【4人声劇】私のお宝、俺の財宝
■タイトル:私のお宝、俺の財宝
■キャラクター:
テオ・ラグナスティン:
国家公認のトレジャーハンター
各国間の同盟条約に従い、未発見の財宝を発見、回収すること、
そして不法に財宝を集めるトレジャーハンターを取り締まることが任務
ララに恋心を抱く
ララ・エスタニア:
世界をまたにかける天才トレジャージハンター
財宝を見つけるためであれば、法を破ることもいとわない
やや抜けたような言動も多いが、周りを出し抜く才能はピカイチ
バレット・ホークス:
ララの腐れ縁のトレジャーハンター
世界最速の早打ちの腕を持ったハードボイルドガンマン
ララにはよく厄介ごとに巻き込まれ振り回されている
上官:
テオの上官
自身も元々国家公認トレジャーハンター
テオを信頼しており、テオもまた信頼を寄せている
関連作品はこちら
https://note.com/executivesoda/n/n74689f27cb1b
――――――――――――――――――――――――――――
上官:(NA)
世界には数多くの財宝が眠っている
かつての偉人が隠した遺産、かつての軍事国家が作り出した兵器、かつての学者が書き記した著書…財宝に決まった形はない
ただ一つ、不変のルールは【そこに価値が見出せること】
トレジャーハンター達はその魅力に惑わされ、まだ見ぬ財宝を求めた
国々の為政者たちは財宝を守るため、国家公認のトレジャーハンターを雇い、違法なハンター達の取締りを始めたのだった
(大量の財宝を前に喜ぶララ)
ララ:「おぉ~!金銀財宝ザックザクだね…!
さっすが大海賊バドル・ベドナの隠したお宝!!
さてサクッと持って帰るぞ…」
(背後から忍び寄るテオ)
テオ:「そこまでだ、ララ」
ララ:「うげっ!テオ!?
こ、こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」
テオ:「財宝から手を離せ、ララ
それはお前の物じゃない」
ララ:「これは私が見つけたんだ!
私が持って帰るのは当然だろ!」
テオ:「いいや違う
国際法に則れば、エヴィメリアの国土内にあるこの遺跡に保管された財宝は国有財産だ
この場所を記す、お前が盗んだ地図もな』
ララ:「うぐっお国のワンちゃんめ…なら山分けでどうだ!あんた固定給だろ!!
一瞬で生涯年収獲得だぞ?」
テオ:「お前を捕まえれば追加報酬ももらえる」
ララ:「ひ、人は謙虚にいきるべきだろ?
ってことで…見逃して?」
テオ:「お前が謙虚を語るな」
テオ:(NA)
なぜこんな形で出会ってしまったんだろう
(剣を振るテオ、ララはそれを間一髪避ける)
テオ:「ふんっ!」
ララ:「うおっ!?あっぶな!!気を付けろ!
当たったら死ぬぞ!!」
テオ:「当てるつもりで振ってるが…安心しろ、殺しはしない」
テオ:(NA)
彼女の経歴なら縛り首は免れない
ララ:「おいおいワンちゃん、本気でやってる?そんなんじゃ一生捕まらないね!!」
テオ:「そうか…なら一生逃げてみせろ」
ララ:「え…?」
テオ:「俺はお前を一生追い続ける」
ララ:「そうか…あんたは随分私を…」
テオ:(NA)
…俺は君を…殺したくないんだよ
ララ:「殺したいみたいだね」
上官:(NA)
世界をまたにかけ、数多の財宝奪って来たトレジャーハンターララ・エスタニア
国に仕(つか)え、数多の財宝を守って来た忠犬(ちゅうけん)、テオ・ラグナスティン
同じ時代に生まれてしまった二人の天才は、長年にわたり財宝を奪い合って来た
公僕(こうぼく)と犯罪者…二人の関係はただそれだけのはずだった…
(追手に追われるララとバレット)
ララ:「てなわけで、またテオに邪魔されたわけ!
もうあったま来ちゃうよね!」
バレット:「そうだな…!それでよぉ…それって今話さなきゃならないことか!?」
ララ:「いやあ!国家財宝管理局(こっかざいほうかんりきょく)に追っかけられてたら思い出しちゃって!」
バレット:「ざっけんなよ!お前のせいでバレたんだぞ!どうすんだ!!」
ララ:「気にするなって!想定の範囲内外(はんいないがい)だよ!」
バレット:「どっちだ!?」
ララ:「行ったり来たりしてるね!」
バレット:「うるせえ!とにかく走れえぇ!!」
バレット:(NA)
俺の名前はバレット・ホークス
狙った獲物は必ず打ち抜く神出鬼没のトレジャーハンター…のはずだった
昔からの腐れ縁なこいつから仕事を持ち掛けられたときから胡散臭い案件だと思ってたがあれよあれよという間に巻き込まれていき、しまいにゃこのざまだってんだから笑っちまうよな…ハハハハハ~
バレット:「もう二度とお前と仕事なんてしねえ!!
何とか逃げ切れたからいいものの…俺のブラックホークに傷がつくとこだったぜ」
ララ:「そんなにぐちぐち言うなよ、ホークス
たかが銃だろ?
それにほら、お詫びにいい仕事持ってきたんだ』
バレット:「たかがってなぁ、この銃は俺の命なんだ…って、これ…“血の秘宝”の情報か…!?」
ララ:「そうさ、オルテカ・ナルコスが失った戦利品だ
名前くらいは聞いたことあるだろ?」
バレット:「ずっと見つかってねえ、ラルメア人のとんでもないお宝だってこたぁ知ってるが…」
ララ:「600年ほど前の話さ
軍事国家として名をはせていたラルメア帝国は隣国であるステオンの征服に乗り出した
軍隊を率いていたオルテカ・ナルコスはその進行の途中、激怒したステオン人の奇襲を受け撤退を余儀なくされた
国境付近までは逃げ延びたがラルメア人のほとんどが無惨に殺されたうえに磔(はりつけ)にされ、辺り一面は血の海と化した」
バレット:「それが歴史上でもとりわけ残虐な事件として名高い”赤い夜”てわけだな?」
ララ:「その通り
その際に、オルテカが国に持ち帰ろうとしていた数多くの戦利品は今も行方知れずのまま
ステオン人がラルメア人の目をくらますために隠したわけだけど、彼らもまたラルメア軍に捕まりことごとく殺された…最後の最後まで宝の行方を教えずにね
でも、その情報がここにあるってわけさ」
バレット:「ステオン人がラルメア人から何百年も隠し通してきたもんだぞ…そんな情報をどこから…?」
ララ:「ふふん、気になるだろ?な?力を貸してくれよ」
バレット:「確かに、いい話…いいや!うますぎる!
こんなの何か裏があるに決まってる」
ララ:「私を信じないってのか!?」
バレット:「信じてもらえるようなたまかよ
それに俺が信じてるのは神だけさ、アーメン」
ララ:「わかったよ…でも、君は私についてくるよ…必ずね
そん時に、私がすごいお宝見つけてても分けてやんないもんね!」
バレット:「そん時は奪い取ってやるよ」
ララ:「んー、君には無理じゃないかな?ふふっじゃあね
待ってるよ~」
バレット:「はぁ…たくよぉ…行かねえって言ってんだろ
いつもいつもろくな目に合わねえんだから…って俺のブラックホークがねえ!?
待てコラァ!!」
上官:(NA)
ララが血の秘宝に狙いをさだめ、動き始めたころ…そんなこともつゆ知らないテオは上官に呼び出されたのだった
テオ:「血の秘宝に関する情報ですか…?」
上官:「そうだ…ラルメアから連絡があった
血の秘宝をはじめとした赤い夜に関連する資料が盗まれたらしくてな
現場の状況から、ララ・エスタニアの犯行である可能性が高い」
テオ:「…俺はラルメアの人間ではありません
ラルメアの警察組織が我々の介入を容認しているということですか?」
上官:「国家所属組織とは言っても、我々はほとんど独立機関と化している
各国間の問題に介入することだってやぶさかではないんだよ…それにララ・エスタニアのことを最もよく知るのは君ではないのかね?
今まで、各国が総力をあげて彼女の検挙に乗り出したが一度として成功したことはない
だが、君は彼女を捕らえることはできずとも、財宝を守り通してきた
今回もその働きに期待しているということだろう…
ラルメアも君への限定公開という条件付きではあるが、持ちうる情報の開示に応じてくれた」
テオ:「俺を指名したうえでの依頼…これを受け成功させればラルメアに大きな貸しを作れる…ということですか」
上官:「その通りだよ、テオ
上の決定だ…これを断ることはできない」
テオ:「…血の秘宝については俺も多少知識があります
ラルメアが望むことは…【穏便】な解決、ということですね」
上官:「話が早くて助かるが…今回はそうもいかないかもしれない」
テオ:「と…言いますと?」
上官:「これを…ララ・エスタニアについて、我々が手に入れた情報だ」
テオ:「…っ!?この情報は本当ですか?」
上官:「100%とは言い難いが確度の高い情報だ…ラルメアにとっての最悪はララ・エスタニアに財宝を奪われることではない」
テオ:「……」
上官:「君は誰より優秀だ…だが、ララ・エスタニアに対して一介のトレジャーハンター以上の“評価”をしていることも承知している」
テオ:「そんなことはっ…!」
上官:「わかっている…そんな私情で君が手を抜くとは考えていない
だが、今回ばかりはONLY ALIVE(生け捕り)とはいかない可能性も高いということを理解してほしい」
テオ:「わかりました、問題ありません
では…失礼します」
(テオはその場を後にする)
上官:「…ふぅ、心を殺すことがうまいな
今回ばかりは私もどうすることもできんのだ…頼んだぞテオ」
NA:ララの動きを察知し、国家権力が動き出した
ララといやいやながら同行したバレットはそんなことを気にする暇もなくラルメアへ動き出したのだった
(ヘリを操縦するララ、後ろにはバレットも乗っている)
ララ:「いい眺めだね!やっぱりヘリ移動にしたのは正解だった!」
バレット:「そーだな…んで、ここまでついて来てやったんだから、いい加減俺の銃を返せ」
ララ:「そりゃあダメだね
こいつは人質?銃質?なのさ
君、今めちゃくちゃ怒ってるし」
バレット:「当たり前だろ!ここまで来るのにどんだけ追い回されたと思ってる!」
ララ:「どれくらいだろうなぁ?覚えてないや」
バレット:「ラルメアだけじゃねえ…あの制服はステオンの警察組織だ
どうなってやがる…?お前、その情報はラルメアの国家財務管理局(こっかざいむかんりきょく)から盗んだもんだって言ってただろう?
なんでステオン人が出しゃばって来るんだ」
ララ:「私が情報の一部をステオンに流したからさ」
バレット:「…はぁ!?何のために!!」
ララ:「私が欲しい物のためだよホークス
流石に二か国の警察組織に追われるのはしんどかったからホークスがいてくれて助かった」
バレット:「いい加減にしろ、ララ
お前とも長い付き合いだが、今回ばかりはさすがに我慢の限度だぜ
その頭ぶち抜いて、このバカげた茶番も終わりにしてやる」
ララ:「そういきりたつなよ…手に入れた情報によると…隠し場所はここだ」
バレット:「ここは海上だ、何もねえ
そんな戯言で乗り切れると思ってんのか!」
ララ:「馬鹿だな…何も見えないから見つかってないんだろ?
600年前、ここには標高が低い広い土地があったことは確認済み
つまり…お目当ては海の中…宝の隠し場所は海底に続く洞窟だ」
バレット:「何をするつもりだ…」
ララ:「悪いねホークス
操縦桿(そうじゅうかん)を私に握らせたのは失敗だったな」
バレット:「まさか…おわっ!?」
(ヘリを海に向けて落下させるララ)
ララ:「美しい景色が真っ逆さまに流れ込んでくるっていうのも乙じゃない?」
バレット:「くたばれ…クソ野郎…!」
上官:(NA)
ラルメア領海内一機のヘリが墜落
その情報は瞬く間にラルメアとステオンに届いたのだった
しかし、そのころ、テオ・ラグナスティンはラルメアからの情報をもとに血の秘宝が眠るという隠し洞窟にたどり着いていたのだった
テオ:「…本当にこんな空間が広がっていたとはな」
テオ:(NA)
ステオン人は国境付近の島の洞窟に血の秘宝を隠した…しかし、600年の間に海面が上昇したことで島は沈み、財宝は誰も手に入れられなくなってしまった…はずだった
テオ:「骨の欠片(かけら)…最後の瞬間まで宝を奪い合ったのか…愚かなことだ」
ララ:「当たり前だろ?この先の宝にどれだけの価値があると思っているんだい?」
(背後から現れ銃を突きつけるララ)
テオ:「…後ろから銃を向けるなんて不躾だな、ララ」
ララ:「こんなところで会うとは奇遇だね、お国のワ〜ンちゃん
まさか先を越されてるとは思わなかったな」
テオ:「その音…ブラックホークだな
なぜお前が持っているんだ
それはバレット・ホークスの銃だろう」
ララ:「音だけで誰の銃かわかっちゃうわけ?お~こわっ
これはちょっと借りてるんだよ」
テオ:「さすがに2か国の警察組織を相手取るのは大変だったようだな…銃を人質にバレット・ホークスに協力させたわけか」
ララ:「なんでもお見通し?面白くないな~
さてと…そこ通してくれると嬉しんだけど」
テオ:「俺が頷くと思っているのか?」
ララ:「なら仕方ないね、あんたの頭にも洞窟掘ってあげる
嫌ならさっさと帰ったほうがいいんじゃない?」
テオ:「この洞窟はラルメア人の仕掛けた罠だらけだ…一度入れば一方通行…財宝の隠し場所にしか出口は無い」
ララ:「…なおさら、あんたを撃つしかないわけね」
テオ:「不慣れな銃で俺を止められるとでも…?」
ララ:「聞いたことないの?銃は剣よりも強いんだよ?」
テオ:「弱者の妄言だ…俺の剣はお前の銃弾程度ならば切り裂ける」
ララ:「だろうね、私の射撃でなんとかできるなんて思ってないし
…なんとかやり過ごすことにするよ」
テオ:「どうするつもりだ?」
ララ:「とりあえず5発くらってくれたら答えてあげる…なんてね
何の準備もなく、私があんたに話しかけると思った?」
テオ:「何を…この音…なんだ!うおぁ!!」
(洞窟全体が揺れ始め、テオはバランスを崩す)
ララ:「テオが言ったじゃない…この洞窟はラルメア人の仕掛けた罠だらけなんだよ?
ラルメアの勅命で来たんだろうけど…どの程度罠の情報を渡されてるのかなぁ?
じゃあねテオ、私は先に行かせてもらうよ」
テオ:「くそっ…待て!ララ!」
――――――――――――――――――――――――――――
バレット:俺の名前はバレット・ホークス
狙った獲物は必ず打ち抜く神出鬼没のトレジャーハンター…だってのに!
バレット:「ぶはぁっ!!…ちくしょう!!ふざけやがって!危うく死ぬとこだぞ!
はぁ…はぁ…ここは…海底洞窟…?うまく入り組んだおかげで空気が溜まってるのか…
ん…この臭い…俺が調合した火薬のにおいだ…
俺の銃を使ったな…?ほかの火薬のにおいはしない…敵の得物(えもの)は銃火器じゃないってことか…なら相手は…長剣の金属音…テオ・ラグナスティンか…!?
なんであいつがラルメアとステオンの案件に首を突っ込む…?
考えられる理由はラルメアかステオンからの国をまたいだ依頼…
ちょっとわかって来たぜ…あいつの思惑がよぉ…
はぁ…大馬鹿野郎め…絶対一発ぶん殴ってやる!」
――――――――――――――――――――――――――――
(逃げたララを追い詰めるテオ、目の前には血まみれの財宝の山が広がっている)
テオ:「はぁ…はぁ…もう逃げられないぞ…ララ」
ララ:「あぁ…やっぱり、追いついちゃったかぁ、テオ
…見なよ、凄いだろう
オルテカ・ナルコスが奪い取ってきた“血の秘宝”だ」
テオ:「それはラルメア人のものだ
正しき持ち主へ返還されなければならない」
ララ:「これはもともとステオン人からオルテカ・ナルコスが奪ったものだ
それに公には見つかっていない“はず”の財宝なんだよ
それが見つかりラルメアに返還するとなれば、ステオンが黙ってると思う?」
テオ:「やけにステオンの動きがいいと思っていたが…やはり情報を流していたんだな…ララ」
ララ:「ラルメアはとっくの昔に血の秘宝を見つけていた
でもその事実を大っぴらにすればステオンは返還を要求する…
だからここをひた隠し、少しずつ少しずつばれないように国家財産に変えていく算段だったんだろう?
伝説じゃあステオン人が財宝を隠した洞窟なのに、【ラルメア人の罠が仕掛けられている】…さっきあんたはそう口を滑らした
テオ、あんたも全て知っていたんだろう!ここまで知ったうえで正しい持ち主に変換するだなんて馬鹿なことを言うのか!?」
テオ:「俺の仕事はお前のような奴らから財宝を守ること…そこから先は国と国の問題だ
俺達が言い争うことじゃない」
ララ:「ごもっとも、正論だよ…つまらないほどにね
…見なよ、財宝のいたるところに血がこびりついてる
かつてのステオン人が“血の秘宝”と呼んだ所以だ」
テオ:「この財宝を隠したのはステオン人だが、みなラルメア軍に捕まり処刑された
血の秘宝は惨殺現場(ざんさつげんば)からの連想でつけられた呼び名だというのが通説だろう…
なぜお前がそんなことを断言できる」
ララ:「もう知ってるんだろ?その理由もさ…」
テオ:「…君はここに血の秘宝を隠したステオン人の血を引いている
君には何かしらの方法で伝えられてきた血の秘宝に関する情報が初めからあったんじゃないか?」
ララ:「ご明察…やっと私の思惑通りになってきた…気分がいいね」
テオ:「何が言いたい」
ララ:「君にもわかってないことがまだあるんだろ?」
テオ:「…解せないのは、お前がステオン政府に情報を流したことだ
情報がステオンに流れていることを察知したラルメアは血の秘宝の証拠を消そうと動く
その前に、ステオンは情報を手に入れようと躍起になる…
ラルメアは君がステオン人として祖国に貢献することでこれまでの罪に対する恩赦(おんしゃ)を得るつもりだと考えた
だから俺が呼ばれた…宝探しの邪魔を自ら増やし、自らの首を絞めているのはなぜだ…?」
ララ:「私の欲しい者のためだよテオ…」
テオ:「それは血の秘宝じゃないというのか」
ララ:「血の秘宝が魅力的なお宝であることに異論はないさ…けどね、私からしたらおまけなんだよ
さてと…テオ、ラルメアとステオンが宝の取り合いを始めれば、またたくさん血が流れるかもよ?
だからさ、この財宝も私がもらってやった方が平和だと思わない?」
テオ:「…確かに、お前を見逃せば無用な血は流れないのかもしれない」
ララ:「お、珍しく物わかりがいいじゃない!
じゃあ、さっさと持って帰らせてもらおうかな」
テオ:「それでも…!俺は自分の正義に従う!」
ララ:「…それが独りよがりな正義だとしても?」
テオ:「ここでお前を見逃していい理由にはならない」
ララ:「…そう、残念だよ」
テオ:「俺もだ、ララ」
ララ:「私たちは戦うしかない!!」
ララ:(NA)
幼い頃、家の中で血がこびりついた金貨を一枚見つけた…
貧しさで明日生きることすら危うい毎日にもかかわらず使われることもない古びたその金貨がただの金貨ではないことは容易に想像がついた
ララ:「お前たち国はいつも大層なお題目ばかり並べて財宝を奪い去る!
肥えるのは国の上層だけだ!」
テオ:「財宝があるから、人は醜く争い合う!
ならば国が管理をするべきだろう!」
ララ:初めての盗みはもう覚えていない…生きるために必死だったから
ララ:「私からしたら…お前ら国家の方がよっぽど強奪者だ!!
ラルメアはこの秘宝を手に入れるために、土地を手放してまでこの領海を得たんだぞ!
そのためにその土地に住む人間が何人追いやられた!!
そんな理不尽を生む財宝なんて…私が全部奪い取ってやる!」
テオ:「…わかっている!
金貨一枚のためにどれだけの血が流されたか…!
宝石一つのためにどれだけの涙が流されたか…!
そんなことを悲しみの連鎖を止めるために俺はトレジャーハンターになった…!
でも俺一人じゃどうにもできない…!だから大きな力が必要だったんだ!」
ララ:「臆病者め!私は一人でもやり遂げる!」
テオ:「できるものか!」
ララ:「できるさ!この世の全ての財宝は!!私が手に入れてやるんだ!!」
テオ:「そんなこと許すものか!国家に属する者として、正義のために俺は財宝を守る!!」
ララ:「国のために財宝を集めて、争いが無くなるのか!!テオ!!」
テオ:「…無くならないさ!国はいつだって争い続けてる!!」
ララ:「なら、あんたが国のために命をかけて宝を集めることに何の意味があるんだ!!」
テオ:「意味なんて…それでも…俺は!!」
テオ:もう知っていた
このままじゃ、俺の理想は叶わない
こいつの言う通り、ただの無力な…国の犬だ
ララ:一目見たときからきづいてしまった
私の理想に…私の冒険についてこれるのは、あんたしかいない
テオ:ならば俺は
ララ:だから私は
テオ:せめてお前を守りたい
ララ:必ずあんたを手に入れる
テオ:「俺はお前を捕まえる!」
ララ:「やれるもんならやってみろ!」
――――――――――――――――――――――――――――
(疲労と傷で倒れるララとテオの元にバレットがやって来る)
バレット:「はぁ…財宝のありかにやっと着いたと思ったら
ボロボロのお二人が横たわってましたとさ
ったく、付き合ってられねえぜ」
ララ:「なんだよバレット…今更来たくせに」
テオ:「お前が…バレット・ホークスか…」
バレット:「俺のことを知ってるとは光栄だな
国家所属のトレジャーハンター、テオ・ラグナスティン殿」
テオ:「この業界で…知らない方がおかしいだろう」
ララ:「とりあえず、生きててよかったね
ほら、ブラックホーク返すよ」
バレット:「雑に扱ってねえだろうな?
…おい!ここ傷ついてるぞ!」
テオ:「すまない…俺が付けた」
バレット:「あ~マジでふざけんじゃねえっつの!
ったくよぉ…」
(バレットはララの元に近づき、ララにだけ聞こえるよう耳打ちする)
バレット:「おい、ララ、お前の酔狂な宝探しの理由になんか興味ねえが…わざわざステオンを焚きつけたのは、その男を引っ張り出すためだろ?
ララ・エスタニアが出張(でば)って来る…しかもステオンに肩入れする可能性まであるとくればラルメアはテオ・ラグナスティンに頼らざるを得ない…そういう筋書きだったわけだ」
ララ:「おいおい、乙女の策略を声高に語るなんて…人の心がないのかい?」
テオ:「何の話をしている…バレット・ホークス」
バレット:「黙ってな朴念仁、まだそっちで寝てろ
俺はこのふざけた大馬鹿野郎と話があるんだ」
ララ:「…バレット…頼むからあいつには黙っててくれないかな…?
ね…お願い…!!」
バレット:「お前を手玉にとれるってのは気分がいいなぁ、ララ
お前がこの財宝を持ち帰ってステオンに渡せば、めでたくラルメアとステオンは冷戦開始
その責任は?もちろんテオが取ることになるだろうな…お国ってのはそういうもんだ
そうすりゃお前とランデブーか?ん?随分粗が目立つ作戦じゃねえか」
ララ:「はぁ…私はテオの上官ともずぶずぶななんだよ
今回の件でテオはさっくり解雇されて、理不尽な罪を背負う
上官の手引きで国家組織から脱走してお尋ね者になる手筈だったの…!」
バレット:「えげつねえなぁ…なのにラルメアと組んだあいつが想像以上に優秀だったわけね
じゃなきゃお前がボロボロなんてあり得ねえ
まあ、あの男なら理不尽な罪も受け入れるだろうがな」
ララ:「その時その時用のプランがあったしそういうところがいいんだよね…って違う違う…まあ、なんにせよ来てくれて助かったよホークス
君じゃなきゃここまでたどり着けなかっただろうしさ」
バレット:「あ?どういうことだ?」
ララ:「時間切れみたいでさ
ラルメアの証拠隠滅用の罠が作動してて、もうすぐ崩落するんだよね
だってのにここは3人じゃないと脱出できない仕組みなのさ
テオ、もうこっち来てもいいよ」
バレット:「はぁ…そりゃ性格が悪いねえ
2人以下ならここにたどり着いた瞬間に詰んでて、3人以上なら独り占めしようなんて真似はできない…ってわけか
テオ・ラグナスティン…ラルメアはここに関する情報を持つお前とララを抹殺するつもりみたいだな」
テオ:「そのようだ…不服だが3人で協力しよう
ラルメアには賠償金の請求ができそうだ、臨時収入だな」
ララ:「んなこと言ってる場合じゃないだろ
見なよ、地下水が漏れ出してる
このままだと仲良く溺死だ」
バレット:「勘弁してくれよ全く…どうすりゃあいい」
ララ:「財宝が鍵だ、この金の剣3本
それを壁の3箇所の穴に刺して同時に回す
あそことあそこ…それからあそこだ」
テオ:「俺の持つ情報とも一致する
これに賭けるしかない」
バレット:「わかったよ、やればいいんだろ?
ったく…どっち回しだ?」
ララ:「右!」
テオ:「違う左だ」
ララ:「右だよ!」
テオ:「左だろ!」
バレット:「はぁ…なんでこんな奴らに命を賭けなきゃなんねえんだよ…」
――――――――――――――――――――――――――――
(あるオフィスのデスクに座る上官の元に一本の電話がかかってくる)
上官:「はい…もしもし…あぁ大統領…
先ほどお送りさせていただいた資料についてですかな?
いやあ、テオはうちの優秀な所員ですから報連相の徹底が行き届いてまして…
あぁ…はいはいそのテオについてですか…彼は必ず帰ってきますからそんなに心配していただかなくても問題ございません
それを踏まえたうえで、先ほどの事前資料をお送りさせていただいたのです
しかし…そちらと結びましたのは事前に提供頂いた情報に関する秘密保持契約のみ…彼が生きて帰ってくれば様々な情報が明るみになるでしょうなぁ
え?いやいや、それはもちろん…ステオンにも同様の資料をお送りさせていただいていますよ?
ふふふ…暗黙の了解?おかしなことをおっしゃいますな
ラルメアもステオンも血の秘宝の所在など“知らなかった”わけですから、問題ないはずでしょう
しかし、まさかラルメアで財宝を独占しようだなんて…ましてやもっと悪い結果…
あ~例えばそちら…ラルメア政府の方で証拠隠滅のために、うちのテオを殺害してしまおうなどという判断が下されていたなんて事実が発覚でもしようものなら…それはもう国際問題に発展するでしょう
ステオンに対する秘宝の言い訳も考えておいた方がいいでしょうな…テオが集めた資料から読み解くと…え~…財宝の所在をラルメアは知っており、秘密裏に国有財産にしようとした恐れもあるだなんて書いてありますよ?
実際にテオが財宝の所在地を明らかにすれば、あとは国際法に則ってどのように扱うかを決めるのがよろしいでしょう
海に沈んだとはいえ、秘宝は消えたわけではない…今は600年前とは違いますしねぇ
なぜ…海に沈んだことを知っているのか?それはまあ…うちのハンターが優秀だからと言わざるを得んでしょうな
今回の件で、もう一人優秀な人材を確保できるかもしれませんし…あぁ、いやこっちの話です
これ以上の情報は改めて正式な書面にてお送りします…それでは
ふふ…やっと欲しい者を手に入れたのか…テオ…」
――――――――――――――――――――――――――――
ララ:「はぁ、結局秘宝は沈んで手に入らず…かぁ」
テオ:「命があっただけいいだろう…ラルメアとステオンはこれから国家間の裁判になっていくだろうな…うちの上官がすでに根回ししているからひどい冷戦にはならないはずだ
そう言えば…バレットはどこだ?」
ララ:「とっくに逃げたんじゃない?」
テオ:「逃げ足の速いやつだ…ふぅ、さてララ、一緒に来てもらうぞ」
ララ:「…しんどい殺され方は勘弁だぞ?」
テオ:「俺は…お前を殺すつもりはない」
ララ:「…ほえ?」
テオ:「お前の技術も知識もかなりのものだ…だから、その…」
ララ:「なんだよ」
テオ:「俺と一緒に働けないか…!か…掛け合うつもりだ…!」
ララ:「…ぷっ、アハハハハ!!
どうしよっかなぁ」
テオ:「お、俺の話を受けるつもりがないなら、ここで…俺がお前を…苦しまないように送ってやる…」
ララ:(NA)
なんだってこいつは
こんなに不安そうな顔をするんだろ
わかったよ、認める
冒険とか…ご立派な理由とか全部…自分を納得させるための後付けのごまかしだったんだろ
私はこいつのことが…
テオ:「…黙るな、どうするんだ!」
ララ:「はぁ、そうするしかないんだろ?」
テオ:「それは、まぁ、そうだな」
ララ:「じゃあ、もう決まってるじゃんか
絶対交渉ミスるなよ?縛り首は勘弁だぞ」
テオ:「もちろんだ!…よかった」
ララ:「…あの上官…とんだ食わせ者だ…
ずいぶんあっさり協力したと思ったけど…まさかここまで見えてたのか…?」
テオ:「なんだ?」
ララ:「なんでもないよ、へへ…んじゃあ、さっさと帰ろうか
とりあえずこれ換金しなきゃ」
テオ:「おい!それ秘宝の金貨じゃないか!待て!!」
ララ:「やーだよっ!」
ララ:宝は多くの悲しみを生んでしまう
でも宝に罪はない
だから私が悲しみごと全部奪おうと思った…
でもいつからか…似た志を持つ彼に惹かれた
テオ:財宝は人を狂わせる
だが彼女はそんな下賤(げせん)な欲で動く人間ではないと思った
だからこそ彼女を知りたいと思った
まだ俺の理想は叶っていない…でもそれはこれから叶えていけばいい
ララ:国なんて信用できないけれど、彼と一緒なら国ごと変えられるさ
だって私達は天才トレジャージハンターなんだから
テオ:君こそが
ララ:あなたこそが
ララ:私のお宝
テオ:俺の財宝