総研大 統計科学コース(5年一貫制博士課程) 受験体験記
2024年8月に実施された、総合研究大学院大学(総研大)の統計科学コース(5年一貫制博士課程)の入試を受験し、合格することができました!2025年4月からは東京の立川にある統計数理研究所(統数研)で、博士号取得に向けて研究に取り組む予定です。
この記事は、統数研での5年一貫制博士課程への進学に興味を持った方に向けたものです。5年一貫制博士課程と聞くと身構える方も多いと思いますが、私は物理→統計の分野変えで受験して入学資格を得ることができたので、門戸は広いと思います。また、入学前に調べた情報によれば研究・教育環境や金銭面での支援は手厚い印象です。
このコースを始めて知った方や詳しく知りたい方は、在学生の司馬さんによる、コースの詳しい説明+学生生活の様子が書かれた記事がありますので、是非こちらをご覧ください:
入試の概要
私の受験した2024年に実施された試験に基づいて、(多少主観を交えつつ)入試の概要を簡単に説明します。受験を考えている方は必ず公式HPをチェックするようにしてください!
試験は基本的に、第一回は8月、実施される場合は第二回は1月に行われます(2024年は第二回は行われませんでした)。
大まかな流れは
(教員との面談 →) 出願 → 筆記・面接試験 → 合格発表
です。順に説明していきます。
教員との面談
教員との面談は「強く推奨」とされており必須事項ではありませんが、してマイナスになることはまずありませんし、研究内容が気になる先生がいれば、あまり恐れず早めにメールなどでお願いするのが良いと思います。
また、年2回(5月、10月頃)開催される大学院説明会では、「教員マッチング」という希望研究内容に対してコース側で指導教員候補を選んでくれるすごいシステムもあります。
出願
出願時には「募集要項<出願書類様式集>」が紙媒体で必要です!!
HP上に掲載されているのは募集要項のみなので、注意してください。様式集を入手するにはメールで請求する必要があります。
事務的な書類の他に、下記の内容を含めた2000字程度の志望理由書の提出が求められます。
後述する面接試験がこの志望理由書の内容に沿って行われるため、見栄をはったりせずに自分が語れることを書くと良いと思います。
また、後述の英語試験に関して、事前に受けた TOEFL-iBT のスコアを利用する場合、出願時に関連した書類などが必要になるようです。
筆記試験
筆記試験は、数理、英語の2つあります.
英語については、事前に TOEFL-iBT を受験し、スコアを提出することで現地での試験が免除されます。その他の場合、数理試験と同日に TOEFL-ITP(Level 1) を受験します。私はTOEFL-ITPを受験しました。
数理試験の試験時間は2時間で、出題範囲は「線形代数,解析(微積分など),確率・統計」です。太っ腹なことに過去問は全て公式HPで公開されています:
大問4問構成で、主に応用を意識した工学寄り(?)の問題が出題される傾向にあります。過去問の難易度には結構幅がありますが、最近は難化傾向にあると言ってよいと思います。
細かい話になりますが、2019年以前は大問1は簡単な小問集合でしたが、2020年以降、徐々に手応えのある問題に変わってきており、2023年以降は一つの主題がある大問になっています。
また、2024年(私の受けた年)から、出題範囲が「…、解析(微積分、確率など)、…」から「…、解析(微積分など)、確率・統計」と変更されました。実際に初出の主題の問題(最尤推定量に関する問題)が出題されました。
さらに2024年は、初出の主題という明らかな変化に加えて、他の問題も体感として、傾向がだいぶ変わった印象を受けました。あくまで感想ですが、対策の上では、過去問に過適合しない方が良いかもしれません。
面接試験
面接試験は筆記試験とは別日に、筆記の出来には関係なく行われます。きっかり30分あり、冒頭に5分程度で「志望理由と入学した場合の研究計画」について口頭で説明します。必要ならA4片面1枚の事前配布資料を配布できます。
10人程度の先生方から、主に提出した志望理由書の内容を掘り下げるような質問をされます。特に志望研究内容についてはそこまで踏み込んだことを聞かれた記憶はありませんが、なぜ他ではなく統数研を志望するのか、志望理由書に書いた志望研究内容が大雑把に何をするためのものか/どのような仕組みか、今後の展望、などについてはある程度具体的に説明できるようにしておくべきでしょう。
体験談
ここからは私の体験談になります。長くなってしまいましたが、欠片でも参考になれば……。
((いざ書き出してみると自分の無計画さが露呈して恥ずかしいです。全てが後手後手に回っていて、合格できたのが奇跡だと思ってしまいます。皆、早めに行動しよう!!!))
※「総研大 統計科学コース(5年一貫制)」の意味で「統数研」と書いているところがあります。適宜読み換えてください。
院試前のプロフィール
所属は京大理学部物理系です。
学部の1~3年はほとんど物理、趣味程度に統計学含む数学の勉強をしてきました。物理のある特定の分野というよりは、物理の基礎づけのような話が好きだったので、大学院からは物理を離れてみよう、と漠然と思っていました。科学史なども好きで、とにかく色々と勉強してみようというスタンスでした(が、実際身についたことはごくわずか……)。演習はサボりがちだったので基礎力には自信がありませんでした。
高校の頃には競技プログラミング(競プロ)をそれなりにやっていて、AtCoderで青タッチ、奇跡的に情報オリンピックの春合宿やパソコン甲子園本戦にも出場できました。本当に奇跡。しかし大学受験を機にスッパリ辞めてしまって、大学生になってからはたまに触る程度で、現在の競技環境はほとんど知りません。
3年・春休み(2~3月)
春休みに入って初めて院試のことを明確に意識し始めました。
といっても研究したい、という気持ちはずっとあり、大学院についてはその前から色々と調べていました。もともと統計や機械学習に興味があったので、統数研の存在もだいぶ前から知っていました。他には京大や東大の物理、数学、情報系、少し変わったところで東大の生物統計情報学コース、京大の臨床統計家育成コースなども考えていました。
そんなわけで、ぼんやりと統数研の受験を意識しつつも、併願先含めて院試の計画はまだハッキリとは立てていない状況でした。色々なところの院試に必要そうなTOEICにとりあえず申し込んだり、久保川「現代数理統計学の基礎」(以降「久保川本」)やルベーグ積分の本を読んだりしていました。演習問題はほとんどやっていませんでした。
4年・4月
課題研究(卒業研究)が始まり、毎週のゼミが忙しくて、危機感はあるものの、院試のことはあまり考えられていませんでした。また、TOEICが下旬にあり、その対策も細々としていました。久保川本も少しずつ読み進めていて、4月中に大体の内容は把握したと思います。演習問題はほとんど解いてないです。院試にどれほどの知識が必要かもよく分かっていなかったので、ルベーグ積分の勉強もしていました(結局必要ありませんでした)。
(※ちなみにTOEICの結果は835点でした。予想以上の高得点で喜んだものの、その後使うことがなかったのでこの話はおしまい……。)
4年・5月
友人と話して、ようやく統数研を第一志望に受験しようと決意します。5月上旬でした。社会への貢献と自分の理学的な興味のバランスが最も取れるのが統計学だろう、と思っての判断でした。統数研は、最初に紹介した司馬さんの記事にもあるように「凡そ統計に関連のある分野が理論・応用を分けずに網羅されており、それもスター研究者が揃ってい」ることが魅力でした。また、しっかり研究するには博士課程まで行く必要があると思っていたので、私にとって5年一貫制はメリットでした。金銭的な支援(SOKENDAI特別研究員制度、RA制度など)が充実していそうだったのも判断材料になりました。
もう出願まで間もないということで、5月の中頃に慌てて研究室を訪問させていただき、分野変えにまつわる不安を相談させていただいたり、研究内容・方針などを聞いて、やはりここで問題なさそうだ、と思えました。急に押しかけたにも関わらず温かく対応していただいた先生方に特大の感謝です。
しかし、良い子の皆様はこのようなことは特殊事例だと思って、研究室訪問をお願いするときはできるだけ早く連絡するようにしましょう!!
分野や人には依存するかと思いますが、そんなに研究内容について深く知らなくても(論文などを読んでいかなくても)、基本的に快く対応していただけると思いますので、恐れずに相談してみましょう。私は「そんなこともわかっとらんのか!」などと詰められるんじゃないか、とビビってこの時まで研究室訪問をしてこなかったのですが、今思えば勿体ないことをした、と後悔しています。訪問できるだけ訪問して、選択肢を増やすべきでした(※統数研を選んだことに後悔はないです)。どのように接してくれるのかを知ることも研究室訪問をする意義に含まれると思いますし、怖がりすぎないことです。
また、この頃は併願先として物理系の研究室を考えていたので、同じ時期にそちらの研究室にも訪問させていただきました。
勉強に関しては、久保川本の演習問題を解きつつ、5月末からは統数研の過去問を解き始めました。手応えはそこまで悪くはないものの、主に線形代数の知識不足に気づき、家にあった齋藤「線形代数入門」(緑の本)を一から読み直し始めました。
また、物理系の併願先のために、物理数学や電磁気学の問題集も解いていました。
4年・6月
6月中旬まで悩んだ末に、物理系の研究室の受験はやめて、統数研一本に絞ることにしました。出題内容が被らない併願先の対策に時間を割かれるのも嫌でしたし、何より一番興味に近いことができそうなのは統数研だったからです。落ちたらバイトをしつつ院試浪人しようと思っていました。
出願が6月末だったので、6月中はずっと志望理由書を書いていました。志望理由書に含むべき内容を再度載せておきます。
一番困ったのは(3)でした。出願時点で、統計学に関してはネット記事や技術書をざっと読んで面白そう、と思ったトピックはあるものの、体系立った専門的知識がほとんどなく(久保川本に書かれていることが全て)、講演・講義などでも基礎的な話しか聞いた記憶がありませんでした。物理については色々な本を読んで、それなりに語れる内容もあったため、悩んだ末に物理→統計の分野変えをした動機として(3)を含めることにしました。(2)には競プロの経験を書きました。
全体の構成としては大まかに「全体的なまとめ→物理を学ぶ中で統計に興味を持った動機(3)→それを踏まえた具体的な研究内容/キーワード(1)→実績(2)+抱負」という感じです(勿論、各要素が入り混じっている箇所もあります)。
友人に見てもらったり、指導教員をお願いしている先生に相談してアドバイスを頂いたりもしました(本当にありがたかったです)。2000字程度という制限の中、ある要素に力を入れると他が弱くなる、ということを繰り返し続けて、10回以上リバイズしたと思います。
自分の内面を人に伝えるために言語化する作業は苦しいですが、その分、書きながら志向が整理されていく実感もありました。私は興味が多くて大学院からの専門分野を決めるのに随分時間がかかりましたが、同じように悩んでいる方は、もしかしたら、ふんわりと思っているやりたいことを軸にして、志望理由書のようなものを書いてみる/書こうとしてみると、それらの根底にある抽象的な興味が見えてくるかもしれません。
ゼミの準備と志望理由書にほとんどの時間を割いていたので、勉強は、過去問を解いて、解けなかった問題について調べて解き直すことくらいしかできませんでした。
((勉強する時間はあったけど、自分の手を離れるまで志望理由書のことが気になって他のことに手がつかなかった、というのが正しい))
4年・7月
出願を終え、気づいたら院試1ヶ月前の7月になっていました。過去問を解いてはいたものの、まだまともに院試勉強をした、という実感が全くなく、めちゃくちゃ焦っていました(落ちたらどうしよう、と不安に駆られて夜中に飛び起きて、夏から就活を始めても間に合うか調べたりしてました)。課題研究ゼミの担当も7月上旬には終わり、ようやくまともな院試勉強と呼べるものを始められました。
7月中旬には過去問を解き終えました。線形代数の知識がついて少しずつ安定してはいた(各大問の重みが同じなら、平均的に8割は取れてた)ものの、たまにコケて絶望していました。また、7月中に久保川本と齋藤「線形代数入門」を演習問題含め全て読み切りました。数理試験対策には、基本的に過去問とこの2冊の本しか使っていません。他には、東大の情報理工の数理情報専攻の過去問を少し解きました。
7月末になって、数理試験の対策は今からできることが少ないと思い、面接試験と英語(TOEFL-ITP)の対策を始めました。
面接試験では冒頭に5分間程度で「志望理由と入学した場合の研究計画」を話す必要があったので、その原稿作り・事前配布資料作りと、志望理由書に書いた志望研究テーマに関連する本を読んで知識の確認をしていました。事前配布資料はなくても良いかと思いますが、私は志望理由書に少し抽象的なことを書いたので、内容を簡単な図にしたものを用意しました。また、想定質問もある程度考えましたが、最終的には会話の対策なんてしてもしょうがないだろうと腹をくくって(諦めて)いました。
英語はTOEICでそれなりの点数が取れたので舐めていたら、公式問題(下リンクの本)をやってみたところだいぶ怪しい点数を取ってしまったので、リスニングの練習をしました(身が入らず、効果があったのかは疑問です……)。
4年・8月(本番)
今年の試験は8/6(筆記)、8/7(面接)に行われました。試験前は緊張で眠れませんでした。
1日目の筆記試験には私服で行きました。数理試験のあとに昼休憩を挟んで英語試験が行われました。数理試験の手応えは悪く、甘く見積もっても6割ちょっとでした(開示がないので今でも本当の得点はわかりませんが)。失意の中受けた英語試験も、緊張で英語が頭に入ってこず、終わったあとは完全に落ちたと思っていました。
2日目の面接試験にはスーツで行きました。直前まで、考えてきた冒頭に話す内容を見返していましたが、いざ面接試験の部屋に入った瞬間、ズラッと並ぶ先生方を目の前にして記憶が飛びました。もっと発表の練習をするべきでした。
たどたどしい説明をしたあと、先生方から質問が飛んできます。ほとんどは志望理由書に書いた内容を掘り下げるような質問だったと記憶しています。完全に意識の外から来るような意地悪な質問はなく、失敗はあるものの、ある程度まともに会話ができたと思いました。
試験直後は、全体を通して良かった点が見当たらず、すっかり落ちたものと思っていました。合格発表が1ヶ月後の9月中旬だったので、待っている間に絶望感も薄れていきました。
4年・9月
忘れた頃にネット上で合格発表がありました。結果は合格。安堵感がすごかったです。応援してくれた全ての人に感謝……。
最後に
以上の体験を通して、過去の自分に教訓を一言だけ伝えられるなら「早く動け!!!」と伝えます。研究室訪問、英語試験(TOEIC や TOEFL-iBT が必要など)、志望理由書、etc……院試には筆記試験対策の他に必要な要素がたくさんあります。私は4年生になるまで、過去問をチラ見して「こんなもんかぁ」と満足するに留まっていましたが、悠長すぎました。
また、体験談にも少し書きましたが、院試勉強中は勉強も手につかないほどの不安に襲われます(私が単願だったのも原因だと思います)。この問題は友人との会話にだいぶ救われたと思っているので、定期的に人と話すことをおすすめします。
記事を読んでいただき、ありがとうございました!もし質問や要望などあれば、コメントやX(@u50124n4)などでお気軽にお声掛けください。
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