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8 家族とテレビを見るリスク

心がザワッとした。嬉しんじは今話題の"ノンケタレント"。ノンケの意味はここ数日で学んだ。異性愛者のことだ。この世界にはノンケは俺だけかと思っていたけど、少なくともテレビの中にはいるみたいだ。

俺はまだこの人しか自分以外のノンケを知らない。他にも何人かいるんだろうか。この人はノンケの知り合いがいるんだろうか。会ってみたいけど、とても出来ない。

だけど、今考えるべきはこの状況だ。一人でテレビを見ていれば良かったけど、隣には父さんがいる。ノンケの話題を父さんと見ることにハラハラしながらも、今チャンネルを変えると不自然なので変えられない。平静を装って見ていた。

番組が進み、出演者の一人が切り出した。

タレントA「女の人が好きなんだよね?」
嬉しんじ「そうですね。」

タレントA「何で好きなの?だって言ったら自分と違う種族みたいな感じじゃない?」

タレントB「そうだよね。同性の方がお互い分かり合えるし接する機会も多いのに、わざわざ女の人を好きになる理由はなんなの?」

わざわざ女が好き、か…。別に選んで女を好きになったわけじゃないんだけどな。

嬉しんじ「いやもう生まれたときから女の人が好きだったので…。学生時代に好きな女の人が出来て、あ、僕はノンケなんだ、ゲイじゃないんだって思いました。」

タレントC「ん?ゲイって何?」
タレントD「ゲイってあれでしょ、俺らみたいな、普通に同性が好きな人のことでしょ。」

タレントC「あ、ゲイって言うんだ。なんかそれが当たり前だから呼び方とかあるの知らなかったわ。」

俺がノンケって言葉を知らなかったのと同じか。この世界ではゲイが普通なんだもんな。

すると、父さんが口を開いた。

一輝の父「…ノンケとか気持ち悪いよな。」


その瞬間、心臓がギュッとなるのを感じた。ショックだった。父さんがゲイなのはしょうがないけど、ノンケを嫌ってはいない可能性にかけていたんだ。でも、出た言葉は"気持ち悪い"。

一輝の父「一輝はあんな風にはなるなよ。って、んなわけないよな。あんなんテレビの中の話だもんな!」
一輝「そ、そうだよ。俺がノンケなわけないじゃん。」

男が好きだという嘘はついたことがあった。でも、自分がノンケじゃないという嘘は初めてついた。嘘を重ねるたび、ちょっとずつ自分が自分じゃなくなっていくような感覚がする。

速やかに食事を終え、部屋に戻った。しんどかった。心が穏やかじゃないし、食べ物を飲み込むのが苦しかった。父さんと一緒にテレビを見ていると、こういうリスクがあるんだ。

でも、これからも見ないわけにはいかない。今までは気にしたこともなかったけど、テレビでは割とこういう話題は出て来るんだ。だからその度に耐えないといけない。そういうことなのか…。しんどいな…。

…俺は今までこんなに精神的に疲れたことがあったか?こんなに心の中であれこれ考え事したことがあったか?いかに今まで何も気にしなくても生きて来れてたのかがよく分かる…。

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