平成女児を夢中にさせた伝説のアイドル「月島きらり」から学ぶピンチをバネに飛躍する精神
「きらりん☆レボリューション」は今年で20周年をむかえた、2004年から2009年にかけて『ちゃお』で連載された中原杏先生の漫画作品だ。
2006年から放送されたアニメをきっかけに、平成の小学生女児の間で爆発的な人気を誇り社会現象を巻き起こした。
きらり役の声優には、当時モーニング娘。として活動していた久住小春(当時きらりと同じ14歳)が起用され、実際に「月島きらり」名義でリアルアイドル活動を行い、劇中の楽曲がリアルにCDとして発売されるという新しい試みが大成功を収め「バラライカ」や「恋☆カナ」などのアニソン史に残るヒット曲を生み出す事となった。
物語は普通の中学生だった月島きらりが、とあるキッカケから芸能界デビューを果たし、トップアイドルを目指して奮闘する姿を描いたものだが
これだけの説明では、一見ありふれたアイドルアニメの様な印象を受けるだろう
しかし、この「きらりん☆レボリューション」という作品は、現在もなお語り継がれるほど、女児アニメというカテゴリの中でも一線を画す名作として名高い、ただのアイドルアニメではないのだ。
その人気の秘訣は、月島きらりが、物語の中でどんな陰湿なイジメや嫌がらせ、他事務所からの妨害工作や圧力にも屈する事なく
究極のポジティブ思想と発想の転換によって
全てのピンチをチャンスに変え、トップアイドルとして上り詰めていく姿にある。
芸能界の闇やドロドロをリアルに描きながらも、決して挫けずへこたれず、全てのマイナスをプラスに変えて大躍進を遂げる月島きらりに
当時の女の子たちはテレビの前で目を輝かせ、ときには涙し、多くの勇気と希望を与えたのだ。
まさかの動機、月島きらりがアイドルを目指す事になった理由
主人公の月島きらりは、ある日道で木から降りれなくなった亀を助ける。
この時点でお伽話の浦島太郎を彷彿とさせる展開で笑えるが
それをキッカケに亀の飼い主である男からメンズアイドルのコンサートチケットをもらう
その亀の飼い主とは、きらりの住む世界で絶大な人気を誇るメンズアイドルグループSHIPS(シップス)の日渡星司(ひわたりせいじ)であった。
星司に一目惚れしたきらりは、コンサートに向かうが、一目惚れした相手がまさかチケットのアイドル本人とは気づかないまま、関係者専用の入り口から会場に侵入し、星司を探し回る。
しまいにはコンサートのステージの頭上まで来て、うっかり足を滑らせ落下
突然SHIPSのステージに乱入してしまったのだ。
なんとかSHIPSのアドリブで、きらりの落下はステージの演出という程にし一旦は舞台袖に隠れるが
そこで、星司の相方の宙人に「星司とお前では住む世界が違う、星司にとってお前は星の数ほどいるファンの1人でしかない、諦めろ」と言われてしまう。
その台詞に反発するように、きらりは「せっかく好きな人に出会えたんだもん!諦めたくない!世界が違うなら私が星司くんと同じ世界にいく!」と再びステージに再乱入
星司からマイクを奪い、ステージのど真ん中で
「月島きらり14歳、たった今からアイドル目指します!!」と宣言するのだ。
恋愛禁止のアイドルという職業において
デビューする動機が男性アイドルと結ばれるためという
物語の序盤も序盤からタブーを犯すというのが
この作品が前例の無い唯一無二のアイドル作品として現在もなお語り継がれている1つの理由と言えるだろう。
しかし、結果としてこれが芸能界入りの足掛かりとなり、後にSHIPSと同じ事務所に所属し、そこからアイドルとしてデビューする事になるのだった。
危機的状況をチャンスに変え、涙で勝ち取ったアイドルデビュー
無名のきらりはSHIPSの事務所の社長から、いきなり"手作りケーキセット"の CMオーディションの話をうける
そのCMでアイドルデビューを飾るためにオーディションを受けるのだが
同じ事務所で同じくオーディションに参加する小倉エリナから、いきなり妨害工作をくらってしまう
きらりをオーディションに間に合わせなくする作戦を思いついたエリナは
きらりに実際とは異なるオーディション会場と時間を知らせ、さらには自前衣装で挑まなければいけないところを「スタイリストがつく」と嘘をついたのだ
何も知らないきらりは、当然オーディション会場を見つけられず迷ってしまうが
その最中、社長とSHIPSに会い、実際のオーディション会場を告げられる
しかし、これが逆に功を成し
現場にいたSHIPSのスタッフによって
とびきり可愛いメイクと衣装に大変身し
オーディションに参加に滑り込む事に成功するのだ。
妨害工作をしたつもりが
セルフメイクと自前衣装できた自分と逆転の差をつけられてしまう小倉エリナであった。
そして、CMオーディションが開始されるが
そこでもエリナによる妨害が入る
生クリームを混ぜている最中にエリナから足をひっかけられ転倒してしまうきらりだったが
宙人が上に覆い被さるように、きらりを庇ったため、衣装が汚れずに済んだのだ
本命の星司ではないにしろ、今をときめくトップメンズアイドルに守ってもらうなど、この上ない幸運の持ち主である。
しかし、エリナの妨害はさらに続く
せっかくきらりが作ったケーキを、エリナの飼い犬であるタンタンが踏み潰してしまうのだ
エリナはすかさず予備で準備したケーキをきらりに渡すが、その中には大量の唐辛子が混ぜ込まれていたのだ。
そうとも知らず、リアクションテストでケーキを食べてしまったきらりは目を潤ませながらカメラに背を向けて黙り込んでしまうが
次の瞬間、振り向きざまに涙をこぼしながら
「美味しすぎて、涙がでちゃーう!」と言い放ったのだ。
この姿に、現場の人間はみな心打たれ
あまりの可愛さに歓声が沸き起こった。
それから3日後、きらりが振り向きざまに泣いたシーンが街に大きく看板として張り出され
見事オーディションに合格した事を知る事になる。
事務所にはきらりの仕事オファーの連絡が殺到し、華々しいアイドルデビューを飾ったのだった。
新人とは思えぬ初仕事、天性のアイドルとしての才能を見せるきらり
その後、めでたくアイドルデビューした月島きらりだが
またもや小倉エリナの妨害工作により仕事がすり替えられ
初仕事が田舎のオンボロ温泉旅館で開催する演芸大会の司会アシスタントになってしまう。
その演芸大会に出演するのは売れない芸人、マジックが一度も成功した事ないマジシャン、緊張で何も喋れない落語家など三流ばかり
事務所に確認をして、この仕事が手違いであった事が発覚するが
マネージャーから「引き受けても良し、断ってもいいわ、あなた次第よ」と告げられ
きらりは「この仕事、やります!テレビの前のお客さんも、ステージの前のお客さんも、一緒ですから!」と、引き受ける覚悟をみせる
しかし、演芸大会の司会を務めるトミー爆笑は
かつて売れっ子であったが、今ではすっかり落ちぶれ性格もひねくれてしまっていた。
ステージ上できらりの邪魔をした上、グダグダの演者や、全く関心を示さない旅館客に対し「出演者も最低なら客も最低だ」と悪態をついて奥に引っ込んでしまう始末。
しかし、きらりは諦めなかった。
その後、積極的に場を盛り上げようと、アシスタントとしてサポートに徹し、持ち前の明るさで演者達を元気づけ、旅館客もみるみるうちに集まり観客を沸かせ大成功となったのだ
きらりの姿に心を打たれたトミー爆笑は、きらりに言う
「思い出したよ、一生懸命お客を笑わそうとしているみんなを見ていて、オレにもそんな頃があった事を、売れっ子になるとその気持ちを忘れ、いつしか傲慢になっていた。きらりちゃんのおかげで生まれ変わったよ」
1人のデビューしたてのアイドルが、荒んだ元売れっ子芸人に初心を取り戻させた瞬間であった。
このような感動回が、初仕事のエピソードとして描かれているのが
「きらりん☆レボリューション」がただのアイドルアニメではなく
たくさんの人の心を動かし、時に大切な事を思い出させてくれる作品として子供達の記憶に刻まれる事になった理由だろう。
全ての人にハッピーな笑顔を届けようとする、きらりの優しく楽しい発想
「きらりん☆レボリューション」において名場面として名高いエピソードがある
それが『ホットアイドル賞』でライバルの藤堂ふぶきと手作り衣装ファッション対決をする回だ。
この対戦は、それぞれが衣装のドレスを自分で考えて手作りし、ファッションショーで披露するというもので
ライバルの藤堂ふぶきはドレス全体に宝石を縫い付けた、なんとも成金のようなゴージャス&セレブリティな衣装で登場したのに対し
きらりは身体中にたくさんの風船をつっつけて登場した
しかし、それだけでは終わらなかった
その身体中の風船を針で割ると、中からキラキラとカラフルに光る宝石がたくさんついたドレスが露わになる。
そして、その宝石を全て外し観客席へ「みんなにプレゼントだよー!」と投げたのだ。
ステージを見に来た観客はその宝石を受け取り気づく
なんと、それは宝石ではなく虹色に光るセロファンに包まれたキャンディーだったのだ。
この可愛くて楽しい観客を巻き込んだ演出は平成の女児に大きなインパクトを与え
「きらりん☆レボリューション」の中でもトップの人気エピソードとなっている。
嫌がらせも圧力も臨機応変に笑顔で乗り切る!きらりの大躍進
その後もきらりは数々のピンチを全てバネにして飛躍する
ライバル事務所、オフィス東山によって
きらりの公演予定であったコンサート会場が当日いきなり買収され使えなくなってしまった回では
絶対絶滅の中、きらりはコンサートを楽しみに来てくれた大勢のファンを外の広場に誘導し
真冬の寒さの中、自然の力で偶然出来上がった雪のステージで公演を続行させ見事成功させる。
夏の「ゆかた娘コンテスト」の回では
きらりの着る予定だった浴衣衣装が
コンテスト直前にきらりを敵視する天川いずみの手によってマジックでラクガキだらけにされてしまうが
ここでもきらりは諦めず
おばあちゃんから、子供が着れなくなった小さな浴衣を3着譲ってもらい
それらを切り離して袖をシームレスに変え
フリルやレースでデコレーションを施して
出番までに即席リメイクミニ浴衣を間に合わせた。
どんな時でも、月島きらりは絶対に諦めないし挫けない。
その打たれ強く、前向きに頭を切り替えて臨機応変に次の手を考えピンチを乗り越えていく姿こそ「きらりん☆レボリューション」の真髄であり、最も重要な見どころなのだ。
全てが上手く行くストーリーではない、挫折もあるけど、そんな自分も笑顔で受け入れる
ここまで読むと、きらりん☆レボリューションはピンチな展開があっても予定調和のように最後は上手くいく筋書きのように見えるかもしれない
しかし、決してそんな事はなく
No.1アイドルを決める「輝け!ダイアモンドアイドルクイーン」コンテストでは、結果としてライバルの霧沢あおいに負けてしまう。
だが、その結果を見ても
月島きらりはへこたれなかった
「精一杯やったんだもん♪それで負けちゃったんだから、仕方ないよね☆私もあおいさんみたいになれるように、もっともっと頑張りまーす!と、言うわけで、クイーンにはなれませんでした〜投票してくれた皆、ごめんね☆てへへ」
このシーンの台詞は、心なしか声が震えているような、本心では悔しさと悲しさで泣き出しそうなのを、押し殺して無理に明るく振る舞っているかのようなアフレコがなされている。
しかし、ファンに心配をかけまいと
いつも笑顔であろうとする、この姿勢こそ、月島きらりの魅力であり、平成の女児が胸を打たれ涙した理由なのだ。
きら☆レボがくれた普遍的なメッセージ
アイドルとして、幾多の困難を乗り越えるきらりの姿は、ただの「かわいい」だけでなく
諦めずに粘り強く頑張ることの大切さ、苦しい時こそ笑顔と発想の転換で乗り越える精神などを教えてくれた。
その熱血に近いメンタリティと、恋する乙女のピュアな心情を等身大で描いた事で、この作品は多くの感動と共感を呼んだのだと思う
「きらりん☆レボリューション」は、まさに平成を象徴する女の子の憧れを詰め込んだ作品だ。
今でも平成の女児文化として語り継がれる名作であり、当時の子どもたちにとって、ただのアニメを超えた存在と言える
その影響力は計り知れず、まさに平成を彩った伝説の作品である。