ホンダS660と猫
車に乗るなら2ドアクーペだと思っていた。だってクルマに必要なのはデートの時の足であることで、4ドアセダンなんて実用車はそもそもデートカーじゃないと思っていたし、主に通勤に乗るプライベートなクルマのドアは4枚も不要だと思っていたから。
女の子と楽しく会話して、音楽を聴きながらドライブする。クルマというのはそのための重要なアイテムである。
だから、働くようになってから所有したクルマはずっと2ドアクーペばかりだったのである。
今はもう見かけることもなくなった初代パルサーEXA
その流れで買うことになった、モデルチェンジ後独立車種となった日産EXA
(画像準備中)
そして2000年8月からは三菱FTO
三菱FTOには約15年間乗った。22万キロ走った。50代半ばのオレは、最後にもっとスポーツカーらしいクルマに乗りたいと思った。
それで、ホンダS660を買った。
S660は運転していて楽しいクルマだった。隣に女の子を乗せる必要もなく、まるで街中でゴーカートを転がしてるかのように気持ちよく走ってくれた。旋回性能もすばらしく、立体駐車場に上るためにスロープを上がるときはついつい前の車を煽ってしまうほどだった。
六甲山に出かけたりすると、必ず先行車は道を譲ってくれた。
オレに運転する楽しさを教えてくれたクルマである。
しかし、狭く、何も積めず、長時間の運転後には腰痛や背筋痛が起きた。
とてもこれで旅行などできなかった。
それだけではない。
S660を所有するようになってから、不思議なことが起こるようになった。それは、キャンバストップが時々、毛まみれになっていることだった。どうしてここに毛が付着するのだろうか。
なんで屋根に毛が付くのだろう。
オレはそのたびにこの毛をガムテープで取らなければならなかった。
やがてその犯人は判明することとなった。
加害者は逃れようもない証拠を残していた。
それはボデイについたこの足跡である。
猫か。
猫のせいか。
猫がオレのクルマのキャンパストップをねぐらにしてるのか。
舐めやがって。
オレはその猫に復讐することにした。とりあえず寝られないように、キャンパストップにとげとげのシートを敷いて、痛くて寝られないようにした。
猫は悔しかったのだろうか。
何度か登ってはそのたびにあきらめたようで、そこら中に足跡がついていた。
ただ、寝床にオシッコするとかいうことは思いつかなかったようである。そうしてマーキングされていれば、その臭気にオレは耐えられなかっただろう。
オレはガレージに侵入されないように、進入可能な隙間を完全にふさぎ、周辺には猫の嫌いな正露丸のような匂いの薬剤をまき散らした。
オレもこの匂いは苦手だったけど・・・
車庫に入れないようにしてからは、被害はなくなった。猫はそれからどこで寝ているのだろうか。
4年3か月でオレはS660を手放して、ダイハツロッキーを買った。
まだ一度も猫の足跡はつけられたことがない。