古い機器の可変抵抗器は修理しないで交換を
私はビンテージ物のオーディオ機器を修理することがあります。 30年以上前の機器は電解コンデンサーをすべて交換しないと容量抜けやtanδの上昇で歪やf特の悪化が生たりと、継続的な使用に不安も感じます。 以前に修理したオンキョーのプリメインではプリ部出力のカップリングコンデンサーのリーク電流が大きく、メインボリュームに本来はかからないはずの正直流電圧がかかっていました。 この状態、部品によろしくないんです。 音響機器の音量や音質調整に使われている可変抵抗器はほぼ炭素皮膜タイプが使われています。 どのメーカーさんも直流電流は可変出力端子へ電流が流入するような使用をする様にせよと言っています。 そうしないと接点で抵抗膜が陽極酸化して接触抵抗が増大して出力が不安定になることがあるのです。
前後しますが、可変抵抗器って?接触抵抗って?というところから。
可変抵抗器は音量調整などをするために、3つの端子のうちの2つに加えられた信号の分圧具合が、突出した軸を回して角度を変えることで残りの端子に現れる分圧された信号の具合をかえられる機能部品です。 回路図上は
です。右は半固定可変抵抗器(トリマーポテンショメータ)で、機器の内部にあって、ドライバーで回して調整するタイプです。 構造は
左図の軸を回すと茶色の摺動子(ワイパーブラシ)の位置が変わります。 右図で端子は信号の入出力のための金属製端子、電極は銀やパラジウムなどを含む低抵抗のインクが印刷された電極、抵抗膜はカーボンブラック、黒鉛を含む抵抗のあるインクが印刷されたもの、摺動子はバネ性のある銅合金板などでできています。基板は紙ベークライトなどの半田耐熱性のある絶縁性の板材で、回転軸とは絶縁樹脂部材で接続されています。 軸を回すと
分圧レベルが変わります。 あと、抵抗膜の幅や厚みに変化があると、回転角度に対する分圧する特性が変えられるので、途中まで緩やかに変化させるとかが可能となります。
と、基本動作としてはこんな感じなのですが、炭素被膜可変抵抗では、実使用の回路ではカタログに出てこない注意すべきポイントがあります。 それは「集中接触抵抗」です。 凡そ1-3間全抵抗の1%程度ですが、中には数%のものもあります。 巻き線やメタルグレーズの製品なら非常に小さい抵抗なのですが。 軸を回転したときにこの集中接触抵抗の値がふらつくとノイズとなります。 高級な製品では摺動子の接点数や接点部分を貴金属にした材質により集中接触抵抗が低く、且つ、安定しています。 これにより電気的には摺動雑音を低くすることが出来ます。
抵抗膜面と摺動子を拡大すると
のようになるのですが、この摺動子のバネ性で10g前後の接圧が常時かけられています。 これにより安定した集中接触抵抗を得るわけですが、滑らかな変化特性と正確性を得るためには抵抗膜の長さ(弧の長さ)が大きいほど有利なわけですが、そうすると同じ1-3間全抵抗値を得るためには抵抗膜の単位体積あたりの導電性を上げる必要が生じます。 その手段として膜の厚さを増やす手がありますが、厚くすると膜面の均一性が悪くなります。 なので、導電性を上げるためにカーボンリッチなインクを使用することになるのですが、これは摺動子接点に対しては導電素材がより増えるので集中接触抵抗は小さくなり、良い傾向になるのですが、インクの樹脂分が減るので表面が柔らかくなり耐摩耗性が低下します。 そのために、接圧を低めにするなどの調整もされます。 炭素被膜可変抵抗器の摺動寿命(回転寿命)はカタログでは1~3万回程化と思いますが、毎日10回で数年の耐久となります。 消耗品ですね。
抵抗膜の厚さはわずか10μm前後と非常に薄いです。 摺動子も接点は摩耗しますので左の新しい状態から右のようにすり減り、摩耗粉が接触抵抗を上げてしまいます。 摩耗粉には樹脂分や摺動子の酸化物やいろいろな汚れが含まれています。 抵抗体が摩耗すると抵抗カーブも変わりますし、集中抵抗が上昇すればアンプの特性に影響が出ることも懸念されます。
前記の陽極酸化ですが、集中接触抵抗を悪化させる原因に、抵抗膜面に接点として露出しているカーボンブラックの炭素が摺動子へ電流が流れる方向(上の図と反対)だと酸化してしまいます。 炭素は電子を失って酸素と結びついて二酸化炭素に変化してしまい、導電性が低下していくようで、湿度が高いほど生じやすいとか。
そろそろ本題ですが、具合の悪い炭素被膜可変抵抗器を分解してIPAを付けた綿棒で軽く拭き取ることはギリOKですが、スイッチと異なり、IPA浸漬、超音波洗浄、強い溶剤、接点復活材、油分...そもそも、分解して元の接圧に戻るかな?とか。 油分ですが、カーボンリッチな抵抗膜はより多くの油分を吸って軟化しますので、一部の製品を除いて軸の油分が流れたりするのはメーカーは忌避します。 あと、直流電流が2端子に流れる場合は放熱グリス、シリコンゴム、スプレーなどに含まれるシリコーンガスのシロキサンで接点不良を起こすこともあります。 これはあらゆる開放型トリマーポテンショメータでも要注意です。
もうひとつ、民生用の炭素被膜可変抵抗器の端子は基板にかしめただけで電極と接しているものがほとんどです。 一部、コンダクティブプラスティックのものもそうですが、基板やリード線と半田溶融まで端子を加熱する場合、電極との接続が悪化することがあります。 着脱時の端子への応力もかかります。 1端子側がオープンになれば音量は全開です。
長くお気に入りを愛でるのであれば、やはりメーカー、専門業者によるレストアになりますでしょうか。
交換するなら開放型ではなく、昔でいう通信産業用のほぼ密閉型または、それに近い形状のものを選ぶと長く使えるかなと思います。
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