デトロイト・ロックでない・シティ
米国のデトロイト市は、一度破綻していましたよね。
はい、その通りです。デトロイト市は2013年7月18日に連邦破産法第9章(チャプター9)に基づく破産を申請し、米国史上最大の地方自治体の破綻となりました。
破綻に至った主な要因は以下の通りです。
自動車産業の衰退:デトロイトは「モーターシティ」と呼ばれ、米国の自動車産業の中心地でしたが、グローバル化や競争激化により、自動車産業が衰退。税収が大幅に減少しました。
人口減少:1950年代の180万人から、2013年には70万人まで人口が減少。中産階級の流出により、税収が更に減少しました。
財政管理の失敗:市政の非効率性や汚職などにより、財政運営が悪化しました。
不動産価値の下落:サブプライムローン問題に端を発した不動産市場の崩壊により、不動産価値が大幅に下落。固定資産税収入が減少しました。
その後、デトロイト市は財政再建計画を進め、2014年12月に連邦破産法裁判所から破産手続き終結の承認を得ました。現在は、経済の多角化や都市再開発などにより再生に向けた取り組みが続けられています。破綻から立ち直りつつあるものの、完全な回復にはまだ時間がかかるでしょう。
自治体の破綻とは、どういったことが起こるのでしょうか?
自治体が破綻すると、以下のようなことが起こります。
公共サービスの削減や停止 財政難により、ごみ収集、公園管理、街路照明、公共交通機関など、住民の日常生活に直結する公共サービスが削減または停止されることがあります。
公共施設の閉鎖や売却 学校、図書館、公民館などの公共施設が閉鎖されたり、売却されたりすることがあります。
職員の削減とサービス低下 自治体職員の削減により、行政サービスの質が低下することがあります。
債権者との債務調整 破綻した自治体は、債権者との間で債務の返済方法を調整する必要があります。その結果、債務の一部が免除されたり、返済期間が延長されたりすることがあります。
国や州による管理 国や州が財政再建を監督し、自治体の財政運営に関与することがあります。
税金や公共料金の引き上げ 財政再建のため、住民の税金や公共料金が引き上げられることがあります。
地域経済への影響 自治体の破綻は、地域の雇用や経済活動に深刻な影響を与える可能性があります。
自治体の破綻は、住民の生活に直接影響を及ぼし、地域社会に大きな混乱をもたらします。財政再建には時間がかかり、住民には痛みを伴う改革が求められることが多いのです。
どういった形で、再建が成されるのですか?
自治体の財政再建は、以下のような形で行われます。
財政再建計画の策定 自治体は、収支バランスの改善に向けた中長期的な財政再建計画を策定します。計画には、歳出削減、歳入増加、債務調整などの具体的な方策が盛り込まれます。
歳出の削減 人件費の削減、公共事業の見直し、補助金の削減など、歳出全般にわたる見直しと削減が行われます。
歳入の増加 税収の確保に向け、税金の引き上げや新たな税の導入、公共料金の改定などが行われます。また、国や州からの財政支援を受けることもあります。
債務の調整 債権者との交渉を通じ、債務の返済方法を調整します。債務の一部が免除されたり、返済期間が延長されたりすることがあります。
組織・制度の見直し 行政組織のスリム化、外部委託の推進、公共施設の統廃合など、効率的な行政運営に向けた組織・制度の見直しが行われます。
経済の活性化 企業誘致や起業支援、観光振興など、地域経済の活性化に向けた取り組みが行われます。税収の増加と雇用の創出を目指します。
住民との協働 財政再建には住民の理解と協力が不可欠です。自治体は、住民への情報公開を進め、意見交換の場を設けるなど、住民との協働を図ります。
財政再建には時間がかかり、住民には痛みを伴う改革が求められることが多いですが、自治体と住民が一丸となって取り組むことが重要です。また、国や州による支援や監督も、再建に向けた重要な要素となります。
公共のサービスが消滅または減少すると、余計に人口の減少が起こるのではないでしょうか?
その通りですね。公共サービスの消滅や減少は、人口減少に拍車をかける可能性が高いです。
利便性の低下 公共交通機関の削減、ごみ収集の頻度低下、公園の管理不足などにより、住民の生活の利便性が低下します。利便性の低下は、特に若者や子育て世帯の流出を招く恐れがあります。
教育環境の悪化 学校の統廃合や教育予算の削減により、教育の質が低下する可能性があります。教育環境の悪化は、子育て世帯の流出につながります。
医療・福祉サービスの不足 医療・福祉施設の閉鎖や予算削減により、高齢者や障がい者など、社会的弱者へのサービスが不足します。これにより、住民の健康や生活の質が低下し、人口流出につながります。
雇用機会の減少 公共部門の雇用削減により、地域の雇用機会が減少します。雇用の不安定化は、特に若者の流出を招く恐れがあります。
地域の魅力度の低下 公共サービスの低下は、地域の全体的な魅力度を下げます。魅力度の低下は、新たな住民の流入を妨げ、人口減少に拍車をかけます。
こうした悪循環を断ち切るためには、財政再建と並行して、地域の活性化に向けた戦略的な取り組みが必要です。例えば、民間企業との連携による公共サービスの効率化、特色ある教育の提供、起業支援などの施策が考えられます。また、住民との協働により、コミュニティの維持・強化を図ることも重要です。財政難の中でも、地域の持続可能性を損なわない工夫が求められます。
債権や借金は、とりあえず国か州が立て替えるのでしょうか?
自治体の債務を国や州が肩代わりするかどうかは、国や州の法制度によって異なります。
米国の場合 米国では、連邦破産法第9章(チャプター9)に基づき、自治体は連邦破産法裁判所に破産を申請することができます。この場合、連邦政府は自治体の債務を肩代わりしません。債務の調整は、裁判所の監督の下で、自治体と債権者の間で行われます。
日本の場合 日本には自治体の破綻処理を定めた法律はありませんが、過去に夕張市などの自治体が実質的に破綻した事例があります。その際、国や北海道が財政支援を行いましたが、あくまで自治体の財政再建を支援する立場であり、債務を肩代わりしたわけではありません。
ドイツの場合 ドイツでは、連邦州が管轄する自治体の債務について、連邦州が一定の責任を負います。自治体が財政難に陥った場合、連邦州が財政支援を行うことがあります。ただし、財政支援の条件として、自治体には厳しい財政再建計画の実行が求められます。
一般的に、国や州が自治体の債務を無条件に肩代わりすることは稀です。むしろ、自治体の財政再建を支援し、債務調整を促す役割を果たすことが多いと言えます。自治体の財政再建は、あくまで自治体自身の責任で行われるべきものであり、安易な債務の肩代わりは、モラルハザードを招く恐れがあるためです。
現時点で、デトロイト市の財政管理は、どこが行っていますか?
デトロイト市は、2014年12月に連邦破産法裁判所から破産手続き終結の承認を得て以降、市自身が財政管理を行っています。ただし、州法に基づき、州政府の監督下に置かれています。
財政監視委員会(Financial Review Commission) ミシガン州は、2014年にデトロイト市の財政監視委員会を設置しました。この委員会は、デトロイト市の予算、借入、契約などを監視・承認する権限を持っています。委員会は、市長、市議会議長、州財務長官など9名で構成されています。
市長と市議会 日常的な財政運営は、市長と市議会が責任を負っています。市長は予算案を作成し、市議会が審議・承認します。ただし、財政監視委員会の承認が必要な事項もあります。
財政再建計画 デトロイト市は、2014年に10年間の財政再建計画を策定しました。この計画に基づき、歳出削減、歳入増加、債務調整などの財政再建策を実行しています。
州政府の関与 ミシガン州政府は、財政監視委員会を通じてデトロイト市の財政を監視していますが、直接的な財政管理は行っていません。ただし、州法に基づき、財政悪化が続く場合は、州が緊急事態管理人を任命することができます。
デトロイト市は、財政の自立性を回復しつつありますが、完全な財政再建にはまだ時間がかかるとみられています。市の財政運営は、州政府の監視の下、市長と市議会が主導しながら、財政再建計画に沿って進められています。
市の公共サービスが民間に移行したりしないのでしょうか?
はい、財政再建の一環として、公共サービスの民営化や民間委託が行われることがあります。これは、民間の経営ノウハウや効率性を活用することで、コストを削減し、サービスの質を維持・向上させることを目的としています。
デトロイト市でも、以下のような分野で民営化や民間委託が実施されています。
ごみ収集 2014年に、ごみ収集業務の一部が民間企業に委託されました。これにより、コスト削減とサービスの効率化が図られました。
公園管理 市内の公園の一部について、非営利団体やコミュニティグループとの協働による管理が行われています。これにより、市の財政負担が軽減されると同時に、市民の公園への関与が促進されています。
公共照明 2014年に、市の公共照明部門が民営化され、公共照明機構(Public Lighting Authority)が設立されました。老朽化した街灯のLED化などを進め、コスト削減と街灯の維持・管理の効率化を図っています。
交通インフラ 市営バスの運営を担うDDOT(Detroit Department of Transportation)と、郊外のバス運営を担う SMART(Suburban Mobility Authority for Regional Transportation)との連携により、公共交通サービスの効率化が図られています。
ただし、公共サービスの民営化や民間委託には、サービスの質の低下やアカウンタビリティの問題など、デメリットもあることに留意が必要です。そのため、民営化や民間委託の是非は、サービスの特性や市民のニーズ、コストとベネフィットのバランスなどを総合的に勘案して判断されます。また、民営化後も、市による適切な監督と規制が不可欠です。
映画ロボコップでも、市の破綻で警察が民間に移譲されましたね。
その通りですね。1987年の映画「ロボコップ」では、架空の都市デトロイトが舞台となっています。映画の設定では、デトロイト市が破綻し、市の行政サービスの多くが民間企業に委託されています。
特に、劇中では警察部門がOCP(Omni Consumer Products)社に買収され、民営化されています。OCP社は、犯罪対策の一環として、警官の代わりにロボットを導入する「ロボコップ計画」を推進します。主人公のマーフィー警官が殉職した後、彼の身体を使ってロボコップが作られるという、物語の重要な設定になっています。
映画は、警察の民営化によって生じる問題を風刺的に描いています。OCP社は利益を優先するあまり、ロボコップの暴走を止められなくなります。また、民営化された警察は、企業の利害に左右され、市民の安全よりも企業の利益を優先してしまう危険性が示唆されています。
「ロボコップ」は、行き過ぎた民営化や企業の影響力の拡大に警鐘を鳴らす作品と言えます。現実のデトロイト市の状況とは異なりますが、公共サービスの民営化や民間委託を進める際には、accountability(説明責任)やtransparency(透明性)を確保し、市民の利益を最優先に考える必要があるという示唆に富んだ作品だと言えるでしょう。
いわゆるラストベルトの中心がデトロイトでしたか?
はい、デトロイト市は、いわゆる「ラストベルト」の中心都市の一つと言えます。
「ラストベルト」とは、アメリカ北東部・中西部の五大湖周辺の工業地帯を指す言葉です。20世紀前半、この地域は重工業、特に自動車産業の中心地として栄えました。デトロイトは、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、クライスラーの「ビッグ・スリー」と呼ばれる大手自動車メーカーの本拠地として知られ、「モーターシティ」の異名を持ちました。
しかし、1970年代以降、グローバル化の進展や産業構造の変化により、ラストベルトの工業都市は次第に衰退していきました。工場の閉鎖や海外移転により、失業率が上昇し、人口が流出しました。デトロイト市も例外ではなく、自動車産業の衰退と共に、深刻な経済的・社会的問題に直面しました。
デトロイト市の衰退は、ラストベルト全体の縮図とも言えます。重工業への依存、グローバル競争の激化、都市インフラの老朽化、人口流出などの問題は、ラストベルトの多くの都市に共通しています。
ただし、近年は、ITやサービス産業の誘致、起業支援、都市再開発などにより、デトロイトを含むラストベルトの都市の再生に向けた取り組みが進められています。産業構造の転換と都市の再生は、ラストベルト全体の課題として認識されています。
現在、巨大な自動車工場跡地は何になっていますか?
デトロイト市内の自動車工場跡地の多くは、現在、様々な用途に再開発されています。以下は、代表的な事例です。
ポラリス・パーク(Polaris Park) かつてのDodge自動車工場跡地に建設された複合施設です。製造業、流通、技術系企業のオフィスが入居しています。
I-94工業団地(I-94 Industrial Park) クライスラーの旧工場跡地に建設された工業団地です。物流、製造、技術系企業が進出しています。
ミシガン・セントラル駅(Michigan Central Station) 1913年に建設された歴史的な駅舎で、長年放置されていましたが、フォード社が買収し、自動運転車などの研究開発拠点として再開発を進めています。
ルージュ工場(Rouge Plant) フォード社の歴史的な工場群で、現在も一部で操業が続けられています。一方、敷地の一部は環境に配慮した産業団地として再開発されました。
ケンジントン工場(Kensington Plant) GM社の旧工場跡地の一部は、ランド・バンクを通じて地元コミュニティに譲渡され、都市農業や公園として活用されています。
パッカード・プラント(Packard Plant) 1903年に建設された歴史的な自動車工場跡地ですが、長年放置され荒廃が進みました。現在は、芸術家や起業家を呼び込む文化的拠点として再生が図られています。
これらの事例のように、自動車工場跡地は、産業の再生、新産業の育成、コミュニティの再生など、様々な形で再開発が進められています。デトロイト市は、これらの再開発を通じて、産業構造の転換と都市の再生を図っています。ただし、再開発には時間と資金が必要で、課題も残されています。工場跡地の再生は、デトロイト市の再生に向けた長期的な取り組みと言えるでしょう。
日本の夕張市も破綻しましたが、こちらも再建とまでは行きませんでしたね。
その通りですね。北海道夕張市は、2007年に財政再生団体に指定され、事実上の財政破綻に陥りました。夕張市の事例は、地方自治体の財政運営の難しさを示す象徴的な出来事として知られています。
夕張市の財政破綻の主な原因は、以下の通りです。
炭鉱の閉山:夕張市は炭鉱都市として発展してきましたが、1960年代以降、石炭産業の衰退により、主要な炭鉱が相次いで閉山に追い込まれました。
過大な投資:炭鉱閉山後、夕張市は観光事業に活路を見出そうとしましたが、大規模な観光施設への過大投資が財政を圧迫しました。
隠れ借金の存在:市の外郭団体が抱えていた多額の債務が、市の財政状況を実質的に悪化させていました。
財政再建団体に指定された後、夕張市は、公共事業の大幅な削減、職員の削減と給与カット、公共施設の閉鎖など、徹底した歳出削減を行いました。しかし、人口流出と高齢化が進み、税収の大幅な増加は見込めない状況です。
2021年に、夕張市は財政再生計画の変更を総務省に申請し、計画期間を2025年度まで延長することが認められました。当初の計画では2021年度での財政再建団体の脱却を目指していましたが、達成は困難と判断されたのです。
夕張市の事例は、産業構造の変化や人口減少に直面する地方自治体の財政運営の難しさを浮き彫りにしています。財政再建には長い時間がかかり、市民生活への影響も大きいと言えます。今後も、地域経済の活性化と持続可能な財政運営の両立が、夕張市を含む多くの地方自治体の課題となるでしょう。
山の上の遊園地は廃墟でしたし、大きな団地も明かりがほとんどありませんでした。
そうですね。夕張市の財政破綻の象徴とも言えるのが、山の上の廃墟と化した「夕張リゾート」と、人口減少で空き家が目立つ「清水沢地区」の高層団地群です。
夕張リゾートは、1980年代に建設された大規模な観光施設で、当時は夕張市の観光振興の中心プロジェクトでした。しかし、バブル経済の崩壊と共に客足が遠のき、2006年に閉鎖されました。現在は、荒れ果てた遊園地の施設や、土砂崩れで崩壊したホテルの残骸が、山の上に放置されたままになっています。
清水沢地区の高層団地群は、1960年代から70年代にかけて、炭鉱労働者とその家族向けに建設されました。最盛期には1万人以上が暮らしていましたが、炭鉱の閉山に伴う人口流出により、現在は多くの住戸が空き家となり、夜には明かりの灯らない窓が目立ちます。
これらの廃墟や空き家は、夕張市の衰退を象徴すると同時に、財政破綻の原因ともなった過大投資の結果を物語っています。観光施設への過剰投資は、維持管理コストを増大させ、財政を圧迫しました。また、人口減少は、住宅の余剰を生み、公共サービスの非効率化を招きました。
夕張市の再生には、これらの負の遺産をどう処理し、活用していくかが重要な課題となっています。例えば、団地の集約化や廃墟の撤去など、都市のコンパクト化を進める取り組みが求められます。同時に、地域資源を生かした新たな産業の育成や、移住者の呼び込みなども必要でしょう。財政再建と地域再生の両輪が、夕張市の持続可能な未来を切り拓くカギを握っていると言えます。
もともと、鉄道も終着駅ですし、本数もなく、交通も不便な土地での産業の育成は難しいと思います。あとは、気候の問題もあります。
その通りですね。夕張市の立地条件は、産業の育成や地域の持続可能性という点で、大きなハンディキャップになっています。
交通の不便さは、大きな課題の一つです。夕張市は、JR石勝線の終着駅であり、札幌方面への乗り換えが必要です。また、1日の運行本数も少なく、特に冬季は本数が更に減ります。こうした不便さは、人の移動や物流のコストを押し上げ、企業の進出を妨げる要因になっています。
加えて、夕張市は積雪寒冷地であり、冬は長く厳しい寒さが続きます。豪雪地帯でもあり、除雪などの対策に多額のコストがかかります。こうした気候条件は、農業や観光業など、屋外での経済活動に大きな制約をもたらします。
こうした立地条件の不利を克服するためには、発想の転換が必要かもしれません。例えば、豊かな自然環境を生かしたエコツーリズムや、雪を活用したウィンタースポーツの振興など、夕張市ならではの資源を活かす取り組みが考えられます。
また、情報通信技術(ICT)の活用により、物理的な距離の制約を克服することも可能です。テレワークの普及や、オンライン教育の充実などにより、仕事や学びの機会を広げることができるでしょう。
ただし、こうした取り組みを進めるには、デジタルインフラの整備が欠かせません。高速インターネット環境の整備や、ICT人材の育成など、ハード・ソフト両面での投資が求められます。
夕張市の立地条件は、確かに不利なものが多いですが、見方を変えれば、独自の強みを生み出すチャンスでもあります。地域の資源を生かし、創意工夫を重ねることで、新たな可能性を切り拓いていくことが期待されます。そのためにも、市民、行政、企業など、様々な主体の連携と協働が不可欠だと言えるでしょう。
しかし、それは北海道の場合、夕張市に限らない問題で、リソースを集約すべき好立地は他にも多いと思います。
その通りですね。夕張市の抱える課題は、北海道の他の多くの地域にも共通するものと言えます。
北海道は、全国的に見ても人口密度が低く、人口減少と高齢化が急速に進んでいます。特に、道東や道北、道央の一部など、産業基盤が弱く、交通の便が悪い地域では、人口流出と地域経済の縮小が深刻化しています。
こうした状況の中で、限られたリソースを効率的に活用するには、「選択と集中」の視点が欠かせません。つまり、立地条件の良い地域に、人材や資金、インフラなどのリソースを戦略的に集中投下し、産業の育成や都市機能の強化を図ることが重要です。
例えば、札幌市や函館市、旭川市など、道内の主要都市は、交通の要衝であり、一定の人口集積と産業基盤を有しています。こうした都市を中心に、経済活動を活性化し、雇用を創出することで、周辺地域への波及効果も期待できるでしょう。
また、北海道新幹線の延伸や、道内空港の機能強化など、高速交通ネットワークの整備も重要な施策と言えます。人やモノの移動時間を短縮することで、地域間の連携を深め、経済活動の効率化を促すことができます。
ただし、こうした「選択と集中」の戦略を進める一方で、地方部の持続可能性をどう確保するかも大きな課題です。過度な集中は、地域間の格差を拡大しかねません。
地方部の役割を再定義し、それぞれの地域の特性を生かした発展の道筋を描くことが求められます。例えば、食料供給基地としての農業の強化や、豊かな自然を生かしたツーリズムの振興など、都市部とは異なる価値を提供することが考えられます。
北海道の持続的発展のためには、「選択と集中」と「地方創生」のバランスを取りながら、地域の多様性を活かす包括的な戦略が必要だと言えるでしょう。そのためにも、道内の自治体間の連携や、国や民間企業との協働など、オール北海道での取り組みが期待されます。
日本において、夕張市以外に財政破綻した地方公共団体はありますか?
はい、夕張市以外にも、いくつかの地方公共団体が財政難に陥り、財政再建団体に指定されています。主な事例は以下の通りです。
北海道赤平市 炭鉱の閉山により財政が悪化し、2016年に財政再生団体に指定されました。
北海道歌志内市 炭鉱の閉山と人口減少により財政が悪化し、2018年に財政再生団体に指定されました。
北海道江差町 水産業の不振と過疎化により財政が悪化し、2016年に財政再生団体に指定されました。
福島県矢祭町 過疎化と高齢化により財政が悪化し、2017年に財政再生団体に指定されました。
新潟県粟島浦村 離島という立地条件から財政基盤が脆弱で、2020年に財政再生団体に指定されました。
これらの自治体は、産業構造の変化や人口減少、過疎化などにより、税収が減少する一方で、社会保障費などの支出が増加し、財政状況が悪化しました。
財政再生団体に指定されると、国の管理下で財政再建計画を策定し、歳出削減や歳入増加に取り組むことが求められます。それでも、財政再建には長い時間がかかるのが実情です。
また、財政再生団体には至らないまでも、多くの地方自治体が財政難に直面しています。総務省の調査によると、2022年度に公債費負担適正化計画を策定した地方自治体は、全体の約1割に上ります。
地方自治体の財政悪化は、日本全体の課題と言えます。地域経済の活性化や持続可能な行財政運営のあり方が問われています。国と地方が連携し、地方分権改革を進めながら、この難題に取り組んでいくことが求められています。
国や県は、限界集落対策になかなか腰が重いですね。
そうですね。国や県の限界集落対策は、必ずしも十分とは言えない状況が続いています。
限界集落とは、高齢化率が50%以上で、社会的共同生活の維持が困難な状態に置かれている集落を指します。過疎化と高齢化の進行により、全国に多数の限界集落が存在しています。
国や県が限界集落対策に消極的な理由としては、以下のような点が指摘できます。
財政的な制約 限界集落の維持・再生には、インフラの維持や福祉サービスの提供など、多額の財政支出が必要です。しかし、国や県の財政状況は厳しく、限界集落対策に十分な予算を割くことが難しい状況にあります。
政策の優先順位 人口減少対策や地方創生など、国や県が取り組むべき政策課題は山積しています。その中で、限界集落対策の優先順位が相対的に低くなる傾向があります。
効率性の重視 人口が少なく、高齢化が進んだ限界集落への投資は、費用対効果の面で非効率と捉えられがちです。「選択と集中」の観点から、より条件の良い地域に資源を集中投下する政策が優先される傾向にあります。
政治的な理由 限界集落の多くは、有権者数が少なく、政治的な影響力が小さいと見なされがちです。このため、国会議員や県議会議員にとって、限界集落対策に積極的に取り組むインセンティブが働きにくい面があります。
しかし、限界集落の問題は、地域の多様性や文化の維持、国土の管理など、国や県全体に関わる重要な課題です。短期的な効率性だけでなく、長期的・社会的な視点から、限界集落対策に取り組む必要があります。
具体的には、集落の実情に合わせたきめ細かな支援策の拡充や、地域運営組織の育成、小規模集落の集約化など、ソフト・ハード両面での施策が求められます。加えて、都市部との交流や移住の促進など、集落の活性化に向けた新たな取り組みも期待されます。
国や県には、限界集落問題の重要性を再認識し、省庁横断的な対策を講じていくことが求められていると言えるでしょう。同時に、市町村や地域コミュニティ、NPOなど、様々な主体との連携・協働を図ることも重要です。地域の持続可能性を確保するための息の長い取り組みが必要とされています。