37 理由なんか
にしても、家に届いたあの写真…。あれが撮れるとしたらあの輩だけだよな。なんでだ?俺の情報なんか何も持ってないはずなのに俺の家が何で分かったんだ。
そんなことを考えながらまた登校した。
廊下で亮佑と誠慈とすれ違った。誠慈は露骨に俺から目を逸らしていた。俺は誠慈が亮佑にバラしたんじゃないかと疑っている。
もしそうだとしたら、なんで今になってなんだ。最初の内は言わないでいてくれていたはずなのに。何があって急にバラして、何があって急に広まったんだ。
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昼休み、別のクラスの知らない男から急に話しかけられた。
同級生K「なあ、お前ノンケなんだよな。」
一輝「え…はい。」
同級生K「なんでノンケなの?」
なんでって。またそれかよ。
理由なんかねえって。
同級生K「考えてみろよ。異性愛だったら種の半数が残っててもそれが全員同じ性別だったらもう繁殖は出来ないんだぞ?」
同級生K「でも同性愛なら2人しか残ってなくても同性同士なら繁殖はまだ出来るんだよ。まあさすがにその場合は遺伝子の多様性的にもう無理だろうけど。」
同級生K「それにもし片方の性別にだけ強く作用する伝染病とかが出て全滅してももう片方は生きてるから種としては続くじゃん。生物は生き残って子孫を残すことが使命なんだから、それが自然の摂理だと思うけど。」
だからなんだよ。お前は長々とそれを俺に言ってどうしろって言うんだ。お前は普段、生き物の使命とか考えて生きてんのか。
露骨な悪口もしんどいけど、こういう無知からの強烈な偏見もしんどい。今日もただ黙ってやり過ごした。
帰り道、河川敷で横になり、沈んでいく夕陽を眺めながらあれこれ考える。
俺…このままどうなってくんだろ。残りまだ2年半ある高校生活を、ずっといじめられたまま過ごすのか。
それが終わっても、大学、社会人と人生は続く。ずっとノンケを隠してバレることを恐れて生きていかなきゃいけないのか。
俺、彼女とかもう出来ないんだろうな…。
高校ではこんな状況だからまず無理だろうし…。
ほとんどの女は女が好きなわけだから、俺が付き合うには男を好きな女じゃないとダメなわけだろ?
でもそういう人は元々の数も少ないうえにみんな隠してるから、見つけるの不可能じゃね?
しかも運良く見つけられてもお互い好きじゃないといけないし。
そんなことを考えてしまうと、この先幸せってあるのかなって不安になる。辛いことの方が多いんじゃ…。
そのとき、河川敷の上の道から女の人の声が聞こえた。
有希「一輝くん?」