【3人声劇】海の泣く町
■タイトル:海の泣く町
■キャラクター
ヒスイ:女
田舎町の近くの入り江に現れる人魚
美しいエメラルドグリーンの瞳を持っている
幸太郎(こうたろう):男
田舎町に暮らす少年
閉鎖的な田舎に嫌気がさしており、都会にいくことを夢見ている
向日葵(ひまわり):女
田舎町に暮らす少女
幸太郎を好いており、ヒスイをあまり好意的に思ってはいない
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ヒスイ:痛い…早くとって
幸太郎:あ…はい、すいません
幸太郎:(NA)
片田舎の人気(ひとけ)のない入り江…そこで俺が釣り上げたのは、人魚だった
ヒスイ:はあ、ひどい目にあった…
幸太郎:(NA)
整った顔立ちと透き通った声、そして水に濡れて輝く尾ひれ
目が離せなくなるほどに美しい彼女を見たとき、驚きと一緒に別の何かも俺は感じた…
それが一体何なのか…わからなかった
幸太郎:えっと…なんで釣られちゃったの…?
ヒスイ:お腹減って、つい
人間から隠れながら餌(えさ)とるのって難しいからさ
ヒスイ:…じゃあ、これどうぞ
釣り用のだけど…
ヒスイ:ほんと?やった!
幸太郎:(NA)
彼女の名はヒスイ
俺なんかよりもはるかに長い時を生きているのだという
ヒスイ:この入り江に住む人魚は私だけだからさ…話し相手になってくれて嬉しいよ
大抵(たいてい)の人間は私を見つけるとすぐ捕まえようとするし
幸太郎:そうなんだ…ヒスイはどうしてここに?
ヒスイ:思い出の場所なの
私がまだ小さかった時…翡翠(ひすい)って名前をくれた人間がいたんだ
私の瞳がこの石みたいだからってさ
幸太郎:(NA)
彼女はキラキラと光るエメラルドグリーンの石を見せてくれた
翡翠(ひすい)…この町で良く取れる宝石だが、これがその中でもかなり上等(じょうとう)なものであることは想像に難(かた)くなかった
ヒスイ:ただの石と私を比べるなんて人間はおかしいなぁって思ってたけど…その人に石をあげたらこんなに綺麗になって返って来たんだ
私の瞳(め)ってこんなに綺麗なんだって思ったら嬉しくてね…彼が私の唯一の友達だった
幸太郎:今はいないのか?…友達
ヒスイ:…いないよ
幸太郎:じゃあ…俺と友達にならないか?
幸太郎:(NA)
ヒスイは少し驚いた後にかわいらしく笑うと、差し出した俺の手を握った
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向日葵:幸太郎~!
幸太郎:向日葵…今日は部活休みか?
向日葵:先輩のいびりがもう嫌がらせのレベルになったから、ひっぱたいてやめてきた
幸太郎:ははは、そりゃ激しいな
大丈夫なのか?
向日葵:大丈夫大丈夫
先輩ぽかんってした後泣き出してさぁ…
自分の方がもっとひどいことしてたくせに、勝手な奴
幸太郎:…反撃されるだなんて思ってなかったんだろ
相手が悪かったってことだな
向日葵:こんな狭い世界のド田舎で舐められたら終わりだもん
…あ、山田のお父さんだ
次の市議会選(しぎかいせん)に出るために、根回しに躍起(やっき)らしいよ
幸太郎:…根回しって?
向日葵:ほら、最近翡翠(ひすい)が今まで見たいに採れないって議会の人達が騒いでるでしょ?
新しい町興(まちおこ)しの施策を打たなきゃならん!…って、色々準備してるんだって
詳しいことは、よくわからないけどね
…クソみたいな議会のクソみたいな議員のおじいさん共の言うことなんて信用できないけどさ
幸太郎:…手厳しいな
向日葵:それは幸太郎が一番…あっ…ごめん…
幸太郎:あぁ…気にすんなよ…
向日葵:…幸太郎はまた釣りに行ってたの?
何か釣れた?
幸太郎:おう、ぼうずだ
向日葵:はは、いつもぼうずだね
幸太郎:あの場所に行くのが目的だからいいんだよ
向日葵:私にも教えてよ、そんなにいい場所ならさ
幸太郎:やだよ、それに、あの場所は…いや…なんでもない
向日葵:なに言いかけたの?いいこと?
幸太郎:最近魚が元気でさ…ちょっと水がはねたりするんだよ
いいことじゃないさ…
向日葵:…そっか
…ねえ、明日暇だったらさ、街の方に遊びにでも行かない?
可愛いカフェができたらしくてさ…えっとねメモしてきたんだよ…
ほら、honesty(オネスティ)っていうんだけど…
幸太郎:またO(オー)の書き方間違ってるよ、0(ゼロ)になってる
向日葵:うるさいな、で、どう?
幸太郎:あ~、誘ってもらえて嬉しいけど…明日は先約があるんだ
向日葵:そ…っか…じゃ、また声かける!
幸太郎:おお、悪いな…じゃあな
(その場から歩き去る幸太郎)
向日葵:…なんか…変だな
向日葵:(NA)
幸太郎のお父さんはこの街の議員だった
この街のことを考え、多くの改革を提言(ていげん)したのだが山田議員を中心とした田舎の前時代的な考えに封殺され…最後には言いがかりともいえる責任追及を受け辞職を余儀なくされた
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幸太郎:…父ちゃん…母ちゃん…!?
なんで…どうして!!?
向日葵:(NA)
ある日突然、幸太郎の両親が海に浮かんだ…警察は一家心中(いっかしんじゅう)であると断定(だんてい)した
幸太郎は岸に一人打ち上げられているところを発見されたのだが…その体からは大量の睡眠薬が検出されたという
向日葵:幸太郎…?
幸太郎:向日葵か…ほっといてくれ…
向日葵:でも…
幸太郎:馬鹿な事を言う議員の息子…それが俺に対するこの村の評価だろ…
自殺だなんて馬鹿な事をしたって…議会中(ぎかいじゅう)でのたまってる…
この町の印象を落とすってさ…
いないものとした方がいいんだ、俺なんて…だからほっといてくれ…
向日葵:(NA)
私は何も言えなかった…でも、放っておくこともできなかった…
私は…幸太郎が好きだったから…
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幸太郎:何年か前に死んだんだ…俺の父ちゃんと母ちゃんは
2人そろって海に身投げした…死んでも手をつないだままだったよ…お熱いよな…
俺だけは手が離れたおかげで助かった…ヒスイと比べれば短いんだろうけど…俺も一人なんだよ
ヒスイ:どうして…海に…?
幸太郎:…わからない
でも、たぶんこの町の連中が追い込んだ…この町に殺されたんだ
町の大人は俺を腫物(はれもの)扱いだ…責任を押し付け合って、俺を見ないようにしてる
こんな町…さっさと出て行きたいよ
ヒスイ:…幸太郎は自分が住む場所が嫌いなのね
それって…とても辛いと思う…
幸太郎:はは…でも、この入り江は好きだよ
父ちゃんが教えてくれたんだ
人が全然来ない…秘密の隠れ家なんだって…
ヒスイの思い出の場所だし、俺もヒスイに会えた…ほんといいとこだよ…
ヒスイ:そっか…
幸太郎:ヒスイはどこかへ行きたいとか思わないの?
他の人魚のところとかさ
ヒスイ:行けないんだ…私は
幸太郎:どうして?
ヒスイ:私のお父さんは人魚の王を裏切った罪人(ざいにん)なの…娘である私も追放された…
まだ、仲間のところへ戻ることは許されてないんだ
幸太郎:そんなのおかしいだろ…ヒスイは何も悪いことしてないのに…!
ヒスイ:でも従うしかない…それが人魚の世界の掟だから
私は一人で泳ぎ続けてここに来た…体中ボロボロの死にかけだったんだけど…人間が助けてくれたの
幸太郎:それが前に言ってた友達?
ヒスイ:うん…嬉しかった…もう100年以上前の話…
人間の寿命は短いから、もう彼がいないことはわかってる…でもここにいれば…この場所で彼と話したことを鮮明に思い出せるんだ…
幸太郎:…俺、今夏休みだから時間はたくさんあるんだ…
だから…その思い出に仲間入りさせてよ
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向日葵:(NA)
幸太郎は夏休みが始まってから毎日どこかへ出かけていた
朝早くに出かけて、夜遅くに帰ってくる
時には泥だらけだったり、時にはびしょ濡れだったりした
ヒスイ:また来てくれたの?
幸太郎:…まあね、ヒスイも一人じゃ寂しいだろ?
ヒスイ:…今更だけどさ、私、人魚だよ?怖くないの?
幸太郎:…俺のこと食ったりするの?
ヒスイ:しないよ、まずそうだし
幸太郎:じゃあ怖くない、あと俺はたぶんうまい
幸太郎:(NA)
閉鎖的な村の中で生まれた爪弾(つまはじ)き
ヒスイ:(NA)
狭い世界でしか生きられない追放者(ついほうしゃ)
幸太郎:俺たちって似てるのかもな
ヒスイ:かわいそうなひとりぼっちってところが?
幸太郎:…もう一人じゃないだろ
ヒスイ:ふふ…ねえ、私歌うまいの
聴いてってよ
幸太郎:はは、人魚の歌を独り占めなんて贅沢だな
ヒスイ:そうでしょ?感謝してよね
行くよ…?
向日葵:何…それ…!?
(二人は突如現れた向日葵に驚く)
幸太郎:向日葵…!?どうしてここに…!
向日葵:それって何…!?
最近毎日どっかに行ってると思ったけど…離れて!幸太郎!
(向日葵は幸太郎の腕を引っ張る)
幸太郎:何すんだ向日葵!離せよ!!
向日葵:何って…!そんな得体の知れないのと一緒にいたら危ないよ!?
幸太郎:危ないって…そんなわけないだろ!
ヒスイ:…幸太郎…ごめんね…!
向日葵:(NA)
人魚は体を滑らせながら海へと消えていった…その瞳が…なぜか私の脳裏に焼き付いた…
深い憂いと優しさを混ぜたような…美しく…淡く光る…宝石のようなその瞳が…
幸太郎:ヒスイ…!
向日葵:幸太郎…
幸太郎:…なんでお前がここにいるんだ…向日葵
向日葵:それは…最近幸太郎が少し変だったから…それで…
幸太郎:尾(つ)けて来たのか…
向日葵:幸太郎が心配で!…だから…その…
幸太郎:だから俺から友達を奪い取るのか…?
向日葵:友達って…今の人間じゃないでしょ…化け物だよ…?
幸太郎:人魚だったら友達になれないのか…?
何も知らないくせに…俺の大切な場所と大切な人を土足で踏み荒らしたんだぞ…お前は…!
向日葵:…幸太郎
幸太郎:ついてくるな!一人にしてくれ!
幸太郎:(NA)
その日、入江にヒスイが現れることはなかった…
海からはただ…海鳴りが響くだけだった…
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向日葵:(NA)
幸太郎は以前にも増して入り江に通い始めた
しかし、反比例するように幸太郎が私の声に耳を貸すことは無くなった
向日葵:今日は…幸太郎はいない…か
ヒスイ:…来たね…待ってたよ
向日葵:っ!?…あんた…何のつもり…!?
ヒスイ:…何のつもりでもない…ただ、あなたと話がしたいだけ
向日葵…だったよね?
向日葵:…気安く呼ばないで…あんたは、何なの?
ヒスイ:私はヒスイ…この入り江に住んでる…見ての通り人魚よ
向日葵:そう…本物なんだ…あんた、人間でもないくせに幸太郎をたぶらかして楽しい?
ヒスイ:…そんなつもりはないわ…あなたにとって、幸太郎は大事な人なのね?
向日葵:そうだよ…幸太郎の両親がいなくなってから、私はずっと幸太郎と一緒にいた…
幸太郎を支えてきたんだ…あんたじゃない…私がそうしてきたんだ…!
なのに…あんたは…
ヒスイ:…そっか…良かった
向日葵:良かった…?よ良かったって何…?
急に現れて…幸太郎のこと奪っておいて…良かった…って、何が言いたいんだよ…!?
ヒスイ:…幸太郎は一人じゃなかった
私と違って…ちゃんと思ってくれてる人がいることが嬉しいの
それが聞けて…良かった…
向日葵:え…えぇ…幸太郎には私がいる…あんたはもう幸太郎の前に現れないで…!
あんたは人間じゃない…私たちからしたら化け物なんだ…!
人の世界にしゃしゃってくるな!
人魚なら人魚らしく…泡にでもなって消えろ!
ヒスイ:…わかってるわ…ごめんなさい
―――――――――――――――――――――
幸太郎:(NA)
あれ以来…入り江に何度も足を運んでいるが、ヒスイが現れることはなかった
まるで…彼女の存在がただの夢だったかのように
幸太郎:…向日葵
向日葵:…幸太郎…どうしたの?何か用?
幸太郎:ヒスイがどこにいるか知らないか…?
向日葵:どうしてあたしが知ってると思うの?
幸太郎:ヒスイのことを知ってるのは俺と向日葵だけだ
お前があの入り江に来てからヒスイは消えた…疑うのは当然だろ
向日葵:疑う?疑うって何?
私があの魚をどうこうしたって言うの?
幸太郎:いや、それは…知らないならいいんだ
時間を取って…悪かったな…
向日葵:待ってよ…
幸太郎:なんだよ…
向日葵:もう、あいつのことは忘れて…
あれは人じゃない…幸太郎を油断させて海に引きずり込もうとしてるのかも…
とにかく…危険だよ!もし幸太郎に何かあったら…!
幸太郎:向日葵には関係ない…
向日葵:関係ないことなんて無い…!
私にとって、幸太郎は大事な友達なんだよ…
ずっと幸太郎の支えになりたかった…だから…関係ないなんて言わないで…
幸太郎:…わかってる
向日葵は俺の友達だ…でも、ヒスイも…友達だ
あいつはずっと一人なんだよ…これ以上、一人にさせたくない
向日葵:どこに行く気?
幸太郎:…ヒスイを探しに行く…ついてこないでくれ
(歩き去る幸太郎を見送る向日葵)
向日葵:(NA)
私はずっと恐れている…私は初めてあの人魚を見たとき、あまりの美しさに身震いした…
幸太郎がその美しさに囚われ、彼女のもとへ行ってしまうのではないか…
その未来の可能性が私の心を締め付けていた
―――――――――――――――――――
幸太郎:(NA)
ヒスイを知ってからほんの少しの時間しか経っていない…
なのにどうしてだろう…こんなに強く惹かれてしまうのは
幸太郎:ヒスイ…やっぱり、俺達似てると思うよ
ヒスイが考えてること少しだけどわかる気がするんだ
向日葵は俺を本気で心配してる…だからきっとお前を遠ざけるような言葉を言ったんだろう…
でもそれは、俺もお前も望んでない…勝手に消えるなら…勝手に引きずり出してやる
(幸太郎は海へと飛び込む)
―――――――――――――――――――
ヒスイ:前に君、私たちが似てるって言ったでしょ…?
私は違うと思うよ…だって…こんな馬鹿な真似はしないから…
幸太郎:…そう…かな
ヒスイ:海に飛び込むなんて…私が来なかったら…どうするつもりだったの…?
幸太郎:…もうちょっと頑張って泳いでみた…かな
ヒスイ:ひどい言い訳だね
…これ、持っててくれない?
幸太郎:大事な翡翠(ひすい)の宝石だろ…?
ヒスイ:だからいつでも私に返せるようにあなたが持ってて…
そしたら、もうこんな馬鹿な真似はしないでしょ?
幸太郎:…はは、わかった
俺…思い出したことがあるんだ…
ヒスイ:何…?
幸太郎:…俺が両親と一緒に海に落ちたとき…誰かが俺の手を引いた気がした…
ヒスイは俺を…助けてくれたんじゃないか?
ヒスイ:…忘れてた方が良かったと思うよ…人は辛い記憶に蓋をする…
心を守るためにそうするんでしょ…?
幸太郎:ちゃんと…思い出したいんだ
ヒスイとの大切なつながりだから…
ヒスイ:…馬鹿な人
(ヒスイは静かな声で歌い出す…幸太郎が台詞を始めたらやめる)
幸太郎:(NA)
歌声と共に、失われた記憶が呼び起こされる…
泣きながら歌うその声は…この世の何よりも美しかった…だから…
向日葵:(NA)
だから…私があいつを消さなきゃいけない…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幸太郎:なんだ…あんたら…!?
…人魚狩りって…どういうことだ!!
向日葵:
議会の皆さん…人魚に関する噂を…知ってますか?
幸太郎:馬鹿馬鹿しい…いい歳して、そんな眉唾物(まゆつばもの)の誰がおくりつけたのかもわからない投書を信じるのか!?
向日葵:人魚を捕まえれば、今後我が町は話題性には事欠(ことか)かない…
幸太郎:これは…ただの翡翠(ヒスイ)だろ…!!俺が持ってたって何問題ないはずだ!
向日葵:人魚は翡翠(ひすい)を集めることも得意なようで、現状の翡翠出荷数の減少に歯止めをかけられる可能性もあります…
幸太郎:俺は何も知らない…あんたらに話すようなことは何もない!
向日葵:遠目で恐れ入りますが、写真も同封します
7月30日に撮影されたものです…ぜひ、ご査収ください
幸太郎:その書状見せてくれ…!おい…山田さん…これって……ごはぁっ!
(幸太郎は殴り飛ばされる)
…ってぇ
向日葵:全ては…この町の未来のために…
―――――――――――――――――――
幸太郎:はぁ…はぁ…はぁ…
ヒスイ:…幸太郎!?どうしたの…その怪我!
幸太郎:…ヒスイと話していたのを…誰かに見られたみたいなんだ
お偉い議員候補に、匿名(とくめい)の書状が行ったらしくってね…
ヒスイ:それで、なんでこんな…
幸太郎:何も…教えなかったから…
あいつらヒスイを捕まえるつもりらしい…逃げてくれ…
しばらくここには来ないほうがいい…
ヒスイ:幸太郎はどうなるの!
幸太郎:さあな…楽しかったよヒスイ…君の居場所を奪って…ごめん…
ヒスイのこと…んぐっ…
(ヒスイにキスされる)
ヒスイ:…あなたは一人じゃない
どうか…どうか…無事でいて…!
必ずまた…会いに来てね…幸太郎…!!
(ヒスイは海に飛び込み消えてしまう)
幸太郎:…会いに…いけるかな
…はぁ、この書状…0の書き方間違ってんだよ…
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ヒスイ:(NA)
ある夏の日、田舎の小さな町で一人の少年が行方不明となった…
様々な憶測が飛び交ったが、その真相は闇に消えた…
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向日葵:(NA)
…幸太郎が姿を消してから5年…この海では海鳴りが響くようになっていた
とても美しく…とても悲しい…自然が作り出すメロディは多くの人間を魅了した
新たな議長となった山田議員は“海泣きの町”として大きくPRを始め、この町は注目を集めた
でも、私は知っている…一体誰が泣いているのか…
そんな時だった…地方議会に激震走る…山田議長傷害の容疑で逮捕
そんな見出しが紙面を飾ったのは…
ヒスイ:…来たのね…向日葵
向日葵:久しぶりね…人魚さん
ヒスイ:…人間はすぐ老いるけれど…あなたは随分早いわね
前はもっと髪も肌も綺麗な色だった
随分やつれたみたいだし
向日葵:…あんたは…変わらないんだね…何も
ヒスイ:…あなただって変わったわけじゃないでしょう
どうして今更ここへ来たの?
向日葵:ははは…わからない?
死ぬべきはあんただった…あんたを失った幸太郎は私を頼る…私だけが彼を救える…はずだった
これは私の復讐だ…!ここに復讐をしに来たんだ…!
議長に昇りつめ、あんたのおかげで天狗になった山田の馬鹿を…幸太郎を殴り殺した大馬鹿野郎を…!一番輝かしいタイミングで落としてやった…次はあんただ…化け物
ヒスイ:ごめんなさい…やっぱりあなたは変わったわ…以前よりもずっとひどくなった
向日葵:黙れ!幸太郎は私のものだ…幸太郎が愛した女なんて…必要…ない!
ヒスイ:…哀れな人…こんなに美しい海だって、いとも簡単に人の命を奪うときがある
誰かにとっての安らぎは、誰かにとっての苦しみかもしれない…
あなたの安らぎは…苦しみを生みすぎる
向日葵:苦しむのは…お前で最後だ!死ね!!
―――――――――――――――――――
幸太郎:(NA)
今日も海は泣いている…これほど美しい海は何を悲しむのだろう
その真実を知る者は…もう、いない
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