48 決着
亮佑「お、お前、こんな状況で何してんだ!」
頭を離そうとする夢花を押さえつけ、逃がさない。その内に夢花は全身の力が抜けるように倒れこんだ。
一輝「今だっ!」
俺のその声でみんな気付いたようだ。すかさず輩への反撃を開始した。
しばらくして、敵は全滅した。
…ホントに夢花はノンケだったんだな…。
地面に倒れ込み苦しそうにする亮佑のもとに、痛みに耐えながら近付いて言った。
一輝「お前の負けだ、亮佑。」
亮佑「…くそっ…。」
一輝「これに懲りたら、もう俺らに関わるのはやめろ。」
亮佑「…ふん、俺らを倒したところで、クラス中に広まったお前がノンケだという事実は消せないからな。結局一緒なんだよ。」
…それはそうだ。俺がノンケなのは事実だし、今更あれを嘘だったことには出来ない。でも…。
一輝「いいんだよ。もう。」
亮佑「なんだと…。」
一輝「俺にはこんなに味方がいる。俺を好きでいてくれてるやつがいる。今更何を言われようが構わねえよ。」
俊「一輝…!」
一輝「ありがとうな、俊。助けてくれて。雫も有希さんも、康太も雅也も他の2人も、みんな、ありがとう。」
雅也「俺はお前のためじゃなくてヤンキーとヤりたくて来ただけだからな!」
康太「はいはい、分かってる分かってる〜。」
雫「こちらこそ、守ってくれてありがとう。みんな、一輝くんの大事な仲間だよ!」
俊「そうだよ!なあ、一輝、あのさ…。」
俊「…もう一回俺と友達になってくれないか…?」
一輝「…ああ、もちろんだよ!」
有希「一輝くん…良かったね。」
そして俺は最後に亮佑に聞きたかったことがあった。
一輝「…なあ、最後に聞かせてくれ。…なんでノンケってだけでここまでしたんだ?」
亮佑「…。」
一輝「なんの恨みがあるんだよ。こんなに徹底しておとしめて。さっきは誠慈がしんどそうにしてたからとか言ってたけど、それはいじめた理由じゃねえよな。」
亮佑「なんで、か…。いじめられる側のお前には分からないと思うけどな、いじめに深い理由なんてねえんだよ。誠慈のことを言ったのも理由とは関係ねえ。」
亮佑「ただ気持ち悪いと思うからいじめる。ただ劣っていると思うからいじめる。ただ存在してはいけないと思うからいじめる。それだけなんだよ。」
亮佑「別にノンケに親を殺されたわけでもなければそいつに嫌なことをされた復讐でもない。ただ自分より下の存在を作って気持ちよくなるのがいじめなんだよ。」
亮佑「だから、いじめは些細なことから始まるし、些細なことで終わるんだ。誰も深く考えてなんかねえ。俺たちはその上で、徹底的にいじめぬいただけだ。」
…そうか、俺にだって分かる。そうだった。中学のとき、俺も深い理由があっていじめてたわけじゃなかった。単にゲイはバカにしていいと思って、単にいじめて気持ちよくなってただけだった。
そう考えると、いじめってなんてつまらないことなんだ。こんなしょうもないことで満たされたつもりでいたのか、俺は。こんなことをして自分が上の立場にいるとでも思っていたのか…。相手を傷つけてまで…。
亮佑の言葉でそのことに気付かされたそのとき、体力の限界がきたのか、俺は地面に倒れた。
薄れゆく意識の中で、かすかに俺を呼ぶ俊の声が聞こえた。