見出し画像

「帰りたくないな。」を歌う日があるとすれば

2022年5月3日。JAPAN JAM 2022のアンジュルムを観るために早朝から蘇我に向かった。2日前のモーニング娘。'22でグッズが即完する事件が起こったので、買い逃す可能性を予測して開場前には着こうと思い、前日は5時起き想定で22時頃床に就いたものの、全くもって眠れなかった。興奮状態で思考が収まらず、睡眠アプリで鎮めようにも効き目なし。結果的に1時寝4時起きという、フェスを舐め切ったコンディションをとってしまった。まあ、無事に起きれたので何よりか。

駅の乗り換えがうまくいき、8時過ぎに会場に到着した。2日前よりもなんだか人数が多い気がする。こんなにたくさんの人たちがアンジュルムを見てくれるかもしれないのか…とじーんときながら列に並ぶ。開場したらスムーズに入場できて、日差しの強い中無事グッズを確保し、アンジュルムの出番を待つ。

その間に、以前から面識はあったけど、なかなか現場でご一緒することのなかった人たちと合流した。お互いに第一声が「いつも見てます!」「声でわかりました!」で、これまで経験してきた初対面の挨拶を基準にすると、どんな出会い方だよってツッコんじゃうけど、新鮮でなんだか面白かった。「ネットでの出会いは危険」と教えられてきた時代からは隔世の感。むしろ、普段のツイートやテンションを知っているからこそ、普通の初対面とは違って安心感がある。スペースのお陰で声もわかっているし。ありがとね、スペース。

ご挨拶してから一緒にお酒を飲んだり、渡すものを渡したりしていたらあっという間に12時が近づいてきた。前方エリアを確保できたので少し余裕をこいていて、3分前とかにようやく席についた。歴戦のオタクたちがじっと着席している。ステージの裏から聞こえてきた円陣の掛け声に一瞬ざわついた後、皆さんいつ立つのだろうか、とそわそわしていたら、1分前くらいに次々続々と立ち上がっていく。4ビートのクラップが波紋のようにどんどん広がっていく。コロナ禍で久しく味わっていなかった現場の「異常空間」を体感し、武者震いした。

手拍子の音が最高潮に達した瞬間、巨大なモニターに「アンジュルム」と表示され、聞いたことのない熱いSEが流れ始めた。まるで戦に出陣する武士たちを鼓舞するかのような熱い音楽に合わせて、アンジュルムが入場する。最新最強の10人が横並びになり、2人ずつポーズを決めていく。立ち位置につき、音楽が止む。過去最大級のステージで、アンジュルムの戦いが始まった。

そこからは一瞬だった。事前に予想していたセットリストよりもずっと戦闘モードで、いつも以上に熱く、激しく、美しく、楽しく、全身全霊ではっちゃけるアンジュルムが、40分間の尺をたっぷり使い、大きなステージを縦横無尽に暴れ回っていた。竹内さんや佐々木さんの、会場全体へ響き渡る見事な煽りによって、観客のひとりも置いてきぼりにすることなく、全員を巻き込んで伝説のステージを一緒につくりあげた。この素晴らしい時間をつくる一員になれたことが誇らしい。写真に映るあの壮観な景色は既に過去になってしまったが、確かに在ったのだと、身体に未だ残っている熱が証明している。

愛・魔性と赤いイヤホンの繋ぎで大興奮したり、出す杭で汗だくになったり、大器晩成で3年ぶりの全力ジャンプやヘドバン合戦をかましたり、46億のクラップでひとつになったり、ダメ押しのべきべきで完全燃焼したり。あっという間の40分間は、あの抜けるような青空と共に記憶に焼き付いている。もし身体が複数あったら、大器晩成のジャンプが後方までどんどん伝染していく景色を見てみたかったけれど、そんな贅沢なことは言えない。あの景色の一部になれてよかった。ただただ、幸福感で満たされています。

そこからは、遠くで流れる音楽を背に、余韻に浸りながらみんなと酒を飲む時間を過ごした。TLの人たち全員集合みたいな時間があり、「◯◯の方ですよね?」なんて挨拶を交わすのがおかしかった。「アンジュルムを好きになると友達が増えるんだな」を実感した。特に示し合わせたわけじゃないけれども、数人で一緒に行動して、一緒にアーティストのライブを見て、時折別のフォロワーさんとエンカウントして輪が広がっていく瞬間があったりして、2019年に1人で行ったフェスとは全然違うな、楽しいな…とふわふわしていた。会っていただけた皆さんありがとうございました。会えなかった方もまたどこかで。

10年前に一番好きだったmiwaとこんなところで再会したのも不思議だった。「don’t cry anymore」「chAngE」「again×again」「ヒカリヘ」といった懐かしい音楽が、かつてと全く変わらない声で青空に響き渡っていて、色んな記憶の扉が開いていった。随分遠くまできたもんだ。

BiSHやフジファブリックの音楽で踊ったり沁み入ったりしているうちに、日が沈み始める。スタジアムの方で休憩していたら、遠くからUVERworldの熱い音楽が聴こえてきた。日が沈み、暗くなったSUNSET STAGEが眩い光に照らされ、大勢の人間が音に乗せて蠢く様は絶景だった。ロックバンドのMCは「クサい」と思ってしまうことが多々あるけれど、TAKUYA∞のMCには心をギュッと掴まれた。UVERのステージを観ていたらしいアンジュルムの皆は何を思ったのだろうか、なんてことも考える。

SUPER BERVERがはじまった辺りで一度寄せ書きコーナーを眺めにきたら、アンジュオタの主張が全体的に強すぎて笑った。それぞれのオタクが浮かれまくっているのがわかる。後日この寄せ書きに関してとある事件が起こったのだが、その件も含め、あの会場に足を運んだオタクのひとりひとりに物語があり、普通に生きてたら決して交わることのなかったそれぞれが、あのボード上で奇跡的に交わったんだな、となんだか感慨深くなった。

SUPER BEAVERのMCもだいぶ沁みた。「俺は音楽の力を信じているわけじゃない。人間の力を信じている」的なことを言っていた。私もただ音楽を聴きたいだけだったらこのフェスに来ていなかったと思う。アンジュルム(とアンジュオタ)が音楽というツールを用いて作り上げる熱狂的な空間を体感したかったからこそ、わざわざ早起きしてやってきたのだ。そして、その甲斐は確かにあった。アンジュルムが味合わせてくれたものは格別だった。またここで熱狂したいと思った。もっともっと大きな景色を見てみたいとも思った。そのためにも、自分は自分の人生をがむしゃらに生き抜こう。基本的に腑抜けな私をしゃきっと立たせてくれる、音楽って、人間って偉大だ。

最後の曲がかかった頃合いで、今日一緒に回った友人たちと少し早く会場を出る。更に書き込みが増えているボードの前に着いた時、ひとりが「せっかくだし写真撮りませんか?」と誘ってくれた。映ることに苦手意識があるので最初は断っていたのだけれども、最終的に一緒に撮ってもらった。その写真が、あの日が存在した確かな証拠となっている。撮りましょう、と強く誘ってくださったお陰でより良い思い出になりました。本当にありがとうございます。

夜が深まり、祭りは終わりに近づく。出会った人たちと帰路に着き、ひとりずつ電車から降りていき、また別々の人生を歩んでいく。羞恥が勝ってアンジュルムみたいにはできなかったけれども、「帰りたくないな。」を歌う日があるとすれば今日この瞬間だな、とひそかに思っていた。あの帰り道にあの曲がしっくり来すぎて、この歳になってもこういう瞬間が訪れるなんてな…と泣きそうになった。小出祐介が歌った〈青春が終わって知った/青春は終わらないってこと〉というフレーズも脳内に浮かんだ。すっかり大人になってしまったけれど、今日この日のすべてが青春だった。何もかもアンジュルムのお陰だ。本人達は「皆さんのお陰」と言ってくれるけれど、それでも私はあなたたちのおかげだよ、と言いたい。蒼井さんや菊池さん、堂島さんのようにダイレクトに返すことはできないと思うけれども、どんな小さなことでもいいから、いつか貰った分だけ返したい。BIG LOVEを還元したい。


2022年5月3日。この日の記憶を大切にしまって、今日も生きていこう。がんばろうーたん。