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学生起業家「一問一答」 - ゼロからの起業・実務のリアル
スタートアップ支援が充実してきたことにより、起業家としてのスキルが注目を集め、多くの人々が起業を目指すようになっています。
しかし、たとえ連続起業家と呼ばれるような人であっても、実際に「会社を作る」というプロセスを何度も経験した人は少ないのが現実ではないでしょう。
自治体の開業センターなどの支援組織に相談すれば、司法書士や税理士を紹介してくれることもあるかもしれません。
これらの士業の専門家たちは、会社設立をサポートする豊富な知識と経験を持っています。
しかし、彼らの職務上の制約から、実際の起業現場における「リアルな経験」や生々しい課題については十分に伝えられないことが多いのです。
私自身、これまでに20社以上を自分の手で設立してきました。
大手企業の経理部長として、会社の設立や清算を繰り返し行ってきた経験もあります。経理財務や会社経営に関するあらゆる業務を手掛け、そのシステムの導入も自ら手げけて来たのです。
また、スタートアップの世界においても、自ら起業家として活動し、資金調達を行いました。
時には起業家として、また時には投資家や金融機関との仲介役として、総額で数十億円規模の資金調達を成功させてきたのです。
これらの経験を通じて、私は起業の「リアル」を深く理解し、さらに、上場準備の現場にも何度も立ち会ってきました。
過去には、金融庁の職員として、日本に国際会計基準を導入するタスクフォースにも所属しており、上場企業が有価証券報告書などを登録するEDINETシステムの担当官も務めました。
こうした経験を基に、スタートアップのライフサイクル全体を見据え、起業家に対して最適な会社設立や運営のアドバイスを行うことも多々あります。
そして最近、石川県加賀市に「デジタルカレッジKAGA」という組織を立ち上げました。
地方では、起業や資金調達、スタートアップにおける起業のメソッドが確立されていません。この状況を改善し、地方の起業家たちが成長できるよう、メンタリングを通じてサポートを行っています。
そんな中、一人の高校生が私のもとを訪れました。
彼の瞳を見つめた瞬間、その中に強い起業への志を感じました。彼は進学と同時に、自ら事業を立ち上げることを決意し、学生として会社を設立する決心を固めたのです。
本noteは、その彼との対話を基に、大幅に改変したものです。
齋藤:さて、どこからスタートしましょう。今、考えていることを教えてもらえますか?
学生:今の状況なんですけど、正直、起業するってことがまだよく掴めてなくて、、、。起業すると決めたものの、「起業って何?」っていう感じです。どういうことが起業で、どう進めていけばいいのか、あんまり分かっていない状態なんです。
ただ、自分にとって「起業する」という経験そのものが、とても価値があるんじゃないかと思っていて。だからこそ、学生のうちにその経験をしてみたいという気持ちが、今の自分にとっては一番大きいですね。
齋藤:なるほど、つまり起業のプロセスそのものを経験してみたい、ということですね。それ自体、とても素晴らしい動機だと思いますよ。それで、どんな事業をやってみたいと考えていますか?
学生:そうですね……。自分は部活の部長として長い間、メンバーをまとめる経験をしてきました。その中で、いろんな大人たちとつながる機会もありました。自分としては、そのつながりはすごく貴重だと思っています。
ただ、やっぱり都会の学生と比べると、自分たち地方の学生って、知識とかネットワークの面でかなり差があるんじゃないかって感じることが多くて、、、。
どうにかしてその差を埋めたい、何か解決できる方法はないかと考えているんです。
齋藤:それはとても興味深い視点ですね。都会と地方の差を実感して、それをどうにかしたいと考えるところは、まさに起業家としての素質を感じます。
具体的には、どんな方法でその差を埋めたいと思っていますか? たとえば、どんなサービスや活動を通じて解決したいと考えているのか、もう少し具体的に話してもらえますか?
学生:自治体に相談したところ、まずは定款を作るところから始めたらどうかと言われて、司法書士を紹介してもらいました。
ただ、いざ定款を作るとなると、自分にはまだ知識が少ないので、どんな手続きが必要なのかとか、どのくらいお金がかかるのか、そういう部分を詳しく知りたいなと思っています。
齋藤:なるほど、確かに「定款を作る」というのは、起業のスタートラインの一つですね。
でも、もしかすると「起業」という言葉自体が、少しプレッシャーを感じさせているのかもしれません。
起業って一言で言うけれど、実際にはいろんな形があるんです。例えば、個人で小さく始める場合もあれば、大きな事業としてしっかり資金を集めてスタートする場合もある。
だから、あなたが目指す「起業」はどういうものかを少し整理して考えてみるといいかもしれませんね。
それで、ちょっと聞きたいんですけど、何かベンチマークとなるような起業家や経営者はいますか?
つまり、参考にしたいと思っている人、こういう人みたいになりたいという目標があれば教えてください。
学生:ベンチマーク……それはどういう意味ですか?
齋藤:ああ、そうですよね。ベンチマークっていうのは、目標とする人とか、ロールモデルって言った方が分かりやすいかな。
簡単に言うと、「この人みたいになりたい」とか「この起業家は尊敬している」と思うような人がいるかどうか、ということです。
学生:それで言うと、この前見つけたんですけど、「株式会社ABC(仮名)」という会社の学生社長を務める女性がいて、一時期すごく話題になったらしいんです。
女子高生社長として注目されていたみたいで、昔の話題の人物だったんですけど。
齋藤:ああ、昔そんな話があったね。なんとなく聞いたことがある気がするよ。
学生:はい。その人がやっていることが、自分のやりたいこととすごく重なる部分があって。若者がどうやって社会に参画していくか、そこに焦点を当てているところがすごく共感できました。
彼女の会社みたいに、若者を中心に動かすような会社を作りたいと、自分の中でロールモデルとして強く思っているんです。
齋藤:なるほど、よくわかりました。実際、最近では高校生が起業するってこと自体、そんなに珍しいことではなくなってきています。
ただ、私が知っている限りでは、起業して成功し続けた高校生の例はあまり見かけないんですよね。もちろん、起業そのものが話題になることは多いんだけど……。
学生:はい、それは自分も少し気になっていて。
齋藤:そうなんですよね。話題になるのは、社会経験が少ない若者が「起業」という大きな決断をするからなんですけど、問題はその後なんです。
起業したこと自体はニュースになりますが、その後どうなるかについては、あまり注目されないケースが多いんです。
例えば、私の知り合いに、高校生の頃に「株式会社XYZ(仮名)」という会社を立ち上げた人がいます。
彼は仲間たちと一緒に会社を作ったんですが、いろいろな困難に直面して、仲間が分裂したり、会社がうまくいかなくなったりと苦労もたくさんしたようです。
そういう意味で、覚えておいてほしいのは、起業すること自体がゴールではないということですね。
起業は一つのステップに過ぎなくて、その先にある「どうやって継続的に事業を進めていくか」が本当に重要なんです。
だから、起業した後に何をどうしていくか、そのビジョンをしっかり持つことが大切ですね。
学生:確かに、起業することだけに注目しがちでしたけど、その後が本当に大切なんですね。起業の先を見据えて、もっと具体的に考えていきたいと思います。
齋藤:ただ、昔に比べると、起業自体はすごく楽になりましたよ。
昔は本当に大変な時代があって、例えば株式会社を作るには資本金が1000万円必要だったんです。今では信じられないでしょうけど、当時はそれが普通でした。
学生:え、そんなに高かったんですね。
齋藤:そうなんですよ。それが今から20年くらい前の商法改正で、最低資本金というのが撤廃されて資本金が1円でも株式会社を作れるようになったんです。
昔は簡易版である有限会社というのすら300万円ないと設立できなかったんです。そういったハードルがすごく高かったものが、今ではとても楽になりました。
それが今の時代に起業する大きなメリットでもありますね。
学生:なるほど、確かに昔は大変だったんですね。
齋藤:ただ、「起業」というのは、ただ会社を作ることではなくて、業を起こす、つまり事業を始めるという意味なんです。
事業とは「なりわい」、つまり生活を支えるためのものです。だから、単に会社を作るだけではなく、自分が生きていくために、その事業でお金を稼ぐというイメージが必要です。
学生:そうですよね。やっぱり、事業を通して自分の生活や社会に貢献するというのが大事なんですね。
齋藤:そうです。誰かからお金をいただいて、それを使って事業を回すのが基本になります。
じゃあ、そのお金をどうやってもらうか、誰からもらうかということが起業においてはすごく重要になってきます。
学生:確かに、そこが一番難しいところかもしれません。
齋藤:そうですね。そのお金を払ってくれる人、つまり顧客が誰かをしっかり見極めることが大切です。
それに対して、さきにあった株式会社ABCのような企業が実際にどうやって利益を上げているのか、あるいは誰かの支援で成り立っているのかは、外からはわかりにくいことが多いんです。
事業は成り立ってないけど誰かからの支援によって見た目上はうまくいっているように見える、そういう会社も実は少なくありません。
齋藤:一方で、しっかり事業を展開して、自力で大きくなっていく会社ももちろんあります。
だからこそ、ベンチマークする企業や人物を選ぶ際に、身近な企業だけに頼らず、できればもっと大きなスケールで考えてほしいんです。
折角学生で起業するのですから、たとえば同様に学生で起業した人達、マーク・ザッカーバーグ、ビル・ゲイツ、マイケル・デルなど、学生から起業して世界的に成功している起業家たちをベンチマークにするのもいいですね。
学生:そういう大きなスケールで考えることも重要なんですね。彼らのような成功者から学ぶことで、自分の視野も広がる気がします。
齋藤:そうですね。彼らがどうやって事業を立ち上げ、どのようにして成功に至ったのかを学ぶことは、あなたの起業の道に大きな影響を与えるはずです。
そうすると、まず事業を作ることが必要になるわけですが、成功した起業家たちの多くは大学の寮など、自分たちの身近な場所から事業を始めていることが多いんです。
齋藤:例えば、マーク・ザッカーバーグが作ったウェブサイト、Facebookについて描かれた『ソーシャル・ネットワーク』という映画があるんですが、見たことありますか?
学生:いえ、まだ見たことはないです。
齋藤:それなら、ぜひ一度見てみるといいですよ。『ソーシャル・ネットワーク』という映画は、ザッカーバーグがどうやってFacebookを作り上げたかを描いています。
彼はプログラマーで、ハーバード大学の寮で事業を立ち上げます。そこから「人と人をつなぐサイト」を開発して、それが投資家たちの目に留まり、最初は「1億円を投資するよ」や「10億円出すよ」という形で資金を得ていくんです。
きれいごとではないドロドロしたところが描かれていますね。
学生:すごいですね。
齋藤:そうなんです。その投資を基にさらに開発を進め、やがて株式上場にまでこぎつけます。
株式上場というのは、今はまだイメージが湧かないかもしれませんが、これによって事業が一気にスケールアップするんですね。実は、Facebookが株式上場するまで、会社はずっと赤字を出していたんですよ。
利益を出していなかったのに、それでもどんどん投資を集めていたんです。
学生:え、そうだったんですか?知らなかったです。
齋藤:そうなんです。でも今では大きな利益を出しています。その収入源は広告です。世界中で20億〜30億人ものユーザーがFacebookを利用しています。
その膨大なユーザーに向けて、企業が広告を出すんです。つまり、広告主がFacebookにお金を払っているというわけですね。
学生:なるほど。広告がそんなに重要なんですね。
齋藤:そうなんです。つまり、ザッカーバーグのように、最初は大きな利益を出すことを目指すというより、まずは「価値あるものを作ること」に集中して、その後にビジネスモデルをしっかり考えていく、というのも一つの戦略なんです。
齋藤:それを基に、さらに開発を進めてサイトを大きくしていく、これが一つのビジネスモデルです。どんどん大きくしていくね。
こういった形の起業がシリコンバレーでよく見られますし、自治体や日本政府が求めているユニコーン企業というのも、まさにこのようなモデルなんです。
そこには必ずITが絡みます。
齋藤:なぜITを使うかというと、IT事業は一度プログラムを作ってしまえば、それを使うユーザーが増えてもコストがほとんど増えないという特徴があります。
これを「限界費用の最小化」とか「限界利益の最大化」いいますが、つまり、ユーザーが1人増えるごとにコストが増えず、「損益分岐点(ブレークイーブン)」を超えた後は、収益が劇的に上がりやすいんです。
そして、ユーザーがさらに他のユーザーを呼び込むという連鎖も起こりやすいので、成長スピードが極めて早い。これは「ネットワーク外部性」と言いますが、これらがIT企業の特徴で、成長軌道が指数関数的になるという特徴があります。
学生:確かに、IT企業ってすぐに大きくなる印象があります。
齋藤:そうですね。だから、ITを活用するスタートアップは急成長が期待できるんです。
ただ、起業と一口に言ってもそれだけじゃなくて、地元でパン屋を作るというのも、もちろん立派な起業です。パン屋もそう、コーヒーショップを開くのも同じです。
もし、あなたが地元でパン屋を作りたいと思うなら、それも起業の一つの形ですし、必ずしも株式会社にする必要はないんですよ。
齋藤:パン屋のビジネスモデルを考えると、パンの価値というのは、パンを作ってそれを売ることですよね。パン屋の原価は場所代、人件費、そして材料費がほとんどを占めます。
一方で、パンは作った数だけしか売れません。だから、一定規模を超えて大きく成長させるのは簡単ではないんです。IT企業とはここが大きく違います。
学生:パン屋だと売れる数に限界があるということですね。
齋藤:そうなんです。IT企業の場合は、規模を拡大してもそれに伴うコストがあまり増えない。
ですが、パン屋のような実店舗型のビジネスは、売り上げを増やすためには、物理的な制約を乗り越えなければならないので、成長のスピードは地域的な市場制約と製造のキャパシティに制限されます。
これは決してパン屋の価値を低いと言っている意味ではなく、ビジネスモデルが根本的に違うということです。
齋藤:ただ、パン屋の方がIT企業に比べて競争環境が見通しやすいという利点があります。近くに似たようなパン屋がなければ、人気になってお客さんがついて、毎朝パンを買ってくれるでしょう。
少し大きくなってきたら、学校給食にパンを提供するような機会も出てくるかもしれません。そうなると、安定した需要が生まれて、パン屋としてのビジネスも少し大きくなっていく。
場合によっては小さなパン工場を立ち上げる話も出てくるでしょう。でも、IT企業に比べると成長のスピード感はやや遅いかもしれませんが、安定性は高いかもしれない、ということですね。
学生:確かに、安定したビジネスっていうのも重要ですよね。
齋藤:そうなんです。これも一つの形であり、立派な企業です。
何をやりたいかによって、会社の形やビジネスモデルは大きく変わります。あなたがどんな企業を目指すかで、その選択が決まってくるんですよ。
齋藤:例えば、事前にもらった質問の中に「株式会社と合同会社、どちらがいいか」というのがありましたがそれも一例です。
企業の形態はそれだけではなく、他にもいろいろあります。株式会社は資本主義の中で最も進化発展したモデルで、最大の特徴は「有限責任である」という点です。
学生:「有限責任」って何ですか?
齋藤:簡単に言うと、株式会社にお金を出す人、つまり株主は、その出資した金額以上の損失を負わないという仕組みです。
例えば100万円出資したら、その100万円が損失リスクの限界です。さらに、株式会社では所有と経営が分かれているため、株主が経営者を選んで、会社の経営を任せることができます。
これが株式会社の特徴で、所有と経営を分けられる点も大きな点ですね。
齋藤:要は、法人の形というのは、法人として登記をすればいろいろな形を作ることができ、それでも事業を行うことが可能なんです。
例えば、NPOを作るのも一つの起業の形です。NPOってわかりますか?Non-Profit Organization、つまり利益を追求しない組織です。
大きいと社会的な意義があるという意味で非政府組織(NGO、Non-Governmental Organization)とも言いますが、日本ではNPO法人という形で登記することができます。
学生:NPO法人っていうのは聞いたことありますけど、あまり詳しくはわからないですね。
齋藤:NPO法人の他にも、社団法人という形態も作れます。そして社団法人もさらに分けられ、利益事業を行う社団法人や、公益型の社団法人といった形もあります。
法人の形態はとても多様で、それぞれに特徴やルールがあるので、単純な話ではないんです。
齋藤:ただ、あなたの場合、学生だからこそリスクを取れる状況にありますよね。あなたは一地方都市で終わるつもりはないでしょう。
例えば石川県加賀市の人口は6万人、そこに市場をターゲットを置けば大きな事業になることはないわけで、もっと日本市場全体を相手に、世界市場全体を相手に大きなことをやりたいですよね?
日本市場だってたかが知れていますから、もし時価総額1500億円を超えるいわゆる「ユニコーン」を目指すならば、世界市場にリーチできている必要性が有ります。
学生:そうですね、大きくやりたいです。
齋藤:そのポテンシャルがあるのだから、でかくやることに挑戦してもいいんです。
そして、若さというのはそれ自体が価値です。だからこそ、もし失敗したとしても、リスクを取って一度チャレンジしてみるべきです。もしダメだったら、その時はリセットボタンを押せばいいんです。
それが若さの価値なのだから、いまから小さく考える必要は全くないです。
齋藤:ただ、そのリセットボタンを押せるように、事前にしっかりと設計すること、これが本当に大事な今回考えるべきリスクテイクのポイントですね。
その辺が分かっていない人から間違ったアドバイスを受けてしまうと、違うアドバイスが返ってくることがあります。そもそも日本の誰もユニコーンを作ったことがある人はいないのでね。
たとえばアドバイザーから事業の立ち上げのために銀行からの借入を勧められたり、助成金の紹介をうけることもあるでしょう。
それは違うという判断が出来ないと。
学生:借入って結構リスクが大きいですよね。
齋藤:そうです。特にパン屋のようなビジネスをやる場合、銀行から借り入れをするのは普通の選択かもしれません。
ひとえに銀行借入といっても、最近ではスタートアップ支援の観点から個人保証をつけなくても良い場合もあれば、必要な場合もあります。
でも、それによって、借入をしたことによってリセットボタンを押すのが難しくなるということがおきるのですよね。
日本社会では、借金を踏み倒して次の事業を始めるというのは、なかなか許されないんです。銀行が起業家よりもリスクを取ってくれるということはありません。
これが「日本において失敗への許容度がない」と言われる理由の一つです。
齋藤:さらに、もしあなたが従業員を雇った場合、最初は事業が順調にいっていても、うまくいかなくなったときに従業員に給料が払えなくなることも考えられます。
その時は従業員にやめてもらう必要が出てきますが、日本では従業員を辞めさせるのは非常に大変なんです。
学生:確かに、それは大きな問題ですね。
齋藤:従業員を守る制度が強すぎるのでね、これも雇用の流動性という話で、「日本において失敗への許容度がない」と言われるもう一つの理由、簡単に起業が出来ない理由になります。
だから、お金も人も絡みますから、起業は単純な話ではない総合格闘技になるということをまず理解しておいてほしいんです。
学生:はい、理解しました。
齋藤:今、いろんな話が出てきましたが、まとめると、起業にはいろんな形があって、それぞれに違う特性があるということですね。今回、あなたが目指す起業も、その中で一つの形を選ぶ必要があります。
齋藤:例えば、私の知り合いのお子さんが高校生のとき、アルバイト仲間と一緒に焼肉屋を始めたケースがありました。
家業が別に飲食店を行っていたので、その延長で焼肉屋を始めたら大成功してしまって、そのまま学校を辞めて焼肉屋をやると言い出したんです。
そして、最終的にそのビジネスを法人化しました。
学生:それも起業なんですね。
齋藤:そうなんです。それも立派な起業です。ただ、その場合は「焼肉屋をやる」という具体的な事業が最初から決まっていたという点が違います。
要するに、事業のスタートが明確だったということですね。
齋藤:なるほど。高校生でもウェブサイトやアフィリエイトで事業を立ち上げて、それが成功して法人化するケースもありますよね。
そういう場合は、事業が確立してから法人化するというパターンです。事業がすでに成長している段階で、税務申告や事業拡大のために法人化するわけです。
事業が先に始まってのちに法人化するのを「法人成り」といったりします。
齋藤:そのように、すでにある事業に対して、一定のリスクをかけて事業を拡大するために、次のステップとしてお金を使って2店目を出すとか、拡大のために動くのは自然な流れです。
しかし、スタートアップはまだ事業が出来てない場合が多い、事業がまだない段階で銀行借入などの間違った手段を取ってしまうと、リセットボタンが押せなくなる可能性があるんですよね。
齋藤:今回は学生が法人を作るということ自体がすでに大きな挑戦なんです。
それに対して、応援してくれる人たちと共に、リスクをコントロールしながらリセットボタンを押せるように準備していくのがいいと思います。
それにはそれが分かっている適切な人からアドバイスを受ける必要がありますよね。私が見た感じではそれが分かってアドバイスできる人は地方にはいない。
起業家へ心のこもったアドバイスは起業家にしかできません。アドバイスをくれる人の多くが自ら起業すらしてないし、ましてやベンチャーキャピタルから資金調達をした経験もないから。
齋藤:そういう意味では、小さくまとめる必要はないですよね。合同会社にするということを悩んでいたようですが、私は株式会社一択だと思います。
そうでないと、次につながる学びや経験にもなりません。あなたが目指しているのはパン屋じゃないですからね、そこが重要なポイントです。
学生:わかりました。
齋藤:さて、何の事業をやりたいかというのをある程度考えておく必要があります。具体的に、今のところ何かアイデアはありますか?
学生:そこが難しいんです。正直なところ、自分がどれだけ通用するかもわかりませんし、社会にどれだけのニーズがあるのかも未知数です。それに、一番強く感じているのは、自分が世界とつながりたいという気持ちなんです。
特に、高校の部活動を通じて感じたんですが、地域の学生同士のつながりだけでは絶対的に足りないと感じています。
齋藤:なるほど。
学生:若者としてもっと大人とつながりたいというニーズがあるのを実感しています。でも、若者からお金を取るのは難しいと思うんです。
そうなると、「学生と企業をつなぐサービス」を提供して、企業側からお金をもらう形にするのが現実的かなと考えています。
学生:ただ、大人たちが本当に若者とつながりたいと思ってくれているのか、それが不安なんです。自分としては、この「つなぐ」という役割を担いたいという強い気持ちがあります。
でも、それをどうビジネスにしていくべきなのか、まだよくわからなくて、、、
齋藤:その「つなぐ」というコンセプトは非常に興味深いですね。
学生:そうですね。おそらく事業の中身としては、まずはウェブサイト等の「つなぐ」ためのサービスを立ち上げる形になるのかなと思っています。
あとは、会社がどう運営されていくのかもよくわかっていないので、それも不安です。複数の事業を一気に進めることは可能なんでしょうか?
例えば、ウェブサイトを通じて人をつなぐだけでなく、イベントのプロデュースや運営にも関わっていけたらいいなと思っているんです。
齋藤:なるほど。あなたが考えている「つなぐ」というビジネスモデルと、イベントプロデュースというのは、実際に組み合わせることが可能ですよ。
ウェブサイトでの活動と、リアルなイベントの運営は、両方とも補完し合う形で事業を進めることができるんです。
まずはその「つなぐ」というアイデアを軸に、どのようにそれを形にしていくかを考えていきましょう。
齋藤:最初にマーク・ザッカーバーグの話をしましたが、彼の様にIT企業を立ち上げるのとは少し違って、イベントを生業にする会社やデザインファームという形は確かにあります。
たとえば、博報堂や電通のように何万人も雇用する大規模な会社もあれば、イベントプロデュースを専門にする小規模な会社もたくさんあります。
齋藤:イベントに関しては、大きく分けて二つの方法があると思います。
まず、企業側がイベントを企画して、それを「受託して運営する」という方法。ここでは委託費を貰うことが出来ますね。もう一つは、自分たちでイベントを主催して、その参加費やスポンサー料で収益を得るという方法です。
どちらもやり方次第で大きく成長する可能性があります。
齋藤:ちょっと話は変わるんだけど、私の知り合いの上場会社は、従業員が100人程度いるんです。
彼らが提供しているサービスを見ると、コミュニケーションプロデュースやクリエイティブビジュアルプロデュース、つまり映像編集やイベントの企画などを手掛けています。
彼らは企業にイベントを提案して、たとえば「ソニーさん、このイベントをやりましょう」と持ちかけて、ソニーから広告費をもらうわけです。
齋藤:ところで、ソニーが年間に広告費としてどれくらいの予算を使っているか、想像つきますか?
学生:うーん、100億円くらいですか?
齋藤:それも悪くない予想だけど、実は4000億円を超えています。
学生:4000億円!?信じられない……。
齋藤:そう、4000億円です。学生的には想像すら難しい金額ですよね。
ソニーのような大企業は、そのくらいの規模で広告費を使っています。たとえば、ソニーはかつてFIFAのスポンサーになっていたり、サムスンはオリンピックのスポンサーをやっていたりします。
イベントという意味ではオリンピックやワールドカップは世界最大規模ですね。オリンピックのスポンサー料だけでも年間のIOCにコミットする年間の金額だけで約150億円以上なんです。
学生:すごいですね。
齋藤:例えばもっと身近なコンシューマーグッズだとしたら、たとえば広告を見てると花王という会社があるでしょう?
アタックとかビオレとか花王、よくテレビCMを見ますよね。花王は広告だけで年間700億円以上を使っています。
学生:へぇ……。
齋藤:こうした大企業の広告費は莫大です。もしあなたがイベントプロデュースやウェブを活用して企業と提携できれば、こうした大規模な広告予算の一部を引き込むことができる可能性があります。
これが、イベントビジネスやプロデュース業界の大きな魅力の一つなんです。
齋藤:だから、その業界は本当に大きいんですよ。使われる費用は、広告に使われる部分、イベントに使われる部分、プロモーションとして街中で配布されるもの、看板広告、そして店舗で配られるサンプル商品など、すべて含めてかなりの金額になります。
ソニーや花王のような企業は、こうしたプロモーションに多額の予算を割いています。また、よく見る飲料業界、例えば我々がのどが渇いた時に飲むコーラ、その値段のほとんどは宣伝活動から成り立ってるといってもいいくらいです。
その業界は本当に巨大です。
齋藤:だから、その業界で働く人たちは、自分たちの強みが「クリエイティブ」にあると理解しています。かっこいいものをデザインしたり、映像を撮って編集したり、特別な機材を使って高品質な映像を作るプロフェッショナル。
普通のレベルとは違い、音声のクオリティも高く、映像も美しく、編集も洗練されています。こういったクリエイティブな業界は、一気に市場を取るという感じとは違うけれど、深くも大きくも成長できるんです。
齋藤:あなたがやりたいのは、こういうクリエイティブな業界で活動することなのか、それとも、もう一つ別の点を考えるべきかと思います。
たとえば、先ほど言っていた「高校生をつなげたい」というアイデアについてですが、いずれあなたも高校生ではなくなりますよね。そのときにどうなるか、企業というのは10年単位で未来を考える必要があります。
学生:確かに、いつか自分も学生ではなくなりますね。
齋藤:そうなんです。若い起業家たちと話していると、「マッチングには大きなチャンスがある」と言っている人が多かったんですが、彼らもやがて結婚して子どもができると「子育てにチャンスがある」と話すようになったりします。
そして、子どもが成長して受験が近くなると「教育がやりたいんです」となったりして、本当は何をやりたかったんだろう?と迷い始めることもあります。
個人の興味は生活スタイルや年齢で当然変わっていくので、起業する際には、その根底に存在する一貫したビジョンや目的を見るけることも必要です。
齋藤:あなたは「つなぐ」という言葉を使っていましたよね。それが鍵になるのかもしれません。
学生:はい、「つなぐ」というのが自分のやりたいことです。
齋藤:そうですね。ところで、今後進学は予定していますか?
学生:はい、指定校推薦で都会の大学に行き、大学と今の地元の双方で事業を継続します。
齋藤:なるほど、つまり地元に会社を持ちつつ、大学進学で都会に行くということですね。そうすると、しばらくは学業もあるから、その範囲内での活動ということになりますね。学業と会社の両立という形で。
学生:はい、そんな感じになると思います。
齋藤:学生社長、ですね(笑)。カッコいいなぁ。これは、全然あり得る話ですよ。今時って感じがしますしね。
そう考えると、クリエイティブな要素やイベント運営を中心に、事業の試行錯誤をしていくことになると思います。その中で、本当に何が自分にとってやりたいことなのかが見えてくるかもしれませんね。
齋藤:ちなみに、専攻は何ですか?
学生:経済学です。
齋藤:工学系や情報系ではないから、みずからパソコンの前でゴリゴリ開発する方向ではないですね。
学生:そうですね、私は企画して人を動かすことが得意です。
齋藤:二つの可能性があると思います。まず一つ目は、地方行政が今回支援してくれていることを活かして、地元のためになることをする。たとえば、都会の若者と一緒に地元を盛り上げるようなアクションを企画するというものです。
齋藤:ただ、地方では資金を出してくれるスポンサーが少ないという問題があります。やり方としては、行政自身がスポンサーになることもありますし、都会の企業からスポンサーを呼び込むという手もあります。
齋藤:なので、あなたが頻繁に地元に戻り、打ち合わせをしながら、地元で盛り上げるイベントを企画する。そして都会の学生を呼び込んで、地元を盛り上げるという形で進めていくイメージは立ちやすいかなと思います。
ただ、正直、それを行ったところで何十億円もの収益を出すような規模にはすぐにはならないでしょう。
学生:はい、確かにそうですね。
齋藤:おそらく、100人の従業員を雇うような事業にするには時間がかかるでしょう。最初はあなたと少数のメンバーで進めて、年間数千万円の売上を目指すような規模から始めることになると思います。
それでも、学生起業としては十分に意義のある事業を企画できるはずですし、より偉大な起業家としての素養を養えるはずです。
学生:はい、わかりました。
齋藤:そういえば、起業に関するハウツー本は読んだことありますか?例えば、特にスタートアップに関しては「起業の科学」(田所雅之著:日経BP)という本が売れていますが、読んでどう思いましたか?
学生:最初に見たときは正直、会社や事業に対する理解度が全くない段階では、難しそうだなって思いました。
でも、実際に読み始めてみると、意外と理解できそうだなと感じました。
齋藤:なるほど。そういう人向けに「入門 起業の科学」というのもあるから、もし難しければそっちを試してみてもいいかもしれないですね。
学生:そうですね。もし厳しくなったらそっちに切り替えてみます。
齋藤:いいですね。でも、あの本には起業に必要なことがかなり網羅されているから、少なくとも基本的なことは理解しておくといい。
もちろん、読むだけで全てを実感できるわけじゃないけど、今の経営環境でよく使われる言葉や概念も出てくるから、覚えておくといいですよ。
たとえば、プロトタイプ、UX(ユーザーエクスペリエンス)、ストックオプションとか、PMF(プロダクト・マーケットフィット)といった言葉。そういう概念を知ることは重要。
学生:確かに、今は知らないことが多すぎて、そういう基本的な言葉や概念を理解しておく必要がありますね。
齋藤:例えばプロトタイプは、要は、自分たちの製品やサービスを試作して、仮説を立てて市場に出してみるという考え方ですよね。
たとえば「食べられる鉛筆」を作るっていう仮説を立てたとしましょう。それをプロトタイプとして作って、世の中に出してみるとしましょう。
でも、「食べられる鉛筆なんて誰が欲しいんだ?」って思う人もいれば、「面白そうだから食べてみたい」と思って買う人もいる。そうやって市場に出してみて、反応を見て売れるかどうかを見極める。
そして、売れそうだとなれば、それが市場に受け入れられて成長していくフェーズに入る、これが「プロダクト・マーケットフィット」という状態なんです。
学生:なるほど。最初は「仮説」なんですね。市場に出して反応を見ながら、製品やサービスを調整していくというのが重要なんですね。
齋藤:でも、その段階に至るまでは、プロトタイプを作って試行錯誤を繰り返すしかありません。
その間、何が起こるかというと、「ただただお金がかかる」のですよね。だからお金をどうやって集めるかという設計とお金の管理。
学生:確かに、試行錯誤の間はどうしてもお金がかかりますよね。
齋藤:また、会社というのは利益を出すことが目的なので、どうやって利益を上げて、それをどのように配分するか、プールするかといった仕組みを設計する必要があります。
一人株式会社でも、一万人の大規模な企業でも、基本的な仕組みは同じです。
デジタルカレッジKAGAも株式会社として運営していますし、イオンのような何万人もの従業員を抱える会社も同じく株式会社です。
サイズは違えど、中身の設計は自由に変えられるのが株式会社という仕組みでもあります。
学生:なるほど、株式会社の仕組みはどの規模の会社でも同じなんですね。自分の会社も、そうした設計をしっかり考えないといけませんね。
齋藤:だから、まず何をやるか、それに基づいて会社の形や設計を決めることが重要です。
その最初に必要になってくる設計書の一つが定款であり、資本政策であり、事業計画であるということになります。
学生:設計書の一つひとつが事業の骨組みを作る感じですね。それぞれの役割をしっかり理解しておかないといけないですね。
齋藤:その通り、あなたの場合、当面は学生を続けながら会社を作るということですよね。今回のポイントは、会社を作ること自体が挑戦であり、経験を積むこと。
リスクをかけすぎないで、トライアルとして挑戦し、必要であれば撤退できるようにしておくことが大切なので、それを設計書に入れ込んでおく必要があります。
学生:最初から大きなリスクを背負わずに、トライアル的に挑戦できるようにしておくのは重要だとわかりました。本当にやりたいことが決まった時には乾坤一擲のリスクテイクをすることになるのでしょうね。
齋藤:会社は作って何も活動しないという選択肢もあります。
ただし、最低限の報告や税金の支払いは必要になるので、それをやりながら進める感じですね。だから、その分の収益は稼がなければいけないけど、それ以上に大きな利益を目指すかどうかは、まだ先の話になるでしょう。
学生:まずは小さく始めて、必要な経費をまかないながらより大きな事業を見つけてより大きな収益を目指すところからスタートですね。
齋藤:会社を設立するイメージが少し具体的になりましたか?その中でどう思いますか?
齋藤:さらに進める前に、シリコンバレー(HBO)というドラマを私が解説している動画があるので、それを見てほしいです。見てどう思いましたか?
学生:いや、でも、今まで本当に全く知らなかった世界だったので、まずスタートアップというものの存在自体に驚きました。
これまでの自分には全然関係ないと思っていたんですが、実際にそういう世界があるんだと気付いて、びっくりしました。
齋藤:そうですよね、その感覚はよくわかります。
「シリコンバレー」というドラマも、起業家が成長していく過程を描いていて、とても面白いんです。ただ、少し下品な部分もありますが、PG15くらいなので高校生なら大丈夫だと思います。
齋藤:下品な部分はさておき、起業の過程でどんなことが起こるのかを面白おかしく描いています。シーズン1だけでもたくさんの出来事が描かれているので、きっと参考になると思います。
もしかしたら、あなたもこれから同じような体験をされるかもしれません。いや、全部するでしょうね(笑)。
学生:はい、わかりました。
齋藤:まず一つ言えるのは、プロダクトを作ったり、イベントを企画したりするとき、必ず仲間が必要になるということです。
これはほぼ間違いなく起こることです。一人で全てをこなすのは難しいので、協力し合える仲間を見つけることが重要です。
齋藤:また、IT業界でよく使われる言葉に「MVP」というものがありますが、これはご存知ですか?
学生:いえ、初めて聞きます。野球とかの最優秀選手とは違いますよね。
齋藤:シリコンバレーで言われる「MVP」とは「ミニマムバイアブルプロダクト(最低限機能する製品)」の略です。
昔は完璧な製品を作り上げてから市場に出すという考え方が一般的でしたが、最近では製品を市場に出すスピードが重要視されています。
そのため、まずは最低限の機能を持つ製品を早く市場に出し、それをもとにフィードバックを受けながら改善していくというアプローチが主流になっています。
学生:へぇ、そうなのですね。
齋藤:だから製品を作る時に、大企業の技術部門出身の人にアドバイスを受ければ、昔の感覚だと、そんなレベルで製品を世の中に出しちゃいけないって言われるでしょう。でもそれを真に受けてたら資金が尽きる。
でも今はスピードが違うっていうことを分かって、相手は良心から言ってくれているであろう「余計なアドバイス(笑)」を聞き流していかなければいけない。
学生:なるほど(笑)
齋藤:たとえば、クラウドファンディングでMVPを公開し、市場の反応を見ながら製品を改良していく方法もよくあります。
オープンAIやチャットGPTも、製品の初期段階から市場に出し、ユーザーの意見を取り入れながら進化してきましたよね。最近では「BeReal」という新しいSNSも話題になっています。
学生:確かに、最近「BeReal」の話をよく耳にします。
齋藤:そうですね。新しいサービスやプロダクトは、完璧を目指すのではなく、まず市場に出して反応を見るということが大切なんです。それが今の起業の一つの成功パターンでもあります。
学生:なるほど、最初から全てを完璧にする必要はないんですね。まずは市場の反応を見て改善していくということですね。
齋藤:必ずそうというわけでもないけどね。
そういうふうに考えると、SNSなんかも最初から全機能を実装するのではなく、まずコアとなる機能だけを実装して、徐々にユーザーに必要な機能を整えていくということがよくありますよね。
今の時代は、そうしたやり方が主流になっています。だからこそ、いきなり広げてブランド価値が棄損しないように、初期のユーザー層を絞ってスタートすることもあります。
「クラブハウス」という音声SNSがやったように、利用を招待制にするとかね。
学生:確かに、そうすれば最初の段階で無理に多くのことをやらずに、徐々に進められますね。
齋藤:また、スタートアップの場合は「資本政策(CapTable)」というものを作ります。
これは、最初に株式をどれくらい発行して、誰に株主になってもらうのか、そして今後の成長に伴ってどれくらいのペースで資金調達を進めていくのかを計画するものです。これも設計書の一つ。
まぁ、予定通りには行かないですが、あらかじめ資本の構成についての仮説を立てておくのです。
学生:なるほど、株式の発行量や株主の選び方も計画していくんですね。それって、かなり先のことまで考えなきゃいけないですね。
齋藤:さらに、資金調達をするためには、事業が順調に進みますという仮説と、進んでいるという証拠を示さなければならないので、事業計画が必要になります。これも設計書の一つです。
齋藤:ですから、こういった準備が定款を作る前に必要になります。
司法書士の方は、まず会社を作ることに対してアドバイスをしてくれるという話になることが多いですが、実際には今言ったような事業の準備が整っていないと、本当に司法書士のアドバイスが段階に到達するのは難しいです。
まず自分の中に事業に対する明確な方向性を持っていないとね。
学生:会社を作るだけじゃなく、事前にちゃんと準備をしておくことが重要なんですね。
齋藤:そうです。外部の投資家から資金を受け取ると、会社には責任が発生します。それらを「受託者責任(Fiduciary Duty)」とか「善管注意義務」という概念で表します。
これには会社法や商法、金融商品取引法などが関わってきますし、投資契約に基づいても責任が生じます。たとえば、月次の決算を行い、株主に対して事業報告をきちんと行う必要が出てくるんです。
起業家にも会社法や簿記に関する知識が必要だということが分かりますね。
学生:投資家からお金をもらうと、それだけで大きな責任が生じるんですね。
齋藤:もちろん。これが進んでくると、いわゆる「ポイントオブノーリターン(帰還不能点)」を超えるという状況に近づいていきます。
途中でやめることが難しくなり、覚悟を持って事業をしっかりと進めざるを得なくなるんです。
中途半端に止めるわけにはいかなくなり、どんどん責任が重くなっていきます。その感覚が分かりますか。
学生:わかります。どんどん責任が重くなって、いろんな人が関わって、簡単にやめられなくなるんですね。
齋藤:そうなんです。それでも、もし自分がやりたい事業が見つかったら、今度は、そのために最初の「種銭」が必要になります。どんな事業をするにしても、最初に資金が必要なんです。
学生:やっぱり、どんなにいいアイデアでもお金がないと実現できない。
齋藤:たとえば、学生が今一人でやっている分にはそれほどお金はかからないかもしれません。
でも、さっき話した「食べられる鉛筆」を開発するとなると、最初はアイデアだけでも、それを実現するためにお金がかかりますよね。技術的なサポートを得るためには、大学の先生から技術支援うけなければならないかもしれません。
そして、それが実際にできるとわかったら、設計を進めたり、試作品を作ったり、量産設計をしたり、アフターサービスを提供したりする必要が出てきます。
学生:全部にお金がかかりますね、まだ売れてないのに(笑)。
齋藤:この過程では、数年間にわたってお金を使い続けることになります。そこで、投資家から資金を集める必要が出てくるわけです。
たとえば、パン屋であれば話は比較的シンプルです。パン屋の需要は明確ですし、地域に店舗を構えればパンは売れることが予想できます。
なので、銀行から1,000万円を借りてお店を開き、毎月少しずつ返済していけば、何年で完済できるという形です。
学生:よくわかります。パン屋のようなビジネスは事業モデルがしっかりしているし、作って売れるというのが分かっていれば、比較的リスクが少ないんですね。ダメになったらオーブンとかは転売できそうですしね。
齋藤:でも、あなたが考えているような規模の事業は、それよりもはるかに大きな話だと思います。
ですから、資金調達の相手も銀行ではなく、投資家やベンチャーキャピタルなど、全く異なる層と話すことになります。そして、起業を進めると、本当に「お金の話だらけ」になるんです。
これは、想像以上にお金の話に悩まされることになるでしょう。
学生:そうか、、、(絶句)
齋藤:さらに、人を雇うと、その人の給料を支払わなければならないので、本当にお金の話ばかりになります。ここで重要なのは、そういったことに対する覚悟が必要だということですね。
学生:確かに、人を雇うとなると、責任も重くなりますよね。
齋藤:そして、資本政策の話に戻りますが、プロダクトがあるだけではなく、経営者としてやっていくためには、知っておくべきことがたくさんあります。
たとえば、簿記の最低限の知識が必要です。資格を取る必要はないけど、どうせ勉強するなら日商簿記の3級や2級ぐらいは取っておいたほうがいいと思います。
経営者である以上、少なくとも財務諸表を読めることが大切だからです。
学生:財務諸表ですか……。まだあまり詳しくないんですが、やっぱり重要なんですね。そんなに重要ならば、学校で教えてくれればよいのに。
齋藤:世の中には財務諸表が読めない経営者がたくさんいますが、成功している人は少ないです。普通の高校は経営者を育てようとはしていないのですね。
もちろん、周りに頼れる人がいれば問題はないケースがあるかもしれませんが、自分で財務諸表が読めないと自分で意思決定ができなくなります。
たとえ売上や利益が出ていても資金回収が遅いと会社は倒産することがあります。これを「黒字倒産」と言ったりしますが、売上が大きいほど資金がなくなるという現象もあるんです。
このように、最低でも、どれくらい資金が残っているか、そのお金がいつ尽きるか、を把握できないと、適切な経営判断はできませんよね。
学生:そうですね、確かに自分で判断できるようにならないと困りますよね。
齋藤:たとえば、ネット上でインフルエンサーの様な経営者っていますよね。YouTubeで配信するような、なんとか社長とかなんとか王子とか。
いろいろなYouTuber社長がいますが、彼らを見ていると、基本的にみんなお金の流れや財務諸表をきちんと理解しています。意外にちゃんとやってるんですよね。
だから、最低限のお金の流れに関する基礎知識は持っているべきだということです。
学生:なるほど、そういう人たちもちゃんと数字を把握しているんですね。
齋藤:そうです。高校生のうちは少し難しいかもしれませんが、大学生になって時間ができてきたら、空いた時間でこういった知識を勉強しておくのは必須ですし、その先の人生で差がつくと考えておいてください。
齋藤:そして、種銭の調達である「資金調達」にもいろいろな手段があります。
自己資金、エンジェル資金、補助金、助成金、クラウドファンディング、銀行融資、ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)など、さまざまな方法があります。
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学生:いろいろな方法があるんですね。エンジェル投資ってどういうものですか?
齋藤:エンジェル資金についてですが、エンジェルというのは、たとえばあなた自身のプロダクトやアイデア、たとえば「食べられる鉛筆」が面白いと感じた人が、個人的にお金を出してくれる投資家のことを指します。
こういったエンジェル投資家から出資を受けることもありますが、外部からの出資を受けることで責任がどんどん増していくということも理解しておく必要があります。
学生:外部の投資家からお金をもらうと、やはり責任が重くなるんですね。
齋藤:それに加えて、補助金や助成金、クラウドファンディング、銀行などからの制度融資、VC・CVCからの出資といった資金調達の選択肢もあります。
学生:資金調達の方法もそれぞれ特性が違うんですね。
齋藤:その通りです。そして、もし大きなプロダクトを作るとなれば、私の感覚では最低でも2億円の資金が必要だと考えています。たとえウェブサービスやアプリであっても、ビジネスを成長軌道に乗せるためには、それくらいの資金が必要です。
場合によっては20億円、大きければ200億円くらいかかることもあります。
学生:2億円から20億円、、、そんなに必要ですか。思ったより大きな額でびっくりしました。
齋藤:人を雇うというのは、単に給料を支払うだけではなく、その他にもさまざまなコストがかかるんです。
日本では、一般的に人を一人雇うと年間で約1,000万円くらいかかると言われています。もちろん、雇う人の給料レベルにもよりますが、新卒でも年収400万円くらいになっています。
これに加えて、その人が働くためのパソコンや開発環境、旅費交通費、機材・資材費、さらには社会保険料や健康保険、雇用保険なども負担しなければならないんです。
学生:そんなにかかるんですね、、、。想像以上に人件費が高いですね。
齋藤:そうなんですよ。全部のコストを合わせると、年間で一人あたり700万円から1,000万円、場合によってはもっと高くなります。
都会で雇う場合だと、1500万円とか2000万ぐらい平気でかかることもありますし、スキルの高い人を雇いたいならばさらに上がることもあります。
学生:都会というだけで、それだけコストも高くなるんですね。
齋藤:そうですね。都会だから生活コストが高いというのもありますが、それだけスキルが高い人が都会に集まっているということ。
そして、あなたがやりたいプロダクトを作るには、多分1人や2人では足りないんです。少なくとも5人とか10人は必要になってきます。
もし10人のチームで2年間プロダクトを作るとしたら、2億円はかかるとそういうことです。ですから、そういった資金を調達できるようにならないといけませんね。
学生:10人で2年間、、、部活の感覚で見ても、確かにそれくらいは必要だと思います。
齋藤:そして、その資金を「投入する価値があるプロダクト」でなければいけません。そういったことを起業家は常に考えていますし、それを投資家に説明できなくてはいけません。
それが投入するリスクとリターンとのバランスを取らなければならないところです。
学生:なるほど、単にプロダクトを作るだけでなく、それに見合う将来性とかリターンがなければいけないんですね。
齋藤:そうです。最初に2億円を調達できる場合もあれば、3000万円からスタートして、進捗に応じて5000万円、次に1億円と少しずつ調達を増やしていくという方法もあります。それぞれのやり方があるんですよ。
学生:小さい金額から始めて、進展に応じて資金を増やしていくこともできるんですね。
齋藤:そうです。ただし、それには時間がかかることもあります。1年で成功する人もいれば、10年かけて成長する人もいます。
起業には本当に多種多様なパターンがあるんです。10社あったら10社の違う物語があるのです。
齋藤:また、起業家の心理ですが、投資家から投資を受けることが出来ました。銀行に2億円あったら一見安心しますよね。
学生:はい!これでプロダクトが作れる。
齋藤:でも、もし10人雇っていると、毎月1500万円ずつ銀行残高が減っていくことになります。これって、すごく怖いことだと思いませんか?あっという間に残高1億円を切り、その3か月後には5000万円を切る。
学生:確かに、月1500万円減っていったら、2億円あってもすぐになくなってしまう、、、。
齋藤:そうです。最初は2億円もあれば「何でもできる!」って無双感があるんですが、だんだん減っていって、残高が5000万円くらいになった時にプロダクトがまだうまく動いていない、ボタン一つが機能しないなんて状況になったら、もう恐怖しかありませんよ。
学生:そんな状況になったら焦りそうですね。
齋藤:その時には、泣きついて追加の投資を頼むか、今いるスタッフに辞めてもらうか、それとも未完成のプロダクトを無理やりリリースするか、、、。
いろんな経営判断が必要になってきます。これは本当に総合格闘技のようなものです。
学生:経営って、そんなに多くの判断を同時にしなければいけないんですね。
齋藤:そうです。銀行やエンジェル投資家との関係も重要です。
エンジェル投資家は基本的にお金に余裕がある人たちが多いので、あまり口出ししてこないことが多いとおもいます。
ただ、銀行となると話は違います。銀行員は基本的にサラリーマンですから、型通りの対応しかしてくれません。
学生:銀行って融資してサポートしてくれるイメージが強いですけど、それだけじゃないんですね。
齋藤:そうなんです。銀行は、「去年貸した1,000万円の返済期限が来ますよ。返済計画はどうなってますか?」と期限通りに確認してきます。
そういう対応に追われて、気付けばプロダクト開発よりも返済計画の調整に時間を取られるなんてこともあります、うまく行ってた時には「もっと借りてくれ」って来たのにね。
だから起業家は大体にして銀行員が苦手なんです。むしろ何年も起業家をやってると、銀行員嫌いになるって言っても良いかもしれない。
学生:せっかくプロダクトを作りたいのに、返済のことばかり気にしなければならないなんて大変ですね。
齋藤:それがパン屋ならまだ良いんですけどね。パン屋なら返済計画を作りやすいです。毎月の売上が安定していますし、新しいパンを作る手間もそれほど多くありません。
パンの価格を10円上げるだけで収入が増えたりします。銀行員も返済計画と実行を手伝ってくれるので心強い。
学生:パン屋だと、ビジネスモデルが安定しているから返済も計画通り進めやすいんですね。
齋藤:そうです。でもスタートアップの場合は、レバー(調整要素)がたくさんありすぎて、本当に総合格闘技のようなビジネスです。
学生:確かに、スタートアップはたくさんの要素を同時に管理しなければならないんですね。
齋藤:そういうファンディング(資金調達)や資金調達スキーム(手法)を使って事業を立てている人は東京や大阪などの大都市圏にはたくさんいます。
ですが、地方の都市になると、加賀市も含めて、いや中核都市である金沢市に至ってもそういった事業の立て方をする人は少ないんです。
多分ゼロだと思う。
学生:地方だと、やっぱりそういうビジネスの進め方をする人は少ないんですね。
齋藤:いないです。なぜなら、そういうビジネスをしたいと思えば、大都市に行こうというのが第一選択肢になりますからね。
学生:たしかにそうか。自分の力で事業立ち上げたいという有望な先輩たちもいましたが、みんな東京とか大阪に行ってしまいました。
齋藤:そうなんですよ。だから、地方自治体が紹介してくれる地方の司法書士や税理士がそれだけの事業を想像してアドバイスができるかというと、少し心配なんです。
地方の司法書士の主な業務は土地の移転登記や成年後見人など地元に密着した業務となります。
スタートアップの資金調達や上場業務を実務レベルでやる機会は都会でもそうはないのです。
学生:確かに、そうなると長期的な目線でのアドバイスを受けられるかどうか不安ですね。
齋藤:そうなんです。都会にはスタートアップの経験が豊富な専門家が多いですが、地方だとそういう方は少ないかもしれません。税理士や弁護士も同じです。
だからこそ紹介された人を見極めることも重要です。
学生:なるほど。
齋藤:自治体が紹介してくれる人がどんな人なのか、私にはわかりません。
もしかしたら、紹介頂いた人がアドバイスしてくるのは、パン屋のような、地方で一般的なビジネスのモデルかもしれません。それはそれで悪いわけではないんですが、あなたが目指しているものとは少し違う可能性もあります。
学生:そうですね、地方だとそういうビジネスの提案しかない気がします。
齋藤:そうなんです。そして、もう一つ重要なのが、会社を作ると、次に必要なのは「仕組を作ること」です。最近では、ITツールがたくさんあるので、そういったツールを使ってしっかりと仕組みを作っていくことが大切です。
学生:仕組作りって、具体的にはどんなものを指しているんですか?
齋藤:たとえば、会社を立ち上げたらまず必要になるのはウェブサイトですね。さらに、決算をしなければならないので、会計ツールも必要です。今では「freee」というクラウドの会計ソフトが有名ですが、知ってますか?
学生:名前は聞いたことあります。
齋藤:他にも「Money Foward」というツールがあったりします。今後も増えていくでしょうし、安くて使いやすいんですが、地方の税理士さんはあまりこれらを使ったことがない方が多いんです。
多くの場合、「弥生会計を使ってください」と言われることが多いですね。今の時代は銀行口座と同期してインターネットで全部データが取れるとか、そういうクラウドツールを知らない人も多いんです。
やりとりが電話とメールが中心だったりね。ビジネスチャット?なにそれ?みたいな感じです。
学生:地方だと、最新のツールを使う必要がない。
齋藤:そうなんです。だから、そこをしっかり見極めてほしいですね。それならばということで、やる気のある若い税理士さんと組むのも一つの手です。彼らは一緒に成長していくことを楽しんでくれるかもしれません。
あなたと一緒に「僕も学びながらやっていきたい」と言ってくれる税理士さんがいれば、その人と長く付き合うのが良いかもしれません。
学生:そうですね、例えば中高の同級生で司法書士を目指している奴とか、若い人と一緒に成長していけると、お互いに良い関係を築けそうです。
齋藤:それから、他に必要なものとしては、ストレージやコミュニケーション関係のツールです。ストレージってわかりますか?データを保存してチームと共有する場所ですね。ビジネスチャットも必要、オンライン会議ツールも必須ですね。SlackとかZoomとかね。
そして、ウェブサイトも今の時代にはほぼ必須です。銀行口座を作る際にもウェブサイトが必要になることが多いんです。
学生:そうなんですね、ウェブサイトがないと銀行口座も作れないんですか。
齋藤:はい、今ではそういったケースが多いです。だから、まずウェブサイトを作ることから始める必要があります。そうするためには、自分たちのドメインをしっかり取得することも重要です。ドメインってわかりますか?
学生:はい、ドットコムとかのやつですよね。
齋藤:そうです。たとえば、学生起業コーポレーションという会社を作ったら、「gakuseikigyo.com」みたいなドメインを取得して、Eメールシステムを作るんです。
そして銀行に行ったとき、「会社の実績はありますか?」と聞かれますが、創業前だと実績はないので「あ、でもウェブサイトがちゃんとあります」と実績を見せる形でプレゼンします。
ウェブサイトすらないと、銀行は信用しない。
学生:なるほど、ウェブサイトがあることで信頼性が増すんですね。
齋藤:そうです。銀行や投資家に対して、会社としての「実態」があることを見せるためにも、ウェブサイトやロゴ、会社名をしっかり整えることが大切です。
そして、ロゴや会社名はビジネスの顔ですから、しっかり考えておく必要があります。先ほどの動画にそういうネタもありますのでね、是非それは見ておいてください。
学生:はい、ぜひ見てみます。
齋藤:ここまでの話って結構難しいですよね。学校ではこういうことは教えてくれないと思います。
学生:はい、正直かなり難しいです……。学校で全然教えてもらったことないですね。
齋藤:でも、私立の高校とかだと、最近は「起業部」とかがあるんですよ。そこでこういう話をしている場合もあります。
学生:そんな部活があるんですか、初めて聞きました!負けてられないですね。
齋藤:さて、ここまで話してようやく起業の説明書の一つである「定款」の話に入れます(笑)。これまでの話をしないと、定款の重要性が伝わらないと思っていました。
学生:ところで、定款をつくるにあたってパソコンが必要で今は親のパソコンを使っているで新しいのを買おうと思うのですけど、買った方がいいですか?
齋藤:答えは「絶対に買ってください」ですね。今時、パソコンがないと仕事にならないです。
学生:やっぱりパソコンは必要ですよね。どんなパソコンがいいんですか?
齋藤:それは、何をやるかによりますね。プログラミングをするなら高性能なパソコンが必要ですし、メールやビジネスチャットをする程度なら、最低限それができるスペックがあれば十分です。
ただ、起業すると本当に時間が貴重になります。いろんなことをやりながら、アプリの起動に5分もかかるパソコンを使っていたら、それだけで大きな時間のロスになります。
だから、多少お金をかけても、快適なパソコンを買ったほうが長い目で見て得だと思います。
学生:確かに、起動に時間がかかるのはストレスですね。効率を上げるためにも、ちゃんとしたパソコンが必要ですね。
齋藤:起業家はあちこちパソコンを持ち歩ってプレゼンもしますからね。頑丈なパソコンが良いと思います。
マックでもウィンドウズでもいいですけど、HDMIで出力できることは必須です。パソコンが壊れて一日ロスするわけにはいかないですから、バックアップ用のパソコンとかも可能なら欲しい。
学生:効率を上げるためにも、ちゃんとしたパソコンを買おうと思います。
齋藤:それでは、作ってくれている定款を見ていきましょう。
まずは、会社名が必要ですね。今までの話を総合すると、地元に由来する名前のほうがいいかもしれませんね。
学生:そうですね、地元に関連した名前にしようかなと思っています。
齋藤:昔は起業するならば「〇〇製造」とか「〇〇機械」みたいに、会社名に事業内容を入れろと言われていました。
それは会社名を見た時に相手が事業内容を想像できる様に問う事です。ですが、今はそんなこともなく、カタカナの会社名も増えましたね。会社名をもう決めていますか?
学生:まだ考え中です。
齋藤:今は社名には英語名を一緒に考えることも多いです。だから、英語名から考えてみるのもいいかもしれません。
あと、事業内容も記載する必要がありますね。
学生:事業内容ですか。企画系の仕事になると思うんですけど、どんな風に書けばいいんでしょうか?
齋藤:たとえば、人材派遣とかだと、行政に登録が必要な業務です。でも、あなたの場合、今の話だと企画系の仕事が中心になるような気がしますね。まず1つ目の項目は「イベントの企画」になると思います。
学生:確かに、イベントの企画がメインになりそうです。
齋藤:ベンチマークするような会社のホームページをみて、似た感じで書いてもいいですし、そのまま使っても大丈夫ですよ。私の会社のものであればいつでも。
学生:ありがとうございます!参考にさせてもらいます。
齋藤:そして、定款には「前各号に附帯関連する一切の事業」っていう書き方をしておくと、何でもできるようになります。これも一般的な書き方ですね。
学生:なるほど、そんな風に幅を持たせて書くこともできるんですね。
齋藤:だから、基本的に「できないことはない」というくらいの感じで事業内容を幅広く書いておくのが良いんです。
たとえば、もしパン屋をやりたければ「パンの製造」と書かずに「食品の製造および販売」と書けばいいですし、地方と都会の学校をつなげて、学生を指揮して何かしらのインタラクションをするという事業を考えているなら、旅行系の事業も含めてもいいと思います。
学生:確かに、旅行業も面白いかもしれませんね。
齋藤:旅行ツアーを企画するような内容も、あらかじめ書いておくのも良いですね。ただ、旅行業は登録事業なので、関係省庁の許可が必要です。
とはいえ、定款に書いておくことで将来的に可能性が広がるので書いておくのは悪くないです。
学生:それなら、今は思いつかないような事業でも対応できるように、幅広く書いておいたほうがいいですね。
齋藤:そうですね。そして、本店所在地は地元にしておけば良いと思います。地元の支援を受けるのでそこは地元においておく必要がありますね。
学生:はい、そこは自宅か市のイノベーションセンターで登記するので問題ないです。
齋藤:あと、公告方法についてですが、これは「官報に掲載する方法によって行う」というのが一般的な書き方です。
会社法では決算報告を官報に載せる義務があるんですが、実際には大半の会社がこれをやっていないんですよ。
全国に決算公告が必要な会社は200万社あると言われてますが、実際に決算公告を行っている会社は4万社です。2%程度しかありません。
学生:えっ、そうなんですか?なんで、、、。
齋藤:そうなんです。理由は色々です。
だから、司法書士の方も「やらなくていいですよ」とは言えないでしょうけど、一番の理由は罰則がないうえに官報公告は意外と高いという理由があります。だから多くの会社が実際には公告を出していないというのが現状です。
もちろん、ちゃんとやっている会社もありますが。
学生:罰則がないなら、あまり気にしなくてもいいんですかね。
齋藤:そうですね。と、いうことを司法書士さんが言えるわけがないですよね。面と向かって聞けば、やってくださいと言われる。
コンプライアンスは必要ですが、起業家である以上、社会正義や社会実態をみて、やらなくてよいことはやらずに他の事にリソースを回す判断もしていく必要があります。
齋藤:ちなみに、日本全国で毎月1万社以上の会社が創業されています。
新しく創業した会社にはいろんな冊子やダイレクトメールが届くかもしれません。「創業したらこういうことをやってください」みたいな内容が書かれていて、役立つ情報が詰まっています。
登記情報をみて送ってくるんですが、大半はゴミですが、中には有用な情報があるかもしれません。
学生:そんなにたくさんの会社が毎月創業されてるんですね。知りませんでした。
齋藤:そうなんですよ。話を戻すと、公告方法は「官報に掲載する方法」で問題ないと思います。大企業なんかはウェブに掲載する方法もありますが、基本的には官報で十分です。
学生:了解です。公告方法は官報にします。
齋藤:次に、株式の発行に関する話。
最初の発行株式数は100株と書かれていますね。これは一般の会社では問題ありません。ただ、将来的に資金調達を視野に入れるなら、100株だと少なすぎる可能性があります。
そこで、桁を増やしておいたほうがいいんです。
学生:そうなんですか?発行株式数を増やすと、何か費用がかかったりするんでしょうか?
齋藤:いいえ、費用は変わりません。だから最初から多めに設定しておいても問題ありません。
たとえば、最初に100万円で創業して、100株発行した場合、1株あたり1万円になりますよね。これが企業価値が上がって10億円になったとしたら、1株あたりの価値が100万円になってしまうんです。
学生:1株100万円ってすごい金額ですね。そんな単位で取引するのは難しそうです。
齋藤:そうなんです。1株あたりの金額が高すぎると、株式取引や新規発行する際に細かく分割できなくなってしまいます。特に、将来において従業員にストックオプションとして株式を付与する場合に、1株100万円だと有用性がなくなります。
そのため、あらかじめ発行株式数を多めにしておくほうが良いんです。たとえば、10万株とか100万株とかに設定しておいてもいいでしょう。
学生:そういうことなんですね。発行株式数を増やしておくことで、将来の選択肢が広がるということですね。
齋藤:その通りです。これにより、株式を細かく分割して、必要に応じて柔軟に対応できるようになります。だから、最初から余裕を持った株式数を設定しておくといいですよ。
齋藤:その時になってから対応することもできなくはないんですが、資金調達を最初から想定しているなら、発行株式数と発行可能株式数は多めに設定しておいたほうがいいです。100万株は多すぎるかもしれませんが、1万株くらいが適当かもしれませんね。
学生:そうなんですね。100万株はさすがに多すぎる感じがしますね。
齋藤:そうですね。たとえばNVIDIAという会社がちょっと前に株式を10分割しましたが、会社規模が何兆円にも成長すると、それでも足りなくなることがあるんです。
そんなときには株式分割という手段を取ります。だから、最初から10万株くらいにしておいて、1株1円とか100円で発行するような形にしておくのが良いかもしれません。
学生:なるほど、そういうレベルで考えるんですね。発行株数や株価ってそんなに重要なんですね。
齋藤:はい、例えば、私が作る会社も通常は発行可能株式総数を100万株にしておいて、実際に発行済み株式は1万株にしています。資本金は100万円なので、1株あたり100円という感じです。
学生:そんな感じなんですね。確かに、それならわかりやすいです。
齋藤:資本金についてですが、定款には書かなくても問題ないですね。
資本金というのは、会社に最初に入るお金で、これが「貸借対照表」という帳簿で記録されます。まだ簿記を習っていないようですが、商業高校なんかでは一番最初に教えられる知識ですね。
学生:簿記はまだ学んでないんですけど、なんとなくわかります。
齋藤:簡単に言うと、会社法が変わって資本金が1円でも登記は可能になりました。
ただし、会社を立ち上げた際にかかる初期費用がいくつかあります。その一つが印鑑です。日本では会社を作るときに必ず印鑑が必要です。
学生:印鑑は絶対に必要なんですね。
齋藤:はい、少なくとも実印が必要、望むべくは銀行印、そして角印が必要です。角印というのは四角い印鑑で、請求書や書類を発行する際に使います。
ネットで簡単に注文できますよ。オンラインの印鑑作成サイト、たとえば「ハンコヤドットコム」なんかだと、3日くらいで手元に届きます。
学生:そんなに簡単に注文できるんですね。知らなかったです。
齋藤:はい、値段も2万円くらいはかかります。ちなみに、気合を入れて事業を始める人は、印鑑に100万円くらいかけることもありますよ。
学生:え、100万円ですか!すごいですね。
齋藤:そうなんです。人生をかけて事業を始める人たちは、そういうこだわりを持つこともあります。ただ、普通に作るなら2万円前後で十分です。
特急で済ませたいなら、たまに商業施設に置いてある印鑑自販機とかでも作れますが、それなりのものを用意しておく方がいいでしょう。
学生:なるほど、印鑑もこだわりがあるんですね。勉強になります。
齋藤:あとは、会社設立に必要な経費として登記の費用もあります。司法書士に依頼する場合、最低でも5万円はかかりますし、登記する際には「登録免許税」という税金もかかって、これが最低でも20万〜30万円くらいかかります。
学生:登記だけでもそんなにお金がかかるんですね。
齋藤:そうなんです。
だから、資本金1円で登記はできますが、登記の最初の時点で2〜30万円の経費がかかっているので、会社は初めから「債務超過」という状態になります。
つまり、誰かが会社の肩代わりをしていて、会社に貸し付けている形になるんです。
学生:なるほど、そういう風にお金の流れができていくんですね。
齋藤:そうです。会社の設立には思った以上に色々なコストがかかるんです。しっかり準備して進めていきましょう。
齋藤:ですから、最初に資本金を1円とかで設定するといきなり債務超過になります。そうすると銀行口座が開けなかったり、借り入れができなかったりという問題が発生します。
だから、実際には1円で登記をする人はほとんどいなくて、最低でも20万円、一般的には100万円ぐらいが資本金の相場じゃないでしょうか。それぐらいないと、会社設立後の初期費用をカバーできないんです。
一方で資本金が1億円を超えるとまた税務上などで不都合がありますので資本金は1億円以下にするのが普通なのですね。それはまた後での話。
学生:なるほど、最低でも20万円から100万円くらいは必要なんですね。
齋藤:そうです。そこを理解したうえで、そのお金を自分で用意するのか、家族から借りるのか、それともエンジェル投資家に出してもらうのかを考えることになりますが、今回は自分で出す予定ですか?
学生:はい、自治体から「設立費用の一部は行政が支援する制度がある」と聞いていて、それ以外のことはあまり考えていなかったんです。
でも、最低でも20万円ぐらいは自分で一度だすことが必要なんですね。
齋藤:そうですね。加賀市場合は、創業支援制度では100万円まで補助してくれるので、最初に会社が20万円を払うのですが、それを請求すれば後から補助という形で会社に補填してもらえます。
学生:ということは、資本金を20万円に設定して、それで設立に必要な費用をまかなって、あとで自治体に補助申請すればいいんですね。
齋藤:そうです。資本金は会社の最初の運転資金として必要なお金で、それを使って会社設立にかかる経費を支払います。
たとえば、設立前にかかった費用も「創業費」や「開業費」として計上できるので、領収書をしっかり保存しておく必要がありますね。そして、その分を自治体に提出すれば、創業に関する助成金として返ってきます。
学生:なるほど。ちゃんと領収書を保存しておかないといけないんですね。
齋藤:そうです。たとえば、ウェブサイトのドメイン契約や登記の手続き、交通費など、いろいろな経費が発生するので、20万円では足りなくなるかもしれません。だから、100万円くらい用意しておくと安心です。
学生:なるほど、100万円くらいあれば余裕を持って始められるんですね。
齋藤:そうですね。もし資本金として20万円とするならば、たとえば2,000株発行する形にしておけば良いでしょう。そうすると、1株あたりの価格も計算しやすくなります。
学生:なるほど、理解できました。
齋藤:ところで、銀行口座やクレジットカードは持っていますか?
学生:はい、銀行口座はありますが、クレジットカードはまだ持っていません。
齋藤:そのあたりは、やっぱり高校生だと大人のサポートが必要になりますね。銀行口座の開設やクレジットカードの利用が難しい場合、親の協力を得ることが必要になります。
なので、実際にはあなたの親が株式の出資や資金提供をサポートしてくれる形になると思います。
学生:そうですね、親に相談してみます。
齋藤:そうですね。まずは計画書を作って親にプレゼンするのが良いではないですか。「自分はこの事業に5万円出します、残りの95万円を投資してもらえませんか?」という形で。
将来を考えると、身内からの出資が一番安全です。友達から出資を受ける場合もありますが、友達が会社の仕組みを分かってないとあとで揉めることがあるので、当面は自分で出すか、身内のサポートが良いでしょう。
学生:確かに、家族にお願いしたほうがトラブルは少なそうです。
齋藤:その通りです。外部の投資家を入れるのは後からでもできますし、最初の段階では身内だけで進めるのが賢明です。
また、将来的にベンチャーキャピタルなどから資金を調達する際には、過去の議事録や記録を求められることがありますので、それに備えておくことも大切です。
学生:わかりました。議事録も将来必要になったらしっかりと準備します。
齋藤:望むべくはシンプルに、一人株主・一人取締役の体制で進めるのが良いと思います。
取締役の任期は最大10年なので、最初は10年に設定しておくといいでしょう。
あまり短くしてしまうと、頻繁に登記が必要になるので、それも考慮に入れてください。登記を忘れると「登記懈怠」という罰則があります。
自分以外の取締役を入れる段階になったら取締役の任期は短くしましょう。
学生:はい、最初は10年任期で進めます。
齋藤:そして、会計期間ですが、日本の会社では自由に決められます。一般的には4月から3月です。海外での事業展開を考えるなら、1月から12月という設定もあります。中国は法律で全部の起業が1月から12月と決められています。
日本企業は4月から3月が一番多いですが、上場を視野に入れている場合は、3月決算は避けたほうがいいというアドバイスもあります。
学生:そうなんですか?3月決算だと何か問題があるんですか?
齋藤:3月決算の会社が多すぎて、監査法人の対応が追いつかないんです。それで、株主総会も6月に集中するんですよ。だから、少しずらしたほうが効率的なんです。
余談ですが、3月決算の会社の監査を4月から6月にかけて行う繁忙期があるので、監査法人に勤務する公認会計士ってゴールデンウィークに休めないんですよね(笑)。
齋藤:金融商品取引法上では、東証などの取引所に90日以内に報告しなければいけないというルールがありますが、これは今は関係ないので無視して大丈夫です。
学生:はい、そうなんですね。今は気にしなくていいんですね。
齋藤:はい、問題ないです。ただ、税務署への申告は登記してから2ヶ月以内に必ず行わなければなりません。
実は、これも仮申告をすることで1ヶ月延ばすことができるんですけど、そういう繁雑な業務を自分でやるか、もしくは代行してくれる税理士と契約する必要があります。
学生:へえ、そうなんですね。自分でもできるんですか?
齋藤:はい、複雑じゃなければ自分でもできます。税務署に行けば手続きができますよ。
学生:なるほど、でもちょっと面倒そうですね。
齋藤:そうなんです。正直、面倒です(笑)。だから税理士にお願いするのが楽なんですよ。もし知り合いの税理士がいれば、その人に頼んだほうが効率的です。
今は税務署まで行かなくても、e-Taxというオンラインシステムで申告できますけど、そのセットアップも結構手間がかかります。税理士がいれば、e-Taxシステムを使って申告してくれます。
正直、起業家がこれを自分でやっている暇があるかというと、その時間はプロダクト開発や営業に使いたい。
齋藤:それに、税務署でも税理士さんがついていると、税務署はあまり細かいことを言ってこないケースが多いです。
学生:なるほど、そういうものなんですね。
齋藤:意外とね。税理士さんは知識があって職務責任があってちゃんと見てるから大丈夫だということで税務署も安心するんでしょうね。
一方で、会社がすごく儲かっているのに税金をちゃんと払っていないと思われると、税務調査というのが会社が入ることがあります。
でも、まぁ、今回は当面利益が出ないと思いますから、心配する必要はほとんどないですね。
学生:はい、確かに今はまだ利益が出る段階ではないですね。
齋藤:そうですね。だから、今のところは、会計期間を4月から翌年3月までにしておけば問題ないと思います。これは一般的な会計年度です。
今から事業を整理する話をするのもアレですが、事業を売却したりするときには、売却先の会計期間と同じ方がスムーズになるという利点があります。
学生:なるほど、そうします。
齋藤:さらに余談ですが、会社を登記したら「開業届」というものを税務署に提出する必要があるんです。
学生:あ、そうなんですか。開業届って何ですか?
齋藤:はい、税務署に「開業しました」という報告をするものです。そして、加賀市の市税事務所にも届け出をする必要があります。税務署と市税事務所、2カ所ですね。
学生:2カ所に出すんですね、わかりました。
齋藤:こんな時代になんで、何カ所もフォームを埋めて役所周りをしなければいけないんだろうねぇ。デジタル化とか無視されているから(笑)。
もうひとつ重要なのは、源泉税の特例申請です。これも税務署で手続きします。源泉税って知っていますか?
学生:いえ、知らないです。何ですか?
齋藤:給料を支払うとき、会社は従業員の給料から所得税を天引きして、それを税務署に納めなければなりません。この税金が「源泉税」と呼ばれます。
税理士など士業の報酬に対しても同じように源泉税がかかります。
学生:なるほど、そういうことなんですね。
齋藤:この源泉税は本来、毎月10日までに税務署に報告・納付しなければならないのですが、規模の小さい会社は特例として年2回にまとめて納付できるようになります。
7月10日と1月20日がその納期限です。この特例をしっかり申請しておくことが大切です。
学生:年に2回にまとめられるなら楽そうですね。忘れないように気をつけます。
齋藤:その通りです。あと、消費税の登録事業者の申請も検討しておくべきです。このようにいろいろありますから、やっぱり税理士さんはつけておいたほうがいい。
学生:はい、税理士さんに頼む方向で考えてみます。
齋藤:やってもらった方がいいですよ。本人が自分でやるのはかなり手間がかかるので、間違いがあると遡るのも大変です。
なので、最初から税理士さんについてもらうのが一番安心です。ちなみに、税理士さんにお願いすると年間でだいたい50万円くらいかかります。
学生:50万円ですか、なかなかですね。
齋藤:そうですね。でも、だいたいの相場なんですよ。月次決算の報酬が月に2〜3万円、年間決算の報酬が20万円くらいでやってくれる税理士さんが多いですね。それ位の作業量があるという事でもあります。
小さい中小企業向けにはこれくらいの料金です。大きくなってくればもっとかかります。
創業間もない間は、知り合いの税理士に頼むと、もっと安くしてくれるケースもありますよ。「やっておいてあげるよ」みたいな感じで、あまり手間にならない範囲だとね。
学生:なるほど、知り合いに頼むというのもありですね。
齋藤:そうなんです。取引が少ない小さい会社だと、税理士さんにとってもそれほど負担じゃないので、相談してみると良いと思います。
そこらへん、何か当てはありますか?自治体とも話してみるといいかもしれませんね。
学生:自治体に相談してみます。
齋藤:私もたくさんの会社を運営しているので、経理財務については自分でできちゃうところも多いので、税理士さんには申告だけお願いするというスタイルにして、費用を抑えたりしますよ。
その流れでもうひとつお伝えすると、利益が出た場合には必ず申告をして納税しなければいけません。年に1回決算を締めて、税務署に納税するルールがあります。
学生:はい、わかりました。
齋藤:ただ、もし1年間何も取引がなければ決算はすごくシンプルで、あまり大変ではありません。でも、取引が多くなると税理士さんにお願いするほかに社内にも経理担当者を置かなければならないような状況になったりします。
ただ、小さければ社長自身や社長の奥さんが経理を担当している会社も多いです。まずはそんな形でスタートできると思いますよ。
学生:なるほど、最初はシンプルに始められそうですね。
齋藤:また、地方税で市に対して、地域によって多少の差はあるものの、だいたい7万円の「均等割」という税金がかかるんです。
これは、会社が存続している限り毎年必ず発生する税金なので、どんな状況でも払わなければいけません。
学生:なるほど、どんなに小さい会社でも7万円は必ずかかるんですね。
齋藤:そうです。それが最低限の維持費みたいなものですね。何もしなくてもかかる費用なので、それはしっかり覚えておいてください。
学生:はい、わかりました。毎年かかる固定の費用なんですね。
齋藤:そうです。それに加えて、先ほど話した源泉税。正確には源泉所得税と言いますが、これが発生するのは、給料や報酬を誰かに支払ったときです。
支払いがなければ源泉税はかかりませんが、社員を雇ったり、税理士さんなどに報酬を支払った場合には、源泉税の納付が必要になります。
学生:ということは、社員がいない限りは源泉税は発生しないんですね。
齋藤:その通りです。社員や報酬を払う対象がなければ、源泉税は不要です。ただし、税理士さんなど専門家に報酬を支払うときには源泉税がかかることがあるので、その点は注意しておいてください。
学生:源泉税についてですが、これは毎月必要で、特例の申請を出せば年に2回、必ずかかるものなんでしょうか?
齋藤:そうですね、年に2回かかります。ただし、源泉税が発生するのは対象となる支払いがある場合です。支払いがなければかかりません。
ゼロ円でも申告用紙だけ出してくれって税務署から電話かかってくることはありますが。
学生:源泉税って具体的にはどういうものですか?
齋藤:源泉税は、従業員に給料を支払う際に、その給料の所得税分を会社が一時的に預かり、代わりに納税するものです。
例えば、30万円の給料を支払う場合、27万円を従業員に支払い、預かった3万円を会社が所得税として納税します。
学生:つまり、給料の支払いがなければ源泉税も発生しないんですね。
齋藤:その通りです。ただし、税理士などの報酬に対しても源泉税がかかる場合があり、税理士を雇っている場合は、その報酬に源泉税が発生するケースが多いですが、税理士さんから「源泉税を払っておいてください」と言われることがよくあります。
まぁ、税理士さんにしてみれば自分の税金だからね、ちゃんと言ってきます。
学生:なるほど。理解しました。
齋藤:法人を設立したら、次に銀行に行って口座を開設する必要があります。ネット銀行と都市(地方)銀行の両方を開設するのが理想です。
学生:どちらを先に開設するのがいいでしょうか?
齋藤:地方銀行がおすすめです。ちゃんと自治体の支援を受けていて後ろ盾があるよということを説明すればちゃんと自治体と関係のある地銀はスムーズに口座開設できる可能性が高いと思います。
開業直後の会社が地方銀行で口座を開設しようとすると、マネーロンダリング対策とかで厳しく審査されますが、自治体のバックアップがあるので問題なく進むと思います。
学生:なるほど。
齋藤:また、多くの地方銀行ではオンラインバンキングが無料で利用できます。これをfreeeなどの会計ツールと同期させることをお勧めします。
フリーを使う場合、ミニマムなプランで月に3〜4千円ほどかかりますが、これを契約して同期させておくと会計作業が楽になります。
学生:確かに便利そうですね。
齋藤:振込や入金の処理回数が増えてきたときにはネット銀行も便利です。PayPay銀行やSBI新生銀行などがありますが、個人的にはPayPay銀行をおすすめしますね。
送金手数料などが安い。そしてオンライン前提なのでシステムが使いやすくて、海外送金やペイジ―という公共料金の取引も簡単にできます。
学生:PayPay銀行が良さそうですね。
齋藤:はい、色々使ってみましたが、個人的にはPayPay銀行をお勧めします。元々ジャパンネット銀行でネット専業からスタートしてますし、PayPayのショップアカウントなどとも相性が良いです。
学生:ありがとうございます。
齋藤:それでは、大体の流れはこんな感じです。資本金や発起人の話もありますが、基本的にはこれで十分でしょう。また不明な点があれば、いつでも連絡してください。
学生:まずは頑張ってみます。またご連絡させていただきます。
齋藤:そうですね。今回で全て解決するとは思いませんが、基本的な注意点は話したつもりです。長くなりましたが、頑張ってください。応援しています!
学生:ありがとうございます。頑張ります!