2-16 探る颯人
迅「村長、相談があります。」
村長「…なんじゃ。」
迅「…やはり、悠介はこの村には相応しくないのではないかと考えます。」
村長「…またその話か。」
迅「今からでも、元の世界に返すことは出来ませんか。」
迅「それに…大半の村人は、彼の考えを知ったらよく思わないでしょう。この村の存在意義にも関わります。」
村長「元の世界に必要だからこそ呼んだんじゃよ。それに、これは長年この村に携わったワシのたまのワガママじゃから、許してくれと言ったじゃろう。」
村長「今は待っていておくれ。」
迅「…分かりました…。」
ーーーーー
颯人「なあ、悠介。」
悠介「なに?」
颯人「お前、元の世界でどの辺に住んでた?」
悠介「えっと、××駅の近くだけど…。」
颯人「××駅?どこだよそれ。○○県か?」
悠介「え、○○県?いや、△△県だけど…。」
颯人「どういうことだ?じゃあ悠介はマッタン駅から来たわけじゃないってことか?橋の前で村長と合流して、山登って滝の近くの洞窟に…。」
悠介「いや、僕はサイハテ駅から一本杉の所で合流して山を歩いて洞窟に入って…。」
颯人「何だよそれ。全然違うじゃねえか。なのに何で俺たちは同じこの村に辿りついてんだ?」
悠介にも何も分からない。黙って考えていると、颯人が言った。
颯人「俺が村に来たときに通ったあの門…。普段は厳重に鍵がかけられていて絶対に通れないようになってるけど…。」
颯人「あの向こうに行ってみようぜ。」
〜〜翌日〜〜
昼、村長の家の前に二人は来た。悠介は不安そうな顔をしている。
〜回想〜
颯人「新人を迎えに行くのは村長の仕事…というか、村から出れるのは村長だけなんだよな。俺らは二度と戻れないってなってるし。」
颯人「つまり、村長の家に村の外に出る門の鍵がある。」
悠介「だとしても、どうやって手に入れるの?」
颯人「んなもん、忍び込むか、入れてもらったときに隙を見て盗めばいいだろ。」
悠介「そんなの無理に決まってるよ!村長を欺けると思えないし、もし出来たとしてもバレたら…。それより普通にお願いして見せてもらうのはダメなのかな…。」
颯人「そんなの許されるはずねえだろ。それに、バレたってせいぜい怒られるぐらいだろうよ。殺されることはないだろうし、村追放も外に出すことになるから有り得ねえし。」
悠介「…ていうか、そんなことまでして秘密を探ろうとしなくてもいいんじゃない?僕らが知る必要ないじゃん。」
颯人「俺は知りたいから探るんだよ。言っただろ、これが一番の暇つぶしになるって。」
〜回想終わり〜
門の外はすぐに洞窟になっていて、門以外のところは石の壁になっている。だから外がどうなっているかは門の向こうに行ってみないと全く分からない。
二人は村長の家をグルっと回り、様子を伺った。
颯人「…見た感じ、ドア以外に入れる場所は無さそうだな。でも俺らの家には無いのに、村長の家にだけ玄関に鍵が付いてる。」
悠介「今は中に村長いないんだよね?でもいつ戻ってくるか分からないし…。」
颯人「…いつまでビビってんだよ。それに、そんなら悠介は来なけりゃ良かったじゃねえか。来たってことは悠介も気になってんだろ?」
悠介「う…それはまあ…。」
颯人「ほらな。じゃあやるぞ。…にしても外から全く中が見えない作りになってんだな。」
悠介「そうだね。言われて見て思ったけど、窓も縁側も無いんだ…。」
颯人「まるで見られたらマズイものでもあるみたいだな。」
悠介「まあ…やっぱりあるんじゃない?村長なんだし。」
颯人「問題はどうやって中に入るかだな…。やっぱり村長がいるときに入れてもらって、隙を見て門の鍵を盗むか…。」
悠介「家の中のどこにあるかも分からないのに?」
颯人「そうだよなぁ…。」
颯人はしばらく考えた。そしてハッとした表情をした後、悠介に言った。
颯人「今日の夜、俺一人で村長の家に行くから、悠介は外から叫び声をあげて村長を外に誘導してくれ。その間に鍵を探す。」
悠介「ええっ、やだよ…!せめて玄関から普通に呼ばせてよ。玄関先で僕と話してるだけでも気は引き付けられるでしょ。」
颯人「…それだと厳しいだろ。棚とかゴソゴソやってたらすぐバレるって。せめて、どっかに連れて行ってくれよ。その間に急いで探るから。」
悠介「うう…やってみるけど…やだなぁ…。」
〜その夜〜
颯人「よし、行くぞ。」
悠介「う、うん…。」
計画通りに颯人が村長の家のドアをノックしようとしたそのとき、
「ギャー!!!」
農業エリアの方から叫び声が聞こえた。
村長「なんじゃ!?」
村長が勢いよく開けたドアが颯人にぶつかる。
颯人「痛てっ!」
村長「おお颯人、すまん!ワシに用があるなら後で聴くから待っとれ!」
颯人「…何があったんだ?俺も行った方がいいのか?…でも待てよ、村長、鍵かけずに走ってったな。…探るなら今か!」
悠介「え!え!何があったか見に行かなくていいの!?どうしよう!」
颯人は村長の家に侵入した。いろいろと探っていると、棚の一番上の左側の小さい引き出しに鍵を見つけた。何種類か入っていたのでまとめて取り出した。
悠介「ねえ、向こうから叫び声聞こえたけど!?」
颯人「分かんねえ。だけど今はこのチャンスを逃すわけにいかないだろ。早く門に行くぞ!」
悠介「えっ…鍵見つけたんだ!?」
村長の家から村の門までは目と鼻の先。門の前に来ると、颯人は素早く鍵を順番に差していった。