【2人声劇】不死身のあなたを
■タイトル:不死身のあなたを
■キャラ
アラン: 男
不死身の男
荒廃した世界を一人でさまよっている
孤独を好んでいるが、一人の女性と出会い考えを変える
エルマ:女
幼少期から強くなるための訓練を積んできた、快活な少女
アランと出会い、アランを殺すことを自らの目的にする
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(殴り飛ばされるアラン)
アラン:うおぁっ!?
エルマ:今回も私の勝ち
やっぱりあんたを殺すことはできないけど、あんたも私に勝てやしないね
アラン:はぁ…満足したならさっさとどこぞへ行っちまえ
エルマ:駄目だ!勝ったら私と一緒に旅をしてくれる約束じゃないか!
あんたが見てきた世界を見たいんだ!
アラン:そんな約束してねえよ…
俺が見てきた世界なんて…面白くもなんともないだろうが
じゃあな…エ…エヴァ…え~っと
エルマ:エルマだ!いい加減覚えてよ
アラン:ここでお別れするんだ…名前を覚える必要なんてないだろう
エルマ:へぇ…ならあんたが連れてってくれるまで何回でもぶっ飛ばしてあげるよ!
アラン:もうお前とは戦わねえよ
エルマ:なんでさ!
アラン:俺は不死身だ
あと何十年かしたらお前は死んでいく…それまで待てばいいだけだ
エルマ:え~ずるいぞ!
アラン:ふん、俺はこの世で一番自由な存在だ
お前なんかに縛られたくはねえ…だから、もう俺に近づくんじゃねえぞ
エルマ:(NA)
そう言って、よろよろと立ちあがる彼の後姿(うしろすがた)に私は心を締め付けられた
エルマ:はぁ…馬鹿を言ってる
…あんたは自分の命に縛(しば)られている、この世で最も不自由な存在じゃないか
…私があなたを必ず自由にしてあげる
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エルマ:(NA)
進みすぎた科学技術は醜(みにく)い争いを生み、その影響は私たちが住む惑星に大きな影響を与えた
荒れ果てた大地、汚れた海、有毒ガスが漂う大気…そんな地獄(じごく)で私たちは出会った
エルマ:わぁっ、人に会うのは随分久しぶりだ
私エルマ、よろしくね?
アラン:…消えろ…お前となれ合うつもりは無い
エルマ:つもりがあろうが無かろうが、私からしたらどっちでも同じだよ
会えて嬉しい
あんたはどこへ向かってるの?
アラン:…まだ、見たことのない場所だ
エルマ:へぇ…なんだかおもしろそうだね、その旅、私も連れて行ってくれない?
アラン:(NA)
不躾(ぶしつけ)で馴れ馴れしい奴
こんな世界で女が一人…少し脅(おど)せばどこかへ逃げちまう世間知らずの馬鹿なガキ…俺はそう思っていた
(殴り飛ばされるアラン)
アラン:ぐはぁっ!!
エルマ:…悪いね、おじさん
私、結構強いんだ
アラン:…そうかよ…だからなんだって話だけどな
エルマ:え…!?傷が…治ってく
アラン:俺はな…不死身なんだ…どんな怪我でもすぐに治る…わかったら早く消えろ
それか、死ぬまで殴り合ってみるか?
エルマ:あぁ!それがいいね!
殴り合おう!
アラン:…あ?
エルマ:ほら、あんたが言ったんじゃないか!
さぁ行くよ!
アラン:おい!待て!おい!!
アラン:(NA)
前言撤回…こいつは頭のネジが何本も飛んだ、大馬鹿野郎だった
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アラン:…んん…い…てて…
エルマ:…あ、目が覚めた?
不死身でも気は失うんだね
アラン:…まだ、いたのか…痛かったぜお前のパンチ
お前の言う通りだ…気も失うし、眠くなるし、腹も減る
ただ…死なないだけなんだよ、俺は
エルマ:あんた…名前は?
アラン:…知ってどうする
エルマ:いいから教えてよ
アラン:…アランだ
エルマ:いい名前…ねえ、アラン…あんたのこともっと教えてよ
家族とか、友達とか、一番気になるのはやっぱりどうして不死身になったのか…かなぁ
アラン:…何回言えばわかるんだ
俺はお前となれ合うつもりなんて無いんだよ…
エルマ:まだ2回目だろ?
少しくらい私に付き合ってくれてもいいじゃない?暇そうだしさ…
…そうだ、私があんたに負けを認めさせたら連れてってよ!
アラン:…は?
エルマ:そうと決まれば、早速やろうか!
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アラン:(NA)
それからこいつは、ずっと後ろをついて来ては殴り合いを挑んできた
惰性(だせい)で殴り合いをする毎日…俺の日常は少しだけ騒がしくなった
アラン:…まだついてくるのか?
エルマ:あんたは自由に生きるんだろ?
だから私も自由にしてるだけだよ…正式な旅の仲間に認めては貰いたいけど…
ところで…ここはどこなの?
アラン:…何百年か昔…ここで戦争が起きたんだ…
エルマ:戦争…それでこんなに殺風景なんだ…
あそこ…地面が吹っ飛んでる…まるで、でっかいスプーンでえぐりとったみたいだ
アラン:俺は兵士として参加してた…
国や権力者のためじゃない…一緒に暮らす、愛する仲間のためにな…でも、みんな死んだ
ほんの少しの生き残りも戦争が終わってすぐに病気で死んだ…残ったのは荒地だけだ
エルマ:そうだったんだ…どんな戦い方をすればこんな荒れ方するんだろ
アラン:…存在してはいけない旧世代の遺物が使われた…歴史から消え去ったはずの忌まわしい兵器がな…
エルマ:このだだっ広い場所を荒野にできるような兵器って…
アラン:核(かく)、と呼ばれていた…何百年も前に全て廃棄されたはずだった
エルマ:核…
アラン:核はそれ自体が驚異的な威力を持つ爆弾だ
だが、怖いのはそれだけじゃない…使用することで発生する物質は人間の体に被害を及ぼす
エルマ:嘘!?やばいじゃん!!
アラン:もう安全だ…安心しろ
エルマ:なんだぁ…良かったぁ…
アラン:俺が見てきた世界なんて、どこもかしこもこんなもんだ…
面白くもなんともないだろう…どうして俺に固執するのか知らないが…いい加減諦めろ
エルマ:…嫌だね
アラン:なんでだよ…!
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アラン:(NA)
わからなかった…なぜこいつがこうも俺に固執するのか…
一人でいることを望んでいるはずなのに、純粋に真っ直ぐ俺と向き合うこいつを拒絶しきれずにいた
エルマ:ねえ、アラン…あんたは誰かを愛したことある?
アラン:なんだ…藪から棒に…
エルマ:答えてよ
アラン:…あるよ…皆死んじまったがな
エルマ:そっか…
アラン:俺は長く生きる…いつも失う側だ…
あんなに悲しいんなら…もう、愛なんて必要ない
エルマ:…でも愛は世界の色を変えてくれる
アラン:世界の…色…?
エルマ:私には家族がいた…戦い方、食べられる物、この世界のこと…私が生きる術(すべ)を教えてくれた…
でも、みんな殺されたよ…物資(ぶっし)を奪いに来た盗賊(とうぞく)共にね…
アラン:…よくある話だ
エルマ:…そう、よくある話
あんたの境遇とは比べ物にならない…でも、あの愛が…
家族が私にくれた愛が…この世界を彩ってくれてる
愛があるから、こんな世界でも生きていける…でも…その色も時間と共に褪(あ)せ始めてる
それは辛くて…苦しい…
アラン…今あんたに必要なものこそ…愛だと思うんだ
アラン:…この世界は飽きるほど見ているんだ
色だのなんだの…きっと俺には、わからない
エルマ:…ねえ、もっかい私と戦ってよ
アラン:なんでだよ?
エルマ:…私が勝ったら、正式に旅の仲間として連れてって
アラン:あ?まだそんなバカみたいなことを…
エルマ:お願い…!
アラン:…わかった
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アラン:(NA)
夜通し続いた殴り合い…疲れ果てたこいつが眠りに落ちるころ…なぜか俺の心は締め付けられるようだった…
(早朝、エルマより早く起きるアラン)
アラン:…はぁ…こいつは、寝てるな
今のうちにさっさと行こう
最初からこうすりゃよかったんだ…
エルマ:………一人で行く気?
アラン:お前…起きてたのか…!
エルマ:こんな世界でゆっくり眠れるのは死ぬ心配のない…いや、むしろ死にたいあんただけだろ?
一人で行くつもりなら、その脚切ってでも止める
アラン:いい加減にしろ…勝ったのは俺だろう…
エルマ:私は負けてない…こうして元気に立ってる
アラン:苦し紛れの言い訳だ!!
エルマ:あんたに私を負かすことができるの?
無理だよ…アランは優しいから
ずっと私のわがままに付き合ってくれた…
アラン:どうしてだ…どうして俺にこだわる…!
俺はこれ以上、何かを失いたくない…もう何かを手に入れたくないんだよ!
頼むからほっといてくれ!エルマ!!
エルマ:やっぱり…私の名前、ちゃんと覚えてるじゃないか…
アラン:それは…!
エルマ:…お願いだアラン…私はこんな世界で…もう一人は…嫌だ…!
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エルマ:(NA)
私は“人”に…“愛”に飢えていた
アラン:ぐはぁっ!!
エルマ:…悪いね、おじさん
私、結構強いんだ
エルマ:(NA)
この世界で女である私は搾取(さくしゅ)の対象だ
だから強くいなければならなかった
その強さが、愛を遠ざけた
私はいつも戦いの中にいたから…この世界ではそうするしか生きていくことはできなかったから…
アラン:…そうかよ…だからなんだって話だけどな
エルマ:え…!?傷が…治ってく
アラン:俺はな…不死身なんだ…どんな怪我でもすぐに治る…わかったら早く消えろ
それか、死ぬまで殴り合ってみるか?
エルマ:(NA)
これは…最後のチャンスだと思った
今までの男たちとは目が違う…彼がぶっきらぼうでも優しいことはすぐにわかった…
エルマ:あぁ!それがいいね!
殴り合おう!
アラン:…あ?
エルマ:ほら、あんたが言ったんじゃないか!
さぁ行くよ!
アラン:おい!待て!おい!!
エルマ:(NA)
この人と一緒なら…戦いの中でも見つけることができるかもしれない…
愛というものを…
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エルマ:私は必ずあなたを殺す…人生をかけて殺す方法を見つけてみせる…!
だから…!だから!…私の全てをあなたにあげるから…
一緒にいてアラン…私が死ぬとき…私と一緒に…傍(そば)で死んで…!
アラン:そんな告白があるかよ…俺は不死身だ…
気が遠くなるような時間をかけて…ついぞ死ねなかった
お前に残された時間はたかだか数十年ぽっちだ…それで…俺を殺すのか?
エルマ:…殺すよ
アラン:なら…俺を殺すまでの間だけ…一緒にいてやるよ
エルマ:アラン…!
アラン:(NA)
お前を置いて踏み出した一歩…俺はお前の言い分を信じるしかなかった…だって…
俺があの時見た世界は…泣きたくなるほど薄暗かった
エルマ:(NA)
ああどうか、この愛があなたに届きますように…だって…
今私の目の前に広がる世界は、こんなに美しいのだから