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風起長林はおれに江湖の生き方を教えてくれた

昨今のCSを見るおれたちといったら、己の嗅覚を信じて険しい道を進む旅人のようだ。口を開けた雛鳥めいて無意味なザッピングを繰り返していたら、待つのは無残な死である。多チャンネル江湖では自分で狩りをしてタフにならなければいけない。

そこで今日はこの広大なチャンネル地獄を彷徨う旅人のオアシスになる中国古装ドラマ「琅琊榜2 風起長林」の話をする。古装というのは古い装いと書く。ざっくり言うと時代劇だ。

まずここで「中国ドラマ? 韓流とか華流といえば愛憎劇やラブコメが多いしジャケットも同じようなデザインで選ぶ側をナメてるとしか思えないやつだな?」と話半分で知ったつもりになり満足する腑抜けの首は一瞬でかき斬られる。そして山中に捨てられ酒のさかなにもならない。それほど過酷な運命が、主人公達を待ち受けている。

琅琊榜2の舞台は四方を敵国に囲まれた大梁という国だ。梁は実在した国だが、これは名前を借りただけで別物である。ややこしいように感じるかもしれないが、話の本筋からすると刺身のタンポポの様なものだ。気にするな。そういう国があるといったらある。

この梁を舞台に、皇帝の義兄にして国境守護軍を預かる老将の蕭庭生と2人の息子、蕭家を危険視する皇后の兄、宮中を蝕むまじない師……多様な立場の人間が、野望に身を焼き、忠節で墓穴を掘り、家族を思うあまり疫病を野放しにする。情、怨、義、そして侠が織り上げるタペストリーめいた群像劇、それが風起長林だ。

荒涼たる戦場が真の男を作る

風起長林の江湖はタフでシビアな男の世界だ。のっけから国境で大軍勢による激しい攻防戦がくりひろげられ、体に矢の突き立った蕭家の長男、平章が壮絶な姿で味方を奮い立たせている。いっぽう、呑気に遊歴して男子シンクロソロに興じる主人公の蕭平旌は兄の危機を知り馬を走らせるが、呑気してるので当然間に合わない。このドラマは、主人公だからなんか空間とかロケ地をちょうえつして間に合う、という事はない。零した酒は乾いた大地に吸われるという江湖の厳しさをおれたちへ教えてくれる。

ドラマが進むにつれ、主人公の平旌は望む望まざるに関わらず、さまざまな形で大切なものを手放していく。その代わり彼は望んだたったひとつを手にするのだが、その道中、どうしてもへこたれてしまう場面がある。それは見て貰えばわかるし、見たら「さもありなん」と一緒に落ち込むに違いないできごとが原因だ。
どんな人間でもそうなってしまうと、酒飲んで寝るかお気に入りのベイブと薬草探しの旅などしながら余生を……などという事を考えてしまう。しかし、運命がそれを許さないのだ。運命とは何か? それはエンディングでも朗々と歌われる「北の戦場」であり皇帝のおわす都にほかならない。平旌は立ち上がり、守るべきものを守る戦に赴く。砂塵のかなた、軍馬や旗がひるがえるクライマックスは言葉を呑んで見守る熱量があった。真の男となった平旌の行く末はぜひ本放送で見てほしい。

さて、ここまで読んで「でもこれは続編だし、1を見てからでないと進めないといけないのでは……?」とさらに迷う者たち、あるいは続編であることを言い訳にしようとする者たちには、この言葉を贈りたい。

スターウォーズはEP4だけ見ても心踊る。風起長林もおなじだ

案ずるな。風起長林は琅琊榜の続編であることをうたっているが、前作からはうんと長い月日が経っている。前作からの登場人物は少なく、おまけにどいつもこいつもじじいだ。そしてタフな男たちは過去を振り返らない。名のない位牌がそびえるのみである。前作を見ていないことでストーリーが分からない、ということは基本的にない。

しかし、もしおまえが前作へのリスペクトを忘れず「琅琊榜」から見ると決めているならば、おれは包拳でおまえの背中を見送る。前作も上質な織物のような、しっかりした、美しい物語だからだ。

そして、ネトフリやHuluで琅琊榜1を見終わり生まれ変わったお前が風起長林を最終話まで見たなら、前作を見た者のみが味わえる至高の美酒が待っている。かつてのおれのように涙を流して酒を飲むことだろう。梅嶺から歴史は続いている……あの物語と同じ世界……

未来へ……

中国古装ドラマという未知の荒野に足を踏み出す畏れが、おまえにもあるだろう。張り詰めた駆け引きや息を飲む立ち回り、ファミリー……蜜柑……そういったもの達がきっと案内する。タフに駆け抜ける自由な江湖と、忠と地位のはざまで煩悶する宮中。二つの世界に身を置いた主人公の生き様、その潔さと運命を勝ち取る姿を刮目し、おれとともに真の侠客となってほしい。

ところで、ここに第1話がある。これをどうするかはおまえの手に委ねられている。リンクへ飛んで第1話を見るか、このままアプリやウィンドウを閉じ、ソーシャルゲームの周回やtwitterのタイムラインをスワイプし続けるか? 真の男ならどちらがより幸福か、もう分かっているはずだ。

#ドラマ #武侠 #感想