職人峠
建設現場といっても、大きさの規模から、建物の種類から、違う。
個人事業主の独り親方のスタイルとして、一番やりやすい現場は一戸建てだ。
煩わしい事(朝礼、打ち合わせ、)がなくて、独り親方としては好きなだけ、気兼ねなく作業をしやすい。
私は建物の躯体から室内のキッチン廻り等のコーキング工事を行う、
シーリング防水工事という仕事をしている。
防水工事には種類が多くて、
ウレタンゴム系塗膜防水工事。
アクリルゴム系塗膜防水工事。
塩化ビニル系シート防水工事。
アスファルト防水工事。
セメント系防水工事。
合成ゴム系シート防水工事。
まだまだある。
どれも専門特化された工事で、熟練の技能が必要である。
今現在では、youtubeなどの解説付き動画が簡単に観れるので、それを基に仕事をとる中途半端な業者や職人が多い。
当然、仕上がりは汚いし、防水工事という観点から、手抜き工事だ。
だが、まかり通る。
いわゆる、まちばといわれる現場ではよくある事。
塗装工事をした事がない防水工が、塗装工事をしたりしている。
仕事を繋げていく為には仕方がない事か、、
有名な工務店やゼネコンの一次下請け会社以外は、1つの技能専一で生活はしていけないのだ。
生活は出来るようになるだろうが、職人の魂は喪った。
私はよく、職人の魂と人に言うが、職人以外の人はある程度の羨望を感じてくれるが、同じ職人は、
(職人の魂?何言ってるんだこいつ?)
悲しいかな、そんな綺麗事では食べていけないし、経営者ならば従業員を守っていけないのだ。
しかし職人の魂を喪わず離さず生きている者もいる。
そのような職人は大概仕事にあぶれている。
仕事へのこだわりが強すぎて、嫌がられる、めんどくさがられる。
たから逆に仕事が廻ってこなくなるのだ。
何でも屋の、技能はないがとりあえずの仕事が出来て、監督の言う事にぺこぺこと頭を下げながら言うことを聞く、そんな者や業者に仕事が廻っていくのだ。
監督にも職人にも、職人の魂は喪ったのだ。
先週は大変な現場だった。
ALC の二世帯住宅のシーリング改修工事。
工期は6日間。
(何とかなる。)
しかし、既存シーリングが未硬化で、
ぐちゃぐちゃのどろどろ。
二世帯住宅のシーリング700メートルを4日で終わらすのはギリギリいけたのだが、シーリング未硬化を撤去するだけで3日はかかるだろう、、
直ぐに応援の手配をするが、未硬化の撤去と聞いて誰も来ない。
仕事2日目に、三人組で活動するシーリング業者が引っ掛かり、来てくれた。
ぐちゃぐちゃのどろどろのシーリングを撤去するのに、直ぐに嫌気がさした彼等は、半日もせずに帰ってしまった、
気持ちはわからないでもない、全身、未硬化のシーリングでどろどろだ、、
日当4万でもやりたくない仕事だ。
朝から晩までやって、一世帯分の撤去が何とか終わった。
撤去のあとは清掃だ。
そして養生と続く。
間違いなく間に合わない。
この時点で3日目だ。
その夜、独りで活動する独り親方の若者を、取引先が探してくれ、紹介してくれた。
(若者か、、たとえ仕事が出来る者だとしても、未硬化を撤去する忍耐があるか、、)
4日目、彼と現場で顔合わせして、現状説明をする。
取引先は彼には、シーリング未硬化を伏せていた。
朝の現状説明で、シーリング未硬化を伝え、どろどろのシーリングを見せる。
(さあ、いきなり帰るかな、、途中で帰られるよりは良いしな。)
「なるほどこれは気持ちが折れますね。」
苦笑いの彼。
「すまない、取引先とはまだ関係が浅く、請けや手間ではなく、常用なんです、、」
「だからどんなにやっても1日2万は動かない。それでもやってくれますか?」
私は正直に思いを伝えた。
「来たからには自分の仕事を全うするまでです。ここまでひどい未硬化はそうそうお目にかかれるものじゃない、良い経験です。やります!」
彼は積極的にどろどろになりながら撤去をしてくれた。
「地獄ですが、今日1日で撤去を終わらたいのだが、、」
「僕もそう思ってました。明日から楽になりますしね。」
淡々とした表情で返す彼。
こんな汚く、地味な作業はなかなかない!たいした若者だ。
休憩中は静かである。
彼は、必要な事以外はめったに口をきかないし、私も仕事中(休憩中も含め)は無口だ。
彼の無言は落ち着く、、
無言の中にオーラ、自信がある。
それが私には心地よい。信頼できて、気を使わずにすむ。
「eyuさん、見てください。」
「どうした?」
「雨です。」
ポツポツと風にのって降る雨が、少しづつ強くなる。
(不味いな、ALC は水を吸い込みやすいから、撤去したとこから雨がはいっちまう、、雨養生して、切り上げるしかない、、)
「eyu さんやろう!こんなところで迷っていたら時間の無駄だ!現場が終わらない。物事には賭けと勢いが必要だ!」
(やはりまだこの人は若い、、慎重さよりも勢いが勝る、、)
しかし私の為に言ってくれている。
侠気には侠気で返さなければ。
「よし、、やるか!」
休憩所から飛び出し大雨の中、どろどろのシーリングを全撤去する。
雨はただ無言に勢いよく降り続ける。
われわれは雨と未硬化のシーリングでまさにどろどろのグショグショ。
(風に乗った横殴り雨が目地から建物内部に侵入しなければよいが、)
それが心配だった。
地獄の撤去を18時過ぎに何とか終わらせ、撤去した目地にパイオランを張り、雨養生完了。
二人、疲れはて、家に帰れる体力があるかどうか、、、