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【登山道学勉強会】土と水と重力の話 #6

第6回登山道学勉強会です

▼前回の登山道学勉強会▼

前回の登山道学勉強会では「土」の話をしたので、今回は「水」の話です。土は人類にとってだけでなく生態系の基盤となる重要なものでした。では水はどうでしょうか?これは説明するまでもなく、水は命の源と言われるほど生命にとって最重要な存在です。

しかし、これが「登山道」の事となると話が変わってきます。実は登山道にとって水は一番の天敵といえます。なぜかというと水が土を侵食してしまうからです。土を侵食する原因には、風によるもの、ヒトや動物によるものなどもありますが、水によるものが一番影響が大きいのです。今回は水がどのように土を侵食するのか?水がどのような動きをするのか?について見ていこうと思います。

ちなみに、水による侵食ついて一般向けに書かれた本や平易に書かれた資料はなかなか無いので、今回はいろいろな資料に書かれていることをザックリとまとめて説明したいと思います。


水が土に与える4つの作用

前回の土の話でも触れましたが、侵食という現象自体は地球上で普遍的に発生している自然現象で、必ずしも悪ではありません。侵食が起こるからこそ新たに土も生み出されているので、侵食も生態系の一部と言えます。さらに言うと、侵食があるからこそ山が存在するわけなので、浸食があるからこそ登山道も存在しうるとも言えるかもしれません。問題なのは土をすべて押し流してしまうほどの侵食が起こってしまうことです。

そこで、まずはどうして侵食が起きるのかそのメカニズムを見ていきましょう。水が土を侵食する現象は大きく4つに分けることできると思います。それは「溜まる」「流れる」「落ちる」「凍る」の4つです。

溜まる

まず一つ目が「溜まる」です。これはどういうことかというと、水が溜まって土が保水してしまうと土の粒子の結びつきが弱くなってしまい侵食を受けやすくなってしまうからです。たとえば「水たまり」「ぬかるみ」想像してもらえれば分かりやすいと思います。水たまりの上を歩くと土が舞って水が茶色く濁ります。これは土が流されやすい状況になっているということです。また、ぬかるみの中を歩いたら靴に泥(土)がくっついて運ばれてしまいます。これは土が侵食されていると言うこともできます。

また登山道について言えば、登山者が水溜りやぬかるみを避けて歩くことによって登山道が拡幅して、周りの植生を侵食してしまうのも問題とされています。

流れる

水は地面の上を「流れる」(表面流や表面流去と言います)ことによって土を浸食します。土の上を流れる水は土の粒子を運びます(シート侵食)。また、表面を流れる水が集まると溝を作るように地面を少し削ります(リル侵食)。これがさらに大きくなると地面をV字型に削っていきます(ガリー侵食)。これがさらに大きくなると谷や川になっていくわけです。

登山道ではよくガリー侵食が問題とされます。ガリー侵食が起きると、登山者は歩きづらい底をさけて歩きやすい平らな植生のある部分を歩いて、そこがさらに侵食されてあらたなガリー侵食が生み出され、登山道はどんどん広がり周りの植生がどんどん失われていくというわけです。

落ちる

水滴が上から「落ちる」ことによっても侵食が起きます。わかりやすいのは雨です。雨粒が地面に落ちた時にその衝撃で土の粒子が破壊されて周辺に飛び散ります。「じゃあ、樹林帯なら大丈夫!」かというとそうではありません。雨だけでなく樹林帯で起こる「林内雨」という現象もあります。空から降った雨が地面に落ちず木々の葉っぱに落ちます。もしくは、雨が降らなくても霧が発生して葉っぱに水滴が着きます。そうすると葉っぱの先に水滴が集まって、その水滴が地面に落ちます。これが林内雨という現象で、これも侵食の原因になります。しかもこの林内雨の水滴は雨粒よりも大きくなるため、雨よりも侵食の度合いが強くなります。屋久島など湿潤なところでは雨が降らなくても土の侵食が起きてしいます。

よく地面を観察すると土柱という現象が観察できます。これは土の上にまるで柱状節理にような小さな柱のようなものができる現象で、上から落ちてきた水滴によって土が削られて作られたものです。

水が落ちる現象はそれだけではありません。たとえば人間が作った階段をみてみましょう。階段の段差から落ちた水が階段の踏面の土を削って歩きづらくなったり、階段そのものが壊れてしまっているのを見たことはありませんか?また、登山道の法面が垂直に切り立っていると、そこでも水が落ちて登山道の法面を侵食します。落ちた水は下方向に地面を削るだけでなく、横方向へも土を削っていき、法面がどんどん削られていきます。

水が上から落ちる時のエネルギーはなかなかのものであなどれません。登山道を作る上では水が”落ちないように”するか、水が落ちたところが”侵食されないよう”な工夫をする必要があるのです。

凍る

地面の中に含まれる水分が「凍る」ことによっても土壌の侵食が起きます。いくつか現象がありますが、分かりやすいのは霜柱です。霜柱を見る機会があれば
注目してみてもらいいたいのですが、霜柱の上に土の粒が乗っかっているのことがあります。これは霜柱ができる時に一緒に土が持ち上げられる現象で、これが斜面で発生すると土がちょっとずつ流されていきます。これが、霜柱クリープと言われる現象です。

なぜ霜柱が土で流されるのか?霜柱は毛細管現象という現象で起きるのですが、ここで注目すべきは”霜柱は地面に対して直角に伸びる”という点です。斜面に対して直角に持ち上げられた土は、霜柱が溶けた時には重力で真下に落ちます。そうすると土が斜面の下方向に移動することになるのです。

この以外にも、ジェリフラクションフロストフラクションといった土壌が運ばれる現象があります。これらは必ずしも侵食とは言わないかもしれませんが、土壌が動く現象として知っておくと良いでしょう。


土を守る

ここで紹介した以外にも土を侵食する要因や過程はいろいろありますが、今回紹介した水の4つの作用、「溜まる」「流れる」「落ちる」「凍る」が最も大きな原因と言えるでしょう。これらの水の力から、いかに登山道の土を守るかが重要となります。そうは言っても、雨は必ず降りますし、気温が低下すれば水は凍ります。ではこれらの侵食は防ぐことができないでしょうか?

もちろんそんなことありません。登山道の造り方メンテナンスを適切に行えば100%は無理だとしてもある程度軽減することはできます。次回は、登山道を造るうえで注意すべきポイントを見ていきたいと思います。


主に参考にした文献

https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaihatu/kikai/attach/pdf/jigyo-6.pdf


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