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【登山道学勉強会】なぜ最近の登山道はWWWしているのか? #9

最近多いWWWな登山道

最近は全国各地で登山道の整備が取り上げられます。以前は一部の人(行政や地元の山岳会など)のみのコミュニティで行われていた登山道の整備に広く一般の人も参加ができるようになってきました。登山道の整備が以前よりも身近なものになりつつあるのではないでしょうか?

そんな中、最近登山道を整備された場所でよくWWWな段差や階段を見ませんか?(草)や(笑)ではありません。”W”の字のようにジグザクした作りです。例えば比較的最近出された『近自然工法で登山道を直す〜生態系の復元を目指すアイデア〜』でもこのジグザク構造が推奨されています。本書ではこのジグザグ構造を「自然界の構造」と表現してますが、いったいこのジグザク構造の何が良いのでしょうか?その理由を考えていくと日本の登山道の構造的な問題とそれに対する対応策が見えてきました。

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※なお「ジグザク(=zigzag)なら "W" ではなく ”Z” では?」と思われた聡明な方もいるかもしれません。どちらでも良いのですが、ここであえて ”Z” ではなく "W" にしているのには理由があります


日本の登山道の構造的な問題

日本の登山道はいろいろな問題を抱えています。例えば、その一つに壊れたまま放置され続ける段差や階段というのがあります。前回の「【登山道学勉強会】水は低きから高きに流れる#8」にも出てきたハードル状になった階段なんかは良い(悪い)例ですね。あのような階段には想像以上に負荷がかかります。その登山道の利用者数や利用形態によりますが、重いザックを背負った人が歩きますし、登山道を流れる水の影響も大きいです。特に上から下にかかる圧力が大きいです。また、標高の高い場所では雪が降ったり地面が凍ることによってさらに壊れやすくなります。さらに登山道などと言うものにかける予算は多くありません。

その結果、少ない予算→整備する→すぐ壊れる→直す→やっぱり壊れる→予算がない→どうせ壊れるのだから整備しても無駄?→予算が少ない、という悪循環に陥っているのではないでしょうか。そうならないためには、耐久性や安定性があって維持管理コストが少なくて済む、つまり持続可能な登山道を作る必要あります。

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それでは日本の登山道の問題とそれとジグザグ構造がどのように対応しているのかを見ていきましょう。


問題その1 登山道の勾配が急すぎる

日本の登山道が抱える最大の問題点は勾配が急すぎることだと考えられます。以前「【登山道学勉強会】日本の登山道の勾配に関する基礎調査 #2」で調べたところによると、北海道の登山道の平均勾配は約 16 %でした。それに対してアメリカのJMTは平均 7 %という結果でした。この調査はサンプルの取り方もサンプル数も適切とはいえない稚拙なものではありましたが、それでも倍以上の開きがありました。勾配が急であればあるほど流水の影響も大きくなります。

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海外ではトレイルの研究が盛んなので、トレイルの勾配が持続可能性に関係していることが分かっています。いろいろと条件がありますが大体 3 %〜 10 %が最も持続可能性が高いと言うことが明らかになっています。10 %を超えるのはもちろんダメですが、3 %未満でもダメなのがミソです(今度この辺りの話も紹介したいと思います)。

さて、日本の登山道は急すぎるわけですが、ではジグザク構造にするとどんなことが起きるでしょうか。例えば距離が 10 mで幅が 1 m標高差が 1.5 mの登山道があったとします。勾配は 15 %です。ここに平行にいくら階段や段差をつけても勾配15 %は変わりません。ところがここにジグザク構造取り入れてみましょう。すると、どうしたことでしょうか!なんと擬似的に登山道の距離が長くなります。例えば0.5 mごとにジグザグに 20 段の段差をつけると登山道の距離は約 22 mとなり、勾配は 1.5 m÷ 22 m≒ 6.8 %となります。これはちょっと極端な例ですが北海道の登山道をJMT並みの勾配にすることができました。

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ここでのポイントは水がジグザクに沿って流れるように勾配をつけることです。いくらジグザグにしてもこの勾配がないとこのメリットを生かすことはできません。


問題その2 凹状の登山道

問題の2つ目は凹状になった登山道です。よくデザインされたトレイルと日本によくある登山道の断面図を比べてみましょう。トレイルでは谷側は水が流れるように法面ができないように造り、その状態を頑張って維持します。対して日本の登山道は掘れて左右両側に法面が出来てしまっていることが多いです。そのせいで水が登山道を流れてしまい、侵食が加速してしまうわけですね。そこで、この両側にできてしまった法面を逆に利用しましょう。

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また丸太で階段を作るとします。よくあるのは杭を打って丸太を固定するやりかたです。この方法だと杭に負担が集中してし、壊れやすくなります。それに対して、丸太を斜めに配置して片側を法面に食い込ませるようにすると丸太にかかるエネルギーを法面に流すことができます。杭よりも耐久性が高い構造になります。また、登山道を流れる水のコントロールもしやすいという効果も期待できます。

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さらに角度が互い違いになるようにして先程のジグザク構造を取り入れればさらに持続可能性が高まります。


問題その3 お金がない

問題の3つめはお金が無いということです。お金限らず、人手や時間など総合的にリソースが足りていないと言えます。例えば丸太で作った階段で考えてみましょう。よくあるのは丸太を平行に配置した階段ですね。おそらく一番シンプルで簡単、コストも安い作り方でしょう。しかし、杭に圧力がかかると意外と簡単に壊れてしまいますし、前回の「【登山道学勉強会】水は低きから高きに流れる#8」で紹介したように水の浸食でハードル状になったものもよく見かけます。

これに対する答えの一つは、しっかりしたものを作るです。基本的に構造物は大きくて、重いほうが安定して強度も強くなります。しかしこれでは手間も必要な資材も多くなります。

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では少ない資材や手間で耐久性をあげるにはどうしたらよいでしょうか?そこでジグザク構造です。ジグザクにすることで同じ資材の量でも構造物として一体化させやすくなります。丸太をジグザグに配置して、それぞれを連結させてみましょう。これにより階段が一つの構造部のようになるので耐久性の向上が期待できます。また、構造物にかかる力が分散されるので耐久性があがります。

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この場合、丸太どうしをはめ込んだりボルトやカスガイなどで結合させる方法が考えら得れますが、必ずしも結合させなくても力が伝わるようになっていれば効果が期待できます。また、丸太どうしが離れていても間に岩などを挟んで力を伝えるといった方法もあります。


まとめ

以上、日本の登山道の構造的な問題とジグザク構造のメリットを紹介しました。ただ闇雲にジグザクにすれば良いわけではなく、逆に必ずジグザグにしなければいけないというわけでもありません。例えば勾配が緩やかなのであれば、平行に丸太を置いて杭で止めるで十分かもしれません。ジグザク構造の利点を理解して現場に合った整備をすることが必要です。

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ジグザグ構造の具体的な造り方や造る際の注意点などは『近自然工法で登山道を直す〜生態系の復元を目指すアイデア〜』に譲ることとしましょう。


Grade Reversals

では最後に海外のトレイルの作り方に見られるジグザク構造を紹介します。それがグレードリバーサルです。これはトレイルをわざと勾配が逆になる部分を作っておくというものです。つまりWWWさせておくわけです。トレイルを横から見てみましょう。

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トレイルがずっと登り勾配だとトレイルに侵入した水はそのままトレイルを流れやすくなります。しかし、勾配が逆になる区間を用意しておくとどうでしょうか。トレイルを流れた水はいったんそこでトレイル外に排出することができます。これがグレードリバーサルです。海外のトレイルはあらかじめグレードリバーサルを作るように設計されていたりします。

このテクニックは日本の登山道のように凹状になってしまっていたり、登山道のルート変更が難しい保護区などでは使えませんが、それ以外の場所や斜面をトラバースするようになっている場所では応用できるかもしれません。


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