ソラナちゃんのいちにち-10
そこは、閑静な住宅地の中
ポツンとある隠れ家的な場所だった。
夕闇が世界を覆い尽くすまでの時間、マジックアワーを堪能出来るテラス席
そこにイーサとソラナは座っていた。
「ソラナ、すごいね。ここ」
「ふふん。どう?敬ってもよくってよ」
「うん。敬いはしないけど、素直に素敵だわ」
「だって、これだけ見事な夕日を見るのは久しぶりだから」
そういって、イーサの目はどこか遠くを見つめた。
イーサリアムの大地で、ノノと過ごしたゼロとしての記憶。
農作業をして帰ったあの帰り道をふと思い出していた。
遠い日の大切な人との記憶
「イーサ」
「ん?どうしたの、ソラナ」
「今日は、ごめんなさい。わたくしの我儘に突き合わせてしまって」
「我儘って、どのこと?」
「最初にプールに行こうって言った事かしら?」
「それとも、収まりがつかなくなって、水中バレーでオズモさんと戦ったこと?」
いくつもあって、どの事を言っているのかしら?と答えるイーサ
「うーーー、それは、本当に悪かったですわ」
「ちょっとからかいすぎたかな。ごめん、ごめん」
「私も、今日は、楽しかったからいいのよ」
「Junoさんと手合わせも出来たし」
「スポーツで己の力量を測ることも出来たわ」
「それに、あなたとの連携、楽しかったし」
「大収穫」
「だからね」
そういうと、一呼吸おいて、彼女はソラナに言葉を言わせないためか、その唇に人差し指を当てていうのだった。
「ごめんなさい。は、違うわね」
「こういうときは、ありがとう。でいいのよ」
そういって、ソラナの唇へと当てた人差し指を離し、ほほ笑むイーサ
「ひ、ひっ、ひっ」
「ふぅー?」
「違いますわ!腹式呼吸ではありませんわよ!」
「卑怯、ひきょうですわ!!」
ソラナの絶叫がテラスに響く
幸い、他に客は居なかった為、それを聞いたのはイーサだけだった。
「そんな爽やかな表情で、言われましたら、わたくし、どうにかなってしまいそうですわ!」
自分がイーサを引っ張り回した自覚があるだけ、それがこう返されるなんて思わなかったソラナは、感情の行き場を無くしあたふたしていた。
「何をそんなにあたふたしているの?それに、頬が真っ赤」
「まっ、真っ赤なのは、夕陽が差しているからですわ!」
「夕陽、そうよね。すごく綺麗だものね。ソラナ、夕陽は好き?」
「何を唐突に、でも、わたくし、夕陽、好きですわ」
「わたくしの名前は、『木漏れ日』という意味がありますの。だから、夕陽も、わたくしの一部。だとしたら、好きにならないはずがありません」
「イーサは、その、夕陽好き?」
少しもじもじしながら、イーサへと尋ねるソラナ
真っ直ぐに好意を向けてくれる相手に素直になるのが不器用なのだ。
少し伏せ目がちで、尋ねる。
「私も、好きよ」
「でも、少し悲しくなるかな」
「それは」
『なぜ』という言葉を発する事が出来なかった。
それは、イーサの顔が昔を懐かしむようなもので、その思い出が踏み込んではいけないものの様に感じれたから。