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曲分析〜『Lemon』米津玄師

第3回は米津玄師の『Lemon』

早速だが、この曲はとんでもない記録を叩き出しているのでまずはそこを説明させて欲しい。

この曲は2018年2月に配信リリースされた。

そこから歴史が始まった。

発売から1年で、平成生まれのアーティスト初の"トリプルミリオンセールス“を達成。つまり、300万枚売れたのだ。

これは、サザンオールスターズ『TSUNAMI』、SMAP『世界に一つだけの花』に次ぐ歴史上3作品目の快挙だ。

それだけではない。

YouTubeの再生回数は今や4億回を超え、もう少しで5億回に到達する勢いだ。

5億とはつまり、日本人全員が4回以上再生するということ。通常それはあり得ないので、海外でも非常に人気が高いことがハッキリとわかる。

コメント欄を見るとアジア諸国や欧米の人が数多くいて、米津のファンは日本だけじゃないと実感する。

それくらいこの曲は"米津玄師"という新進気鋭の若手アーティストを世の中に知らしめた。

まさに2018年は米津玄師の年だったと言っても過言ではない。そして、2019年もその勢いは止まらない。

なぜ米津玄師はこれほどまでにヒット曲を出せるのか?

Lemonにその理由が隠されていると信じたい。

では分析に入っていこう。


①曲調と構成

キーはBメジャー。

メジャー=明るい曲調と思ってくれて良い。

ただ、この曲は暗く聞こえるはずだ。それは後で解説する。

構成はAメロ→A'メロ→Bメロ→サビが基本形。

つまりこの曲はイントロがない。

いきなり「夢な〜らば♪」とはいるのでカラオケで歌う時はタイミングがマジで難しい。頑張ろう。

全体としては、1番→間奏→2番→Cメロ→大サビで終わる。

イントロがない以外はオーソドックスな形。

②コード進行

AメロはG#m→F#→E→B から入る。

G#mはマイナーコード、つまり暗い印象の和音。

つまり、曲の入りが"暗い"ということが分かる。

※先ほどメジャーのキーだから明るい曲調といったが、マイナーコードをもってきているので暗くなっている(明るさと暗さの両方の材料があるが、あえて暗い成分を選んでいる、と思って下さい。)

一番最初のコードは曲の第一印象なので、「あ、暗そうだなこの曲」みたいに感じるはず。この曲のコンセプトが開始一秒でわかる。

また、この曲はDdim(ディミニッシュ)というコードが頻繁に使われている。

ディミニッシュは複雑な響きで、それ単体だと怪しい響きでとても聴いていられないが、コードの組み合わせによっては良いスパイス、アクセントになる。

ディミニッシュは不安や憂いを感じる響きなので、この曲が「なんか不気味だな、不安だな」と感じるのはこのコードが原因。理由がある。

③リズム感やテンポ

最初のAメロはスローで落ち着いたテンポで始まる。ドラムもなく、まずは"聴かせる"ことに重きを置いている。

そして意図的に8拍の間を作った後に2回目のAメロが始まる。

ここでドラムが入り「ドッツカッツ ドッツカッツ」と8ビートを刻んでテンポ感を生み出す。ここで聴き手はリズムに乗れる。曲が始まった感。

しかしBメロで一変、リズム隊が消え、歌が取り残される。これによりAメロとのギャップにより"歌に集中させる効果"サビでまたリズムを取り戻すこととによる"メリハリ、抑揚"ができる

やっぱり皆ギャップが好きだからね。普段元気な人が急にしおらしくなってたらドキッとするじゃん?眼鏡女子とかね。ギャップって最強。

つまりは、リズムの変化によって曲のメリハリをつけ、飽きさせずに聞かせる工夫がされているってこと。

ここらへんは計算し尽されている感じがある。聴いていて心地よい曲には必ず理由がある。


④「ウェッ」について

これを語らないわけにはいかないだろう。

曲中に何度も出てくる謎の声「ウェッ」。

なぜこの音が必要だったのか。

正直、この「ウェッ」は人によって意見が分かれている。

「ウェッ」があるから良いとの声もあるが、無いほうが良い、入れなくてよかった。と批判する声もある。


調べたらある記事が出てきた。

以下は米津さんと野木さん(Lemonが主題歌のドラマ『アンナチュラル』の脚本家)の対談の抜粋だ。


野木:そう言えば、あの…「Lemon」で “フェ” みたいな音が、間に入る…あれなんの音なんですか?なんの楽器ですか?
米津:あれは…あれは人の声ですね
野木:声なんですね!
米津:で、その人の声をサンプリングして、でまぁ(曲に)乗っけて…そうですね…今、あのYouTubeのコメント欄とか、Twitterとか見たら「なんの音?」みたいな。
レコーディング中に、その…アヒル握ってんじゃねえかな…とかやってんじゃねぇかなとか言われてて(笑)
まぁ確かに、困惑するやろうなとは思ってはいたんですけど、でもその自分も、ポップソング作ってきた人間なんで、これは多分みんな困惑するやろうなぁとは思っていたんですけど…でもなんかもう、「鳴ってるからしょうがない」っていう感じがあって
野木:もう頭の中に、その音が必要だったっていう…
米津:はい。なんかもう…これはホントに自分の中で重要な音であって、あるのとないのとでは全然こう…意味合いが変わってくる感じがあって自分の頭の中で。それが何故なのかって言われたら正直自分でもわかんないんですけど。ホントに重要な音だと俺は思ってますね。

僕はこれを見たとき、納得した。

「ウェッ」という少し不気味にも思える声がなぜ必要だったのか。

米津玄師の頭の中で鳴っていたからだったんだ。

彼はこの音が必要だと感じた。

でもこの音を入れることによって賛否両論が生まれるのは分かっていたはず。

それでも、自分の感覚を信じて作った。正直に作った。


ここで改めて「ウェッ」について考える

もしこの音が無かったら、「Lemon」はどうなっていたんだろう。

もちろん無くても名曲として売れていたと思うし、曲としての原型はほぼ変わらない。

でも、「Lemon」を聴いたときの"不穏さ"、"一筋縄ではない雰囲気"、"奥底から響くような誰かの強い感情"は「ウェッ」があることで強調されているのではないか。

もちろん、「ウェッ」が無い『Lemon』がリリースされていたらどうなっていたかは分からない。

けれど、米津玄師の中で必要だったならきっとそれが本当の『Lemon』なのだ。

個人的感想

今回は結構時間がかかった。

それだけ『Lemon』という曲のスケールが大きかった。

記事をかくにあたってYouTubeで『Lemon』のコメント欄を拝見した。

そこには数えきれないほど人がのそれぞれこの曲についてに思いをつづっていた。

中でも驚いたのは外国人のコメントの多さだ。

いくつかコメントを紹介する。※翻訳機を使ったのであくまで意訳

・この曲が大好きだ。ドラマの『アンナチュラル』も見てみたいと思う。
歌詞の意味は分からなくても多くの外国人が米津が好きだ
・悲しいけれど、歌詞も音楽も「レモン」のように甘酢っぱくて苦い
・私の国で米津の音楽が規制されていなくてよかった。恵みのようだ
・日本の最も再生されたMVとのことで見に来たが、それは正しかった。この曲は耳で聞くのに本当に良い。

このように数多くの外国人が『Lemon』を聴いて感動している。

とりわけ「歌詞が分からなくても」「恵みのようだ」というコメントには驚いた。

音楽が国境を越えた瞬間だ。誰か遠い地の言葉も通じない人に届いて、その人の恵みになっている。これは奇跡だ。

そして日本の方でこのようなコメントを見つけた。

今更気づいたこと。J-POPで有りながら、世界へも目を向けてたのだなと。シンプルであるが、聴く人により解釈が違う奥の深い歌詞。シンプルであるから、海外の人にも受け入れられた。
その証拠に、MV出演者は年配者、若者、色々な国籍の男女で構成されてる。米津玄師さんはMV製作に深くかかわってるはずだから、その大きな思いにが実現した曲に震撼したよ。

なるほど、MVで多国籍の人が踊っていたのは"世界に向けて"という意味もあったのか。

年齢、性別、国籍などすべての条件を取り払い、純粋に"音楽"という人間に与えられた最高のプレゼントをただ届けたいという思い。

米津玄師はきっとそこまで考えて作ったのだ。

最高の一曲に感謝する。

まとめ

最後にこの曲を理論的にまとめる。

・イントロがなく、いきなり暗い音から入り聴き手を虜にする。

・ところどころに明るさ、希望が見えるような和音を入れ、過去の幸せ、その人と過ごした時間の濃さを表現。

・ドラム、つまりビートを抜いたり入れたりして曲にメリハリをつけている。聴き手が飽きないような工夫と、聴き手がリズムに乗ったり、メロディーに集中したりできるよう計算されている

・ノンダイアトニックコードを効果的にいれて、曲に彩りやお洒落感、奥深さを加えている。(あえてイレギュラーなものを取り入れているという意味。料理でいう隠し味のようなもの)

・「ウェッ」という謎の声を取り入れ、既存曲にはない雰囲気、不気味ながらもそこに必要性を感じさせる(これは後付けで米津さんも感覚で入れただけの可能性がある)

・タイトルの『Lemon』という単語と曲調のギャップ感。レモンという言葉からこの曲調はとても想像できない。だから気になるし、歌詞を理解したとしてもハッキリとした理由付けはできないところに魅力がある。でも単語としてはなじみがある分覚えやすいし、言いやすいから広まっていく。


この他にも人によって魅力はたくさんあるだろう。今回は歌詞については言及していないから、そこを掘り下げるともっと奥深い。

それでは長い文章にもかかわらず読んでくれて有難うございました。

さて、『Lemon』はどこまで広がっていくのだろうか。





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