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人が人に残し、そして伝えていく写真。

ある日、リュックについているそのバッジの意味を僕は何気なく尋ねた。

「大阪洗浄」という文字が印刷されている少し派手な色遣いのそのバッジの意味を、僕はイベント好きなその人から何かのバンドのライブグッズだろうと軽い気持ちで尋ねたのだった。

しかし、それはそんな軽いものではなかった。

水害などで傷んだ写真をキレイに洗浄して、持ち主へお返しするというボランティアの物だったのだ。

そもそものきっかけは、写真家の浅田政志さんだと言う。

正直言って、僕はその人を知らなかった。

しかし『浅田家』という作品になら聞き覚えがあった。

本屋さんが大好きな僕は、二宮和也さんが主演した映画の同名小説をたびたび店頭で目にしていたのだ。

しかし、それ以上は知らなかった。

そこで、本とディスクを貸して頂いた。

内容は浅田政志さんの半生に基づいたもので、彼がどうやって写真家になり、どんな写真を撮ってきたかを面白おかしく振り返るものだ。

浅田さんの作品の特徴は、家族写真。

でもそれは、よくある家族の写真とは違って、家族総出でいろんなコスプレをしながら、様々な役になりきって撮られている。

ある時は消防士、ある時は極道の妻、ある時はレーサー、ある時は疲れたヒーロー。家族の夢を写真の中で叶えていくのだ。

写真家である政志さんを撮っているのは写真ではなく、小説であり、映画だ。

あまり詳しくは書かないけれど、後半は冒頭のボランティアの活動へとつながっていく。

小説を読んで僕は泣いた。

電車の中で読んでいて、ちょうど駅に着いたので続きを読んだら、涙があふれてきて、ここがホームで良かったと思った。

映画は先ほど観終えた。その間に職場の方が亡くなったので、ちょっとすぐ観る気にはなれなかったのだ。

僕はあるシーンで、どうしてもその人と重ね合わさずにいられなくなり、号泣した。家で良かった。

いい映画と言うのは、目の前の映像だけで感動するものではない。そのシーンの余白から想起する自身の体験を呼び起こすものだ。それは時に自分のことであり、時に誰かへの思いである。

その意味でこの映画は僕にとって忘れられないものであり、これからも時々脳内再生される作品になるだろう。

写真は過去のものだ。

でも見ている人は今である。

そして撮っているのは人間である。

人から人へ伝えられていくものは他にもあるけれど、想い出の写真はどんな動画よりも雄弁にその人に語りかける。

曖昧だった記憶は見るたびに鮮明になり、また忘却へと押しやられる。

フェイスブックで亡くなられた方を検索してみたら、2013年で更新が止まった彼の写真があった。

一般人の実名登録があの時の彼を残していたのだ。

写真の中の彼は永遠に歳を取らない。いつまでも笑顔の彼である。家族写真に今後彼が写ることはないけれど、奥さまとお子さんにとってはこれからもずっと一緒にある大切な宝物であり、今を生きる心の支えになっていくものだろう。

いつか家族を撮る時の彼の表情を思い出し、微笑みながらページをめくる日が来ることを心から願います。

素敵な作品に出会えたことに感謝。

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