2-18 村長の考え
その夜、颯人は悠介と迅を呼び、気になったことを告げた。
颯人「なあ迅さん、村長って不思議な力でいろんなことが出来るんですよね?」
迅「そうだな。」
颯人「なら、あのときもその力で死んだ人を助けてやれば良かったんじゃないんですか?」
迅「ああ…。確かにそれも思うけど、もしかしたら敢えてしてないんじゃないかな。」
悠介「どうしてですか?」
迅「あくまでここは俺たちの村だからな。出来るだけ俺たちの力だけでやっていかないといけない。村長一人に全部任せていたらこの村がある意味ないだろ。」
迅「それに、この村はゲイだけの世界で生きていくためにあるんだ。村長のパワーで楽に生きていくための場所じゃないからな。それをすると存在意義が変わってくるだろ。」
颯人「例え死人が出ても、か…。まあ、死だっていつかは来るもんだからなぁ。」
迅「そもそもあの村長、何十年も前から村長やってるらしいんだ。もしかしたら不老不死みたいな能力もあるんじゃないかな。」
迅「俺がこの村に来たときから考えても歳をとってるように見えないんだ。まあ、元々年寄りだから分かりにくいだけかもしれないけど。」
迅「だから、俺たちのことも不老不死にしようと思えば出来るんじゃないかな。それでもしないのは、やっぱりあくまで元の世界と変わらない生活をさせたいんじゃないかな。」
颯人「何十年も前からこの村があるにしては、村長以外の年寄りが全くいないみたいですけど。」
迅「まあ…流石に医療技術的に元の世界ほど長生きは出来ないんだよ。」
颯人「そもそも夢に出たりして元の世界に干渉出来るならこんな村作らずともその力を上手いこと使って差別自体とっとと無くしてくれたらいいのにって話だしな。」
迅「そうだね。そこまでの力があるなら、ゆっくり一人一人夢で勧誘したりしない気もするし。」
颯人「…。」
迅「颯人、ちょっといいかい?」
迅は颯人の目線に立って少し強く言った。
迅「君は村長やこの村について嗅ぎ回ってるみたいだね?悪いことは言わないからやめた方がいい。そんなことしても何も得はないよ。」
颯人「…迅さんは何か村の秘密を知ってるんですね。」
迅「…まあ村長はあんな不思議な力を使うぐらいだからね。何か秘密はあるのかもしれないけど、僕も別に大したことは知らないよ。」
迅「それに、君も村長のおかげで今このゲイだけの村で幸せに暮らせてるんじゃないか。恩を仇で返すようなことは良くないぞ。」
颯人「…別に何も足元すくおうとしてるわけじゃないんですよ。単に秘密がありそうで気になるから探してるだけです。暇つぶしですよ。」
村長「そうじゃな。この村には元の世界ほどの娯楽はないからな。」
迅「あっ、村長!」
村長「子供はそれぐらい積極的なのがええ。ワシは何も困っとらんよ。」
颯人「…村長、良かったら村長の家をじっくり見てみたいんですけど。」
迅「こら、颯人!村長に失礼だろ!」
村長「ホッホッホ、良いぞ。秘密を探りたいんじゃろう。気の済むまで調べなされ。疑いを持ったままでは村での生活も楽しめんじゃろうからな。まあ、何も出て来はせんが。」
颯人「じゃあ今から行ってもいいですか。
村長「良いぞ。その代わり、勝手に物を持ち出されては困るから、見張りはさせてもらうがな。」
颯人はその足で村長の家に行った。いろいろと部屋を探し回ったが、特に何も見つからなかった。
颯人「…。」
村長「これで満足か。」
颯人「…はい、ありがとうございました。」
ーその頃、元の世界ではー
リポーター「中学二年生の颯人くんは、このマッタン駅からあちらの山の方に歩いて行くのを、駅の防犯カメラが捉えたのを最後に行方が分からなくなっています。」
子供が行方不明になったというニュースが連日報道されている。
そしてその少年がいた学校に調査が入ったところ、いじめがあったということが分かった。しかしいじめられていたのは別の生徒だったようで、謎の多い事件になっている。
修司は、初めてそのニュースを見たとき驚きを隠せなかった。いじめがあって、子供が失踪し、最後は田舎の駅から山の方に向かった、という状況が悠介とよく似ていたからだ。
修司(まさか…悠介とは何も関係ないよな。偶然似たような事件が起こっただけだよな。)
修司(ていうかそうだよ、悠介のときはいなかったことにされたんだから、騒ぎになってる今回とは全く違うじゃないか。)
修司(…だけど…。)
そんな中、ある日学校に行くとお知らせの手紙が配られた。
修司(なんだこれ…。人権講演会?)
修司の担任「来週の午後は人権講演会があるぞ。講師をお呼びして、人が社会で生きていく上で大切な話をしてもらうから、しっかり聞くように。」
取り扱うトピックとして、障害や人種などと共に書かれていた性的少数派の文字に目が行った。
修司(これって…もしかして…。)