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大声で叫べばロックンロールなんだろう

「今日の授業は卒業文集を書くぞ〜」


先生がだるそうに声をあげる。それと同時に、前の席の人から回ってくる細長い紙。自分の紙を1枚取ってから後ろの席に回した。


「その紙に卒業文集のタイトルを考えて書くように」

先生は黒板に"卒業文集"とだけ書いた。


周りの席からは「何にする?」「なんでも良くね?」

なんていう声が聞こえてきた。

まあ私も何でもいい…でも、少し考えようか、高校の文集なんてうっかり見返す日があるだろう。誰かが見返した時の未来ですべりたくない。

私はどうせだったら好きなものをタイトルを決めたいと考えた。


好きな食べ物…すいか…違うな、アーティスト…アジカン…そうだ、アジカンの曲をタイトルにしよう。我ながら安直である。

"未来の破片" "バタフライ" "マイワールド"

割とどれもしっくり来るな…ここからは長考だ。

ふと"新しい世界"という単語が浮かんだ。ワールドワールドワールドの最後の曲だ。最後の曲なんて卒業文集にピッタリじゃないか。


"憂鬱な君はEのコードを 電源増幅の回路と想像力で世界が変わる"


私は憂鬱な授業だとわかると、すぐにイヤホンで耳を塞いでいた。イヤホンをLとRを逆に挿入してコードを耳に掛ける。首の後ろからブレザーの中に通し、ワイシャツのポケットにiPodを忍ばせる。これで誰からもバレる事なく先生の声は掻き鳴らされたギターでかき消された。


窓際の席の私は、風で揺れるカーテンの中に入ったり抜けたりと教室から見え隠れした。

音と歌詞に想像力を働かせてロックの世界に入り込んだり、視界に入る黒板の難しい文字が頭を巡るのが当たり前だった変わりない目の前の景色があと少しで塗り替えられてしまうのである。なんだか寂しいような気もする。


卒業と共に新しい世界が始まるのか、新しい世界、か。

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