#Twitter300字ss 投稿作品まとめ【再録】
※Twitter内企画「Twitter300字ss」に投稿していた作品のまとめです。回ごとに設定されたお題で、300字以内の掌篇を作成して投稿する企画でした。
※第八十八回から第九十二回(最終回)まで参加。
※全8作品。
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・Twitter300字ss 第八十八回「洗う」
「ハイスペックパーツ」
いや、不景気だね。最近は良いパーツが入らなくて。でもお兄さん、良いときに来たよ。ちょうど今日は、とびきりのを仕入れたところなんだ。記憶容量なら一五〇テラバイト超、演算能力なら一秒に一〇京回は行く。記憶媒体でも、プロセッサとして使っても良い。
これにする? さすがお目が高いね。フォーマット作業はこっちでやるよ、サービスさ。
この溶液で一度丸洗いすると、内容が奇麗さっぱりまっさらになるんだ。これが本当のブレインウォッシング、なんて。便利なもんだろ。外道の脳も聖人の脳も、洗っちまえばただの大容量媒体、おれの飯の種さ。
お待たせ。眼球と視神経はおまけだよ。新鮮な脳だから、なるたけ早めに使ってくれよ。毎度あり。
(300字/タイトル・スペース除く)
「彼がわたしを赦すなら」
出所してから再犯もせずにどうにかやってこれているのは、教誨師の牧師が本当に良い奴だったからだ。奴が説いた「罪深い女」の話をまだ覚えている。女は涙と髪でもってイエスの足を洗った。その行いはおのが罪を赦されたことを知ったゆえの、愛そのものの発露なのだと。
あなたも赦されているのですよ、と奴は言う。おれは神を信じないが、こんなろくでなしのおれにすら常に優しく誠実だった奴の言葉は、信じてもいいと思う。
前科者に対して世間は冷淡だ。それでも、おれはもう赦されているのだとしたら。やり直しても良いのだとしたら。
赦されているのですよ、と笑んだ奴のために、愛とやらでその笑みに報いるために、おれは生きていくつもりだ。
(300字/タイトル・スペース除く)
・Twitter300字ss 第八十九回「石」
「おもかげ(1)」
水切り遊びが巧いやつだった。拾った石を投げる。それだけなのに、その石は魔法のようにどこまでも跳ねた。投げ方を教えてもらっても、一緒に石を選んでも、彼の石は対岸まで易易と届くのに、ぼくの石はいつも途中で沈んだ。それを見ながら二人でげらげら笑った。どうしようもなく、楽しかった。
並んで水切り遊びをした川面は、今でも変わらずきらきらと澄んで、宝石を撒いたようだった。思い出す。対岸を凛と見つめる横顔、投擲の動作のしなやかさ、一直線に水を切る小石。まるで一幅の絵画のように完全で、完璧で。
石を拾う。振りかぶる。彼の面影をなぞるように。あのあまりに美しい――二度と戻らない瞬間を、こい願うように。
石が、跳ねる。
(300字/タイトル・スペース除く)
「おもかげ(2)」
石を見ると、あの野郎が居るのさあ。
道端の小石、山奥のでっけえ岩、河原の丸石、立派な屋敷なんかに置いてある、変な形の庭石だって。
ちょっとした模様とかひび割れとか、あるだろ。光や何かの加減なんだろうけどなあ。それがみんな、あの野郎の面影に見えるのよ。やってらんねえやな。
あの野郎、石に宿っちまったのよ。かあっとなっちまって、そこらの石なんかで頭をかち割っちまったのがいけなかったんだな。しくったよなあ。全く、しくっちまった。
次は、もっと考えてやらねえとなあ。石なんざどこにだってあるし、目に入らないときなんて無えじゃんか。こうしょっちゅうあの顔を見る羽目になるんじゃあ、たまんねえもの。へっへっへっ。
(298字/タイトル・スペース除く)
(「おもかげ(1)」とタイトルが共通していますが無関係の話です)
・Twitter300字ss 第九十回「流れる」
「罪責」
蓋で覆われた水路が厭だ。道路脇の側溝とか、ちょっとした暗渠とか。コンクリート蓋の隙間、グレーチングの格子の向こう。見たくもないのにどうしても目をやってしまう。すると必ず、目が合うのだ。
良く知っている目だ。たるんだ瞼に、ばらばらと生えた睫毛。陰気に充血して濁った白目。濃い茶色の虹彩の真中に、底なしの真っ黒な瞳孔が、ぎょっとするほど大きく散大している。
場所も時間も選ばない。そこに水路があって、ぼくが目をやれば、その目は必ずこっちを見ている。
嘲笑うでも憤るでも嘆くでもなく、ただ、見ている。
良く、知っている目だ。あの目。最後まで見開かれていた目。
砕いてトイレから少しずつ流したはずの、あいつの。
ああ。
(299字/タイトル・スペース除く)
・Twitter300字ss 第九十一回「謎」
「彼の謎めいた恋人」
彼の「恋人」については追及しないのが暗黙の了解だ。いわく言い難いが、あれはいわゆる「触れてはならないもの」だと思う。
美人で気立ても良いらしいその恋人を、彼以外の誰も一目と見たことはない。さらに奇妙なことに、恋人ができてから彼は日に日にやつれていくのだ。今や骨と皮の有様だが、髪や服だけは恋人の手で小綺麗にされているのが不気味だった。
――謎は謎のままであるべきだ。鶴女房も雪女もイザナミもエウリュディケーも、姿を暴かれたあとは破局しか無い。
いずれ衰弱しきった彼の孤独死の報など聞くのかもしれない。だがそれならそのほうが良い。孤独死という単なる事象になってしまえば、もはやそこには「謎」の余地は無いから。
(300字/タイトル・スペース除く)
・Twitter300字ss 第九十二回「来る」
「来る」
仲間と廃墟探索をした。幽霊など見なかったし、危険な人物との遭遇もなかった。雰囲気を充分楽しんだし、他愛ない思い出になるはずだった。
が、仲間の一人がおかしくなった。妙におびえ、常に周囲を気にする。話を聞いても「来る」「来てる」「おまえらわかんねえのか」と恐慌に陥り、宥めてもすかしても要領を得ない。
次第に彼は顔を見せなくなり、メッセージアプリの返信すら来なくなった。
心配しつつしばらく経ったころ、久しぶりに彼のアカウントからメッセージが届いた。
《どうしてもくるのでもうこちらからいきます》
満杯にした自宅の浴槽に、彼は着衣のまま頭を突っ込んで溺死していた。
密室の風呂場から「来ていた」というのか。
何が。
(299字/タイトル・スペース除く)
「来たるべき未来」
来たるべき時まで眠るだけだよね、と笑ったきみを覚えている。冷凍睡眠ポッドで眠るきみは常に薄く微笑んでいるけれど、それよりずっと明るく華やいだ笑顔を。
「来たるべき時」はもう近いよ。きみの病を治す特効薬がようやく実用化された。この治療薬の開発に、ぼくはすべてを捧げた。ただきみのためだけに。
待たせたよね。ぼくも切実に待った。医学の進歩で人の寿命もずいぶん伸びて、長い時間のうちにぼくはうんと老けたけれど。――変わらぬ姿のきみはどんなに驚くだろうな。
「来たるべき時」を、ぼくは諦められなかった。きみとぼくが、あれほど望んだ未来だから。
まもなくきみが再び目覚めたら。
きっと真っ先にぼくが「おかえり」を言おう。
(300字/タイトル・スペース除く)
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※企画者さま8年間本当にお疲れさまでした。楽しく参加させていただきました、ありがとうございました!
【画像引用元】
GLady(Pixabay)
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