倒木の恐れのあるキャンプ場の樹木の管理はどうするべきか?
2023年4月16日に下記のような悲しいニュースが発生しました。
本記事の背景
ExCAMPでも多く森林を活用したキャンプ場を掲載しており、ホストの方やキャンプ場オーナー様の今後の参考になると思いこの記事を書かせて頂いております。
まず大前提ですが木が腐っているかどうかというのは、非常に一般の人から見た際には難しいものがあります。今回倒木した木も先端は葉が生えておりパッと見た際には分かりづらいと思います。
樹木が腐っているかの判断方法
樹木が腐っているかどうかを判断する方法には、いくつかの方法があります。腐朽の診断は、主として樹木の外観を観察することによって診断する「外観診断」と、外観からの判断が困難であるため、機器を用いて樹幹内部の腐朽や空洞の存在を診断する「精密診断」があります。
①外観診断
樹木の外観を診察することによって診断することで、樹勢及び樹形、骨格となる大 枝及びその付け根、幹、およびその分基部、根元などの各部について、樹木の活力、 樹皮の枯死・欠損の有無とその程度、腐朽・空洞の有無とその程度、キノコの有無、 亀裂の有無、小槌打診音の異常の有無、不自然な樹幹の傾斜の有無、根元の揺ら ぎの有無、病虫害の有無、ルートカラーの露出の有無、鋼棒貫入の異常の有無など について診断する。
②精密診断
外観診断で判定できない樹幹内部の状態を詳細に知る方法として、機器を用いた 精密診断がある。 実用性の高い精密診断機器としては、レジストグラフ、インパルスハンマーがある が、一般的に使われているのはレジストグラフである。レジストグラフは、樹幹に直 径 1.5mm のキリを挿入して、キリにかかる抵抗値を実寸で記録紙に表示するもの で、幹半径に占める健全材の長さの比率や樹幹断面積に占める空洞部面積を算 出するデータとして用いられる。
以下に調査方法の簡易さとコストを変数にした比較表を以下に示します。主な判断方法を示します。
調査方法の比較表
外観の観察: 樹木の皮や幹に異常があるか確認します。腐った樹木では、皮がはがれていたり、ひび割れが生じていたり、カビや腐敗臭があることがあります。
樹皮の状態: 樹皮が剥がれやすくなっている場合、樹木が腐り始めている可能性があります。また、樹皮の下に虫害が見られる場合も注意が必要です。
枝や葉の状態: 枯れた枝や葉が多く見られる場合、樹木の健康状態が悪いことが考えられます。特に、新芽が出ない、または葉が黄色くなっている場合は、樹木が腐っている可能性が高まります。
振動検査: 樹木の幹に振動を与え、その反応を測定することで、内部の腐敗状況を把握することができます。腐敗した木材は振動の伝わり方が異なるため、この方法で判定が可能です。
抵抗率測定法: 樹木の幹に電極を差し込み、電気抵抗を測定することで、内部の腐敗状況を調べることができます。腐敗した部分は水分が多く、電気抵抗が低くなるため、この方法で判定が可能です。
ソニックトモグラフィ: 音波を利用して樹木の内部構造を調べる技術です。腐敗した部分は音波の伝わり方が異なるため、この方法で樹木の腐敗状況を把握することができます。
ドリルコアサンプル: 樹木の幹にドリルで穴をあけ、木材のサンプルを採取して腐敗状況を確認する方法です。サンプルを詳しく調べることで、内部の腐敗や虫害の有無を確認できます。
赤外線サーモグラフィ: 樹木の表面温度を赤外線カメラで撮影し、温度分布を調べる方法です。腐敗した部分は熱伝導率が異なるため、温度分布の異常が見られることがあります。
放射線イメージング: X線やガンマ線などの放射線を利用して、樹木の内部構造を調べる方法です。腐敗した部分は放射線の透過率が異なるため、この方法で樹木の腐敗状況を把握することができます。
パルスエコー法: 超音波を利用して樹木の幹の内部構造を調べる方法です。腐敗した部分は超音波の伝わり方が異なるため、この方法で樹木の腐敗状況を把握することができます。
調査方法の簡易さとコストを変数にした比較表を以下に示します。
それぞれの項目について詳しく解説します。
①外観の観察
外観の観察は、樹木の状態を素早く確認するための方法です。以下に、外観の観察において重要なポイントを詳しく説明します。
皮のはがれ: 健康な樹木では皮がしっかりと幹に密着していますが、腐敗が進むと皮がはがれやすくなります。皮がはがれている部分があれば、その周辺の木材が腐っている可能性があります。
ひび割れ: 樹木の幹にひび割れが見られる場合、木材の内部に腐敗が進んでいることがあります。また、ひび割れは、虫害や病原菌が侵入しやすくなるため、樹木の健康状態を悪化させる要因にもなります。
カビや苔: 樹木の幹や枝にカビや苔が繁殖している場合、樹木の表面が湿っていて、腐敗が進んでいる可能性があります。特に、幹の下部にカビや苔が集中している場合は、注意が必要です。
腐敗臭: 腐敗が進んだ樹木からは、特有の腐敗臭が発生します。この臭いを感じた場合、樹木の内部で腐敗が進んでいる可能性が高いです。
虫害の痕跡: 樹木の皮や幹に虫害の痕跡がある場合、樹木の健康状態が悪くなっていることが考えられます。虫害によって木材が弱まり、腐敗が進むことがあります。
付近の土壌状況: 樹木の周囲の土壌状況も、樹木の健康状態に影響します。水はけが悪い場所や、栄養が不足している場所では、樹木の抵抗力が低下し、腐敗が進みやすくなります。
②樹皮の状態
樹皮の状態は、樹木の健康状態を把握する上で重要な指標となります。以下に、樹皮の状態に関する詳細を説明します。
樹皮が剥がれやすくなっている場合、樹木の内部で腐敗が進行している可能性があります。腐敗が進むと、樹木の細胞組織が破壊され、樹皮と木材の間に隙間ができるため、樹皮が剥がれやすくなります。
また、樹皮のひび割れや変色も樹木の腐敗や病気の兆候であることがあります。ひび割れが深くなっていたり、広範囲にわたっている場合は、樹木の構造が弱っていることを示しています。
樹皮の下に虫害が見られる場合も注意が必要です。樹木に寄生する虫は、樹木の栄養分を奪い、腐敗を促進することがあります。虫害が見られる場合は、幹や枝にも虫害が広がっている可能性があるため、早急な対処が必要です。
樹皮の状態を観察する際には、全体的な状態を確認するだけでなく、特定の部分に異常があるかも注意深く調べます。樹木の腐敗や病気は、初期段階では局所的な変化として現れることが多いため、早期発見が重要です。
樹皮の状態に不安がある場合は、専門家である樹木医や造園業者に相談することがおすすめです。彼らは樹木の状態を正確に診断し、適切な対策を提案してくれます。
③枝や葉の状態
樹木の枝や葉の状態は、樹木の健康状態を判断するための重要な指標です。以下に、枝や葉の状態に関する詳細を説明します。
枯れ:枝や葉が枯れている場合、樹木の栄養や水分が不足していることを示しています。枯れが局所的であれば、その部分のみの問題である可能性が高いですが、全体的に枯れが見られる場合は、根元や幹に問題があることが考えられます。
変色:葉の変色は、光合成の異常や栄養不足、病気などが原因であることがあります。黄色や褐色に変色した葉は、樹木がストレスを受けていることを示している可能性があります。
落葉:季節的な落葉は自然な現象ですが、時期外れの落葉がある場合は、樹木が病気や害虫によるダメージを受けていることが考えられます。
虫害:葉に虫害が見られる場合、樹木の健康状態が悪化していることがあります。虫害によって葉の表面が食べられたり、葉が落ちたりすることで、樹木の光合成能力が低下し、さらに健康状態が悪化することがあります。
枝の状態:枝の太さや形状、分岐の様子も樹木の健康状態を判断する上で重要です。枝が折れたり、異常な湾曲をしている場合は、樹木に何らかの問題があることを示しています。
④振動検査
振動検査は、樹木の内部構造を調べるための非破壊試験方法の一つです。以下に、振動検査について詳しく説明します。
振動検査では、樹木の幹に振動センサーを取り付け、樹木に衝撃を与えて振動を発生させます。この振動が樹木の内部を伝わり、反対側のセンサーに到達します。振動の伝播速度や減衰度を測定することで、樹木の内部構造や腐敗状況を推定できます。
腐敗した木材は、健全な木材と比較して密度が低くなり、振動の伝播速度が遅くなります。また、腐敗部分では振動が減衰しやすくなるため、振動検査によって腐敗部位を特定することができます。
振動検査の利点は、樹木に大きなダメージを与えずに内部構造を調べられることです。また、樹木全体の状態を把握できるため、局所的な腐敗だけでなく、広範囲にわたる腐敗も検出できます。
ただし、振動検査には専門的な知識や機器が必要であり、一般の人には難しい場合があります。振動検査を実施したい場合は、樹木医や専門の調査業者に相談することがおすすめです。彼らは適切な検査方法を選択し、正確な結果を提供してくれます。
⑤抵抗率測定法
抵抗率測定法は、樹木の内部構造や腐敗状況を調べるための非破壊試験方法の一つです。以下に、抵抗率測定法について詳しく説明します。
抵抗率測定法では、樹木の幹に電極を取り付け、電気抵抗を測定します。樹木内部の腐敗部分や水分状態によって電気抵抗が変化するため、測定結果をもとに腐敗状況や水分状態を把握できます。
腐敗した木材は、健全な木材と比較して密度が低く、水分が多く含まれるため、電気抵抗が低くなります。これを利用して、樹木内部の腐敗部位や腐敗の進行状況を推定できます。
抵抗率測定法の利点は、樹木に大きなダメージを与えずに内部構造を調べられることです。また、測定が比較的簡単で、専門的な知識があれば現場で手軽に実施できるため、広く利用されています。
ただし、抵抗率測定法には限定的な条件下での適用や、測定結果の解釈に関する専門知識が必要です。抵抗率測定法を実施したい場合は、樹木医や専門の調査業者に相談することがおすすめです。彼らは適切な検査方法を選択し、正確な結果を提供してくれます。
⑤ソニックトモグラフィ
ソニックトモグラフィは、樹木の内部構造や腐敗状況を調べるための非破壊試験方法の一つです。以下に、ソニックトモグラフィについて詳しく説明します。
ソニックトモグラフィでは、超音波を利用して樹木の幹内部の構造を可視化します。樹木の幹に超音波センサーを取り付け、超音波を発生させて幹内部に伝播させます。この超音波が幹内部を通過し、反対側のセンサーに到達します。腐敗部分の音速が健全な部分と異なるため、測定結果をもとに腐敗状況を画像化できます。
腐敗した木材は、健全な木材と比較して密度が低くなり、超音波の伝播速度が遅くなります。この性質を利用して、樹木内部の腐敗部位や腐敗の進行状況を推定できます。
ソニックトモグラフィの利点は、樹木に大きなダメージを与えずに内部構造を調べられることです。また、腐敗部分を直接画像化できるため、他の方法よりも正確な情報を得られます。
⑥ドリルコアサンプル
ドリルコアサンプルは、樹木の内部構造や腐敗状況を調べるための試験方法の一つです。以下に、ドリルコアサンプルについて詳しく説明します。
ドリルコアサンプルでは、樹木の幹に特殊なドリルを用いて穴を開け、木材のサンプルを採取します。このサンプルを観察し、木材の密度や色、樹脂の状態などを調べることで、腐敗の有無や進行状況を確認できます。
ドリルコアサンプルの利点は、直接木材の状態を確認できるため、他の非破壊試験方法では分からない情報を得られることです。また、樹木の年輪を調べることで、成長状況や環境ストレスの影響も把握できます。
ただし、ドリルコアサンプルは、樹木に傷をつけることになるため、状況によっては樹木の健康に悪影響を与える可能性があります。そのため、必要最低限の範囲でサンプル採取を行い、適切な処置を施すことが重要です。
相談先の一例
樹木の状態を確認したい場合、以下のような専門家や機関に相談することがおすすめです。
樹木医
樹木の健康状態や手入れ方法に関する専門知識を持っています。樹木の状態を診断し、適切な処置や管理方法を提案してくれます。園芸・造園業者
樹木の手入れや管理に関する知識と技術を持っています。樹木の状態を確認し、必要に応じて剪定や植替えなどの作業を行ってくれます。農業協同組合(JA)や農業試験場
農業や園芸に関する専門知識を持っています。樹木の状態に関するアドバイスや情報提供をしてくれることがあります。市区町村の緑化担当窓口
公共の樹木に関する管理やアドバイスを行っています。樹木の状態に関する相談を受け付けている場合があります。
最後に
施設側が相談先に聞きながら事故を防ぐことも重要ですが利用者にも気をつけていただくように下記の簡単な方法をご案内することも重要でしょう。
利用者が簡単に気をつけられる安全確認の主なポイントは以下の通りです。
施設側は上記のさまざまなアプローチで事故の防止を防ぎ、キャンプ利用者にも周知をしてキャンプライフを楽しめる工夫をしていきましょう。
■参考文献・URL:
樹木医による樹木診断の基本 https://www.biodic.go.jp/news/kankyogi/2014/pdf/trees_s4.pdf
木の病気・害虫の診断と防除 https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kansatsu/index.html
都市の樹木管理
https://www.tokyo-park.or.jp/green/guide/tree/index.html習志野市「樹木医による診断内容」
https://www.city.narashino.lg.jp/material/files/group/53/H3102272-3.pdf「腐朽診断の現状と課題」、 2008年8月号 樹木医、(株)エコル代表取締役・街路樹診断協会常任理事 神庭正則 氏
http://www.jpgreen.or.jp/greenage/archive/jyusei/200808_02kaniwa.pdf「土壌診断の方法について」
http://www.jpgreen.or.jp/greenage/archive/jyusei/200808_03hasegawa.pdf「樹木診断のための概況調査と総合診断」、2008年8月号 特定非営利活動法人 樹木生態研究会代表理事 堀 大才 氏
http://www.jpgreen.or.jp/greenage/archive/jyusei/200808_04hori.pdf「気象害の診断と対策について」2009年7月号 森林総合研究所 吉武 孝 氏
http://www.jpgreen.or.jp/greenage/archive/jyusei/200907_yoshitake.pdfキャンプ場で倒木による死亡事故 大子町のキャンプ場では
https://www3.nhk.or.jp/lnews/mito/20230417/1070020594.html