運動と脳機能の研究~大学院生奮闘記 博士課程編⑨~
初めての論文アクセプト
博士1年の夏。修士課程時に従事した研究の論文が国際誌にアクセプトされた。メジャーリビジョンを2回もらっての、マイナーリビジョンを1回もらい、それらをクリアしてのアクセプトであった。アクセプトの通知がメールで来た瞬間は今でも忘れられない。学部は機械工学で、英語は全くできなかった。英語の授業中に先生から教室から出ていくよう言われ帰ったほどだ。ただ運動と脳機能が好きというだけで専攻を変えて突っ走り、勢いしか武器がなかった自分が、英語で執筆した論文が掲載するところまで至った。もちろん、自分一人の力では100%無理だった。共同研究のS先生と修士課程時代の指導教官の先生のお力添えなくして、この論文は生まれなかった。先生方には感謝してもしきれないくらいの恩がある。
論文が国際誌に掲載されるまでの流れ
論文が国際誌に載るプロセスは、まず論文を投稿する→国際誌のエディターがチェックする(ここで、論文が投稿先の国際誌のテーマに合わなかったりすとリジェクトされる。これを通称、エディターキックという)→エディターが論文を掲載してもよいか審査員(レビュワー)に論文を送る(だいたいの国際誌において、二人のレビュワーにが審査される。時には、一人だったり三人だったりもする。基本的に選ばれるレビュワーは、該当研究における専門の研究者で、世界中から選出される)→レビュワーが掲載に値しないと判断すれば、その判断がエディターに送られ、最終結果としてリジェクトされる可能性が非常に高くなる→レビュワーが論文は掲載に値すると判断すれば、その判断がエディターに送られ、エディターが最終的な判断を下す。論文を投稿したからと言って、簡単に国際誌に掲載されるわけではない。
掲載されるためには、レビュワーから指摘される修正点を全てクリアして初めて掲載される。掲載される可能性がある判断結果としては、次の2つがある。一つはマイナーリビジョンというものだ。それぞれのレビュワーからのコメントが2、3つぐらいで、修正も簡易なものだ。もう一つはメジャーリビジョンといって、レビュワーから修正点や指摘される個所が10個以上におよび、論文全体を通して、大幅な修正が求められる。中には、追加実験をして、そのデータを載せるよう求められることもある。メジャーリビジョンでは掲載される可能性が残っているが、気が抜けない。レビュワーのすべてのコメントに返答できなければリジェクト、つまり掲載が見送られる可能性があるからだ。
基本的には、メジャーリビジョンを通してマイナーリビジョンになり、最終的にアクセプトの通知が届き、そのあと校正をし、最終的に国際誌に論文が掲載される。このプロセスは、遅いと1年以上かかることもあり、実験したからすぐに国際誌に論文が掲載されて、世の中に公表されるというものではない。なので、今公表されている研究結果は、数年前から行われている研究の成果が公表されているかもしれない。(掲載までの期間は、その国際誌ごとに異なるため、一概にどれくらいで論文が掲載されるか明確なことは言えない。)
大学院生として研究の道へ第一歩を踏んだ者なら、このアクセプトの通知がどれほど嬉しいことかが分かると思う。前にお世話になった先生が、「若手の研究者での、国内誌1本は100万円、国際誌1本は1000万円の価値がある」とおっしゃっていた。実際にはどんだけ論文執筆を頑張っても、著者にお金が入ることはほとんどない。むしろ、掲載費とか英文校閲費などでお金を支払わなければならない。ただ、研究資金を獲得するためには、論文を多く書いた研究者の方が有利になるという現実がある。この一本一本の論文の積み重ねが、何百万や何千万の研究費獲得につながってくる。
博士課程で進学先を変えるデメリットの一つ
博士課程で進学先を変えた学生は一つ気をつけなければならないことがある。それは、修士で行った研究成果が、博士の学位審査では全く役に立たないということだ(もしかしたら、大学や研究室によっては活かされるのかもしれない。ただ、自分の場合は、全く活かされなかった)。修士から一貫して同じ研究機関や大学で研究を行っていれば、修士時の研究成果が博士の学位取得に活かせるだろう(研究というものは一貫したテーマで行われることが多いため、修士課程から博士課程まで一貫したテーマで行っていれば、そのテーマに関する限り博士の学位取得に活用できる可能性が高い)。
博士の学位取得の審査基準は、各大学や専門分野によって異なるが、査読付き(レビュワーによる審査付き)の国際誌または国内誌に論文を載せていることが最低条件になることが多い。自分は、博士1年で国際誌に論文が掲載されたが、博士の学位にはつながらないので、標準就学年が3年であるところを、1年留年して4年かかって博士を取得した。そのようなデメリットがあるのも考えて、博士課程の進学先を選んだほうが良いと思っている。だが、そのデメリットを上回るメリットがあるなら、進学先を変えた方がいいと思う。自分は、メリットの方が圧倒的にあると考えたため、博士課程での進学先変更に躊躇は無かった。
まだまだプレ実験段階の自分
このような現状から、自分はこの論文のアクセプトの結果で喜んびに浸り続けることはできなかった。博士になって研究を始め、一刻も早く論文を執筆し国際誌に載せなければ、博士の学位を取得できない。そんな中、ようやく予備実験(本実験に入る前のプレ実験ともいう)が始まった。プレ実験では、本実験に入るために実験手順の詳細を決めたり、決めた手順通りの実験でデータが得られるかなどのという検証をして、研究計画書に修正点がないか確かめる実験である。このプレ実験はいくらやっても、論文にはならない。論文を執筆するには本実験を始めなければならないからだ。
このプレ実験に至るまで、K先生と何度も何度ミーティングを重ね、研究計画書を練った。また指導教官の先生とも何度も協議し、実験ができるまでの研究計画を作りあげた。ようやくここまできた。だが、まだプレ実験。本実験の開始にはまだまだ時間がかかる段階にいた。前が見えない不安のなかでも、ランニングが自分にとって精神的な支えで、走ることで前を向いて頑張ることができた。