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水無田気流+四元康祐+宗左近=あっと驚く三人英訳詩集 by Leith Morton!

詩人にして翻訳家、日本に延べ20年にわたって在住し東京工業大学で教鞭をとっていたリース・モートンさんから、先日小包が届いた。発送地はオーストラリアのシドニー、モートンさんの故郷だ。中をあけると派手なコケシのカバーのペーパーバック、なんと表紙にはこんなタイトルがあるではないか!

Poems of 
MINASHITA KIRYU
YOTSUMOTO YASUHIRO
& SOH SAKON
Translated from Japanese
and Introduced by
Leith Morton

版元はVagabond Press。以前僕の英訳詩集『Family Room』や『日中韓三ヶ国語連詩』を出してくれた出版社で、そこを一人で切り盛りしているMichael Brennanとは昔からの知り合いである。今回の詩集もAsia Pacific Poetry Seriesの一環という位置づけのようだ。それにしても水無田気流、四元康祐、宋左近というこの組み合わせは、一体どこから出てきたのか?そもそもいつの間にこんな企画が出来上がっていたんだろう?

いや、まったく心当たりがなかったわけではなかった。去年の夏ごろだったか、マイケルと別件でメールのやり取りをしているとき、君の英訳詩集が……という一節があったのを覚えている。もしかしたらその同じメールに水無田さんや宋さんの名前もあったのかもしれない。だが僕はその頃ちょっとした手術と入院を控えていて、正直なところ気持ちにも時間にも余裕がなかったのだ。だからメールでは用件だけに返事をした。そしてそれきり瑣事に紛れてしまったというわけだった。

どんな作品が訳されているのだろう。恐る恐るページを捲ってみる。するとこんなラインアップが……。

The Actress, the Poetry Critique, Aliens (女優と詩論とエイリアン)
Beatrice, who? (原題も同じ)
Perfume(香水)
Waking Up in the Middle of the Night(夜中に目を醒ますと)
Reading My Wife(妻を読む)
Tossing and Turning(寝返りをうって)
Body(からだ)
Everyday Elephant (from the series 'Poems with gestures')(日常の象 ――<シリーズ 仕草を伴う詩>から)
The Labyrinth Deep within the Drawer(引き出しの奥の迷宮)
My Younger Brother at Night, in imitation of the poet from Istanbul Gokcenur Celebiouglu(夜の弟――イスタンブールの詩人Gokcenur Celebiougluに倣って)
Kant the Multilingual Speaker--The Son Narrates(多言語話者のカント――息子は歌う)
Ho-sp-it-al-ity(オ・モ・テ・ナ・シ)

 2003年の『噤みの午後』を振り出しに、2006年の『妻の右舷』、2010年の『言語ジャック』、そして2012年の『日本語の虜囚』まで、ここ十数年の僕の詩の足取りを追うような選び方だ。最後の「Ho-sp-it-al-ity(オ・モ・テ・ナ・シ)」は、先月出したばかりの詩集『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』の冒頭を飾る作品だが、モートンさんが訳したのは2015年ごろ雑誌に発表したときのものだろう。

モートンさんの「序文」を読むと、その印象が間違っていなかったことが分かる。彼は僕の詩集『日本語の虜囚』の「日本語の虜囚――あとがきに代えて」という文章から二ページ近くを引用しながら、いわゆるナラティブな詩からラングエッジ・ポエムへの変化(谷川俊太郎の言葉を借りるなら「詩人本位」から「言語本位」へ)を、実際の作品を並べることで示そうとしたと述べている。

Yotsumoto goes to describe his journey to poetry and the various steps he has undertaken during his journey: the postscript resembles a kind of poetic autobiography. But in the poems translated here we learn something of that journey in a more abbreviated form. I have selected poems for translation from both the before and after periods to allow readers to glimpse something of the poet's evolution as a creative artist, and the problems he has had to encounter along the way.

これを読んで僕は背筋が震えた。自分がひとりで手探りしてきた試行錯誤の道のりを、まさか翻訳というフィルターを通して提示され、検証されるとは夢にも思っていなかったからだ。それは書き手ににって最高の贅沢であると同時に、ひどく怖いことでもあると思えた。

As outlined above, Yotsumoto's style has changed radically over the years, and this presents a number of problems for the translator. I find his voice to be always present however in all the poems translated here. It is a voice that displays a mastery of the Japanese language in all its poetic modes――whether narrative or abstract. 

過激に文体を変えつつも、それを貫いて響くひとつの声。それを僕自身は聴くことができない。優れた批評に恵まれたとしても、その存在をうかがい知ることができるだけだ。だが翻訳を読むことで、僕はモートンさんの耳(と心)を通過してくる声を聴くことができる。それはなんと近しく、同時にforeignなものだろう。

最後にこのセレクションのなかで一番気に入った一節を引いておこう。「Body(からだ)」から。

The noise of the river I've been hearing all night
At dawn suddenly swells
Hauled up, the sacrifice becomes
Aware of the smell of blood
Frozen to the spot
Hard   like a rock
Grows big
See:
Ge ahead and touch it

一晩中ずっと聞こえていた川の音が
明け方ふいに昂まる
曳かれてゆく生贄が 血の
匂いに気づいて
立ち止まり
岩のように 固く
おおきくなる
ほら、
さわって


Poems of Minashita Kiryū, Yotsumoto Yasuhiro & Soh Sakon (Asia Pacific Series 11)
Translated and introduced by Leith Morton
2017. 120pp. 190mm x 120mm. ISBN 978-1-922181-73-2 
Release date: February 2017

https://vagabondpress.net/collections/asia-pacific-writing

Vagabond Pressからはほかにも以下のような英訳詩集が出ている。

Poems of Hiromi Itō, Toshiko Hirata & Takako Arai
(Translated from the Japanese by Jeffrey Angles)
2016. 138pp. ISBN 978-1-922181-74-9


Poems of Masayo Koike, Shuntaro Tanikawa & Rin Ishigaki (Transalted from Japanese by Leith Morton and introduction by Yasuhiro Yotsumoto with cover art by Ikumi Nakaya)


Trilingual Renshi by Yasuhiro Yotsumoto (Japanese), Ming Di (Chinese), Kim Hyesoon (Korean) and Shuntaro Tanikawa (Japanese)


Family Room by Yasuhiro Yotsumoto


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