屋久島に学ぶ、登山道荒廃メカニズム
屋久島と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?世界遺産、縄文杉、雨・・・。人それぞれいろいろあると思いますが、山岳保全に関わる人間であれば「近自然登山道工法」を思い浮かべるのではないしょうか。実は、屋久島は近自然登山道工法発祥の地でもあります。そんな屋久島では早くから山岳保全の為の研究が行われてきました。
登山道荒廃の要因を大別すると「人為要因」「環境要因」「気象要因」の3つに分ける事ができます(塩野,2009)。これを屋久島の事例に当てはめてみるとどうなるか見ていきます。
人為要因
まず、屋久島の特異性として世界遺産であることが挙げられます。それによって利用者がより増加し、利用多寡になります。また、世界遺産であることによって、整備の仕方にも制限がかかります。登山道の整備にも世界遺産屋久島らしさが求められます。いくら歩きやすかったとしても、人工的過ぎるものや、屋久島にそぐわないものは認められず、自然との調和や景観のバランスが求められます。
環境要因
環境要因としては、森林帯か高山帯かによって、それぞれ荒廃のメカニズムが異なり、異なる対処が求められるという点が挙げられます。また、高山帯では資材の搬入が難しくコストが嵩むという面もあります。そして花崗岩は風化しやすいという特徴もあります。
気象要因
そして、なによりも屋久島を特徴付けているのは「多雨地域」ということでしょう。気象要因には大まかに「降雨」「気温」「風」「降雪」などがありますが、特に降雨が登山道荒廃に大きく影響与えています。そこで、まずは降雨による登山道荒廃のメカニズムを詳しく見てみます。
気象要因-降雨
ーーーーーーーー降雨・林内雨ーーーーーーーー
雨滴侵食 雨が降ると、まず雨の水滴そのものが地面に当たる衝撃によって、土の粒子を巻き上げ、侵食が起こります。これが雨滴侵食です。
林内雨 森林帯においては林内雨の影響も見逃せません。林内雨とは木の葉や枝から水滴が落ちる現象で、水滴の粒が比較的大きくなります。そのため、雨量が少なくても林内雨によって侵食が起きる場合があります。
硬結化 巻き上げられた土の粒子が地面の目を詰まらせることによって浸透性が低下する硬結化が起こります。地面の浸透性が下がることによって、地表流、ぬかるみ化、流水を引き起こします。
地表流 地面が硬化することによって、浸透できなくなった雨水が地表面を流れる地表流になります。地表流は土の粒子を流してしまいます。さらに、地表流に雨が当たる(雨水流)による影響も大きいです。衝撃によって巻き上げられた土粒子を地表流が運搬するため、侵食が加速することが分かっています(詳しくは「植生の表面侵食防止機能」北原,2002)。
ぬかるみ化 地面がぬかるみ化したり水溜りができることによって地面そのものの強度が低下します。同時に、利用者がぬかるみや水溜りを避けて歩くなど人為要因の発生にも繋がります。
対策 これらの降雨による侵食を防止するために有効なのは、地面が植物で覆われていることです。また、地面に落ち葉や枝で覆われているリター層があることも有効です。
ーーーーーーーー流水ーーーーーーーー
リル(細流侵食) 流水が集まることによって地面を侵食して細い溝(深さ30cm未満)リルを形成します。
ガリー侵食 リルがさらに発達すると溝が深くなりガリー(深さ30cm以上)侵食を起こします。特に登山道は流水が集まりやすく、いったん侵食が起き始めると対策を講じないといつまでも侵食が進むことになります。
対策 流水による侵食への対策としては水の流れを一箇所集めないように分散させること(流量分散)、流れる水の勢いを弱めること(流速低下)です。
気象要因-気温・風・降雪
凍上融解 屋久島は比較的温暖な地域ではありますが、冬に高山帯では氷点下まで気温が下がります。そうすると凍上という現象が起きます。分かりやすい例でいうと霜柱です。夜中気温が低下して霜柱でき、それによって土が持ち上げられます。そして、日中に気温が上がることによって霜柱が溶けます。これを繰り返すことで土壌が侵食されていきます(凍上融解)。
風食 高山帯では風による侵食も起きます(風食)。風によって植被が剥がされたり、もともと植生がない箇所が風食によって裸地が広がっていきます。裸地が広がると、降雨による侵食も大きくなります。
降雪 雪が降ることによって、融雪水や積雪グライドによる侵食が起こりますが、屋久島においてはその影響度は低いと思われます。
対策 凍上融解と風食の侵食を防ぐためにはやはり、地面が植物に覆われていることが有効です。
屋久島の登山道整備の要点
屋久島の特性から、登山道整備の要点は流水のコントロール、踏圧のコントロール、それにより植生・地形の回復させること、とされています。ここでも水・人・土の3つの要素にまとめることができるのではないでしょうか。より詳しい、具体的なことが知りたい方は『【改訂】屋久島にふさわしい登山道整備の技術指針』を読みましょう。
参考
【改訂】屋久島にふさわしい登山道整備の技術指針 平成23年2月
著者:九州地方環境事務所 発行日:2011年2月
植生の表面侵食防止機能
著者: 北原 曜 発行日:2002年
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?