人工衛星の軌道についてわかりやすく説明してみた 〜ISS低し、「ひまわり」高し 〜目で見るロケット図鑑 コラム
これまで様々なロケットについて紹介してきました。まだまだ歴史上のロケットの説明は続いていきます。しかしながら、ロケットを説明するときにどうしても避けては通れないことがあります。それは、「人工衛星の軌道の種類」についてです。必ず理解できるように、絵やイラストをふんだんに描きました。絵やイラストは、あくまで参考です。
◎キーフレーズ
ISS(国際宇宙ステーション)低し 「ひまわり」(気象衛星)高し
1.なぜ、このことを知る必要があるのか?
私は、人工衛星のことは、さっぱりです。しかし、ロケットについて調べていると、突然「低軌道に〇〇tの荷物を運ぶ」や「GTOに〇〇tの人工衛星を運搬する能力がある」という文が出てきて少々困惑します。
そもそもロケットの役割は、人工衛星や探査機、宇宙船を宇宙へ運ぶことです。ですから、ロケットは人工衛星をその用途や目的に応じ、適切な軌道に運ぶ必要があります。つまり、ロケットの能力をさらに詳しく知るためには、「軌道」について知らなければなりません。
例えば、どんなロケットでどういった表記のされ方がするのか、例を挙げてみます。
・ファルコン9(アメリカ SpaceX)・・ LEO2280 GTO8300
・ソユーズ2,1a(ロシア)・・LEO305000 SSO4400 GTO3250
・H2A(日本)・・LEO10000-16500 SSO3600-4400 GTO4000-6000
2.基本用語
人工衛星関連でよく使われる言葉をわかりやすく説明していきます。
・軌道・・・人工衛星の通り道。
人工衛星の軌道がえがく平面には、必ず地球の中心が含まれる。
地球の周りを回る軌道は「地球周回軌道」といわれる。
・赤道面・・・宇宙空間で、地球を赤道で輪切りにした面。赤道面に地球の中心
がある。北極と南極を結んだ線と垂直に交わる。
・軌道傾斜角・・人工衛星の軌道面と赤道面がつくる角度。
↓真横から、それぞれの要素だけを描いた模式図
軌道の形の種類は主に2つあります。
円軌道と楕円軌道です。
円軌道は、地表に対する人工衛星の高さが常に同じ(一定している)です。それに対し、楕円軌道は、同じではありません。特に、「近地点」と「遠地点」という言葉を使います。
・近地点・・・軌道上で地球から一番近い場所
・遠地点・・・軌道上で地球から一番遠い場所。
3.人工衛星の主な軌道
ここから一気に紹介していきます。軌道の名前、説明(高度何キロぐらいか、性質)、今その軌道にいる人工衛星の具体的な例を書いていきます。わからない用語がある場合は、2の説明を読んでみてください。
① 低軌道(LEO)
高度2000km以下(だいたい北海道の端から鹿児島の端ぐらいの距離)の地球周回軌道。低い軌道なので、小型のロケットでも打ち上げが可能です。例として、国際宇宙ステーション(ISS)は400km(東京から神戸ぐらい)の軌道に位置しています。また、引退してしまったスペースシャトルも同じくらいの高度を飛行してました。そして、地球に壮大な宇宙の写真を届けてくれる「ハッブル宇宙望遠鏡」も低軌道で観測しています(600km)。
②中軌道(MEO)
高度2000km以上から高度約3万6000km(静止軌道)までの地球周回軌道。現代の生活に欠かすことのできないGPS衛星がこの軌道にいます。
③高軌道(HEO)
高度3万6000kmの静止軌道より外側の地球周回軌道。
ここまで3つの軌道を見てきました。これら3つは、全て軌道の大きさ(地表からどのくらい離れているか)を基準に分類したものです。
軌道の地表面からの距離を表す名称は、「高度100kmジャスト」のような値ではなく、「大体〇〇mから△△m」と幅を持つ大まかな値であることが理解できました。だから、図にするとこんな感じです。あくまで「範囲」での分類です。
④静止軌道(GEO)
高度約36000kmの位置にある軌道。地球の赤道上に存在します。そもそもなぜ静止衛星というのでしょうか。それは、人工衛星が地球の自転方向と同じ方向に、かつ自転速度と同じスピードで周回しているからです。つまり、人間が地球から静止軌道上にいる衛星を見ると、止まっているように見えるのです。そこからこの総称がつけられました。静止軌道上にいる人工衛星は、私たちにとって最も身近で、死ぬまで使わない日はない衛星たち。そう、通信衛星、気象衛星、放送衛星たちがここから地球のために活躍してくれています。
◎例・・気象衛星「ひまわり」
日本版GPSともいわれる「みちびき」
⑤静止トランスファ軌道(GTO)
静止軌道に人工衛星を送るときに使われる軌道。近地点が低軌道にあり、遠地点が静止軌道にあります。これは、僕の感覚ですが、ロケットの多くは静止軌道上にある気象・通信衛星を打ち上げるので、ロケットの能力の説明にはよく登場します。
⑥極軌道
北極と南極の上空を通過する軌道。高度は600kmから800kmです。①から⑤は、横回りの軌道だったのに対し、この軌道は縦回りの軌道になります。軌道傾斜角は90度です。人工衛星が軌道を周回している時に、地球は自転をします。そのため、少し長い時間になりますが地球全体を見ることができるのです。この軌道には、地球観測衛星が多く投入されています。例えば、「だいち2号」や「しずく」が有名です。
⑦太陽同期軌道(SSO)
太陽光線と衛星の軌道面のなす角が常に一定となる軌道です。
ざっとこんな感じです。いろんな種類の軌道があります。最も大事なことは、明確な目的を持った人工衛星をその目的に沿った軌道へ投入することだと思います。
今後、さらに宇宙ビジネスが盛んになってくると日々感じます。もし、このnoteをみてくれた方が宇宙開発に関わるようなことがあれば、少しでもお役に立てたらなあと思ってます。
そして、ここまで読んできた方なら理解していただけると思いますが、ロケットや衛星を作るには、専門的知識が必要です。しかし、今の時代、宇宙開発は専門の分野ではないのかもしれません。その理由は、その技術を使って生活している以上、技術的な貢献をしているからです。そう、静止軌道にいる衛星が生活に欠かせないように。
<さらに詳しく知りたい方へ>
(人工衛星ガイドブックは、本当に詳しく書かれています)
<参考資料>
・JAXA上記のホームページ
・ロケットの科学 改訂版 谷合稔 サイエンス・アイ新書 P62
・宇宙プロジェクトがまるごとわかる本 エイ出版社