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缶チューハイと水ヨーヨー
3連休の最終日、私の家でご飯を食べた後ソファでうたた寝をしている彼を起こし、外出に誘った。今日は三の酉、今年最後の酉の市だ。
地元の宮城県ではあまり盛んでなかった酉の市が、東京のこの町では小規模ながら開催されると聞き、ずっと来てみたかったのだ。いつか漫画で読んだように、小さい熊手を買おうと心に決め、彼と酉の市に出かけた。
駅前の商店街には多くの屋台が並び、通りは地元の人で溢れかえっていた。お囃子に惹かれるようにして辿り着いた神社でお参りを済ませ、お目当ての熊手を探す。手に取ったハローキティの熊手を、彼と割り勘して買った。
「家内安全、商売繁盛、お客様の健康を祈りましてー!」
神社の人に火打ち石を打ってもらい、この先1年の良い運気を纏ったまま、屋台を冷やかして歩く。「こんなに屋台が出ているならもう少しお腹を空かせてきたらよかったね」なんて話しながら、つまみを2、3買って彼と分けた。
右手で水ヨーヨーをつきながら左手で缶チューハイを煽る私に、「大人なのか子どもなのかわからない」と彼は笑った。でもそれが、今の私を表すのにはなんだかぴったりだと思った。水ヨーヨー1つで機嫌が良くなる程単純だけど、チューハイの苦味を知らない程無垢な子どもでもない。そんな不思議なアンバランスさの上に、正に私達は生きている。
缶チューハイを飲み終える頃、いくつかの屋台は店仕舞いを始め、賑やかだったステージも数人が疎らに残っているだけになった。ほろ酔いで家路につきながら、彼と「来年はもうひと回り大きいのを買いに来よう」と話した。アンバランスな日常を生きる私達の、何もあてにしない、しがない口約束だ。不確実な約束をするのはあまり好きではないけれど、彼と立てるなら悪くない。来年の酉の市、一緒に来れたら喜べばいいし、その時に別れていたら笑い話にしてやればいい。そんな軽やかな気持ちで商店街を通り抜け、熊手の鈴を鳴らして帰った。
来年もまた、彼と一緒に来れたらいいな。
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