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毎日コンテンツ 男女では痛みを感じる場所が違うらしい
アメリカのアリゾナ大学(UA)で行われた研究によって、男女では痛みを感じる痛覚受容体そのものが異なっており、男性痛覚受容体と女性痛覚受容体が存在することが示された。
男性と女性の痛みの感じ方が違うことは経験的に知られていたが、受容体レベルの差がみつかったのは大きな発見と言える。
痛みに関する話をしているとしばしば「男性より女性のほうが痛みに強い」という話をよく聞く。また、この考えは日本以外の国にも広く浸透していて、世界の常識になりつつある。
だが、近年の研究により、動物でも人間でもオスのほうがメスよりも痛みに鈍感で、オスのほうが痛みを感じる閾値が高いことが明らかになってきた。
(※特に圧迫と電気刺激による痛みは他の方法に比べて最も強い性差を生み出していることがわかった)
同様の結果は実験室での実験だけでなく、医療の現場でも報告されていて、男性と比べ女性はより強いレベルの痛みを、より多くの体の部位に、より頻繁に、より長期に渡り感じていると報告されている。
また一部の鎮痛剤には痛みの敏感さ(閾値)を下げる効果があるが、男性よりも女性のほうが効きにくいことが示されている。
これらの事実は、男性と女性では痛みに対する感じ方が大きく異なることを示していて、男女では痛みに対して異なる生物学的アプローチがあることを示唆している。
しかし肝心の、痛みの男女差をうみだす生物学的原因については、明らかにされていなかった。
そこで今回、アリゾナ大学の研究者たちは痛みに対する反応を性別ごとに調べ、痛みの性差が生じる原因を調べることにした。
男性痛覚受容体と女性痛覚受容体がそれぞれ存在している
今回の研究が画期的な点として、プロラクチンとオレキシンBという2種類の物質が使用されたことがあげられる。
古くは、プロラクチンは授乳と乳房組織の発達に関連したホルモンで、オレキシンBは覚醒をうながす神経伝達物質であるとされてきた。
しかし近年の研究により、これら2種類の物質は考えられていたよりも遥かに多くの機能を持つことが明らかになってきたという。
調査にあたってはマウス、サル、そしてヒトの脊髄神経が男女別に用意され、反応の閾値をさげる物質が加えられた。
これにより細胞はわずかな刺激でも反応しやすくなる。
研究者たちはこの状態でプロラクチンとオレキシンBを注いでみることにした。
すると驚くべきことに、人間でも動物でも、プロラクチンは女性細胞のみに感作(かんさ:刺激の繰り返しで反応が増大すること)を起こし、男性細胞には感作しないことがわかった。
またオレキシンBを加えた時には、人間でも動物でも、女性細胞は感作しなかったものの、男性細胞だけに感作が起こることがわかった。
これらの結果は、男性細胞と女性細胞にはそれぞれ、男性痛覚受容体と女性痛覚受容体が存在していて、男女では痛みを受け取る検知器そのもの(痛覚受容体そのもの)が異なっていることを示している。
さらにこの男女で痛みの検知器(痛覚受容体)が違うという仕組みは種を超えて広く保存されていることをがわかった。
また研究では別角度からの検証を行うため、プロラクチンとオレキシンBのシグナル伝達システムを遮断し、痛覚受容体の敏感さ(閾値)を調べてみた。
するとプロラクチンシグナル伝達を遮断すると女性の痛覚受容体の活性化が抑えられたものの男性には影響はないことがわかった。
またオレキシンBシグナル伝達を遮断すると、男性の痛覚受容体の活性化が抑えられたが、女性には効果が無かったことが判明した。
この結果も、男性と女性は異なる種類の痛覚受容体を持っていることを示していて、女性の痛み治療にはプロクラチン経路の遮断、男性の痛み治療にはオレキシンB経路の遮断が有効であることを示している。
これまで我々は、男女の痛みの感受性は脳の働きの違いや、文化的影響により男女で痛みの報告に差があることが原因であり、細胞レベルでは違いがないと考えてきた。
そして治療に使われる各種の鎮痛剤も、そのような前提で使用・開発が行われてきた。
しかし今回の研究によって、痛みの治療には、男性用と女性用に特化した対処法(薬など)を提供した方が有効である可能性が示されたわけだ。
研究者たちも「最も基本的な遺伝的差異は、患者が男性か女性かということであり、患者の遺伝子(性別)にあわせた痛みの治療を行うことが重要になる」と述べている。
実際、最新の研究では女性の痛み治療にプロラクチン中和抗体が有効であること示唆されている。
またオレキシンの効果を打ち消すオレキシン拮抗薬が、睡眠障害の治療薬としてFDA(食品医薬品局)に既に承認されている。
こちらは痛み治療とは用途が異なるが、安全性の確認が行われた上で承認されているため、痛み治療への転用も比較的容易であると考えらている。
もしかしたら未来の薬局では、頭痛薬など基本的な鎮痛剤も男性用と女性用で別れて売られているかもしれない。