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【海上牧雲記】牧雲陸が好き

「海上牧雲記」というドラマが、いまBSトゥエルビで平日夜6時からやっている。シェアードワールド小説が原作で、中華ゲームオブスローンズって感じのファンタジー大作ドラマだ。

舞台は架空作法もがっちり考証された中華ファンタジー世界。宮中、砂漠から凍土まで広がる辺境、地下宮殿、草原の民、海洋民族、人の精神エネルギーに干渉できる精神生命体、昼は人夜は狼の呪われた一族……ここで消費させるにはあまりに惜しいネタがたくさんある。

そんな舞台で、右を見れば星占いで国事を回す王朝とその犠牲になる人々、左を見れば両思いだけど絶対結ばれないカップルがそこかしこにおり、ちょっと目を離していると急に始まる蛮人コナン……重厚な世界に生きる、ままならない人々の群像劇が広がる。

その中でも、この間退場した牧雲陸という若者がこの度再登場したんだけど、ドラマ中屈指のクソ真面目で善良な人だったので、再登場した今だからこそ好きなんだよというのを伝えたい。

タイトルにもある牧雲は姓、名前が陸。牧雲は舞台になる国の皇帝一族の苗字、つまり牧雲陸は王子様だ。

陸殿下は4人兄弟の2番目で、兄貴は蛮族平定が大好きなゴリゴリの武人、弟は野心がたっぷり詰まった正室の子と、星占いのせいで忌み子という個性豊かな兄弟に挟まれた陸殿下。彼自身は書物に遊ぶ学者肌の若者で、個人の願望より貴人のふるまいを重んじるのだとわきまえている。

ところが、この陸殿下、とても詩作の上手な秀女(女官)に恋をしてしまった。文人気質の陸殿下が楚々として学識のある女性に心が動くのは分かる。ただ、相手が悪い。国を動かす星占いで「こいつ将来は皇后になるよ」と言われている女の子、蘇語凝ちゃんに惚れてしまった。

ここから始まるんだ。陸殿下のクソ生真面目さが。

陸殿下は考える。「皇后になるという予言を受けた蘇語凝と結婚したいけど、結婚するってことは太子に冊立されてゆくゆくは皇帝になる必要があるな……」

そこで、武勲も後ろ盾もない陸殿下は、どこかに隠されている万能皇位継承アイテムにワンチャン賭けようとする。

なんで! そこで! まず自分が釣り合う男にならなきゃなってなるの! えらいな! 好きだよ! 蘇語凝は陸殿下以外の人が好きなんだけど、それだって陸殿下は自分の立場でどうこうできる。けど、殿下はそれをしない。

宮中での婚姻がいったいどういうものか、陸殿下は嫌というほど知っている。だからこそ、愛情以外の、財産や安定した暮らしを渡すことが大事、と言う。あとは蘇語凝がこっち向いてくれるように、やれることをやるだけ、という陸殿下。真面目な人だなあ……

陸殿下の偉いところ、自分の立場に一切甘えないこと。ダメなところは、それをどんな時にも適用して、周囲にも押し付けてしまうこと。家の名前をしょっている以上、そこから逃げることを良しとしない。

万能皇位継承アイテムをめぐって命の危機に陥っても、陸殿下は「自分は王朝を預かる人間なので、お前らのような者には屈しないからさっさと殺せ」と凛と言ってのけたあと、返す刀で同行していた蘇語凝に「そういうわけだから一緒に死んでくれ」って言っちゃう。

そういうところだぞ!

色々あって陸殿下も蘇語凝も生きて帰ってくるんだけど、その時陸殿下は蘇語凝の頼みを聞いて親父(皇帝)と交渉して不興買って禁足処分になった挙句、結局蘇語凝は勅命でもって下の弟に嫁ぐことになってしまったのだ……結婚祝い、どんな顔で選んだんだい殿下……不憫だな……

海上牧雲記、だいたいの成人男性が歪なものを抱えているなかで陸殿下だけが今のところただただ真面目なだけの人なので、そのまま真人間でいてほしい……たのむぞ殿下……たのむ……と願っている。なんかダメそうだけど……