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【4人声劇】探偵は知っている2

■タイトル:探偵は知っている2


■キャラ

アンジェリーヌ・ウィンター:女

国内随一の名探偵

偏屈で甘いものが大好きな変わり者


レオ・ベルディ:性別自由

アンジェリーヌの助手として働いてる

主人格のほかに怒りっぽい「ルドルフ」小心者の「ヘルマンニ」理屈屋の「オルヴィ」という3人の人格を持つ多重人格者


ジャンヌ・エバンズ:女

アルバン市警に所属する刑事

事件現場で偶然出会ったアイザックに事件を解決されて以来、その腕を買っている


ランドン・ウェイバリー:男

アルバン市警に所属する刑事

優秀で強い正義感を持っている

ジャンヌの紹介でアンジェの事務所に訪れる

前作はこちら
https://note.com/executivesoda/n/nd1464ff81e27?sub_rt=share_b

―――――――――――――――――――――――――――――――


ジャンヌ:(NA)

誰もが平和を願っている…それは疑いようのない事実…だと思いたい

我が国はどこぞの団体が毎年出している平和指数ランキングでは30位辺りを取り続けており、世界的に見ても治安のいい国であると言えるだろう

しかし、我が国の首都であるここアルバンでは昨今凶悪犯罪が目立っている

そしてまた、新たな殺人事件がこの街で起きていた


ランドン:…本当に、ここにその…噂に名高い名探偵がいるのか?


ジャンヌ:はい、ここです

アンジェリーヌ・ウィンター先生より優れた探偵はこの国にはいません


ランドン:…にしては随分とさびれた事務所だな

まあ、いいとこに住んでるから優秀というわけでもないか…


ジャンヌ:はは…そうかもしれませんね


(ジャンヌは古びたドアをノックする)


ジャンヌ:先生!ウィンター先生!

…入りますよ?


ランドン:いいのか?勝手に入って


ジャンヌ:いつものことですので、失礼しますね


(扉を開けると、アンジェとヘルマンニが言い争う)


アンジェ:だ・か・らぁ!私はブラジル産の白ザラ糖を買ってって言ったの!

なんでオーストラリアの三温糖があるわけ!?


ヘルマンニ:え、で、でも…そ、それはさっきも言った通りで…ア、アンジェリーヌ先生が…そ、そう言ったからで…


アンジェ:言ってないわ!全然言ってない!絶対に一言もそんなことは言ってない!


ヘルマンニ:わ、わかりました…か、買いなおしますから…そ、その、欲しい物をここに書いても、もらえますか?


アンジェ:いいけど…なんか気に食わないわね、ヘルマンニ

まるで、どうせ次も同じことが起きるから証拠を残しておきたいですっていうふうに聞こえるんだけど?


ヘルマンニ:いやいやいやいや!そ、そんなんじゃぁ…ないですょ…


アンジェ:ほら!声小さくなってるじゃないの!

あんた助手なんだからもっと私を崇(あが)め奉(たてまつ)ってもいいんじゃないの!?


ヘルマンニ:探偵は崇(あが)めるものじゃ…

アンジェ:ほら、つべこべ言わずに繰り返しなさい!私の言うことは常に正しい!はい!リピートアフターミー!!


ヘルマンニ:せ、先生の言うことは常に正しい…!


アンジェ:はい!その通り!あと5回行きましょう!

私の言うことは…!


(アンジェの台詞にかぶるように、ジャンヌが口を挟む)


ジャンヌ:何やってるんですか…先生


アンジェ:ん?あら、ジャンヌじゃない?

何って指導よ、指導

部下はちゃんと教育しないと


ジャンヌ:瞬間記憶能力持ちのヘルマンニさんにその手の言い争いで勝てるわけないじゃないですか

パワハラで法的措置取りますよ


アンジェ:うるさいわね

あんたこそ、また自力で解決できない面倒ごと持ってきたの?


ジャンヌ:違います

捜査協力の依頼です


アンジェ:は~、物は言いようね

ヘルマンニ!こいつにお茶はもったいないわ

浄水器外した水道水持ってきなさい


ランドン:ジャンヌ…本当にこの人で大丈夫なのか…?


ジャンヌ:何よ失礼ね…って、あら?今日は一人じゃないのね


ヘルマンニ:じゃ、ジャンヌさん…そ、そちらの方は、ど、どなたですか?


ジャンヌ:あ、ご紹介が遅れてしまって申し訳ありません

お願いします


ランドン:あぁ、俺はランドン・ウェイバリー

アルバン市警所属の刑事だ


ジャンヌ:ランドン警部は私の先輩であり、直属の上長でもあります


アンジェ:へぇ、結構若そうなのに…優秀なのね

しょうがない、ヘルマンニ、お茶持ってきてくれる?


ヘルマンニ:は、はい!


ジャンヌ:私だけでもお茶出してくださいよ


アンジェ:ふん、あんたにお茶出す義理は無いわよ

さて、お見苦しいところを見せたわね

全部助手のせいだから後で謝らせるわ…どうぞ座って?

…それで、何の御用かしら?


ランドン:いきなり本題から入らせてもらうが今日来た理由は、最近アルバン市内で起きている殺人事件についてだ


アンジェ:…あぁ、あの連続殺人事件のことね

最初の被害者が確か…モーリス・ぺニントン議員だっけ?


ランドン:その通り

後頭部をたたき割られ、倒れているのが自宅近くの公園で見つかった


(レオが紅茶を持ってくる)


レオ:…同じ手口の事件がそこから立て続けに7件

全く…世も末って感じですね

はい、お待たせしました、紅茶です


ランドン:ありがとう

あれ…先ほどのヘルマンニさんは別の業務に?


ジャンヌ:あ、その人がヘルマンニさんです

正確には違いますけど


ランドン:はぁ?何言って…?

あっ!?でも確かに顔が同じだ…!でもさっきまでと全然別人じゃないか!?


レオ:はは、いきなりだと驚かれますよね…レオ・ベルディと申します


ジャンヌ:ベルディは全部で4つの人格を持ってるの

…ヘルマンニは限界だった?


レオ:はい、ブラジル産の白ザラ糖を購入しろという指示をされた記憶を5年前の会話くらいまでさかのぼったところで限界が来ました


ジャンヌ:ヘルマンニが起きたら10年前までさかのぼって探せって言っといて

さ、ランドンさん

お話し、戻してもらえる?


ランドン:あ、あぁ…連続殺人の被害者は、全員後頭部を鉄製の凶器で一発…

争った跡もなく、現場は人通りも少ないため不意を突いて襲ったというのが現状の警察の見解だ

被害者に共通点は無く、性別も年齢も職業もバラバラ…犯人の目的もわかっていない


アンジェ:…なるほどねぇ…被害者の写真ある?


ランドン:あぁ…ほら


アンジェ:…うわ、ひどいわね


レオ:…うぉぉ…これは…グロいですね…


アンジェ: …モーリス・ぺニントンは最近よくニュースに出てたわよね…収賄(しゅうわい)疑惑の疑いがあるからそっちも捜査してくとかで

そのせいで他の被害者の印象が薄いのよね

2人目が…大学生ね


レオ:この人もニュースで見たことありますね

何度も性犯罪を起こしては親の金の力で不起訴にしていたって

あれ…この名前もどこかで…ジャンヌさん、この3人目の被害者の方って…?


ジャンヌ:有名な環境活動家です

数か月前にストリートを封鎖してニュースになったの見てませんか?


アンジェ:あぁ、あったわね

こいつは…YouTuberって書いてるけど?


ランドン:世直し系とか私人逮捕(しじんたいほ)系…とか言うジャンルのYouTuberらしい

街で犯罪行為を行う人間を探して、動画で晒しあげるコンテンツを公開する配信者でね

…犯罪者を無理に捕まえようとして、自分自身が犯罪行為を行うことも少なくない

警察としても対応に苦慮(くりょ)する人物だった


アンジェ:他の被害者を見ても、確かに共通点は無いわね

…で、今回はこの事件を一緒に調べてほしいってわけ?


ジャンヌ:はい、その通りです

…謝礼は…このくらいで


アンジェ:…レオ、私の帽子とコート持ってきて


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ランドン:…大丈夫なのか?他の現場を2人に任せて


アンジェ:大丈夫よ

私の助手は変わってるけど優秀だから

正しく現場を確認して私に伝えることくらい問題なくこなせる

それに、あなたの部下も優秀でしょ?


ランドン:まだ粗は多いけどな


アンジェ:それは同感

で?この公園が誰の事件現場だったかしら?


ランドン:モーリス議員だ


アンジェ:そう、やっぱ金持ちが住む場所は違うわね…高級住宅地のど真ん中なだけあって、敷地が広いのに綺麗な公園

木もオブジェも遊具も多い…不意を突く場所なんていくらでもありそうね


ランドン:そうだな…

モーリス議員は唯一目撃者がいた被害者でもある


アンジェ:あらそうなの?

どんな目撃証言がとれたのかしら?


ランドン:遠目で見ていたらしく、かなり意味不明ではあるんだが…

なんでもランニングをしていたモーリス議員は突如として前方に吹っ飛ぶように倒れたらしい


アンジェ:…いきなり?


ランドン:あぁ…いきなりだ

ピクリとも動かなくなり、近くに駆け寄ったところ…あの惨状だ

目撃者はすぐにその場から逃げ出し、警察に通報した


アンジェ:…犯人の姿は見なかったのよね?


ランドン:犯人どころか人影のようなものは確認できなかったらしい


アンジェ:なるほどね…被害者はよくこの公園に来ていたの?


ランドン:家もすぐ近所だし、週に何度かこの公園にランニングをしに来ていたようだ

遺体もスポーティーな服装だったし、ランニング中の殺害だろう


アンジェ:じゃあ…その習慣を知ってたなら、ある程度被害者の行動を予測できるわね

例えば…あそこ


ランドン:あのオブジェか?


アンジェ:街灯(がいとう)の位置から見ても、夜になればあそこは暗くなる

陰に隠れれば気づかれないでしょ?


ランドン:そうだな、それにこの公園は夜になれば人通りは極端に減る

イヤホンをして走っていれば、大して隠れなくても気づけないかもしれない


アンジェ:イヤホン?被害者はイヤホンをつけていたの?


ランドン:いや、近くにイヤホンが落ちていたのが見つかっているんだ

指紋などから本人が使用していたものだと考えている


アンジェ:どんなやつ?


ランドン:写真があるぞ、これだ


アンジェ:あ、スマホ買うと着いてくる純正の奴ね…


ランドン:そうなのか?俺のとはメーカーが違うから知らなかったな


アンジェ:スマホが違うとそうなるわよね…ねぇ、モーリス議員の家って見ることできる?


ランドン:できるとは思うが…警察の捜査も入っているはずだしな


アンジェ:…じゃあ、あとで行きましょうか

少し気になることがあるの


―――――――――――――――――――――――――――――――


ジャンヌ:まだこの部屋の写真撮られますか?


レオ:はい、もう少しだけ

すいませんお待たせして…


ジャンヌ:いえいえ!急かしているわけではないんです!正確な調査することは重要ですから!


レオ:ありがとうございます…オルヴィならともかく、僕は先生みたいに推理力が無いですから、先生がこの場所に来た時と同じ状態になれるくらいに情報を集めなきゃダメなんです


ジャンヌ:ウィンター先生って、よく現場を任せられますよね?

レオさんならちゃんと現場の調査ができるっていう信頼なんじゃないですか?


レオ:そうだと嬉しいです…分担のメインは時短ですから

僕がちゃんと情報を集めて整理できれば、わざわざ先生が各現場に足を運ぶ必要はなくなる…推理に当てる時間が増えれば、事件解決も早まります

僕が持ち帰った情報が先生の推理の核心になることだってありますから責任重大です

僕は…先生に比べれば微力ですから


ジャンヌ:私から見ればウィンター先生はレオさん…いえ、ベルディさんのサポートが無ければ探偵業なんてままならないと思いますから…やっぱりいいタッグなんだなって思いますよ


レオ:ありがとうございます


ジャンヌ:いえいえ、そういえば、他のベルディさんたちってどういう時に…こう、切り替わるんですか?

言い方があっているかわからないですけど


レオ:はは、大丈夫ですよ

基本は希望した人か、活動できる人が前に出ます


ジャンヌ:活動できる?


レオ:僕たちは普通の人より活動時間が短いんです

4人で一つの体ですからね

ヘルマンニはさっき事務所で頭を使いすぎたのでダウンしてますし、ルドルフはこういう仕事はめんどくさがって出てこようとしません…オルヴィは昨晩に夜通しで先生とゲームしてましたから今は休んでます


ジャンヌ:それってRPGでパーティー組んでるみたいですね


レオ:それくらいしっかりキャラ別になっていればありがたいですけどね

誰かひとりが無理をすれば、他のベルディにも影響はでます

オルヴィが無理したので、僕も眠いですし…


ジャンヌ:不思議なものですね…


レオ:あ、ちょっと待ってください

先生から電話です…もしもし?

……はい、わかりました

では、そちらに向かいます


ジャンヌ:どうしました?


レオ:モーリス議員の自宅に向かったらしいのですが、我々にも来てほしいとのことです


ジャンヌ:了解です、では現場の確認が完了したら急いで向かいましょう


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アンジェ:うへぇ、やっぱ金持ちは住むところも凄いわね

一人暮らしでしょ?どうやって管理してんの?


ジャンヌ:定期的に家政婦を雇って家事をしてもらっているそうですが…どなたも長続きはしないようです


ランドン:裏で何が行われているのか…想像したくはないな

それで…彼は何をしているんだ?


アンジェ:さぁ?男の子の気持ちはわからないわ


オルヴィ:これはすごい!最新のスマートウォッチにタブレット…タッチペンも新型だ

充電設備もかなり整ってるな…!

あれはホームシアターに立体音響のスピーカーか!


アンジェ:うるさいわよ、オルヴィ

眠そうだった割に随分楽しそうじゃないの


オルヴィ:当たり前だ!見ろ!これなんて自動でスイッチのオンオフを切り替えれる、ロボデバイスだぞ!

電気のスイッチに取り付けて、スマホから電気のオンオフを変更できるようにしている!

発売前の商品なのに…伝手(つて)からフラゲしていたようだな


アンジェ:手で押せばいいじゃない


オルヴィ:そういう問題じゃないんだよ、アンジェ

最新のガジェットは生活を豊かにするもの

これだって、彼は電気に使ったようだがアイデア次第でいくらでも使い道のあるデバイスだ

ちょっとそこの電気をつけてくれるか?


ジャンヌ:ここの電気はデバイスじゃないんですね

少々お待ちを…はい


オルヴィ:ありがとう…おぉ、やはりこの歯ブラシはBluetoothが搭載されており、音波振動によって汚れを落とせる

この指輪は最大6枚のカードを登録し、決済や通勤、各会社の出退勤記録までも可能にするものだぞ


ジャンヌ:へぇ、ただの指輪にしか見えないですけどねぇ

これがあれば財布が分厚いランドン警部も財布が薄くなりますよ


ランドン:おいおい、俺がかなりの機械音痴なの知ってるだろう?
それにいろんなポイントカードとか、レシートとかで厚くなってるだけだよ

…たしか同じものが被害者の指にもはまっていたはずだ


オルヴィ:最新ガジェットは自分のライフスタイルに合わせて、さらなる利便性を追求できる
彼は随分とそういうものに凝っていたようだな


ジャンヌ:普段の様子や同僚議員の証言からはそのようには見えなかったですが…


ランドン:アンジェリーヌさんや俺みたいにガジェットが必要ないという層もまだまだ多い

そういうものに国税で生活する議員が金をつぎ込んでいるとなれば世間的な評価は良くないだろう

表面的には隠していたんじゃないか?人気商売だからな


オルヴィ:そうだろうか?

彼が使っているスマホケースは充電もできる新型だし、ケース外側のカード入れは強力なマグネットでくっつけるタグ付きのものだ

スマホを落としてもこれがあれば見つけられる

他にも彼の普段の私物は最新ガジェットに溢れているよ

本当にその機能性を重視しているならば、ただ生活を豊かにするためのものをわざわざ見せつけたりはしないだろう?


ジャンヌ:全然気づきませんでした…さすがはオルヴィさんですね


オルヴィ:私が得意な分野だっただけさ


アンジェ:…どうでもいいわ

私みたいな貧乏庶民にとっては無用の長物(ちょうぶつ)よ


ジャンヌ:私はちょっと興味湧いてきました

私でも使えるものがあるかも


ランドン:おいおい、俺たちはガジェット博覧会に来たわけじゃないんだ

アンジェリーヌさん、何かわかったことは?


アンジェ:…まだ何とも…でも、ちょっと気になることは出てきたわね


ランドン:…というと?


アンジェ:今日はもう遅いから、続きはまた明日にしましょう?

ちょっと自分でも情報を整理したいしね


オルヴィ:…それがいい、いったん解散としようか


―――――――――――――――――――――――――――――――


ジャンヌ:…はぁ


ランドン:どうした、ジャンヌ


ジャンヌ:…今回の事件、まだ警察は凶器すら見つけることができていません

私個人でももう少し捜査を続けてみます

いつもウィンター先生を頼ってしまってはいますが、警察としてできることはやらないと


ランドン:…最近頑張りすぎじゃないのか?

就労後も道場に入り浸りだと聞いているぞ?


ジャンヌ:ご存知でしたか…前回の事件で私はベルディさんに助けてもらいました

事件も解決できず、あまつ民間人に暴漢から守ってもらった…

このままではダメなんです

私は私のできることを続けないと…


ランドン:…休むことも大事だぞ

いざという時に体が動かなければ意味が無い


ジャンヌ:わかっています…でも、動かずにはいられないんです


ランドン:そうか…なら、これ以上止めはしないさ


ジャンヌ:ありがとうございます…あの、ランドン警部はこの事件のこと、何か見えていますか?


ランドン:…いや、正直まだ何も見えていないよ

犯行は通り魔的、凶器不明、動機不明、目撃者もほぼいない

…これ以上被害者を増やすわけにはいかない

お前の言う通り、できることを粛々と続けよう


ジャンヌ:はい…では、失礼します


ランドン:あぁ、無理せず頑張れよ


(ジャンヌはその場を後にする)


ランドン:さて…と


アンジェ:ちょっといいかしら?


ランドン:おわっ!?あ、アンジェリーヌさん?

驚いたな、何か用でも?


アンジェ:もしよかったら一杯どう?

この辺にいいバーがあるの

うちの助手はあんな感じのくせに下戸(げこ)なのよ
…飲めるやつもいるけど、あいつと2人で飲むのは嫌だし


ランドン:あぁ、今日は…いや、構わないか

是非ご一緒させてもらうよ


アンジェ:ふふ、じゃあ、行きましょうか?


ランドン:一つアラームをかけてもいいかな

俺は酒を飲むとこういうものを忘れがちでね


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ランドン:…なかなかいい雰囲気の店だね

スコッチを水割りで


アンジェ:いいわね、スウィーティドッグちょうだい


ランドン:スウィーティ?初めて聞く名前だな


アンジェ:えぇ、この店では私しか飲んでないから


ランドン:スウィーティ…あぁ、塩の代わりに砂糖をグラスにつけたソルティドッグか


アンジェ:そ、私、甘党なの

それじゃ…乾杯


ランドン:乾杯

(ランドンは酒をあおる)

…それで?俺を誘った理由は…なんなんだ?


アンジェ:美女のお誘いは勘繰るもんじゃないと思うけど?
ちょっとお話ししたかっただけよ…

これから一緒に仕事をするのに、何も知らないんじゃ困るでしょ?


ランドン:ほんとに酒を飲みたかっただけか…

…ジャンヌともよく飲むのか?


アンジェ:いえ?あの子酒癖悪いもの

でも…初めて一緒に仕事した時は飲んだわ

火事に見せかけた殺人事件…難しい内容だった

依頼人に連れられて偶然現場で会ったのが、ジャンヌだった


ランドン:…あの事件か

俺と組む前…ジャンヌが初めて事件解決の功績をあげた事件だ


アンジェ:あの子はとにかく無謀で無鉄砲で…

状況から周りの警察はみんな事故だと決めつけていた

でもジャンヌだけはなんにもわかってないのに、火事じゃなくて殺人事件だって言い続けていたの


ランドン:そりゃぁ…またどうして?


アンジェ:私の依頼人…被害者の恋人だった子がね殺人だと言っていたの

ジャンヌはその子の言葉を信じたのよ

たった1人で愚直にね…


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ジャンヌ:はぁ…ひとりで情報整理しても何もわからないな…

やっぱりまだまだ足を使うタイミングってことなのかなぁ…

落ち込んだって仕方ない!ちょっと運動して、頭すっきりさせて寝よう!!

あれ?道場に明かりがついてる…

失礼します…


ルドルフ:おう、遅かったじゃねえか

待ちくたびれたぜ


ジャンヌ:ル、ルドルフさん!?

ここで何してるんですか?警察用の道場ですよ!?


ルドルフ:アンジェと関わりがある警察はお前だけじゃないぞ?

あいつのおかげで顔パスさ

そんなことよりお前、最近かなり訓練を積んでるって聞いたぜ?

だから試しに来てやったのさ


ジャンヌ:試しにって…


ルドルフ:前より強くなったんだろ?俺だって強くならなきゃならねえ

前回の事件で辛酸をなめたのはお前だけじゃねえからな…

俺もボコボコにされたんだ


ジャンヌ:でもあれは30人くらいと戦った後だったじゃないですか…


ルドルフ:関係ねえ

相手が何人だろうが、どんだけ強かろうがアンジェを守るのは俺の役目だ

それが俺の仕事だからな

犯罪者と戦った時、どんな状況でも最後に立ってるのは俺でなきゃならない


ジャンヌ:…そうですね

ルドルフさんが正しいです…私は警察官として民間人を守らなきゃいけない

相手が誰だろうと何人だろうと…屈するわけにはいかない…!


ルドルフ:そうだ!俺たちはもっと強くなる必要がある!

だからお前に教えてやる!

俺が作り上げた武術体系…探偵式護身術を!


ジャンヌ:探偵式護身術?


ルドルフ:そうだ

そこにお前が学んでるアルバン式の逮捕術を取り入れ、二人の力でさらに高いレベルに昇華させるって寸法だ!

まずはお前のレベルが知りたい…準備してとっととかかってこい!


ジャンヌ:…わかりました!手加減しませんよ!!


―――――――――――――――――――――――――――――――


ランドン:ジャンヌはいつも全力だ

正義感に溢れ、自らの信じる方向に向かって突き進む

たとえそれが警察としての普通から大きく外れるものだとしても


アンジェ:何か言いたげね


ランドン:彼女の上司としては複雑なのさ

組織に必要なのは統率、調和、協力だ

そこから外れるものは淘汰されかねない

彼女が君と組んで打ち立てた功績を疎ましく思う者も多い


アンジェ:つまらないわね


ランドン:そうかもな…だが、俺は普通を重んじている

社会の作り上げた“普通”の輪から外れることはとても危険だからだ

思想、文化、財力、学力…世の中の様々な要素が一辺倒に“普通”になれば犯罪は減るだろう


アンジェ:“悪”の意識が薄弱(はくじゃく)になるだけよ

面白みのないディストピアね


ランドン:…少し極端な話をしてしまったな


アンジェ:かもね…ねえ、被害者の議員って収賄疑惑が出てたでしょ?

警部の見解でいいから、実際どうなのか教えてもらっていいかしら?


ランドン:…それは事件解決に必要なことなのか?


アンジェ:もちろん


ランドン:…はぁ、まあいいか

あくまでこれは俺の独り言だ

…モーリス・ぺニントンと裏金は切っても切れない

その筋では有名な話だよ

有名な企業や実業家との黒い繋がりは表沙汰になっていないだけで確実に存在する…まぁどこの政治家も同じようなものなんだろうが…


アンジェ:それでも、彼が頭一つ抜きん出ていたみたい


ランドン:…どういうことだ?


アンジェ:ほら、さっき上がったネットニュース

議員の家やPCから裏金につながる証拠がわんさか出てきたって

警察はこれから忙しくなりそうね


ランドン:俺たちが忙しくして世界が平和になるならいくらでも働くさ

警察は公僕(こうぼく)なんだからな

…ここは俺が払おう…現金は一切持ち歩かない主義でね


アンジェ:こだわり?


ランドン:便利だからそうしているだけだよ


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ジャンヌ:昨晩、新たな被害者が発見されました

被害者はレナード・グリーニング

人通りの少ない空き地で倒れていたそうです


ヘルマンニ:じゃ、じゃあ、致命傷になったのは…やっぱり…


ジャンヌ:はい、後頭部を金属製の大きな刃物でたたき割られていました


アンジェ:今までと同じね…ところでジャンヌ


ジャンヌ:なんですか?


アンジェ:なんでそんなに顔腫れてるの?


ジャンヌ:努力の勲章(くんしょう)です


アンジェ:そ、そう


ランドン:凶器は例のごとく見つかっていない

犯人の動機も謎…目撃情報なんかも無しだ


アンジェ:…現場に行ってみましょうか

何かわかるかもしれないしね


―――――――――――――――――――――――――――――――


ジャンヌ:ここでうつぶせに倒れていたそうです


ランドン:この空き地は住宅街の陰に隠れてる…夜になれば人通りはほとんどない


ヘルマンニ:レナード・グリーニングと言えば…な、何人もの部下をハラスメントで辞めさせたり、じ、自殺者なんかも出した…ブラック企業経営のだ、代表者みたいな人ですよ


アンジェ:…そんな場所に金持ちの被害者はなぜ来たのか…ん?

ヘルマンニ、ちょっと私のこと持ち上げてもらえる?

あの高いところのでっぱりが見たい


ヘルマンニ:は、はい…失礼しますね…よっと


アンジェ:…ん~


ジャンヌ:何か気になることが?


アンジェ:…この傷なんか気にならない?

ちょっと写真撮るわね

…うん、もうおろしていいわよ


ヘルマンニ:はい…気を付けてくださいね


アンジェ:…ありがと、この傷なんだけど


ランドン:ひっかき傷のように見えるが…ただの傷じゃないのか?

猫とか、小石とかの…


アンジェ:…でも他のでっぱりにはついてなかった…それに同じような傷がモーリス議員の殺害現場のオブジェにもついていたわ

ヘルマンニ、あとで形状が同じ傷か調べてちょうだい


ヘルマンニ:わ、わかりました


アンジェ:それからジャンヌに調べてほしいことがあるんだけど?


ジャンヌ:はい、なんでしょうか?


アンジェ:モーリス議員の家の一か所電気のスイッチを手で押さなきゃいけないところ合ったでしょ

あそこに本当にデバイスが無かったのか調べてもらえる?

デバイスを使用してるなら、両面テープか何かの跡が残るはず

メモに詳しいこと書いといたから…よろしくね


ジャンヌ:わかりました!


アンジェ:警部にもお願いが


ランドン:よかった、俺だけ仕事が無いかと思ったよ


アンジェ:レナード・グリーニングについて引き続き情報を追ってもらえる

何かここに来た理由見たいのがわかるかも


ランドン:わかった、調べてみよう


アンジェ:それじゃあ…私は、実験と行こうかしら


―――――――――――――――――――――――――――――――


ジャンヌ:…というわけで、モーリス議員の部屋の電気のスイッチからガジェットを貼っていたと思われる跡は検出されました

一度貼ってから剥がしたようですね


ヘルマンニ:ぼ、僕の調査結果も出ています…

結論から言えば、形状はほぼ同じ…かなり細い糸のようなものをかなりの力でこすりつけた際に生じる傷がモーリス議員の現場にもありました…

他の現場もです…


ランドン:レナードに関する情報はまだ見つかっていない…

引き続き調査は進めるつもりだ


アンジェ:そう、ありがとう


ランドン:ところで…なぜ我々はこの体育館に呼ばれたんだ?


アンジェ:…私も実験の成果を見せようと思って

ヘルマンニ、準備して頂戴


ヘルマンニ:わかりました…

と、とはいえ準備はほぼできてますが…


アンジェ:そう?じゃあ始めて行きましょう

このバスケットゴール…これを殺害現場のオブジェや、でっぱりだと思ってちょうだいね

んでバスケットリングに、このひもを巻き付けてひっかけておく

このときに輪っかを作って固定しておくわ

この糸の先にはメディシンボールを吊るしておく…


ジャンヌ:…随分重そうですけど…その細い糸で大丈夫なんですか?


アンジェ:これは特殊部隊とかの防護服にも使われているアラミド繊維(せんい)の糸なの

細くてもその頑丈さはその辺の糸の比じゃないわ

この糸を私が離せば、振り子の要領でこのボールが被害者の後頭部を打ちぬくっていう寸法よ


ランドン:…今はアンジェリーヌさんがおさえているが…実際にそんな風にオブジェに登って凶器をおさえていたら夜中でも目立つ

あまりに不審だろう


アンジェ:そうね…ヘルマンニ、お願い


ヘルマンニ:はい…そこで必要なのが、こ、これです


ジャンヌ:それって…モーリス議員の家にあったガジェットですか?


ヘルマンニ:はい…アンジェリーヌ先生が持っている糸をこっちに引っ張って…

ガジェットを床に固定して、糸を引っ掛ける

滑車の要領でボールはゴールに吊るされたままになります

この状態が作れれば…


ジャンヌ:…あぁ、アレですね!

輪ゴム鉄砲と同じで、このスイッチを起動させれば糸の引っ掛かりが外れてボールが振り子みたいに落ちてくる!


ヘルマンニ:そこにマネキンを用意しました

この状態でスイッチを入れれば…


アンジェ:ボールが後ろから来たマネキンの後頭部を打ちぬける…

(振り子がマネキンの頭を弾き飛ばす)

ランドン:…これが…被害者を殺したトリックだと?


アンジェ:その通りよ


ランドン:馬鹿な…できるわけないだろう


アンジェ:あら、何でかしら?


ランドン:モーリス議員は走っていたんだ

それを狙って当てられるわけないだろう?


アンジェ:単純な話よ…犯人は何度も試したのよ

モーリス議員がランニングに出る日を…走るペースを…ランニングコースを把握して…

本当に殺害が可能なのか実験したに違いないわ…何度も何度もね


ランドン:犯行後の始末は?モーリス議員の事件は目撃者だっているんだ


ヘルマンニ:このアラミド繊維は特殊な結び方をしていまして…

ロープマジックの応用で…このアラミド繊維用のカッターでここと、ここを切れば…あっという間に糸の回収も可能です

吹き飛ばされた死体に目が向けば、その間にバレずに片付けることくらい簡単かと…


アンジェ:他の現場にも糸をこすった跡は見つかった

でも、モーリス議員の現場が飛びぬけて傷の跡が多かったわ…何度もこの殺害方法を試した証拠よ

そして実験は成功した


ランドン:なるほど…では、犯人はモーリス議員や他の被害者に強い恨みを持つ者だな…

でなければ、そのような殺し方を試すわけがない

捜査対象が絞れるかもしれないな


アンジェ:その必要は無いわ


ランドン:…え?


アンジェ:犯人ならもうわかってるから…
あなたが殺した…そうでしょ?ランドン警部


ランドン:…なに?

ははは…なんの冗談だ…おい、ジャンヌ、ヘルマンニさん…どうして何も言わないんだ…?

(少し間を開ける)

お、おいだって…最後の犯行が起きた時間に俺はアンジェリーヌさんと一緒にいただろう?


ヘルマンニ:あのガジェットは…専用のあ、アプリで遠隔操作も、タイマー設定も可能です


ランドン:俺には…被害者を殺す理由なんてないだろう…!?


アンジェ:いいえ、あなたにはモーリス議員を殺したいほど憎む理由がある


ジャンヌ:ランドン警部…ウィンター先生から受け取ったメモにはガジェットに関すること以外も書いてあったんです…

それは、モーリス議員の家政婦として働いたことがある方の記録を調べろと言う指示でした


アンジェ:あの議員の家に行って家政婦のことを話した時、あなたなんて言ったか覚えてる?


ランドン:いや、覚えていないが…そんな馬鹿みたいにな話に付き合ってられないぞ!


ヘルマンニ:裏で何が行われているのか…想像したくはないな…と言いました


アンジェ:あの時、あ、この人は何が行われているのか知ってるんだなって思ったわ
普通は先に勤務状況とかが思い浮かぶものでしょ?

だからジャンヌに調べてもらったの


ジャンヌ:…今まで家政婦を務めた方の中に…デボラ・ウェイバリーの名前があります

警部の妹さんですよね…?

同時期に働いていた方の証言も取れています…一体、どのようなことが行われていたのか…


アンジェ:デボラ・ウェイバリーさんに行われたのは…おぞましい性的虐待の数々…

洗脳に近いような仕打ちで彼女は逃げることができなかった

その様子を見て仕事をやめていく家政婦には多額の退職金で口をつぐませていた…

そして2年前に…デボラさんは自ら命を絶っている

職場に原因があったと考えるのが妥当だと思うけど…あなたはその事実を知っていたんじゃないの?

だから…


ランドン:だから…俺が殺した…?

まさかそう言いたいんじゃないだろうな…アンジェリーヌさん

何の証拠もない…妄言だよ、それは


アンジェ:…私、ずっと不思議だったの

モーリス議員はあれほどのガジェットオタクなのに、どうしてイヤホンはスマホを買うとついてくる有線のものを使ってたんだろうって

そしてジャンヌはともかく、あなたみたいな優秀な刑事がどうしてそれを指摘しないんだろう…ってね


ランドン:俺は機械音痴だから…気づかなかっただけで…


アンジェ:じゃあ質問を変えましょう

Bluetoothのイヤホンは使うのをやめても、スマホにペアリングした履歴は残るのよ

モーリス議員のスマホにはしっかり履歴が残ってた

なのにどうして有線のイヤホンが落ちていたのかしら?


ランドン:単純に有線のイヤホンを使っていただけだろう


ジャンヌ:いいえ…何者かがBluetoothイヤホンを隠さなければならない理由があったからです

…なぜならモーリス議員が使用しているイヤホンには録音機能がついていたから

ペアリング履歴として残されていた型番から議員が使用していたイヤホンは割り出せています

イヤホンそのものにボイスレコーダーがついている特殊なものでした

用心深い人のようで…通話は録音していたそうですね

他の議員からもそのようなイヤホンを使っていたと証言も取れています


アンジェ:あなたはモーリス議員を妹の件で呼び出した

モーリス議員は嫌だったでしょうね…変な噂がたてば今後の選挙に影響する

ランニングを装って外を出た

そして犯人と話している最中に…殺された

被害者のスマホから通話履歴を削除したけど…あなたは気づいてしまった…

イヤホンに録音がされている…

不意を突かれたように殺すには両耳がふさがっていてくれた方が都合がいい

そこであなたは近所のコンビニでイヤホンを購入して…現場に捨てた


ジャンヌ:警部…私はあなたを信じたいです

なので購入履歴を見せてください…もしウィンター先生の言うことが本当であれば、事件の当日には…購入履歴に警部が使うわけがない型のイヤホンの購入履歴があるはずですから


ランドン:……


ジャンヌ:警部!!


ランドン:はぁ…やはりこうなったか…

国内トップの名探偵…ジャンヌみたいな凡人をここまで出世させるだけある…

只者ではないと思っていたが…まさかこれほどとは


ジャンヌ:…それじゃあ


ランドン:あぁそうだ、俺が殺した


ヘルマンニ:や、やっぱり…先生の推理の通りだった…!!


アンジェ:…モーリス議員は私怨で殺したのかしら?


ランドン:罪と罰、を知っているか?


アンジェ:罪と罰…?


ランドン:学が無いな

ドフトエフスキーだよ


アンジェ:それくらい知っているわ

それが何だって言いたいのよ


ランドン:ラスコーリニコフは、選ばれた非凡人という意識から悪徳高利貸しを殺す…

俺も同意見だ

選ばれた人間は、悪を殺す資格がある


ジャンヌ:ラスコーリニコフは、罪の意識にさいなまれる

自分が正義でないことに気づきます…!あなたとは違う!!


ランドン:そこだ!そこなんだよジャンヌ!!

ラスコーリニコフは、罪の意識からついぞ完成しなかった!


ジャンヌ:何を言っているんです…?


ランドン:罪の意識など持つ必要がなかった

彼は正義…正しいことをしたのだから…


アンジェ:あんたは正義なんかじゃないわ

だから法によって裁かれる


ランドン:あんたは非凡人だから理解してくれると思ったんだけどな…

一つの微細な罪悪は百の善行に償われ、選ばれた非凡人は、新たな世の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ…あまりに理にかなっていると思わないか?


ヘルマンニ:さ、殺人が微細な罪悪…ですか…!?


アンジェ:ジャンヌの言う通りだわ…

あんたなんかにラスコーリニコフの苦悩を理解できるはずがない…!


ランドン:馬鹿だな、あんた

罪悪じゃない…善行だよ


ジャンヌ:何ですって…?


ランドン:俺の妹を死に追いやった、疑惑の絶えない愚か者

親の力を振りかざす性犯罪者

自らのために他者を省みないエゴイスト

金のためにどこまでも人を陥れることができる大馬鹿野郎

どいつもこいつも死んだ方が世のためだ…

悪に振り切れた馬鹿達を殺し…世界を平等に戻していく…

それが、俺が果たすべき…使命だ


アンジェ:くだらない…あんたも、あんたが殺してきた被害者達と何も変わらない

自らの思想のために犯罪に手を染めた…クズよ


ランドン:好きに言え…俺が捕まっても、俺の意思は誰かの正義を執行させる

俺こそがラスコーリニコフの斧になるんだ!

…だが…ここで捕まるわけにはいかない

この正義の意思をもっとこの街に広げなくてはならない…

俺の正義を邪魔する貴様らは…悪だ

ここで…死んでもらおうか


ジャンヌ:アンジェさん、下がってください!!

ルドルフさん!!


ルドルフ:……おう!!

はは…てめぇ…犯人だったみてえだな…

俺らではったおしてやんよ…!!


ランドン:はははっ
唐突に変わるんだな…二人がかかりだからといって勝てると思ってるのか?
俺はアルバン市警の中でも、格闘技の腕はトップだ


ジャンヌ:だからなんだってんです…!
私とルドルフさんでくみ上げた…アルバン式ディティクティブマーシャルアーツ


ルドルフ:見せてやるぜ…吠えツラかくなよクソ野郎!!


―――――――――――――――――――――――――――――――


アンジェ:…はぁ…面白くない事件だったわね


ジャンヌ:(NA)

ランドンさんは訓練を積んだ私とルドルフさんにあっけなく完敗した…


ルドルフ:最後の一発はよかったな

あいつの右フックをかわして、ボディに一発…


ジャンヌ:……


ルドルフ:どうした?


ジャンヌ:…尊敬できる先輩だったんです

事前に事件の概要を聞かされていなければ…犯人だと信じることはできませんでした…

それがあんなに…あっけなく犯人だったなんて…


ルドルフ:…勘違いすんなよ、ジャンヌ


ジャンヌ:…へ?


ルドルフ:俺達は獣じゃねえ…ルールの中で生きる人間だ

そのルールを破るっつーことは自分が人間じゃないと認めるようなもんだ

それを正当化するような奴を理解することは一生できねえぞ


ジャンヌ:…ルドルフさん


ルドルフ:あっけなく終わっちまったのはそれだけ俺らが準備したからだ

あいつをぶっ飛ばして捕まえる準備をな…

お前は誇れ…警察官としての職務をお前はやり切ったんだ


ジャンヌ:…はい!


アンジェ:ルドルフのくせにいいこと言うじゃない

…それにねジャンヌ

これからあんたはこの事件の事後処理でいっぱいいっぱいでしょ?

まずはそっちをやり切りなさい


ジャンヌ:はい、ありがとうございます…


アンジェ:そしたら…久々に一杯やりましょ

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ジャンヌ:先生からのお誘いは久しぶりですね

…ぜひ


アンジェ:…じゃあ私たちも帰りましょうか

新しい厄介事が起きる前にね



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