25 どうしたらいい
一輝「え、世界…?」
健太郎「いや、なんか入学式の日ぐらいから前と違う感じしねえ…?」
一輝「もしかして…。」
一瞬言葉に詰まった。いい表現がすぐ出てこなかったから。そして言った。
一輝「…女が好きなのがおかしくなってることか?」
健太郎は驚いた顔を一瞬して、そして表情を緩ませた。
健太郎「良かった〜!やっぱ一輝も気付いてたんだな!マジで良かった。」
一輝「俺だって同じだよ。他に気付いてるやついたんだってめちゃくちゃ安心した。」
でも、また健太郎の表情が強張った。
健太郎「岳も京平も道彰もみんな気付いてるから、一輝も気付いてるかもしれないと思って話しに来たんだ。なあ、今俺らヤベえんだ。聞いてくれよ!」
一輝「お、落ち着けよ。俺だって今の世界よく分かんねえんだよ。」
健太郎「違えんだよ。入学してすぐ道彰がやらかしたんだ。女好きなのが普通だと思って他のやつに話しかけちまって。そしたら一瞬で広まったんだ。」
ドキッとした。俺と同じことしてるじゃねえか。
健太郎「俺らはみんな初日に母さんが父さんになってて察したんだ。でもあいつは俺らの方がおかしくなってると思わなくて普通に言っちまったんだ。」
健太郎「最初は俺らもお互い気付いてるか分からなかったから相談も何も出来なくて。でも道彰がやらかしてからお互い反応見て気付いてるって分かったんだけど…。」
健太郎「分かったときには遅かったんだ。一緒のグループの俺らにも疑いかけられるようになって。そしたら岳がすぐ裏切ったんだ。俺は男が好きだって。」
健太郎「俺と京平も怖くて、道彰が女好きだとは知らなかった、俺は男が好きだって言ったんだ…。自分を守って裏切ったんだ。そのときの道彰の顔…忘れられねえ。」
健太郎「それから俺らは疑われなくなったけど、道彰がいじめられだしたんだ。一緒に行動も出来なくなったし、なんとかしてやりてえけど出来ないんだ。」
健太郎「そしたらちょっと前から道彰学校来なくなっちまって…。今どうしてるかも分かんねえ。」
一輝「道彰…。」
話を聞いていて、とても他人事には思えなかった。俺がそうなっててもおかしくなかったんだ。俺のときはたまたま誠慈が黙っててくれてたから…。
健太郎「それに俺らだってしんどいんだよ。突然こんな世界になって。わけ分かんねえよ。同性愛とかキモいし、周りに隠して合わせてやってんのも辛えよ。なあ一輝、俺らどうしたらいい…?」
どうしたらいいんだろうか。俺にも正解は分からない。けど…。
一輝「俺だって分かんねえよ。めちゃくちゃしんどいよ。けど、とりあえず周りに合わせてバレないように上手くやっていくしかないだろ。他に方法あるか?」
健太郎「…そうだよな。分かってるよ。それしかないだろ、どう考えても。だけど俺 これ一生続くのかって考えたら絶対無理だよ!こんなの!」
健太郎が泣き崩れる。俺も目頭が熱くなるのを感じた。一体俺らはどうしたらいいんだ。
健太郎「いつ終わんのかな、これ。もう元の世界に戻んねえのかな…。」
確かにそうだ。元の世界に戻ることはないのか。せめてそれが分かれば…。
そのときハッと気付いた。元の世界の同性愛者からしてみたら、この世界が一生続いてたんだよな。終わりの可能性なんか期待すら出来ず、この世界がずっと…。
ゾクッとした。こういう風に世界が見えてたのか。全く同じ世界のはずなのに、人によってこんなに変わるなんて。
でも今はそんなことを考えていても仕方ない。道彰を何とかしてやらないと。とりあえず話してみよう。
一輝「なあ、今から道彰の家行ってみないか。」