創業者利益...本質と概念
創業者利益とは一般的に「創業者がIPOやM&Aを行うことにより経営する会社の株式を譲渡して得られる利益のこと」と定義されています。
私たちがM&Aのお手伝いをする場合にも業種や業態の特性や重点要素を考慮して算定した創業者利益(企業価値評価額)」を前提にして交渉をスタートします。
他社承継(M&A)の場合には個別の要素(例えば取引口座や社員構成や数字には表れない特殊なポイント)を加味して譲渡価額のすり合わせ交渉を行いますが、親族承継の場合には家族の財産として引き継がれるので創業者利益について節税以外は特に考慮することはありません。
また、親族外承継(社員承継)では社長の提示額について後継者が承継の意思決定をするのが通常なので交渉が発生することはありません。
ですから「創業者利益」の本質についてあまり考えたことがありませんでしたが、今回、自分の承継を通して創業者利益の概念について考えてみました。
〇 個人と会社は一体
無から有を創り出す創業という出産にも似たフェーズでは
多かれ少なかれ合理性や効率性よりも「無給、無休」に近い非合理的な戦いが必須です。
職人タイプの独り社長であれば稼いだ利益=個人所得なのかもしれませんが、組織化し会社を大きくする夢があるほど稼いだ利益は再投資に充て個人の所得には回せません。
例えば、会社利益 = 個人所得にすれば10年後には2億円の個人財産が残るかもしれませんが会社は小さいままで価格はつきません。
逆に、会社利益を個人に移行させず再投資を続ければ10年後に個人財産はゼロであっても企業価値4億円の会社という財産が残ります。
創業者にとって「個人と会社は一体」なのです。
この価値観は創業者特有ですから
最終的に創業者利益の払出しによる会社・個人間の清算が必要なのです。
現実に私も事業拡大を優先して生活費以外は給与を取らず創業十数年で6回の事務所移転と3回の事業譲受に再投資してきました。
その結果横浜トップクラスの事務所になりましたが公団暮らしのまま、もし個人所得を取れるだけ取っていたら事務所は小さいままでも広い芝生のある豪邸住まいだったと思います(笑)
〇 創業者利益の性格
そう考えると創業者利益の内訳は
「再投資に充てた個人貸借分(とらなかった給与)」
「事業拡大の成果報酬(真の創業者利益)」
の総計なのだと思います。
上記の例でいえば企業価値の4億円は
「個人貸借分2億円」と「成果報酬分2億円」
からできているのだと思います。
すべては実在の成果により決まります。
事務所を親族外承継により100年企業を目指そうと決めた時に創業者利益のうちの成果報酬分は放棄して貸借分のみ取得しようと決めました。
二代目に大きな負担を強いればそれは三代目以降にも影響を及ぼし承継の障害になります。
しかし、個人事業が長くて年金も少なく給与も通常の半分しかとらず預貯金も少ない状況では
それが苦労を掛けた家族に報い、同時に、後継者達の負担を軽減するベストな落しどころだと感じたからです。
これは一代で年商100億円の個人保証不要の優良企業を創り上げ、でも自宅は生涯狭い借地のままで家族には最低限の財産だけを残し、時価数十億円の株式は「会社は社員のモノ」とすべて額面(配当還元価格)で社員に譲渡して、最後は「良い人生だった」と一言呟かれて亡くなられた...
尊敬するある社長の影響でもあります。
二代目以降は最初からサラリーマンです。
「無給で年間休日5日で一日18時間働く」などという狂った会社中心の創業者のような生活とは無縁です。
だから創業者には「何のために仕事をするのか」という理念が育つのです。
二代目以後の経営者はサラリーマンの自分には理解できない創業者の生き様を感じ視野を広げなければなりませんね。