するために、情報や知識を蓄積していき「登山道学」を作ることを目指します。

そのためにまず一つは、欧米のトレイルに関する知識やノウハウから日本に登山道に生かすことできる部分はないかを探っていきます。そのために過去に作ったマガジン「サステナブルトレイル実践ガイド」を参考にします。

もちろん、登山道に関する研究はすでに日本全国で行われていて、様々な書籍や論文が発表されています。しかし、それらはバラバラで一般の人には目に付きづらいのが現状です。そこで、二つ目にそれらをまとめて整理していきたいと思います。これも過去に作ったマガジン「山岳保全大全(仮)」も参考にしていきます。


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