30 恋愛の夏
7月。すっかり夏だ。クラスの雰囲気を見ていると、ちょっとずつカップルが出来てきているらしい。妙に距離の近い男2人組が何人かいる。
ややこしいんだよな。異性愛のときなら男女2人でいたら付き合ってるって分かるから気い遣えたけど、同性愛だと男2人でいてもただの友達かもしんねーし。うかつに話しかけてカップルだったら空気読めないやつになるし。
まあそこも慣れだ。見てれば何となく友達とは違う雰囲気があるから、そのときは察しよう。
ある日、登校して靴を履き替えようと下駄箱を開けると、中に紙が入っていた。見ると、「話したいことがあるので、今日の放課後 体育館の裏に来てください。」と書いてあった。
差出人は不明。まさかこれは…。
〜〜〜〜〜
放課後。流石に差出人が誰かは知りたいし、無視して心象が悪くなるのも嫌だから会いにいくことにした。ただいつも4人で帰っているので、上手く抜けないといけない。
一輝「あ、俺今日ちょっと用事あるから。3人で帰って。」
雅也「お?なんだ用事って。」
一輝「大したことじゃないから。じゃあな。」
康太「わ〜、気になる〜!」
俊「…。」
意外とすんなり抜け出し、体育館裏に行った。冷やかしの可能性も頭に入れていたが、1人、見覚えのある男子が立っていた。
一輝「雫…。」
雫は同じクラスの男子だ。女の子みたいに小柄で髪も長めで、中性的な見た目。本当に女子だったら割と俺のタイプだったりする。
すごくドキドキしている様子で、恥ずかしそうにしている。上目遣いで時々俺をチラッと見る。これはもう、確定じゃないか…。
俺は黙って待った。雫が言いたいことを自分の口で言う方がいいと思ったから。
待てよ、そういえば雫って懇親旅行の夜にこの中に好きな人がいるって…あれ、俺のことだったのか。
そんなことを考えていると、ついに雫が口を開いた。
雫「…一輝くんっ!あ、あの…ずっと好きでした!よよ良かったら僕と付き合ってください!」
一輝「…ごめん。」
雫は俯いていた顔を更にもう少しだけ下げた。こんなに勇気を出して言ってくれたのに断るのはすごく心苦しかったけど、やっぱり自分に嘘はつけない。例え見た目がタイプに近くても、男は男だ。俺は付き合えない。
一輝「あのさ…ありがとう。勇気出して言ってくれて。付き合うことは出来ないけど、友達としてなら全然仲良くしていきたいから、これからもよろしくな…。」
雫は顔を上げない。涙が地面に落ちて砂を濡らした。しばらくした後、何も言わずに走り去っていってしまった。
一輝「あ、おい!」
…嫌われたんだろうか。でも、それはどうしようもないよな…。
だけど、男に告白されるなんて今までだったら考えられなかったのに、なんか全然嫌な感じがしなかった。慣れだけじゃない、雫の雰囲気のおかげだろうか。
帰ろうと思い歩き出すと、低木の影に人の気配を感じた。誰かにこっそり見られてたのかと思い、バッと覗き込んだ。するとそこにいたのは…。