XENON外伝 始まりへの眺望
これは、ウルトラマンゼノンがまだ文明監視員の新人だった頃の話。
ご存知の方もいるかもしれないが、私は当時からマックスとの格差に悩んでいた。これは、そんな当時の私に声をかけてくれたとある人とのエピソードだ。
「ってぇ…あいつ最近、ますます戦闘スキルに磨きがかかってるな…。やはり実戦での経験は学んで得る以上のものがあるらしいな…。」
私はマックスとの組み手を終え、コロセウムを後にしていた。最近の彼の活躍には目を見張るものがある。友としては喜ばしい反面、周りからの比較の目というものは付き物だ。それがずっとツラかった。
誰も傷付けずに助けたい。なるべくなら戦いに発展させる前に。そんな難易度の高い理想も虚しく、『いざという場面』は数多く対面してきた。結局は暴力が全てなのか…人の本質は争いを望む心なのだろうか。『戦争が心を荒ませる』と考えていたが、本当はその逆で『争いを求める姿こそ人間の本性』なんだろうか…とさえ思うほどだった。
そんな中途半端な甘さが災いして…詳しくはここでは語らないが、多くの傷を心に負って生きていた。そんな現実の厳しさを体験していた、そんな時期だったのだ。
トボトボと帰路に着く私。緑色のクリスタルの都市が眩しい。元々はこんな輝かしい光の国ではなく、同じM78星雲の中の別の惑星で生まれ育った。ここに移って来てそれなりに経つが、未だにこの眩しさにはあまり慣れない。むしろ、その輝かしさと巨大な圧迫感がまるで上手くいかない自分を嘲笑っているようで煩わしくもあった程だ。
大きな通りを抜け、狭い路地に入る。ここなら少しは落ち着く。広い場所よりは多少は暗く落ち着いた様相に変わるから。人生がうまくいっていない時、人は何故だか狭い場所を好む。何故か心が安らぐ。この不思議な感覚ってどこの星の人にもあったりするものだろうか?
自宅に到着した。ここはマックスとの共同住居で、時間帯の異なる任務のせいで顔を合わせることは少ないものの基本的に寝食をここで共にしている。ちなみにベッドは…
玄関のドアを開け、リビングの灯りを点ける。パッと明るくなった部屋の中、一人静かに座り込んだ。
ふといつもの伝言ボードに目をやる。マックスとは活動する時間帯がずれる為、こうして直接できないやりとりをあのボードで済ましていた。今日は…『惑星ペクでの遠征調査』と書かれている。彼の走り書きな文字からして、出る直前に焦って書いた様子だろう。
惑星ペク…と書かれているが、正しくは衛星だ。惑星パースと呼ばれる青い水晶のような美しい星の月に相当し、豊かな海が小さく数多い島を取り囲んでいる自然豊かな星だ。また、海底に眠る勿忘草色の鉱石はこの星の特徴的な色彩を担うと共に貴重な商業資源となっており、惑星オーティ=ラキムなどを中心に売買されている。
衛星ペクはそんな惑星パースの住民が住む星に当たり、主たる惑星パースの豊かな自然を壊すまいと本来パースに住んでいた住民が移住した先の双子の衛星の片割れだ。本来なら何もないただの岩石の星を開拓した結果、自然豊かな親星とは裏腹なイメージを持つ超科学的な文化が築かれている。
そんな星にまで足を伸ばしているとなると、距離的にも任務内容的にも帰りは遅くなりそうだな…と、ひとり物思いに耽った。
(ピンポーン)
玄関のベルが鳴り響く。
「ん…誰だろう」
突然の訪問を不思議に思いつつ、私は玄関のドアを開いた。
「やぁ、君がゼノンだね。今ちょっといいかな。」
「…え?あっ…えっと…はい…。」
その訪問は余りに突然で、余りにも意外すぎる人物だった。
「どうした?私がここに来たのがそんなに意外かな?」
「い…意外も意外ですよ…まさか…こんな所でお会いできるなんて思いもしませんでしたよ…。
ウルトラマンエース。」
ウルトラ兄弟の5番目。かつて地球で異次元人ヤプールが送り込んでくる超獣の激しい猛攻に敢然と立ち向かった、光線技の名手だ。容赦のない切断技から、別名『ギロチン王子』と裏で呼ばれているのもご愛嬌…だが、本人にこれを聞かせると喉元をホリゾンタルギロチンされかねないので口がギロチンで裂かれても言えない。
「そうか…まぁ無理もない。私は銀河連峰の使者であり宇宙警備隊員、君は文明監視員。そうそう接点は無い…か。」
危なっかしい異名に似つかわしくない優しい笑顔が、私の心の緊張を解きほぐしてくれる。まるで月の光のように穏やかで慎ましく、それでいて静かで上品な輝かしさ。そんな笑顔だ。
「あの…エースさんはどうしてここに?…マックスに御用でしたら…別の日に予定を取られた方がよろしいかと。今日は遅くなるみたいなので。」
「いや、今日はマックスではなく君に用があって来たんだ。」
「…私に?」
ご本人も言っていたように、私とエースに接点なんて無い。心底どうしてこの場にウルトラ兄弟の一員がいるのかわからず、そんな『わからない』という恐怖で体は僅かに震えていた。
「最近、君の相棒のマックスが頭角を表してきているだろう? それで活躍を耳にする機会も増えてね。そしてそれと同時に、君の存在も目に付いた。…そんな君に、私は少々個人的な情というか…頭で考えるのとは別の興味が湧いたんだ。それで話を聞きたくて来たのさ。」
…なるほど。なんとなく魂胆が見えた。彼は私に憐れみをかけに来たのだろう。『相棒と比較されているけど頑張れ』だの…『他人からの評価が絶対じゃない』だの…そういう生温い温情に溢れた言葉でも賜るのだろうか。だとしたらありがた迷惑だ。…身分が身分だから絶対に言えないが。
「私に興味…ですか。私から面白い話を聞こうって言ったって、そんなもの出てきませんよ。…活躍する場が滅多になくて空っぽですから。」
自分で言っといてアレだが、このセリフ正直死ぬほど心苦しいな…。
「ふん…? なぜそこまで悲観的でいるんだ? 私はただ『話が聞きたい』と言っただけだが…まぁ君がそう思うのも無理はないかもしれないが。だが、そう卑屈になるな。人に好かれないぞ。」
ふん…どうせ私なんか…誰からも見られやしないよ。
「す…すいません。」
表向きには謝っておくものの、正直気持ちは半分程しか篭っていない。私は事実を述べただけだ。
「…君がそう思い悩むのも無理はない…か。誰かに自分の思いを伝えるのは実に難しい。私も、かつて真実を話しても信じてもらえなかったり…肩身の狭い思いはしたものだ。わかるよ。」
…わかったような口を聞くなよ。あんたみたいな大御所に僕の苦しみがわかってたまるか。僕の事なんか何も知らないくせに好き勝手言いやがって…!
「あの…それで要件はなんです? 僕だって『マックス程ではないが』忙しいんです。」
「うん…。ならあまり長くは話せないか。じゃあ、少しだけ私の話を聞いてくれないか? 全校朝礼の校長先生の話のようにつまらないが…3分だけ。」
ゼンコウチョウレイ…ってなんだろうか。かつてエースは地球という星で戦っていたと聞いたが、そこの文化だろうか。
「じゃあ…ありがたくお聞かせ願いましょうか。」
「ありがとう。それじゃ遠慮なく。」
そう言ってエースは静かにテーブルに着き、両手の指を組んで考え込むような仕草を見せた。話す態勢に入ったと見え、それに私も合わせて椅子を引いて座った。
「さてと…君は、私が『ギロチン王子』なんて巷で呼ばれているのを知っているかな?」
ドキッ…と心臓が一瞬だけ激しく脈を打つ。本人も知っていたのか…。
「え、えぇ…噂程度に…。」
「やっぱり有名なんだな…自分で言うのも変だが。」
「なんか…すいません…。」
「いや、良いんだ。それが私のやり方だからな。何も恥じてなどいないから、何と呼ばれようが気にはしないよ。」
大人だな…。今の私なら、例え真っ当な褒め言葉を掛けられたところで皮肉にしか聞こえてこない。思春期でも拗らせたようで、自分で自分が恥ずかしい…。
「…だがな。このやり方が誰しもが正しいと思うなんて事も思ってはいない。中には『残虐すぎる』と好ましく思わない人だって居るだろう。…特にゼノン、君の様に心優しい者からすれば最も嫌う方法なんじゃないか?」
「いっ…!? いえ…そこまで…そこまでは…。」
唐突に自分について言及されるとは思わず、声が上ずりながら曖昧に言葉を返す。…だが、確かにそうなんだよな…。
「でも…確かに私が望む解決方法とは対極にはあります…。私には、あなたと同じ様にはできない。私はできる限り誰も傷つけたくないし、戦いもなるべく避けて通りたいと思っています。だから貴方の様に…その…敵を敵と割り切って容赦なく叩くことができません。」
エースは無言ながら『だろうな』とでも言いたげな表情で両手を組み直した。
「君はそれで良い。…むしろ私もやり過ぎなのかも知れないからな。だが…私はそうでもしないとダメだったんだ。何故なら相手が…相手だったからな。」
「あ…そうか。…そうかも知れないですね。」
私は察した。そうだ…彼の場合、『相手』が普通じゃないんだ。
エースの言う『相手』…。異次元人ヤプールが送り込んでくる、魔改造を施された生体兵器・超獣。ただの生命ではない、戦う為に作られた強力な怪獣。言い方を変えれば、『命の皮を被った戦う為の道具』だ。そんな力量も概念も通常から逸脱した存在と、彼は命懸けで戦い続けてたのだ。
「奴らは痛みも恐怖も感じない。普通の命ある怪獣と違って、生きながら戦闘マシーンと化した存在だ。そんな強大な敵を前に、私は心を鬼にして…いや、半ば『殺して』…奴らを殲滅する為に戦い続けた。そこまででもしなければ、地球は守れなかった。それ程の敵だったのだ…超獣と言うのはな。」
他人から話としては聞いていた。だが…こう張本人から聞くと、その重みを肌で感じる。あの物々しい異名はただの虐殺を意味しているのではないと…それだけの一見すると不名誉な異名と業を背負ってもなお戦ってきた覚悟の表れだったのだと、そう心で理解した。
「それだけの覚悟…私にはできません…。僕なんかが背負うにはあまりに重すぎる…。」
不意にそう溢す。心のどこかで自分を疑っていた。僕はただ、命を奪う責任から逃げているだけなのではないか…と。エースさんの覚悟を前に、より一層その自己不信は増してしまう。
「…まぁ、そうだろうな。さっきも言った通り、これはあくまで私個人のやり方。何も君に押し付けようなんて思わない。…でもな、私だって何も考えずにただ重圧を背負っていたわけじゃない。誰にやらされたわけじゃない、自分の意思で背負うと決めた理由が…信念がある。」
「…信念?」
「あぁ。そうだ。私はそれに従って戦ってきた。恐らく君の中にもある信念だ。…そしてこれからもそうするつもりでいる。」
「エースさんの信念…って、何なんです? 何を心に決めていたらこんなに背負えるんですか…」
私の問いに、エースは一瞬迷いのある表情を見せつつふうっと一息深く息をついて、少し何かを恥じつつも絞り出す様に答えた。
「意外かも知れないが…『優しさ』だ。」
「…優しさ?」
…意外すぎる。ギロチン王子に優しさ…? 余りにも対極的な答えに、私は目を丸くして黙り込んでしまう。
「…やっぱりそうなるよなぁ…。やってる事と正反対すぎて、言ったら笑われそうでな…。ただ、こうしてわざわざ話すくらいには大事にしているのも事実なんだ。」
エースはそう言って、恥ずかしそうに目を伏せて頭を掻く。
「あの…優しさってどういう…?」
「うむ…そうだな、」
一瞬天を仰ぐ。深呼吸を一つ、息を整えてエースは再び話し始めた。
「私の戦闘スタイルは、ともすれば殺人狂と言われかねないやり方だろう? 『力の使い方』…とでも言うべきか、何かを間違えて踏み外せば本当にそうなりかねない危険性を孕んでいる。自分でもわかってはいるんだが、如何せん相手が相手だろう? そうそう手は抜けない。一筋縄ではいかない。そういうジレンマは大きかった。」
「……」
言葉にできない。目の前に座る心ある狩人への恐怖か…それとも同情か。
「だがな…だからこそ心だけは正しく在ろうとしたんだ。本当の殺し屋に…奴ら超獣のような心の無い殺人マシーンにならない様に、心の中にだけは優しさを忘れないようにと常に言い聞かせていたんだ。」
エースはそう言って、組んだ両手を強く握った。まるで今にも殴り出しそうな拳を理性で押し留めている様に…強く握っていた。
「…っと、暗い雰囲気になってしまったな。すまない。」
「え、い…いえ別に。ただ何というか…」
「やはり変…か?」
「そうじゃないんです。ただ…こう…。」
『似ている』だなんて言えるはずもなく、私は言葉を詰まらせた。抱えているものはみんな同じ…ただこの人は、自分の何倍も割り切って戦い抜いている。そんな人と『似ている』だなんて、考えるだけでも烏滸がましい。
「…そうか。ただ…君も結構私に似ているのかもしれないな。」
「え…?」
思った矢先のこれ…だと。
「君も私も、心根の底にあるものは一緒なんだ。ただやり方や考え方が正反対というだけだ。だから…あまりそう自分を卑下するな。例え数多くの他人に理解されなくとも、君は間違ってない。少なくとも私や君の親友が保証する。だから諦めないでくれ…例え何百回と周りに否定されようと。君は間違っていないのだからな。」
_____……。
「何事も視点次第…物の見方次第だ。一見真逆な私と君が同じものを持っているように。マックスと君だってそうさ。何事も『見方』次第だ。『視る』事に関して、君たち文明監視員はプロだ…そういうのは大事なんじゃ…ん?」
「っ…くッ…グフっ…うっ…っうぅっ…!」
泣いていた。私は気づけば涙を流していた。『否定』ばかりされてきた。よくても『受容』がやっと。だが…『肯定』は初めてだった。それが嬉しかった。何よりも…嬉しかった。
「そうか…。…そうか。そうだよな。」
エース兄さんは何も言わず、僕の背中をただ撫でてくれた。まるで父親の様な…温もりを感じた。
しばらくの後…涙が枯れる程に泣いた。僅かにしゃくり上げて苦しいのが少し落ち着いてきたところで、ようやっと深呼吸をする。
「…落ち着いたか?」
「はい…すいません、情けない所をお見せしてしまいましたね…。」
「いや…それで良いんだ。何も言わず、何も語らず…そうやって溜め込んでしまうと後が恐ろしい。チリも積れば…じゃないが、積年の感情というものは一時のものと比べて本当に恐ろしいものだ。私はそれを身を持って味わってきたから尚更そう思うよ…。」
そうか…。優しい人だ。
「ありがとうございます…。あなた程の人にそう言われたら…勇気が出ます」
「そんな大したことはないさ。さっきも言ったが、私も…いや、『俺』も昔は周りに受け入れられず辛い思いはしてきてる。君に俺と同じ思いはして欲しくない…それだけだ。それに、君はすぐ会える距離に理解してくれる人がいる。大事にするんだぞ。会えなくなってからでは遅いからな…。」
エースさんはどこか物哀しげな目をする。きっと…『彼女』の事だろう。軽くだが話には聞いている。私は察して飲み込み、静かに頷いた。
「あっ…すいません、私はそろそろ任務の時間なので行かなきゃ。」
「そうか、邪魔したな。行ってこい!」
「はい! 行ってきます!」
エースに送り出され、私は家から勢いよく飛び出す。狭い路地を通り抜けた先に広がる街並みは、心なしかとても広く感じられた。
死と再生を繰り返す惑星ホリィの探査を終えた私と先輩。火山活動や地震、豪雨といった天変地異が頻繁に起きるこの惑星だが、コアとなる部分が意外にもしっかりしており星として崩壊する事は今の所ないと思われる。
「やれやれ…奇妙な星だったな。文明なんてあんのかねあの星…恒点観測員とかの方が良かったと思うんだけどなぁこういう仕事は。」
「そう言わないでくださいよ。なんでかわかんないけど、こういう調査も我々の仕事として結構来るじゃないですか。きっと文明があるかどうかの確認とかも兼ねてるんでしょう。」
「そうなのかぁ…? まぁ…仕事だし良いけどさ。にしてもお前…真面目っていうか熱心だよな。」
「そうですか? みんなこんなもんじゃないです?」
「まぁやってる事は人並みっていうか…まぁ卒なくこなしてる感じはするけどさ。でもなんか…目に見えない部分の熱意みたいなのが近くで見てると凄い伝わってくるよ。」
「そう…ですか? ありがとうございます」
「頑張れよ…後輩。」
先輩の言葉に私は胸を張る。そんな時、突然に一本の通信が入った。
「…衛星ペクが怪獣に襲撃された?!」
私はそれを聞いてゾクっと鳥肌が立つ。マックスがいる星だぞ…しかもマックスがいても尚、救援を要請するなんてよっぽどの異常事態だ…。
「すいません先輩! 僕行きます!」
「待てゼノン! 一人で勝手に…」
「躊躇してる間に仲間が死んだらどうするんですか! 一刻も早く行かないと!」
「相手はたった一体の怪獣だと通信では言っていた! 焦らずともそのうち宇宙警備隊が処理する! 俺たち文明監視員の出る幕じゃない!」
「んなこと関係あるか!! マックスが居んのにこんな通信するってことは今あっちは一刻を争う事態なんだ! 役職がどうとか関係ない! 僕たちは『ウルトラマン』だろ!? 助けを求める人がいるなら助ける! それだけだ!」
「まっ…待てゼノン!」
先輩の静止を振り切り、私はトゥインクルウェイで衛星ペクへと急行した。
蒼い宝石・惑星パースを尻目に、高度な文明が築き上げた建造物が次々と破壊されてゆく衛星ペク。私は急いで降り立ち、状況を確認する。逃げ惑う住民たちの姿はない…が、ポットの発出口が開いてあるため恐らくもう逃げた後であろう様子が伺える。であれば後は、街をなるべく壊さずこいつを止めないと…。
「ゼノンか…お前どうしてこんなところに…?」
「…聞くまでもないだろ。僕は僕にできることをしに来た…それだけだ」
私はマックスの前に立ち、怪獣の巨体を前に構えを取る。崩れた建物を押し退けて現れたヤツは通常の怪獣のサイズよりデカイ。一人で勝てる保証などないが…少なくとも宇宙警備隊が来るまでの足止めくらいならできる。
その大怪獣は鼻先からミサイル弾を発射し牽制をかけるが、私は体を捻って回避する。数発は地面に着弾し爆発を起こすが、残りは額のシャインオーブから放ったゼノニウムビームで撃ち落とす。
私はダッシュで怪獣の懐へと突っ込むが、両腕から放たれる火球が私の腹を掠める。熱い…ヤツの得意技だろうか。危険だ…だがそれでも逃げるつもりはない。私は火球の弾道をつぶさに観察し、紙一重で回避しつつ距離を詰める。
ゼロ距離にまで接近完了。パンチを数発叩き込んで交代させ、いつもの得意のハイキックを頭部にお見舞いする。頭頂部の角が吹っ飛び、効果ありと見える。チャンスだ。
やはりこの戦闘スタイル…かつて孤児院で習った戦法は今でも体に染み付いている。かつては大人に蹴られて簡単に反吐を吐いたり、幼いマックスに簡単に担がれるほど身体が未発達だった。今でもその幼少期のギャップのせいで戦闘力がマックスに追いつけない部分がある。そんな私に、身軽さを活かした戦法…名を『カポエイラ』…を孤児院の先生が教えてくれた。マックスに一つ及ばないのはその元からのフィジカルの問題だが、そんな中でも彼と並んでも恥ずかしくなく戦えているのは孤児院での経験のおかげだ。
今がチャンスだ。私は両腕を横に伸ばしてエネルギーを溜め、そして逆L字に組み直す。これで一気にトドメを…と思った矢先、背中を抉られるような激痛に見舞われた。何か突起物が刺さったような痛み…それに思わず腕の構えを解いてしまい地に伏す。
怪獣の方に目をやると、先ほど飛ばしたはずのツノが頭部へと還って来ている。ブーメランのような事か…? だがそんな武器のような怪獣…まさかこいつ超獣か…?!
私の疑問をよそに、超獣は腕から紅蓮の火炎弾を、更にツノまでもを再びこちらへと発射する。背中の激痛で動けない…やばい…!
「ゼノン……ッ!!」
後方から微かに聞こえた声。振り向くと、さっきまで倒れていたマックスの残像がこちらへ向かってくるのが一瞬見えた。そして私の頭の後ろで風が吹いたかと思うと、そこから数多の爆発音が鳴り響く。そしてその爆風で私は後ろへと吹っ飛ばされてしまう。
「マックスお前…僕を庇って…?」
「本来これは俺の任務…お前に押し付けてしまうのが…忍びない…」
「水臭いなぁ…僕らの仲でそれは…無しだと思うけど…?」
私はマックスの腕を掴んで立たせようとするが、傷が深いのか崩れ落ちてしまう。これを私一人で…時間を稼げるだろうか?
迷う猶予など与えられず、超獣は再び火球をこちらへと放ってくる。マックスは近くで倒れているため逃げるわけにいかない。だが、これを捌き切れる自信もない。詰み…か。そう諦めかけた時だった。
「立ち上がれ! 敵を討て! 恐れを断ち切れ! 諦めるな!!」
高く頭上から聞こえた声…と共に、七色の光線によって火球が阻まれた。
「えっ…?」
驚く私の前に降り立つ二人の銀色の戦士。どちらも見覚えが大いにある…しかも片方は…さっき振りじゃないか。
「エースさん…とゾフィー隊長?!」
「待たせたなぁ、ゼノン」
「あとは私達に任せてくれ。それと、これを」
ゾフィー隊長はそう言って、腕につけたブレスレットを私に渡す。つけてみると、そこから供給されるエネルギーによって傷も体力も回復した。
「これは…?」
「ウルトラコンバーター。君達のエネルギーを回復させる装置だ。少し休んでるんだ」
ゾフィーはそう言って超獣の方へと向き直る。
「エース、こいつは…」
「はい。かつて私が地球で対峙したバキシムとよく似ています…だが、奴はこんなに大きな体ではなかった。いわば『バキシマム』といったところでしょう」
「そうか…抜かるなよ」
「もちろんです!」
ゾフィーとエースは構えを取り、勇猛果敢にバキシマムへと向かっていった。バキシマムが鼻から放つバルカン砲をアロー光線で弾きつつ、その後ろからゾフィーがZ光線で集中的に鼻の銃口を破壊する。あの電撃…いつか何かに使える気がする。
私はマックスにウルトラコンバーターを手渡す。さっきまで傷だらけだった彼の体は癒え、赤く点滅していたパワータイマーに青い光が灯った。
「すまないゼノン…」
「礼なら僕じゃないだろ。後でゾフィー隊長に言いに行こう」
マックスは静かに頷き、共に立ち上がりバキシマムの方へと目をやった。
バキシマムの火球をウルトラネオバリヤーで防ぎ、ゾフィーがウルトラフロストで腕を凍結させる。慌てたバキシマムはツノを飛ばすも、エースのパンチレーザースペシャルで破壊する。全身の武器を奪われたバキシマムは体一つに突進するが、エースとゾフィーは二人がかりでタックルして押さえ返し、膝蹴りで僅かに後退させて前蹴りで更に押し返す。
「まだ行けるな? マックス」
「あぁ…もちろんだ! ゼノン!」
私たちは両雄の後方から跳び立ち、バキシマムに向かって建造物の隙間を避けながら飛行し急接近する。エース・ゾフィーを追い越し、マックスはサテライトキック、私は空中で前転し頭部に踵落としを喰らわす。腹部・頭部にダメージを受けたバキシマムはグロッキーとなる。
「マックス、ゼノン! 無理はするな! ここは私たちで十分だ!」
ゾフィーは手を広げて私たちを制止する。
「大丈夫です! 元はといえば俺が招いた種…だから逃げずに戦います!」
マックスはそう意気込んでバキシマムの方に向き直る。
「しかし…若い君達を死なせるわけにはいかない。相手は超獣だぞ!」
「大丈夫…マックスがそう簡単に死にはしません。私が保証します。」
「しかし…!」
「本当に大丈夫なんです! 信じてください!」
私はエースの目を見て訴える。数秒の沈黙。ゾフィー隊長は苦虫を噛み殺したような顔で重たい口を開く。
「…君達は私が死なせない。十分に注意しろ!」
「はい!」
私達は横一列にバキシマムと向かいあう。機械の体であるバキシマムは既に数カ所を破損しており、あちこちから火花が上がっている。超獣とはいえ勝機はあるはずだ。
バキシマムがこちらへと突進してくるのをゾフィーとマックスが受け止め、抑え付けている間にエースのパンチレーザーと私のゼノニウムビームで両者の額から打ち出した光の糸を二閃、敵の頭部に浴びせかける。
怯んだ隙にゾフィー隊長とマックスが腹部に蹴りを入れて後退させ、更にマックスのマクシウムカノン、ゾフィーのL字に組んだバージョンのM87光線で後ろへと押し返す。線対象の格好となる二人の光線を浴びたマキシマムは態勢を崩すまいと耐えつつも、地面をズリズリと削りながら後退していく。
「攻撃の手を緩めるな! 最後まで攻め立てるぞ!」
「はい!」
エースの言葉に私はバキシマムの方へと走り出す。そして距離を詰めながら両手を胸の前で組んでエネルギーを貯める。そしてゼノニウムカノンを撃つ為の予備動作として両手を開いた。
「…! 危ないゼノン!」
後ろから聞こえたマックスの忠告も遅く、凍っていたはずの腕がドロドロに溶け、そこから紅蓮火炎弾が発射される。避けるにも遅く、火炎弾は私の眼前に刻一刻と迫る。…終わりだ。私は思わず目を伏せた。
「…諦めるな」
感じるはずの熱さの代わりに聞こえた声。そっと目を開けると、目の前にいたのは、全身が銀色に発光させているマックスだった。マックスがスパークシールドを展開し、私に火炎が当たる前に防いでくれたのだ。だが…
「お前どうして…さっきまで後ろにいただろ…? いつの間に私の前に…?」
「わからない…だが、お前を助けたくて体が勝手に動いていた。咄嗟の事だから、あんまり覚えてないが…」
銀色の光が消えていきながら、マックスはそう答えた。まさか…。兆候はあった。以前、組み手の中で目視できないほどのスピードで殴られた事がある。まさかその時の技が、この土壇場で完成したというのか…?
これが後のコメットダッシュであると知るのは、まだ先の話。
攻撃を防がれて後の無くなったバキシマム。ついになりふり構っていられなくなったのか、その身をミサイルの様に突進しようと前身を始める。数歩走って助走を付けながら近づき、そして勢いよくこちらへと真っ直ぐジャンプし跳んできた。今まで数々の弾丸を用いた技を使ってきたが、最後の弾丸は奴の体そのもの…ときたか。
私はマックスの肩に手を置く。今度は自分がやる番だ…と。それを察してくれたマックスは静かにその立ち位置を譲った。
「僕の親友に面倒かけさせる様な奴は…ぶった斬ってやるの刑だ…!!」
私は両手に残ったエネルギーを連結させ、一本の刃の形に成してゆく。私は大地にしっかりと足を着け、刃を斜めに構える。
迫り来るバキシマム。不安げな顔をする一同。私は刃をガッシリと構えて待ち構える。徐々に近づくバキシマムに僅かな恐怖を感じながらも、私はその場を絶対に動かない。時は静かに過ぎ、バキシマムの巨体があわや激突するか…と私は思わず目を閉じかけた。が…もう一度目を見開き、奴の体を真っ直ぐ芯から受け止める。バキシマムの体は少しずつ真っ二つに引き裂かれ、その勢いのままに後方へと飛び去っていった。
この技が元に、後にゼノニウムスライサーという技に発展し地球に来る途中のバット星人が用意したゼットンを纏めて6体倒したのは、また別の話…。
真っ二つに割れたバキシマムは、内部の部品から小さな爆発や火花を起こしながら吹っ飛んでいく。やがて地面に堕ち、ゴロゴロと転がりながら体表を削っていく。だが余程丈夫に作られているのか、完全には破壊されていない。それどころか、内部から管が伸びて自己修復を図ろうとしている。
「ゾフィー兄さん…こうなったら、奴を完全に破壊するにはアレしかありません! お願いします!」
「そうだな…マックス、ゼノン。君達も手伝ってくれ」
ゾフィー隊長のアイコンタクトに、私たちは何のことか分からず数秒キョトンとした表情になる。
「あぁ…そうか、説明不足だったな。すまん。君達のエネルギーを、エースの頭のウルトラホールに集中させるんだ。バキシマムを倒すには、ここにいる私たちのエネルギーを一つに合わせるしかなさそうだ」
…なるほど、ようやくわかった。『アレ』か。
私とマックスはパワータイマーからエネルギーを放出し、エースのウルトラホールに注ぎ込む。ゾフィー隊長も含めた我々3人のエネルギーは一つの塊となっていき、光の球へと形を成していく。
「スペース……Q!!!!」
バキシマムの分裂した二つの体は、この数秒で一箇所に集まっていた。だがそんなバキシマムの修復をさせるまいと飛んでいく光球・スペースQ。バキシマムは鼻から撃つバルカン砲で抵抗するが全て弾かれていき、やがてスペースQの着弾により細胞や破片の一つも残さぬ大爆発を起こして消え去っていった。
「助かりました。ありがとうございます…俺の不甲斐なさのせいで…」
戦いが終わり、マックスはそう言ってゾフィー隊長に頭を下げる。私もそれに合わせる様に数秒遅れて頭を垂れた。
「気にすることはない。それに今回は特にな…。それよりマックス、あの超獣について教えてくれないか。どうやって出現した?」
「はい。奴は何の脈絡もなく突然現れました。突然、空間がガラスの様に割れて…。戦ってみましたが、俺でも」
その言葉に、ゾフィーはエースと目を合わせる。まるで何かを察した様に、そして慌てた様子で。
「ありがとう、マックス。君が少しでも戦ってくれたから、この星は完全には滅ばなかった。脱出したここの星の者達もいずれ戻ってきて、すぐにでも街は再建されるだろう」
ゾフィーはそう言ってマックスを労う。そしてマックスの肩に手を置いた。
「…君もだ、ゼノン。君がいなければマックスは死んでいただろう…奴はただの超獣以上の強さだった。流石の彼でも危なかったろう…君が来たからマックスは今こうして無事に生きている。ありがとうな」
今度はエースがそう言って私に右手を差し出す。私はそれに照れながら応える。同じ様に右手を差し出し、固く握手して返した。
「ウルトラタッチ…みたいですね」
私のその言葉に、彼は少しはにかんだ様な嬉しそうに笑顔を見せた。
「さて…私とエースはこれから本部に戻ってあの超獣の出どころを探る。君たちは、今回の事を上司に報告しなさい」
「わかりました。ありがとうございました!」
ゾフィー隊長とエースはそれに頷き、光の国の宇宙警備隊本部へと戻っていった。私たちはそれを見届け、同じようにこの場を去ろうとする。だが…私は上司の静止を振り切ってこっちに来てしまった。何か処分されるだろうな…。
「あ…あの!」
瓦礫の中から聞こえた声。私とマックスは驚いてそちらに振り返ると、壊れた建物を盾にして流れ弾を防いでいた様子の若いウルトラマンが顔を覗かせた。
「あの…助けてくれて…! その…こういう時って僕、なんて言えば…」
彼は『ありがとう』と言いたいらしい。だが、彼は若さ故かその言葉をまだ知らないらしい。私はそれを口にしようとするが、マックスはそれを制して話し始める。
「君もいつか知る時が来ると思う。今日より先の、そう遠くない日々の未来でな」
彼はその言葉にパァッと明るい笑顔になる。そしてお辞儀を一つして、元気に飛び去っていった。
「なぁマックス…なんで止めた?」
「何でって…俺たちが簡単に教えるより彼が彼自身の体験の中で学んでいく方がいいんじゃないか?」
「そうか? 大事な事は教えとかないと…後で『バカヤロー』って罵倒されるのは彼なんだし」
「まぁそうだけどさ…何事も経験なんじゃないか?」
マックスは呑気にそう言って笑う。私は少し怒りたくなったが、立場も立場だしと怒れずに釣られて笑ってしまった。
宇宙警備隊の本部。戦いより帰還したゾフィーとエースは、ここで何やら話をしていた。
「ゼノンの様子は…どうだった?」
「はい。恐らく、彼は簡単に悩みを払拭することはできないでしょう。ですが、それでも彼のマックスへの想いは本物だ…きっと大丈夫です」
それを聞いたゾフィーは、そのエースの言葉にホッと胸を撫で下ろした。
「そうか…急にすまなかったな。こんな頼み事をして…」
「いえ。私も、同じ様な出自を遂げている二人の事は気がかりでしたし。戦災孤児…辛いものですよ」
エースはそう言って悲しそうに俯く。エースもまた戦争で両親を亡くしている。そんな彼を引き取ったウルトラの父と母には感謝してもしきれない。
「しかし、どうして急に彼の様子を?」
「それはな…古い友人に頼まれたんだ。彼…自分の親友の娘を育てる為に、実の家族から身を引いていてな。気になっても直接会うに会えないんだ」
「そんな…。その人は今、どこに?」
「さぁな…彼は神出鬼没だからな。全く…彼の言葉を借りるなら、『しゃらくせぇ』奴だよ」
ゾフィーはそう遠い目で答えた。
「しかし、彼…ゼノンは何というか…あの行動力、若い頃の私に…いいや、『俺』に似ていますよ。いつか謹慎喰らうんじゃないかな…」
エースはそう言って笑う。だが馬鹿にした笑いではない。微笑ましい、そして懐かしい…そんな笑顔で。
「そうだな。相棒、か…いいものだな」
「ええ。いつか私に息子ができたら、あんなふうに強く優しく、誰かを全力で守れる勇者に育って欲しいものですよ」
そのエースの眼差しは、どこかもっと遠い、遥かなる輝きへと向いていた。いつか、自分の両親を奪った争いを終わらせる、最後の勇者が現れる…そんな遠い未来を。
「ところで、だ。話は変わるが…」
「…はい」
ゾフィーの口調が変わる。それが何の話題へと繋がるか、エースは察するに容易かった。
「マックスは空が割れたと言ったな…やはり。」
「えぇ…間違いありません。ここ最近の兆候も含めると、やはりヤプールが復活しようとしています。今回のあのバキシマムも、それが原因でしょう…」
エースも同じく怪訝そうな顔をして答えた。
「ですが不思議なことに、本来のバキシムとは明らかに違う進化を遂げていました。復活の途上にしては強すぎる…何者かが魔改造を施したとしか考えられません。しかし…あそこまでの巧妙な仕掛けができる凶悪な奴ならもっと早く見つけられてもいいはずなのに…一体どこに…」
エースは更に付け加える。完全な状態であるヤプールですら、我々兄弟を苦しめたエースキラーや最後に出現させたジャンボキングのような超獣が精一杯だろう。にも関わらず、どうして…?
「そうとも限らないぞ。今の地球では、人間の負の感情から生まれる力…いわゆるマイナスエネルギーが発端で出現する怪獣が頻発している。それに惹きつけられて強化されているのかもしれない」
エースの言葉に、ゾフィーはそう言って返す。現在地球の防衛に当たっている80の様子を鑑みての判断なのだろう。
「マイナスエネルギーですか…確かに奴の好みそうな力だ。であれば、地球は80一人に任せるわけにはいきません。彼…それに王女もいるとなると、危険すぎる」
「そうだな…それに、彼は先の二大怪獣・プラズマとマイナズマとの戦闘で傷ついている。彼には一旦帰還してもらい、再び兄弟で地球の防衛に当たってくれ。私は他の隊員のこともあるから滞在はできないが、何かあればすぐに駆けつける」
エースは頷き、他の兄弟の元へと駆け出そうとする。が、数歩進んで何かを思い出した様に振り返る。
「…そうなると、セブン兄さんはどうしましょう? 彼は今、宇宙警備隊の訓練生の教官です。彼が離れれば、代わりに誰が…ゾフィー兄さんでは役割が多すぎるでしょう?」
「あぁ…ではタロウを呼び戻そう。彼にセブンの仕事を引き継いでもらうんだ。…となると、人手が足りなくなる…レオもこちらに呼ぼう。彼を『故郷』から引き離すのは心苦しいが…」
「彼は今、タロウ…いえ、東光太郎と同様に『おおとり ゲン』という一人の人間として生きています。そんな彼を地球から去らせるのは残酷ではありませんか…? まして、我々は彼にとんでもない過ちを…」
「もしそれで彼の恨みを買うのなら、いくらでも制裁は受けるつもりだ。だがな…彼にも地球以外に帰る場所があってもいいと思うんだ。光の国という第二の…いいや、第三の故郷があっても」
ゾフィーは既に覚悟を決めた様な顔つきでいる。それを見たエースは、それを断る理由も無くなった。ただ静かに頷いた。
そして後に彼らは、懐かしい青い星に身を置くこととなる。Uキラーザウルスという悪魔を沈めた、神戸の海の街へと…。
「馬鹿野郎! 全く無茶苦茶しやがって…!」
「すいません…」
衛星ペクより帰還した私は、早速上司から叱られていた。当たり前だ…勝手に持ち場を離れたんだから。
「ったく…お前は3日間の謹慎だ! これでも一週間から減らしてもらってんだからなぁ? 感謝しろよ俺に…」
「すいません…本当に…」
ありがたい事ではある…だが、この恩着せがましい言い方だけはどうも解せない…
「あとな…この謹慎が解けたらお前はマックスと組め。もう俺のお守りは必要ないだろ?」
「…え?」
「だってよ…自分から危険な場所に赴いて生き抜いたんだぞ? しかも相手は超獣って…お前はもう一人でも無事にやってけるだろ」
少し意外だった。認めてくれていた…のか。ずっと自分は周りから虐げられているだけだと思っていた。マックスと比較されて、『お前は劣っている』と…ずっとそう思われているだけだったと。でも先輩は…ずっと近くで見てくれてた人は違ったんだ。
「…あとお前はマックスのすぐ近くにいた方が良さそうだ。あんま勝手されちゃ困るからな…お前がマックスを追っかけて行っちゃうんなら最初っから一緒にいればいい」
「ありがとうございます…!」
こんなにありがたい事はない。今や僕はもう昔の僕じゃない。独り立ちできる。これからは一人の文明監視員として…ウルトラマンとして生きていける。マックスと一緒に。
それから僕とマックスは文明監視員のペアとして任務を共にした。戦闘は主にマックスが、頭脳的なやりとりは主に僕が。お互いの長所で埋め合いながら戦ってきた。
当然ながら、マックスとの比較はされてきた。誰も傷つけたくなくて文明監視員になった僕だ、極力戦いは避けて交渉に徹した。そのやり方が故に周りからの評価は芳しくなかった…。
だが、それでも私は戦い続けた。あの日、エースが教えてくれた『優しさ』を忘れずに。
そして月日は流れ、地球での周期に換算して約20年。僕たちウルトラ族からすればさほど長い年月ではないが、私とマックスはその年月が大きな糧として培われていた。その経験を活かす時がきた。
次の仕事は、マックスたっての希望である地球。これまで多くの同胞が訪れた星だ。彼もいずれはここに滞在することになるだろう…そう考えた僕は、宇宙科学技術局を訪れた。
ここから先は、皆さんのご記憶通り…かな?
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