2-28 変わる掟
全員「えっ!!!」
千紘「悠ちゃんが…元の世界に…戻る!?」
村長「そうじゃ。」
悠介「え…え…?」
典明(そんな…さっき味方になれるって言ったばっかりなのに…。)
迅「村長!どうしたんですか!悠介のことになると村のルールを破りすぎですよ!一度ここに来たら二度と戻れなかったはずでしょう!」
村長「悠介の場合だけじゃ。ノンケを嫌っていないのに村に呼んだのも、一度村に来たのに元の世界に返すのも…。」
迅「悠介の何がそこまで村長を狂わせるんですか!」
村長「…分からん。」
迅「え?」
村長「分からんが、悠介からは何か特別なものを感じるんじゃ。」
村長「悠介が村に来てからの数ヶ月と、今日のことでよく分かった。ノンケとゲイの関係が、本当はどうあるのが最も良いのか…。」
迅「村長!それは村の存続に関わります!」
村長「大丈夫じゃ。今までと何も変えるつもりはない。じゃが、元の世界はこれで少し良い方向に変わるじゃろう。それは迅らも望んでおることじゃろ?」
迅「…まあ…そうですが…。」
村長「千紘も、村に新入りが来るたびに嬉しいけど残念だと言っておったな。元の世界が何も変わってないからと。」
千紘「ええ…。」
村長「このゲイだけの村で、ノンケへのヘイトを募らせて生きてきておるから言えなくなっておるだけで、本当は差別なく、ゲイもノンケも一緒に、普通に元の世界で生きていけるのがいいと皆根っこでは思っておるんじゃ。」
村長「つまり、変えるべきは元の世界。そこがまともであれば、この村でこうやって復讐する必要も生まれなかったわけじゃ。」
村長「そしてやはり、悠介は元の世界にこそ必要な人間じゃ。悠介はきっと将来、ここでの経験を活かして元の世界を少しでも良い所にしてくれるじゃろう。」
迅「…?もしかして村長…悠介の記憶を消さずに元の世界に返すつもりですか!?」
村長「…悠介なら大丈夫じゃ。」
迅「いや!絶対にダメですよ!そんなことしたら村の掟が!」
千紘「…待って、迅。」
迅「え?」
千紘「まず、村の存在が元の世界に知られるっていう懸念はほとんど心配ない。悠ちゃんはきっとバラしたりしないって思えるし、そもそもそんなこと話したって誰も信じない。」
迅「まあそれはそうだな…。」
千紘「迅が一番気にしてるのは、村に来たことがある人間が記憶を持ったまま元の世界にいる状態になることだと思うけど…。」
千紘「悠ちゃんがここの経験を活かして元の世界を良くしてくれるなら、それは認めてもいいと思う。前例は無いことだけど、昔からの決まりに縛られるなんて、ノンケみたいなこともしたくない。」
迅「…。」
千紘「迅もそう思わない?ちょっとでも元の世界が良くなれば、元の世界にいるゲイが嫌な目に遭うことも減るのよ?」
千紘「それでも差別が0にはならないと思うけど、この村は今まで通りあるんだから、差別するやつは村長がここに生贄として連れて来てくれる。それでいいんじゃないかな。」
迅「…。」
千紘「だけど、私が一番嫌なのは…。」
そう言うと千紘は悠介の前に立ち、優しくハグをした。
悠介「えっ…。」
千紘「悠ちゃんともう会えなくなること。」
千紘「確かに悠ちゃんはノンケを憎んでいないし、初めはそんな人が村に来るのは嫌だった。」
千紘「だけど、悠ちゃんはすごくいい子だったし、若くてかわいいから、いなくなるのがすごく寂しいの。すっかり母性みたいのが湧いちゃった。」
悠介「千紘さん…。」
颯人「お…俺だって、悠介がいなくなるのは嫌だぜ。悠介以外子供がいねえんだもん。…まあ、この歳でノンケに恨み募らせてるやつが珍しいんだろうけどさぁ。」
悠介「颯人…。」
村長「お主らの気持ちも良く分かる。じゃが、悠介には元の世界に帰ってもらうのが皆のためなんじゃ。」
村長「…そして悠介、お主自身はどうじゃ。元の世界に帰ることは。」
悠介「…。」
悠介「正直不安です。一生ここで生きていくと思ってたので…。ここを離れてみんなと会えなくなるのも寂しいですし、元の世界で上手くやっていけるかも分からないですし…。」
悠介「…でも、それがみんなのためになるなら…僕は受け入れたいです。」
そのとき、迅があることを疑問に思った。
迅「村長、元の世界の悠介の記憶はもう消えているはずです。悠介だけ元の世界に戻してどうするおつもりですか。記憶の復元なんかが出来るんですか。」
村長「…悠介、お主の親はお主の味方だったと思うか?」
悠介「え?…味方…。」
村長「恐らく悠介の親は悠介にあまり関心がないようじゃ。悠介が学校でいじめられていようが、ゲイであることで悩んでいようが、力になってくれることはほとんど無いじゃろうな。」
悠介「…どうしてそのことを…。」
修司「あ…確かに悠介の家に行ったときに悠介のお母さんと話したけど、悠介が何しようとしてるのか全然興味ない感じだった気がする…。」
村長「やはりな。ワシには分かる。じゃからな、悠介。お主には…。」