隅田有 挿画とともに自作を語る6:「日時計」
『日時計』の萌えキャラ、牧神サマ。またしてもバレエ・リュスで活躍したダンサー、ニジンスキーの『牧神の午後』と、ギレルモ・デル・トロ監督映画『パンズ・ラビリンス』のパンと、ジョージア・オキーフの描いた牛の骨が合体して、最終形態はなにやらエイリアンみたい。
「日時計」
花畑はクローゼットの中
土の匂いに湿っていた
壁ぎわ、梅毒病みの牧神が酔いつぶれ
崩れた鼻にタンポポの綿毛をはりつけ
二階の寝室は遠心力のバランスを失い
中庭にむかって脱臼していた
その日、visitorである私は五歳
クローゼットの集会を主催し
参加し
運営し
辛うじて生きていた五歳
口を開くかわり
ハンガーで鋤き返してばかり
両目を日時計にして
荘園にアブを逃がした
階下の食堂では連夜
女優きどりのニシンが喜劇的な死を遂げていた
鶴嘴でめった突きにするのは
言い負かされた情夫だった
外階段に座って飽きもせず鑑賞するけれど
五歳の私は泣きはしない
そんな時
午睡から醒めた牧神は
酒臭い息を吐いて
優しく
優しく
私の髪を撫ぜる
頬をよせて
笑いあう見方に安堵する
夜の顔に変わった私の庭は
いっせいに爆ぜ
無数の胞子は
五歳の私の息の根に巣食う
隅田有 第一詩集『クロッシング』空とぶキリン社
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