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cfDNA

cfDNAとはなんでしょうか?

cfDNAとは、セルフリーDNA(cell-free DNA, cfDNA)を指します。これは、血漿やその他の体液中に存在するDNA断片のことを指し、細胞外に放出されているDNAです。cfDNAは、細胞の死や分裂によって細胞から放出されるもので、主にアポトーシス(プログラムされた細胞死)や壊死(細胞の破壊的な死)などによって生成されます。

cfDNAは、がん診断やモニタリング、胎児の遺伝子検査、移植片の拒絶反応の検出など、さまざまな医療分野で利用されています。特に、がん患者の血液中には腫瘍由来のcfDNAが存在することがあり、これを「液体生検」として利用することで、非侵襲的にがんの診断や治療効果のモニタリングが可能になります。

試料としては具体的に、どのようなものが用いられますか?

セルフリーDNA(cfDNA)の分析には、以下のような試料が一般的に用いられます:

  1. 血漿(Plasma):

    • 最も一般的な試料で、液体生検の主要な源となります。血液を採取し、遠心分離を行うことで血漿を分離し、その中に含まれるcfDNAを抽出します。

  2. 血清(Serum):

    • 血漿と似ていますが、凝固因子を取り除いたもので、血漿よりもcfDNAが分解されやすい可能性があるため、血漿の方が好まれる場合があります。

  3. 尿(Urine):

    • 腎臓を通過する過程でcfDNAがフィルタリングされるため、がんなどの診断に利用されることがあります。

  4. 唾液(Saliva):

    • 非侵襲的な試料採取方法として利用され、口腔内のcfDNAを分析します。

  5. 髄液(Cerebrospinal fluid, CSF):

    • 中枢神経系の病態を評価するために用いられ、脳腫瘍などの診断に役立つ場合があります。

  6. 胸水や腹水(Pleural effusion and Ascites):

    • 腫瘍や炎症性疾患に関連する場合に、これらの体液中のcfDNAが分析されます。

これらの試料からcfDNAを抽出し、次世代シーケンシング(NGS)やデジタルPCRなどの技術を用いて分析します。試料の選択は、目的とする疾患や状態によって異なる場合があります。

血液や精液自体に、細胞が含まれるものはcfDNAの試料にはならないということですね。

その通りです。セルフリーDNA(cfDNA)の試料としては、細胞を含まない、または最小限に含む体液が使用されます。これは、cfDNAが細胞外に存在するDNA断片であるため、細胞を含む試料はcfDNAの測定に不適切な場合があるからです。

具体的には:

  • 血液:全血は赤血球や白血球などの細胞を多く含むため、そのままではcfDNAの試料としては不適切です。通常、血液を採取した後、遠心分離によって細胞成分を除去し、血漿または血清を分離してcfDNAを抽出します。

  • 精液:精液には多くの細胞(特に精子細胞)が含まれているため、cfDNAの試料としては一般的ではありません。細胞を含むため、精液をそのままcfDNAの試料として使用することは避けられます。

cfDNAの試料には、細胞を除去して純粋な液体成分を利用することが重要です。これにより、cfDNAの正確な測定や解析が可能になります。

がんの診断には、具体的にどのようなcfDNAの処理がなされますか?

がんの診断におけるセルフリーDNA(cfDNA)の処理は、液体生検と呼ばれる手法の一部として行われ、以下のステップが一般的に含まれます:

  1. 試料採取:

    • 血液を採取し、遠心分離を行って血漿を分離します。これは、cfDNAが主に血漿中に存在するためです。

  2. cfDNAの抽出:

    • 血漿からcfDNAを抽出します。特に高感度な抽出キットやプロトコルを用いて、微量のcfDNAを効率的に回収します。

  3. DNA断片の分析準備:

    • 抽出されたcfDNAを、次世代シーケンシング(NGS)やデジタルPCRといった技術に適した形で処理します。この段階では、必要に応じてライブラリ調製やバイオインフォマティクス解析の準備を行います。

  4. 遺伝子変異の検出:

    • NGSを用いて、がんに関連する遺伝子変異(例:EGFR、KRAS、BRAFなど)を検出します。デジタルPCRも、特定の遺伝子変異の定量的検出に利用されることがあります。

  5. 結果の解析と解釈:

    • 得られたデータを解析し、特定のがんに関連する遺伝子変異やコピー数異常を同定します。これにより、がんの診断や病状のモニタリング、治療法の選択に役立てられます。

  6. 臨床的意思決定への活用:

    • 検出された遺伝子変異情報を基に、治療法の選択(例:ターゲット療法の適応判断)や治療効果のモニタリング、がんの再発や進行の早期発見に利用されます。

これらのステップにより、液体生検は非侵襲的かつ繰り返し可能ながん診断ツールとしての価値を提供し、従来の組織生検を補完する役割を果たしています。

フローサイトメトリーとかは使わないのでしょうか?

フローサイトメトリーは、cfDNAの分析そのものには直接使われませんが、がん診断やモニタリングのための液体生検のプロセスにおいて、他の目的で利用されることがあります。具体的には以下のような場合です:

  1. 循環腫瘍細胞(CTC)の検出:

    • 血液中の循環腫瘍細胞を検出および分析するために、フローサイトメトリーが使われることがあります。CTCの存在はがんの進行や転移の指標となり得るため、cfDNAの解析と併用してがんの診断やモニタリングに役立てられます。

  2. 免疫細胞の解析:

    • がんの免疫状態を評価するために、フローサイトメトリーを用いて免疫細胞の表面マーカーを分析することがあります。これは、患者の免疫応答の状況を把握し、免疫療法の効果を予測するために役立ちます。

  3. 細胞内シグナル伝達の解析:

    • がん細胞や免疫細胞内のシグナル伝達経路を解析するために、フローサイトメトリーが用いられることもあります。これにより、がんの特徴や治療標的を詳しく理解することができます。

cfDNA解析は主にDNA断片の検出と解析に焦点を当てているため、フローサイトメトリーはこれとは異なる情報を提供します。しかし、これらの技術を組み合わせることで、がんの生物学的特性をより包括的に理解し、個別化医療の精度を高めることが可能です。

細胞内のDNAと比べて、cfDNAのモニタリングが有利な点はなんでしょうか?

cfDNAのモニタリングには、以下のような有利な点があります:

  1. 非侵襲的な試料採取:

    • cfDNAは血液や他の体液から採取できるため、患者にとって侵襲性の少ない方法でモニタリングが可能です。これにより、頻繁なサンプリングや長期間のモニタリングが容易になります。

  2. 全身的な腫瘍情報の取得:

    • cfDNAは体内の様々な腫瘍から放出されるため、特定の部位に限らず、全身のがんの状態を反映する可能性があります。これにより、多発性の病変や転移の検出に役立ちます。

  3. 治療効果や再発の早期検出:

    • cfDNAの変化は治療に対する腫瘍の応答を迅速に反映するため、治療効果のモニタリングや再発の早期検出に役立ちます。

  4. 特異的な遺伝子変異の検出:

    • cfDNA解析により、特定のがん関連遺伝子変異を高感度で検出できます。これにより、個別化治療のためのバイオマーカーとしての利用が可能になります。

  5. 腫瘍不均一性の評価:

    • 組織生検では特定の腫瘍部分しか評価できないのに対し、cfDNAは異なる腫瘍部位や腫瘍内の異質性を反映するため、より包括的な評価が可能です。

  6. 治療抵抗性の解析:

    • cfDNAを用いることで、治療に対する耐性を示す新たな遺伝子変異の出現を早期に検出することができ、治療戦略の見直しを促進します。

これらの利点により、cfDNAのモニタリングはがん診断や治療の補完的ツールとして注目されています。ただし、cfDNAの解析には高い感度と特異性が要求されるため、技術的な課題も存在します。

では、がんや腫瘍の部位までは特定はできないのでしょうか?

cfDNAの分析は、がんや腫瘍の存在を示唆する重要な手段ですが、単独で腫瘍の正確な部位を特定することは難しい場合があります。以下にその理由と可能性について説明します:

理由

  1. 全身性の情報提供:

    • cfDNAは血液中を循環しているため、特定の部位の腫瘍ではなく、体内全体の腫瘍活動を反映します。したがって、どの腫瘍からcfDNAが放出されているかを特定するのは困難です。

  2. 遺伝子変異の共通性:

    • 多くのがんに共通する遺伝子変異が存在するため、cfDNAのみから特定の腫瘍部位を識別することは困難です。

可能性

  1. 組み合わせアプローチ:

    • cfDNAの特定の遺伝子変異やエピジェネティックな変化を解析することで、がんの種類や特性をある程度推測できます。これに、画像診断(CT、MRIなど)や他の診断方法を組み合わせることで、腫瘍の部位をより正確に特定できます。

  2. メチル化プロファイルの解析:

    • DNAメチル化パターンは組織特異的であるため、cfDNAのメチル化プロファイルを分析することで、腫瘍の発生部位を特定する研究が進んでいます。

  3. 機械学習とバイオインフォマティクス:

    • 膨大なcfDNAデータを解析し、腫瘍の起源を特定するための機械学習アルゴリズムの開発が進んでいます。

したがって、cfDNA分析単体では腫瘍の部位特定は難しいものの、他の診断手法との組み合わせや技術の進展により、今後さらに精度が向上することが期待されています。

複数のがん種や転移も判別は難しいでしょうか?

cfDNA分析を用いて複数のがん種や転移を判別することにはいくつかの課題がありますが、技術の進展によりその可能性は高まっています。以下にその課題と可能性について説明します:

課題

  1. 同じ遺伝子変異の存在:

    • 複数のがん種が共通の遺伝子変異を持つことがあり、このためcfDNA解析だけでがんの種類を特定するのは難しい場合があります。

  2. 遺伝子変異の希少性:

    • 特に早期がんや小さな転移では、cfDNA中のがん由来の遺伝子変異が非常に少ないため、感度の高い検出が必要です。

  3. 異質性の問題:

    • 腫瘍内および腫瘍間での異質性(遺伝的多様性)があるため、cfDNAの解析だけで完全な理解を得るのは困難です。

可能性

  1. 高度な解析技術:

    • 次世代シーケンシング(NGS)やデジタルPCRなどの技術により、微量のcfDNAから高感度・高特異的に遺伝子変異を検出することが可能になっています。

  2. メチル化パターンの利用:

    • 組織特異的なDNAメチル化パターンを解析することで、異なるがん種や原発性と転移性の腫瘍を区別することが可能です。

  3. マルチオミクスアプローチ:

    • cfDNAとともに、他のバイオマーカー(例:cfRNA、タンパク質、代謝物)の情報を組み合わせることで、より詳細ながんの特徴を把握できます。

  4. 機械学習の応用:

    • cfDNAデータを解析し、がんの種類や転移の可能性を予測するための機械学習モデルが開発されています。

実際の応用

現在、cfDNAを用いた診断は主に特定のがん遺伝子変異の検出や治療効果のモニタリングに焦点を当てていますが、技術の進化とともに、複数のがん種や転移の判別能力が向上していくことが期待されています。特に、cfDNA解析を他の診断手法と組み合わせることで、がんの包括的な診断や個別化医療の実現が進んでいます。

cfDNAの検出には、特定のマーカーなど必要でしょうか?

cfDNAの検出と解析には、特定のマーカーや技術が利用されます。以下に、一般的に使用されるマーカーと技術を紹介します。

特定のマーカー

  1. 遺伝子変異マーカー:

    • がんに特有の遺伝子変異(例:EGFR、KRAS、BRAFなど)がターゲットとされます。これらの変異はcfDNA中に存在し、特定のがんタイプに関連付けられています。

  2. エピジェネティックマーカー:

    • DNAメチル化パターンは組織特異的であり、これを利用してcfDNA中の腫瘍由来の成分を特定することができます。異なるがんに特有のメチル化パターンを標的とすることで、診断の精度を高めます。

  3. コピー数異常:

    • 特定の染色体領域のコピー数異常(増幅または欠失)を検出することで、がんの存在や種類を示すことができます。

  4. 融合遺伝子:

    • がんでよく見られる遺伝子融合(例:BCR-ABLなど)を検出することも可能です。

技術

  1. 次世代シーケンシング(NGS):

    • cfDNAの大規模な遺伝子解析を行うために用いられます。多くの遺伝子を一度に解析できるため、がんの全体的な遺伝子プロファイルを把握できます。

  2. デジタルPCR:

    • 高感度で特定の遺伝子変異の定量的な検出が可能です。微量のcfDNA中の稀な変異を検出する際に非常に効果的です。

  3. リアルタイムPCR:

    • 特定の遺伝子変異やメチル化状態を検出するために利用されますが、感度はデジタルPCRに劣ることがあります。

  4. ターゲットキャプチャ:

    • 特定の遺伝子領域を濃縮し、その部分を詳しく解析することで、特異性と感度を向上させます。

まとめ

cfDNAの検出には、目的とするがんの種類や診断の目的に応じて、適切なマーカーと技術を選定することが重要です。これにより、がんの早期診断、治療効果のモニタリング、および再発の早期発見が可能となります。技術の進歩に伴い、cfDNAの解析はより精密で包括的なものになりつつあります。

すでに承認されたものは日米でありますか?

はい、日米で承認されているcfDNAを用いたがん診断のテストがあります。以下に、代表的なものを紹介します。

米国

  1. Guardant360:

    • Guardant Health社が提供する血液検査で、cfDNAを用いて複数のがん遺伝子変異を検出します。この検査は、非小細胞肺がんを含むいくつかのがん種における治療選択のための情報を提供します。

    • FDAにより承認されており、がん患者の治療法選択に利用されています。

  2. FoundationOne Liquid CDx:

    • Foundation Medicine社が提供するテストで、cfDNAを利用して300以上のがん関連遺伝子を分析します。

    • FDA承認を受けており、特定の治療法の適用性を評価するために使用されます。

日本

  1. Guardant360:

    • 日本でも使用が認められており、非小細胞肺がんなどに対する治療選択の支援として利用されています。厚生労働省の承認を受けています。

  2. OncoGuide NCC Oncopanel System:

    • cfDNAを用いたテストではありませんが、がんのゲノムプロファイリング検査として認可されています。cfDNAを補完する形で、組織サンプルを用いて網羅的な遺伝子解析を行います。

    • 日本でのがん治療法選択に役立てられています。

これらのテストは、cfDNAを用いることで侵襲性の低い方法でがんの遺伝子変異を特定し、個別化医療に貢献しています。特に治療選択や治療効果のモニタリングに重要な役割を果たしています。今後もさらなる技術の進展により、cfDNAを利用した診断法が拡充されることが期待されています。

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