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桃の呪い(The Curse of the P-Value)

有意水準が0.05未満だと有意な差であると言う考えは誰が言い出したのでしょうか?

有意水準が0.05未満で統計的に有意な差があるとする考えは、統計学者ロナルド・エイモン・フィッシャー(Ronald Aylmer Fisher)によって提唱されました。この考え方は彼の1925年の著書『統計学の数理的方法(Statistical Methods for Research Workers)』で初めて提示され、統計学における標準的な判断基準として広く受け入れられています。

フィッシャーは、0.05の水準を統計的検定において「有意」と見なすしきい値として提案しました。この水準は、研究結果が偶然によるものではないという確からしさを示す指標として使われ、科学研究における標準的な基準となっています。ただし、この値はあくまで一つの目安であり、研究の文脈や目的に応じて他の値(例えば0.01や0.10など)が用いられることもあります。

Fisherさんは、例のFisherの直接確立法の人でしょうか?

はい、その通りです。ロナルド・エイモン・フィッシャー(Ronald Aylmer Fisher)は「フィッシャーの直接確率法(Fisher's exact test)」を提唱した統計学者です。フィッシャーは20世紀の初めに統計学の分野で多大な貢献をし、現代統計学の基礎を築いた人物の一人として広く認識されています。

フィッシャーの直接確率法は、主に小さなサンプルサイズのデータセットにおいて、カテゴリカルデータ間の独立性を検定するために使用されます。このテストは、特に2×2の分割表(コンティンジェンシーテーブル)における独立性の検定に適しており、観測されたデータの構成に基づいて確率を計算します。フィッシャーの直接確率法は、特にサンプルサイズが小さい場合にカイ二乗検定よりも適切な結果を提供することがあります。

フィッシャーはこのような具体的な統計手法の開発に加えて、統計学の理論的な側面においても大きな影響を与えました。彼の提唱した0.05の有意水準の概念も、統計的推測の分野における彼の重要な貢献の一つです。

2x2の場合でも、1つのセルの数値が大きいと計算が大変ですよね。

はい、その通りです。フィッシャーの直接確率法(Fisher's exact test)は2x2のコンティンジェンシーテーブル(分割表)において使用されますが、セルのいずれかの数値が大きくなると計算が複雑になります。

このテストの計算は、与えられたマージン(行と列の合計値)と表内の値が観測される確率に基づいています。小さなサンプルサイズの場合、この確率は比較的簡単に計算できます。しかし、セル内の値が大きくなると、組み合わせの数が急速に増加し、確率を計算するのが難しくなります。

特に、セル内の数値が非常に大きい場合、フィッシャーの直接確率法の計算は非常に時間がかかり、計算資源を大量に消費することがあります。そのため、実際にはセルの値が大きい場合には、カイ二乗検定やその他の近似方法がより実用的な選択肢となることが多いです。

計算の複雑さを減らすために、さまざまな統計ソフトウェアやオンラインツールが利用されています。これらのツールは、フィッシャーの直接確率法の計算を自動化し、より効率的に行うことができます。しかし、計算の複雑さは依然として、特に大規模なデータセットにおいては重要な考慮事項です。

2x2の場合、セルの数値が0である場合は、何を用いるのがベターですか?

2x2のコンティンジェンシーテーブル(分割表)において、セルの数値が0である場合(ゼロの頻度が含まれる場合)、いくつかの異なる統計手法が用いられます。適切な手法は、データの特性と研究の目的によって異なります。主なアプローチには以下のようなものがあります:

  1. フィッシャーの直接確率法: このテストは小さいサンプルサイズやゼロの頻度を含む場合にも適用可能です。ゼロの頻度がある場合、フィッシャーのテストは正確なP値を提供することができます。

  2. カイ二乗検定の修正: ゼロの頻度がある場合、通常のカイ二乗検定は適切ではない場合があります。しかし、いくつかの修正方法(例えば、ヤーツの補正(Yates' correction)や、セルの頻度に小さな値(例えば0.5)を加える連続性の補正)を施すことで、カイ二乗検定を使用することができます。

  3. 確率モデルに基づくアプローチ: ゼロの頻度の問題に対処するために、一部の研究者はロジスティック回帰やその他の確率モデルを使用することを推奨しています。これらのモデルは、ゼロの頻度を含むデータに対してより柔軟に対応できる場合があります。

  4. 正確な条件付きテスト: ゼロの頻度が存在する場合、特に実験デザインがブロックや一致ペアのような条件付き構造を持つ場合に適しています。

どの手法を選択するかは、研究の目的、データの特性、および統計的な正確性と解釈の容易さのバランスに基づいて決定されます。統計的なアドバイスを得ることも重要ですし、特定のソフトウェアやツールの選択肢を考慮することも有効です。

以前は何でもかんでも有意差をつけることに必死でしたが、最近のアプローチはどうでしょうか?

近年の統計学では、単に有意差を見つけることに焦点を当てるのではなく、より広範なアプローチが採用されています。この変化は、以下のようないくつかの要因により促進されています。

  1. 効果量の重視: 統計的に有意な結果を見つけることは重要ですが、それと同じくらい重要なのが、その結果の効果量です。つまり、発見された効果がどの程度の大きさであるか、またそれが実際の世界でどのような意味を持つかを評価することが強調されています。

  2. 信頼区間の使用: 結果の不確実性を示すために、信頼区間が広く用いられています。信頼区間は、統計的推定の精度を視覚的に表示し、データの解釈に役立ちます。

  3. P値への依存の減少: 従来はP値が統計分析の中心でしたが、P値だけに頼ることの限界が認識されています。P値はデータの確からしさを測る一つの方法に過ぎず、他の多くの要因を考慮する必要があります。

  4. 再現性の危機と透明性の向上: 科学研究における再現性の問題が注目され、データと分析方法の透明性が求められるようになっています。研究方法、データセット、分析手順の詳細を共有することで、他の研究者が結果を検証しやすくなっています。

  5. 多変量解析と統計的モデリングの進化: 単一の変数間の関係を見るのではなく、複数の変数の相互作用を同時に考慮する多変量解析手法が一般化しています。

  6. データサイエンスと機械学習の影響: データサイエンスと機械学習の進歩により、より大きなデータセットの分析や、より複雑な関係のモデリングが可能になり、統計的手法の応用範囲が拡大しています。

これらのアプローチは、単に有意差を見つけることだけでなく、より正確で信頼性の高い科学的知見を生み出すことを目的としています。

研究計画の段階から、統計学者が介入することが好ましいですがとても面倒ですよね。 統計学者は理屈っぽいし。

研究計画の段階で統計学者が関与することは、確かに追加の手間や調整を要する場合がありますが、その利点は非常に大きいです。統計学者の関与は、データ収集の方法、研究デザインの最適化、適切な分析手法の選択、結果の正確な解釈といった面で研究の質を大幅に向上させることができます。以下はその主な利点です:

  1. 効果的な研究デザイン: 統計学者は、データ収集の方法や研究の設計を最適化することで、有効で効率的な研究デザインを提案できます。これにより、無駄な時間や資源の消費を避けることができます。

  2. データの適切な解析: 適切な統計手法の選択は、データの正確な解釈に不可欠です。統計学者は、データの種類や研究の目的に応じて、最も適切な分析方法を提案できます。

  3. 統計的な落とし穴の回避: 統計学者は、一般的な統計的な誤りや誤解を避けるのに役立ちます。これには、サンプルサイズの不適切な計算、過度なデータマイニング、誤った解釈などが含まれます。

  4. データの品質と信頼性の向上: 統計学者は、データの品質を確保し、分析の信頼性を高めるのに役立ちます。これにより、研究の結果がより強固で信頼できるものになります。

確かに、統計学者とのコミュニケーションは時に理論的で技術的な側面が強く、専門外の研究者には難解に感じられることがあります。しかし、このような専門性の高い知識とスキルは、研究の成功にとって非常に重要です。研究者と統計学者間の良好なコミュニケーションと協力は、研究プロジェクトの成果を最大化する鍵となります。統計学者の専門知識を活用することで、より正確で意義深い研究成果を得ることが可能になります。

どうしても、リソースが不足しがちな臨床研究や治験など、以下に少ない手順で検証試験を行い、申請する必要がある場合、探索的な研究は避けられ、P値による有意差検定で一喜一憂することがほとんどだと思います。

リソースが限られている臨床研究や治験の状況では、効率的でありながらも科学的に有効な研究手法を採用することが重要です。限られたリソースの中で検証試験を行い、結果を申請する際に、以下の点を考慮すると良いでしょう:

  1. 明確な研究目的の設定: 研究の目的を具体的かつ明確に定義することで、必要なデータと分析方法を特定しやすくなります。これにより、余分なデータ収集や分析を避けることができます。

  2. 効率的なサンプルサイズの計算: 統計的なパワー分析を利用して、必要なサンプルサイズを正確に計算します。これにより、不必要な被験者数の増加を避けつつ、研究の信頼性を保つことができます。

  3. 適切な統計手法の選択: P値に依存するのではなく、効果量や信頼区間などの他の統計的尺度を考慮に入れることで、より豊かなデータ解釈が可能になります。

  4. 多変量解析の活用: 単変量解析だけでなく、多変量解析を活用することで、データからより多くの情報を抽出し、複数の変数間の相互作用を評価することができます。

  5. 探索的な研究と確証的な研究の区別: 探索的な研究は新しい発見を生む可能性がありますが、確証的な研究は特定の仮説をテストすることに重点を置いています。目的に応じて、どちらのアプローチを取るかを決めることが重要です。

  6. 透明性と再現性の確保: 研究プロトコル、データ収集方法、統計分析手法を明確にし、研究の透明性と再現性を高めます。

リソースが限られている状況では、これらの戦略を用いることで、研究の効率性と効果性を最大化し、有意義な結果を得ることが可能です。また、統計学者との連携は、これらの目標を達成する上で重要な役割を果たすことが多いです。

基本的に、臨床研究や治験で集められる患者データも、かなり選択基準や除外基準によって実際の疾患のポピュレーションより偏ったものですよね。 得られた結果を、実際の臨床に外挿するには、市販後のモニタリングも重要だと思います。

おっしゃる通り、臨床研究や治験で集められる患者データは、選択基準や除外基準によって実際の疾患のポピュレーションから偏っていることがよくあります。これは、特定の条件を持つ患者を対象にしたり、特定のリスクを持つ患者を除外したりすることによるものです。そのため、治験で得られた結果が実際の臨床環境でどのように当てはまるかは、重要な問題です。

得られた結果を実際の臨床に外挿するためには、以下のようなアプローチが重要です:

  1. 市販後のモニタリング(Post-Marketing Surveillance): 薬剤や治療法が広範な患者群で使用される際の安全性と有効性を監視します。これには、長期的な副作用の監視や、異なる人口統計学的グループでの効果の評価が含まれます。

  2. 実世界データの利用: 電子健康記録や保健データベースから得られる実世界データを活用して、治験データの外挿性を評価します。実世界データは、より多様な患者群を含むため、実際の臨床環境での治療の効果や安全性をより良く反映することができます。

  3. 追跡研究: 治験後の追跡研究を実施して、長期的な結果や副作用を評価します。これは、治験期間中には観察できない長期的な影響を理解するのに役立ちます。

  4. 治験デザインの改善: 治験のデザインにおいて、より現実的な患者群を含めるよう努めることも重要です。これには、多様な人口統計学的背景を持つ患者の参加を促進する取り組みが含まれます。

これらのアプローチにより、治験結果の実際の臨床環境への適用性を高めることができ、患者にとってより安全で効果的な治療法を提供することが可能になります。市販後のモニタリングは特に重要であり、薬剤や治療法が実際の臨床現場でどのように機能するかを理解する上で不可欠です。

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