2-29 告白
悠介「え…別の家の…?」
村長「そうじゃ。養子として新しく子供のいない家庭に引き取ってもらう。そこの親はノンケカップルじゃが、どちらも差別などしないまともな人間じゃから安心せい。」
村長「場所も全く違う所じゃから、学校も全て新しくなる。ゲイだとバレていじめられたりしていない状態でまた一から友達作りも始められる。そこから友人にゲイだと伝えるかはお主次第じゃ。」
修司「え…じゃあ、結局僕とは離れ離れになるってことですか?」
村長「そうじゃな。」
迅「修司くんの記憶も消さないんですか!?」
村長「…修司、これはお主に決めてもらう。記憶を消すか、このままか、どちらが良い。」
修司「…記憶は…。」
修司「…このままがいいです。悠介のこと、この村のこと、全部大事な記憶です。だから、悠介と離れ離れになったとしても、忘れたくない…。」
悠介「修司…。修司はなんでそんなに僕のことを…。」
修司「だから言ってるじゃないか!ゲイとか関係ない!大事な友達なんだ!」
悠介「うう…修司…ごめん!修司いいい!!!」
修司「悠介ぇ!!!」
二人は強く抱き合った。その様子を見て、千紘の目から涙がこぼれた。
千紘「っ…!泣くのなんて、何年振りだろ。」
目の前で起こる感動的なシーンに、ずっと否定的だった迅もついに折れてしまった。
迅「…はあ、もう分かりましたよ村長。ここまで来てまだ掟に縛られ続けててもしょうがないですね…。」
村長「分かってくれたか、迅。ありがとうな。」
しばらく抱き合った悠介は、反対を向き、颯人に近付いた。そして修司にしたのと同じ強さで颯人を抱きしめた。
颯人「!悠介…。」
悠介「颯人もありがとう。颯人がこの村に来てから、すごく楽しかった。」
颯人「お…おう。」
悠介「結構危ないことにも付き合わされたけど…でも、それもすごく楽しかった。大切な思い出だよ。」
颯人「ああ…。俺も、悠介がいたから…いろいろ出来たと思う。」
颯人「そうだ…そのとき悠介と疑問に思ったことがあったんだった。最後に聞いときたくないか?」
悠介「あ、ああ…出口のことだね。」
颯人「村長、聞きたいんですけど。」
村長「門の向こうが行き止まりになっていることじゃな。」
颯人「うわ…バレてたのか。」
悠介「やっぱり村長に隠し事は出来ないね。」
二人は顔を合わせて笑い合う。
村長「…今更隠してもしょうがないから言うが…この村はワシが作り出した仮想世界じゃ。世界中のどこにもない。」
悠介「仮想世界…!」
村長「しかし、それが知られるのはあまりよろしくない。じゃから暗い洞窟を抜けた先にあるように思わせておったんじゃ。実際は各々の近くの適当な山の洞窟からここにワープしておったんじゃがな。」
村長「それに、記憶を消せるとはいえ、ワシのような仙人みたいな見た目の者が突然街に現れて騒ぎになると面倒じゃ。村に来る前の最終確認の時間も必要じゃからな。」
村長「…それとな、この力を使うのにはかなり体力を使うんじゃ。じゃから出来るだけ楽をしたかった。」
村長「山はエネルギーに満ち溢れておる。そんな場所では消費する体力も少なく済むんじゃ。それも、山奥からワープしとった理由じゃな。」
颯人「だから全然違う場所から同じこの村に辿り着いてたのか…。山奥だったのも…。」
悠介「仮想世界って…村長はどうしてそんな不思議な力を…?」
村長「…知らんでいいことじゃ。」
迅「それは俺たちも本当に知らないんだ。だけど、知らなくていいことだからさ。」
颯人「まあ俺も、これに関しては調べようもねえから、諦めてるよ。」
迅「全く颯人は…。」
全員が話すのをやめ、会話が止まると悠介は千紘に向かって話しだした。
悠介「千紘さんも、今までありがとうございました。優しくいろんなことを教えてくれて、すごく安心した生活を送れました。」
千紘「こちらこそありがと。悠ちゃんと過ごしたこの数ヶ月は一生の宝物よ。…元の世界がちょっとでも良くなるように祈ってるわ。元気で過ごしてね。」
悠介「はい!」
二人もまた、ギュッと抱き合った。そして迅のところに歩いていく。
悠介「最後に迅さん…。」
迅「ああ。」
悠介「あの…。」
悠介「じ、実は…。」
迅は優しい眼差しで悠介を見ている。
悠介「迅さんのこと…好きでした。」
千紘(キャッ、告白じゃーん!)
迅「そうか…ありがとう。」
悠介「カッコよくて優しくてしっかりしてて…。すごく好きでした。でも…迅さんは男らしい大人の人が好きって…。」
迅「そうだな…。」
悠介「だから今は好きだって言えないなって思ってました。でも、会えなくなるってなったから…最後に伝えたくて。」
迅「俺がこの村のノンケ殺しに積極的に関わってると分かっても、好きでいてくれてるのかい?」
悠介「それは…正直嫌ですけど…。」
悠介「でも…迅さんはやっぱり迅さんだから…。」
悠介「…僕が元の世界で頑張って…もう迅さんがこんなことをしなくていい世界にします。」
迅「…すごいね、悠介。ありがとう。でも、頑張りすぎて潰れないでくれよ。それじゃ本末転倒だからな。」
悠介「はい…。」
迅「俺は元の世界で味方だと思ってたやつにも裏切られた。でも悠介は違った。味方でいた人は本当に味方だったんだ。羨ましいよ。悠介は幸せもんだな。」
迅「きっと悠介の人柄がそうさせるんだよ。悠介なら新しい環境でも絶対また大切な親友が出来ると思う。世の中も変えていける。応援してるよ。」
悠介「ありがとうございます…!」
村長「ではそろそろ時間じゃ。元の世界に帰すぞ。」
悠介「あ…あの…やっぱり敦志さんは…どうにもならないですか…?」
迅「最後までそのことを気にしてるんだな。やっぱり悠介はいい子だよ。…残念ながら敦志には死んでもらう。だけど、悠介が元の世界で頑張ってくれたらいつかああいう生贄もいなくなるかもな。」
悠介「…分かりました…。」
村長「…さすがじゃな、悠介。元の世界での健闘を祈っておる。…では、今までありがとうな。」
迅&千紘&颯人&典明「ありがとう!」
修司「離れ離れになっちゃうけど…今までありがとう。お互い頑張ろうな!」
悠介「うん!みんなありがとう!」
悠介がそう言うと、村長が光を放った。それに包まれながら、悠介と修司は元の世界へと消えていった。