運動と脳機能の研究~大学院生奮闘記 修士課程編⑤~
初めての国際学会
修士2年の時、スペインのバルセロナで開催されたヨーロッパスポーツ科学学会が初めての国際学会となった。修士課程で国際学会に参加するのはなかな珍しいと思う。だいたいは、博士課程に入ってから国際学会に参加する人が多いだろう。自分にとっては修士だろうが博士だろうが関係なかった。いち早く世界で挑戦できる機会を探していた。何より、勉強していた英語がどこまで通じるか試したいという気持ちが強かった。
学会の発表形式には大きく二つに分けられる。口頭発表とポスター発表だ。口頭発表とは、聴衆の前に登壇し、スライドを用いながら研究成果を発表する形式である。ポスター発表とは、一枚のポスターに研究の概要を纏め、指定された場所にそのポスターを貼る。発表者はそのポスターの近くに立っており、興味ある研究者が自分のポスターの前で足を止めたら、その方に対して説明するというものである。口頭発表では一度で多くの研究者に研究を紹介できる利点があり、ポスター発表では一対一で密な研究紹介ができるところに利点がある。
今回参加したヨーロッパスポーツ科学学会は特殊で、口頭発表とポスター発表に加え、ミニオーラル発表というのがある。これは口頭発表とポスター発表を合わせたような形式である。研究内容を1枚のポスターに纏め、聴衆がいる中で、発表時間が2分と質問時間が2分の合計4分の持ち時間で自分の研究を紹介するという発表形式だった。
自分には早口という欠点がある。早口でもアナウンサーみたいに滑舌が良ければよいが、滑舌も最悪でよく噛むので、人の前で発表できたもんじゃない。ただ、唯一の長所は緊張しようがしまいが前にどんどん出ていくスタイルなので、特に物怖じすることがない。おそらく普段行っているランニングと筋トレのおかげだろうと勝手に考えている。
国際学会の発表で大切なこと
発表時間も2分しかないので緊張しようにも緊張できない。質疑応答もまあ何とかなるだろうと思っていたので特に緊張しなかった。実際に本番では何とかなった。研究発表よりも、普段勉強した英語が伝わったのと、質疑応答もしっかり聞き取れて返答できたことが嬉しかった。この後、調子にのって、数人の研究者の質疑応答の時に手を挙げて質問した。自分の大したことない質問で貴重な2分を奪ってしまったことは申し訳なかった(とは、1mmも思わなかった)。
この時感じたのは、国際学会での発表では、英語はもちろん大事だが、それ以上に心構えの方が圧倒的に大事であると感じた。ヨーロッパの学会ということもあり、母国語が英語でない研究者が多く参加していた。完璧な英語を話さなくても、堂々として話せば通じることが判明した。この経験は、博士進学してからの国際学会発表でも活かされた。博士課程に進学してからは、学会発表で緊張するということはほとんどなかった。
K先生との偶然の出会い
自分の研究発表も終わり、少しゆっくり過ごそうとしていた時に、学会会場の廊下で偶然K先生と遭遇した。運動と脳機能ではおそらく世界のトップを走っていると言っても過言ではない研究室で研究員をしていたK先生は自分にとっては憧れの研究者だった。自分も博士の学位を取得したら海外の研究機関で研究したいと考えていたため、すでにその夢を実現されていたK先生を尊敬していた。そのK先生もこの学会に参加されていた。
共同研究していたS先生も自分と同じく学会に参加していた。S先生はアメリカでK先生と同じ研究室で一緒だったこともあり、S先生とK先生で話が進みスペインで食事をすることとなった。
発表が終わったという解放感もあって、お酒が進んだ。晴天のもと、スペインで飲むワインは格別だった。少し飲み過ぎたあたりで、自分はK先生にこんなことを言っった。「研究でK先生を超えたいです!」っと。たかが修士2年の青二才が、研究業績をバンバン生み出す先生に言う言葉でない。。。ただ、そのころは本気で考えていた。”若い”という怖い物しらずの力はすごい。この時は、一本の論文が国際誌に掲載されることがどんだけ大変かを知ずに。。。論理的思考が壊滅状態である自分にとって、論文を執筆することはかなり骨の折れる作業であった。
スペインから無事帰国した後、博士進学に向けて本格的に動き出すことになった。